一誠の部屋に入った瞬間、大一は反射するように跪く。その視線は主では無く、銀髪のメイドの方を向いていた。
「お久しぶりです、グレイフィア様」
「ええ、久しぶりですね。お元気そうで何よりです」
「おかげさまで。それで今日は、どういったご用件で?」
「もろもろですが、一番はお嬢様と話をする為です。そして追ってきたら自身の兵士相手に無理やり迫って既成事実を作ろうとしていました。彼が赤龍帝だとさっき聞きました。あなたの弟なんですよね」
「それは…申し訳ございません」
「大一、あなたが謝る必要は無いわ」
「その通りです。まずお話を聞くべきは、お嬢様ですからね」
リアスの言葉に、呆れるような視線をグレイフィアは彼女に向けながら答える。彼女の存在は大一もよく知るところであった。
間もなくリアスはグレイフィアと一緒に行くことを決めると、大一の方を向く。
「大一、あなたは察しているだろうけど明日みんなのいるところで話すわ。だから…」
「余計なことは言いません。ご安心を」
「助かるわ。イッセー、今夜はこれで許してちょうだい。迷惑をかけたわね。明日、また部室で会いましょう」
リアスは別れ際に一誠の頬に口づけをすると、グレイフィアと共に魔法陣に姿を消す。あとに残った一誠は興奮と戸惑いに支配されながらも兄の方を向いた。
「兄貴、これってどういう…?」
「リアスさんも話していただろ。明日話すから、今はそのことを聞くな」
昼の感情的な彼の声色とは違う低い声に一誠も何らかの事情を察するのであった。
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そして翌日の放課後、一誠、アーシア、祐斗が来る頃には、全員がすでに立っていた。すでに部屋の中では緊張で張り詰めている。不機嫌な表情のリアス、いつもの笑顔がどこか冷たく感じる朱乃、読み取れない無表情の大一と事情を知る3人がそれを物語っていた。一方で小猫は部屋の隅でちょこんと静かに座っていた。あまりこの空気に関わりたくないのが分かる。
一誠たちが来たのを確認すると、リアスは口を開く。
「全員揃ったわね。では部活をする前に話があるの」
「お嬢様、私がお話しましょうか?」
グレイフィアの申し出にリアスは手を振って断ると、そのまま話をつづけた。
「実は―――」
まさにその時であった。一誠が見たことも無い魔法陣が部室内に出現する。魔法陣から炎が巻き起こり、強烈な熱気はあっという間に部室を包み込んだ。
その炎と同時に現れたのは男性であった。見た目は20代前半といったところだろうか、金髪に合うようにスーツは気崩されており、整った顔は荒々しさも感じられた。
「ふぅ、人間界は久しぶりだ。愛しのリアス、会いに来たぜ」
現れた男はリアスに対して声をかけると、式の日取りや会場など話を進めていく。その様子にリアスは嫌気が差すように振り払うが、彼女以上に怒りを見せる男もいた。
「おい、あんた。部長に対して無礼だぞ。つーか、女の子にその態度はどうよ?」
「あ?誰、お前?」
「俺はリアス・グレモリー様の眷属悪魔!『兵士』の兵藤一誠だ!」
一瞬、思案した表情で大一をちらりと男は見るが、すぐに何事も無かったかのような顔になる。
「ふーん。あっそ」
「つーか、あんた誰だよ」
あまりにも淡白な反応に調子が崩れかけた一誠は、男が何者なのかを問う。その言葉は男にとってあまりにも意外なことだったようだ。
「…あら?リアス、俺のことを下僕に話していないのか?つーか、俺を知らない奴がいるのか?」
「話す必要がないから話していないだけよ」
「あらら、相変わらず手厳しいねぇ」
「兵藤一誠様、この方はライザー・フェニックス様。純血の上級悪魔であり、古い家柄を持つフェニックス家のご三男であらせられます。そしてリアスお嬢様とご婚約されておられるのです」
この紹介の間もなく、一誠の声が響き渡るのであった。
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ライザー・フェニックスはリアスの婚約者であった。といっても、リアスが自分で選んだ相手ではない。グレモリー家が純血の悪魔を絶やさないために決めた相手であった。かつての戦争で多くの純血悪魔は死に、悪魔の中でも上級である七十二柱も半数以上が断絶へと追い込まれた。だからこそ転生悪魔という制度も生まれているほどだ。それでもやはり純血の悪魔というのに価値を見出す者は多い。上級悪魔ともなれば、尚更だ。
もちろんリアスとてこれは理解しているが、彼女が納得するわけがない。グレモリー家への誇りはあるが、同時に彼女には「リアス」としての個人も大切にしたかった。少なくとも結婚は自分で選んだ相手を望んでいた。
しかしそれでライザーは納得するわけにもいかない。彼は彼でフェニックス家の名前を背負っている以上、この結婚に引き下がるわけにいかなかった。
そこで今回、グレイフィアが提案したのは、レーティングゲームでの決着であった。爵位持ちの悪魔が自分の下僕と共に互いに戦うものだ。元をたどるとリアスの父であるグレモリー家の現当主が、彼女が拒否した時のことを考えて、取った措置である。
しかしこれはチャンスであった。これに勝利することが、互いに口を出せなくなることでもあるからだ。
「やるわ。ライザー、あなたを消し飛ばしてあげる!」
「いいだろう。そちらが勝てば好きにすればいい。俺が勝てばリアスは俺と即結婚してもらう」
これによりリアスとライザーの未来を左右するレーティングゲームの取り決めが行われた。ライザーはリアスの下僕を見てほくそ笑む。
「これじゃ、話にならないんじゃないか?キミの『女王』である『雷の巫女』ぐらいしか俺の可愛い下僕に対抗できそうにないな」
その瞬間、ライザーの周りに彼の眷属が現れる。全員が女性でそのタイプは多種多様であった。大人な女性、小柄な少女、雰囲気も様々なハーレム軍団にもっとも喰いついたのは、一誠であった。彼の目の前には自分が実現を夢見るハーレムが形成されているのだから。その事実に直面した彼は、衝撃に涙を流す。
「お、おい、リアス…この下僕くん、俺を見て大号泣しているんだが」
「その子の夢がハーレムなの。きっとライザーの下僕悪魔たちを感動したんだと思うわ」
ライザーは見せつける様に下僕とキスを始める。ねっとりと濃厚なもので、それを他の眷属たちも次々とキスを続けていく。数分かけた後に、彼が一誠に見せる表情は勝ち誇っていた。
「お前じゃ、こんなこと一生できまい。下級悪魔くん」
「俺が思っていること、そのまんま言うな!ちくしょう!ブーステッド・ギア!」
「やめろ、一誠!」
神器を出した一誠を、大一が羽交い絞めして止める。一誠は振り払おうとするが、眷属の中でも身長、体格共に大きな彼を振り払うのは至難の業であった。
「兄貴、離してくれ!」
「レーティングゲームが決まったんだ。ここで決着をつけるわけじゃないんだよ」
「あれを見せつけられて黙っていられるか!」
「落ち着けって!」
「呆れたもんだな。眷属同士でこれだもんな。まあ、英雄、色を好むってやつだ。それにこれは俺と下僕たちとのスキンシップ。お前だって、リアスに可愛がってもらっているだろう?」
「なにが英雄だ!お前なんか、ただの種まき野郎じゃねえか!まさに焼き鳥だぜ!」
「焼き鳥!?この下級悪魔ぁぁぁ!調子こきやがって!」
ライザーの怒りを表すかのように、強力な炎と熱気が部室を充満させる。それだけで大一が慌てるのには、理由は充分であった。
「ライザー様、落ち着いてください!弟の無礼は自分が詫びます!」
「あん?お前の弟だと?はっ、仮にもルシファー眷属に繋がりのあるお前の弟とは、尚更問題じゃねえか!」
「返す言葉もありません!ですから、ここはどうか穏便にできないでしょうか!」
大一は弟を抑えながら説得する。話がまとまっている以上、ここでの小競り合いは誰にも特にならない。ましてや一誠がここでライザーに挑んだところで勝てる算段など無いのだ。相手は野心しかない世間知らずの堕天使とはわけが違う。フェニックス家の地位と実力は分かっていた。だからこそ、ここは波風を立てないことが大切であった。
だがそれでライザーの怒りが収まるわけも無かった。
「…おい、弟を放してやれ」
「しかしライザー様!」
「放せ。どうやらそのガキはちょっと痛い目を見ないと分からないようだからな。それともお前のような下級が俺に意見するのか?」
大一はしぶしぶと一誠を放す。従わざるを得ない現状に苛立った表情であった。そしてこの言動がさらに一誠の怒りに油を注いだ。
「部長だけじゃなくて兄貴まで!ゲームなんざ必要ねえさ!俺がこの場で全員倒してやらぁ!」
「やれ、ミラ」
「はい、ライザー様」
命令された青髪の小柄な女子が前に出る。一誠は彼女の持つ武器を叩き落とそうとしたが、気が付くと逆に叩きつけられた。命令を受けた彼女はライザーの眷属の中でも、もっとも非力であった。だが今の一誠には、そんな彼女にも勝てないのだ。
「リアスに恥をかかせるなよ、リアスの『兵士』。お前の一撃がリアスの一撃なんだよ」
各々の命運を決めるレーティングゲームは10日後に決まった。
ヒロイン考えて、書いて消したりを繰り返していたらよくわかんなくなったので、出しました。
この原作選んで、指摘されるまで考えていなかったっておい…。