D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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どうしてもオリ主の感情から中だるみ感は否めません。しかし今後を考えると、必要な描写…だと思って書いています。


第90話 覚悟を持って

 専用の待機部屋は至れり尽くせりであった。広さはいくつかの部屋をくっつけたと思わせるほど充分、菓子や飲み物も完備、トレーニング装備一式まであり、完璧な空間であった。

 身体を動かすメンバーは早々にジャージへと着替えて、アップの準備をし始めた。最高の状態で動けなければ、サイラオーグ達に勝てるものとは思えない。各々が試合前のアップを始める中、意外な人物が訪ねてきた。

 

「邪魔をする」

 

 レイヴェルの兄であり、元リアスの許婚のライザー・フェニックスだ。

 

「ライザー!」

「お兄様!」

「よー、来てやったぜ。レイヴェルも元気そうじゃないか」

 

 ライザーは椅子に座り、朱乃が淹れてくれた紅茶を飲む。不遜というよりも気心知れた打ち解けやすい雰囲気があった。ドラゴンのトラウマを克服してから、以前よりも柔らかな印象が感じられる。

 それを裏付けるように、リアスとの会話はレーティングゲームの先輩として心強い意見であった。

 

「試合について、少し話そうと思ってな。今日のゲームはプロの好カードと同じぐらい注目を集めている。実質、おおまかな流れはプロの試合と同じだろう。観客も席を埋め尽くす勢いだ。そのなかでお前たちは戦うことになる。実戦とは違うエンターテイメント性を強く感じて戸惑うこともあるかもしれない。だが、これだけの大舞台だ。力を発揮すればそれだけの評価につながる。リアス、ここがひとつの正念場だぞ?」

「…私はソーナほど戦の組み立てがうまいわけでもないし、サイラオーグほどのパワーもないわ。けれど、眷属に恵まれているのはわかっているの。だから、この子達をうまく導けないかもしれない自分の力量不足が腹立たしいわ…」

 

 ライザーの振る舞いとは反対に、リアスは苦々しく告白する。彼女の元に集まった眷属は才能豊かなものが多い。そしてそれ以上にひたむきで、彼女の目指す高みへと共に目指す精神力のあるメンバーばかりだ。それを活かせない自分への不甲斐なさには不安を感じていたようだ。

 

「戦術と自分の力は経験を積み、俺が嫌いな『努力』ってやつも重ねればある程度のものまで得られるだろう。だがな、リアス。巡り合い───良い人材を引き寄せる才能だけは別だ。ここにいる連中はお前の持つ巡り合いの良さで集まった眷属だと思うぞ?」

「けれど、ドラゴン───赤龍帝であるイッセーが引き寄せた部分も強いと思うわ」

「赤龍帝と出会ったのはお前の運命だ。お前が持つ、引き寄せる何かが赤龍帝と巡り合わせた。だから出会った。その後、ドラゴンの特性が他の奴らを呼び出せたとしても、その赤龍帝と出会い、眷属にしたのはお前だ。自身を持てリアス。こいつら、お前の財産だ」

 

 力強く言い放つライザーに、リアスは目を見開く。仲間達にしては久しぶりに見るような不安を持ちつつも、強い決心と自信に満ちた表情であった。一方、ライザーはさすがに恥ずかしくなったのか頬をかいて誤魔化すが、この発言を撤回するつもりは無かった。

 

「リアス、いちおう応援している。───勝てよ」

「ええ、もちろんよ」

 

 ライザーの言葉に、リアスは晴れやかな表情で答える。以前の関係とは違ったものだが、互いに高め合う力強い関係性が見られた。

 ライザーは立ち上がると今度は一誠の元に歩いていく。

 

「お前の拳…。忘れられない一撃だった。あれは、あのパンチはゲームで上を目指せる一発だ。───早く来いよ、俺と同じ土俵にな。お前なら来れるだろう?そこで再戦しようぜ。プロの世界でプロの本当の怖さを教えてやる」

「…は、はい!もちろんっスよ!絶対にあんたともう一度ゲームで戦って、正式に勝ちますから!」

 

 一誠の本音にライザーは笑みを浮かべる。ひとりの女性を取り合った勝者と敗者がここまで関係を修復したと思うと、不思議な光景であった。

 だがライザーにとってはそれだけではなかった。彼はちらりとレイヴェルに視線を向ける。

 

「それと、レイヴェルを頼む。リアスに負けずのわがままっぷりだがな。これでも一途なんだ。泣かしたら燃やすぞ?」

「よ、余計なお世話ですわ!」

 

 レイヴェルは顔を真っ赤にして抗議する。見事な手腕を発揮する彼女も、兄のライザーには後れを取るようだ。最後に彼は再び一誠へと向き直る。

 

「そうだ、言い忘れてた。赤龍帝、さっきサーゼクス様からお前を呼ぶよう言付けを託されてな。VIPルームの方に顔を出してくれってよ。見せたいものがあるそうだ」

 

────────────────────────────────────────────

 

 ライザーの伝言通り、一誠が部屋を去った後に大一は身体を大きく伸ばす。立場が上の相手というのはいつでも体のどこかが強張るようであった。以前、様々な因縁があった相手と考えれば尚更だろう。

 だがリアスの覚悟の決まった表情を見ると、ライザーの影響はとても大きく感じた。先輩悪魔としての意見と激励は、ぶれていた感情を瞬く間にいつもの調子に戻したのだ。

 同時に兄としてもライザーの態度には素直に感心した。妹への恋心へのサポートとその相手への釘刺し共々スマートであった。先日、一誠に対して不器用な方法でしか解決できなかった大一は、自分との経験の違いを実感させられた。

 ライザーの登場に緊張半分、感動半分に感心していると頭の中でディオーグが呆れ気味に呟く。

 

(前はドラゴンでビビッてた奴なのにな)

(その敗北をバネによくあそこまで復帰できたものだよ。あの人は絶対に強くなるな…)

(敗北で強くねえ…だがこれからの戦いは負けられないだろう。あの筋肉野郎に勝てば、俺の名も大きく轟く!)

(負けられないのは俺も同意だが、名前はどうだろうな…)

 

 大一は首をひねる想いで答える。元より無名な上に同じ眷属で赤龍帝がいるのだから、ドラゴンとしての名が上がるとは思えなかった。もし自分が相手チームをひとりで全員倒すような活躍を見せればギリギリありうるかもしれないが、それをできると思うほど大一も思い上がっていない。要するに可能性は無いということだ。

 

(血がたぎるな…!)

(お前は強い奴と戦いたいのか、名を上げたいのか、俺にはわからないよ)

(戦いこそが俺の存在の証明ってだけだ。それを高尚なものだと考えるのは当然だろ?)

(もっと幾らでも方法はあると思うんだがね…)

 

 重く、力強い声色で話すディオーグにあごを掻きながら答える。このドラゴンについて、大一は未だに掴めない想いであった。彼が戦いに特別な想いがあるのは十分に理解している。しかし口を開けば戦いと名声に明け暮れている印象は拭えなかった。もっともドラゴンなのだから、それはある意味正しいのだろう。ドライグやタンニーンは理知的だが、ドラゴンについて調べればそういった価値観がおかしいものではないことがわかる。

 正直、大一はどうしてここまでディオーグを気にかけるのかが分からなかった。考えが違うものの身体を共有し、共に戦う仲間だからと言われればその通りなのだが、その理由は腑に落ちないものであった。かと言って、その思いを言葉に出来る気もしないのだ。

 

(また何かを考えているな?)

(まあ、いろいろな…)

(考えるなとは言わん。考えを捨てて戦う奴は俺から言わせれば愚かだ。しかしそれが勝利を捨てることに繋がるのならば、愚かの極みだな)

(つまり今は試合に集中しろってことだろ?)

(そういうことだ。お前の主の赤髪女のようにな)

 

 リアスが戦術の本を読みながら朱乃と話している姿が見える。その眼は闘志と自信に満ちており、強敵と戦う準備は十分であった。

 大一は大きく息を吐くと、ストレッチを始める。自分は何をやっているのだろうか。言葉に出来ない感情に悩むよりも、まずは力になるべき主のために報いることが必要なのだ。ひとまず整理のつかない考えを振り払うと、試合までに心身を仕上げることに意識を向けるのであった。

 

「やれることをやるだけだったな…」

 

 自分の中で薄れかけていた意識を呟いた大一の目には、リアス同様に強い光がともっていた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 数時間後、グレモリー眷属はドーム会場の入場ゲートに続く通路で入場を促すアナウンスを待っていた。ゲートの向こうから感じる会場の熱気は凄まじく、観客の入り乱れた声援はこれまで聞いたことも無いような迫力があった。

 半分近くは戦闘にも使えるように改良された駒王学園の制服姿であったが、アーシアはシスター服、ゼノヴィアは戦闘用のボディスーツ、ロスヴァイセはヴァルキリーの鎧姿と服装から戦いの準備はばっちりであった。

 それぞれが気合いを入れてその時を待機する中、リアスが重い口を開く。

 

「…皆、これから始まるのは実戦ではないわ。レーティングゲームよ。けれど、実戦にも等しい重さと空気があるわ。人が見ているなかでの戦いだけれど、臆しないように気をつけてちょうだいね」

『さあ、いよいよ世紀の一戦が始まります!東口ゲートからサイラオーグ・バアルチームの入場ですッッ!』

 

 アナウンスの声と同時に耳に残るような強烈な歓声が聞こえてくる。サイラオーグ達への期待がこれだけでも手に取るようにわかった。

 

「…緊張しますぅぅぅぅっ!」

「…だいじょうぶ。皆、かぼちゃだと思えばいいってよく言うから」

「ゼノヴィアさん、イリナさんがグレモリー側の応援席で応援団長をやっているって本当なのですか?」

「ああ、アーシア。そのようだぞ。なんでもおっぱいドラゴンのファン専用の一画で応援のお姉さんをすると言っていた」

 

 後輩たちの会話は、大一にとっていまいち緊張感の欠けるものに感じた。しかしそれは戦意を削ぐものではなく、いつもの調子に安心を抱くようなものであった。

 そしてついにリアス達の入場を促すアナウンスの声が聞こえた。

 

『そしていよいよ、西口ゲートからリアス・グレモリーチームの入場ですッッ!』

 

 サイラオーグ達にも比肩するほどの歓声が聞こえる。自然と皆の表情も厳しくなった。そんな中、リアスが皆を見回して、力強く言葉を放った。

 

「ここまで私について来てくれてありがとう。───さあ、いきましょう、私の眷属たち。勝ちましょう」

「「「「「「「「「はいッ!」」」」」」」」」

 

 主の想いに応えるかのように返事をした彼らはゲートを潜った。

 間もなく視界に入ったのは、広大な楕円形の会場の上空に浮くふたつの浮島であった。片方にはすでにサイラオーグのチームが乗っている。

 

『さあ、グレモリーチームの皆さんもあの陣地へお入りください』

 

 促された通りに階段を上って浮島のような陣地へとたどり着く。人数分の椅子とテーブルのような台がひとつ、そして少し高いところに移動用の魔法陣が設けられているだけとかなり殺風景なものであった。

 この時点で、大一は何となくだがゲームのルールが読めた気がした。予想通りなら、これまで経験してきた2回の試合とは毛色の異なるタイプだろう。

 だが考えを深める前に、歓声にも負けないほどの大声とド派手な衣装に身を包んだ男性が会場の巨大モニターに映し出された。

 

『ごきげんよう、皆さま!今夜の実況は元七十二柱ガミジン家のナウド・ガミジンがお送りいたします!今夜のゲームを取り仕切る審判役にはリュディガー・ローゼンクロイツ!』

 

 実況、審判ともに悪魔の中でも名うての者であることに、この試合の期待が込められていた。特にリュディガー・ローゼンクロイツは元人間でありながら最上級悪魔であり、現在のレーティングゲームのランキングでも7位に位置する実力者だ。

 これだけでも気が張る感覚なのに、さらにナウドは言葉を続けた。

 

『そして特別ゲスト!解説として堕天使の総督アザゼルさまにお越しいただいております!どうも初めましてアザゼル総督!』

『いや、これはどうも初めまして。アザゼルです。今夜はよろしくお願い致します』

 

 一瞬で、緊張が緩和されて代わりにズッコケそうな空気がリアス達に流れる。映像に映ったアザゼルはわかりやすい営業スマイルでナウドからの質問に受け答えしていた。彼の自由奔放っぷりは、常に予想を上回るものであった。

 ひとしきりアザゼルの紹介を終えると、カメラが彼の隣に座る端正な顔の男性の紹介に移った。

 

『さらに、もう一方お呼びしております!レーティングゲームのランキング第一位!現王者!皇帝!ディハウザー・ベリアルさんですッ!』

『ごきげんよう、皆さん。ディハウザー・ベリアルです。今日はグレモリーとバアルの一戦を解説することになりました。どうぞ、宜しくお願い致します』

 

 アザゼルを遥かに超える歓声が会場に響き渡る。レーティングゲームの王者というだけあってその人気は絶大なものであった。アザゼルも交えて3人でチームごとの強みを話す中、リアスは画面に映るディハウザーに強い視線を向ける。

 

「いつか必ず───。けれど、いまは目の前の強敵を倒さなければ、私は夢を叶えるための場所に立つことすらできないわ」

 

 彼女の発言に、仲間達も相手の陣地へと目を向ける。すでに戦いの空気が張り詰めていた。

 それぞれのチームの解説が終わったところで、話が進んでいく。まずはゲームで使用されるフェニックスの涙について。禍の団の件で需要が高まっているものの、今回はフェニックス家の尽力により両チームに1つずつの支給がなされた。その回復力は戦いの上でも相当重要なものだが、この試合では実質サイラオーグを2回は打ち倒す必要性ができたことには厄介極まりなかった。

 今度は互いのチームの「王」が台の前に行くようにと促された。そして今回の試合の形式だが…

 

『そこにダイスがございます!それが特殊ルールの要!そう、今回のルールはレーティングゲームのメジャーな競技のひとつ!「ダイス・フィギュア」です!』

 

 ダイス・フィギュアのルールはシンプルなものだ。互いの「王」がダイスを振り、その合計の数によって出場する選手の基準が決められて、フィールドで戦う。人間界のチェスの駒の価値に準じており、「騎士」と「僧侶」は駒価値3つ、「戦車」は駒価値5つ、「女王」は駒価値9つというもの。「兵士」は純粋に使われた駒数に準ずる。ダイスの合計を超えないように、駒を組み合わせて戦うものだ。また基本的に選手は連続で出場は不可能で、残ったメンバー次第で振り直しが認められている。

 そして「王」は前もって審査委員会から出場できる駒の価値が決まっていた。リアスが8つ、サイラオーグが最高の12であった。評価では負けているが、裏を返せばサイラオーグは最大値が出ないと出場できない上に、誰かと組んで参加というのが不可能である。

 もっともこの試合形式だとリアス側も狙われるリスクからアーシアを出すことは難しいため、実質的な戦闘員はひとり引いて考えなければならないが。

 ルールの説明を終えると、再び実況者のナウドの声が響く。マイク越しでもその興奮が隠しきれてなかった。

 

『さあ、そろそろ運命のゲームがスタートとなります!両陣営、準備はよろしいでしょうか?』

 

 この発言の後に、審判のリュディガーが大きく手を上げる。

 

『これより、サイラオーグ・バアルチームとリアス・グレモリーチームのレーティングゲームを開始いたします!ゲームスタート!』

 




ということで、次回から試合開始です。でも原作通りに進むところもあるからカットもそこそこしそうです。

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