第4試合はサイラオーグ側が2人、グレモリー側が1人脱落という結果で幕を閉じた。この試合でもっとも意地を見せたのはギャスパーだろう。小猫に引き続き、年少である彼の奮闘は仲間達をより奮い立たせるものだったのは間違いない。それはつまり数で圧倒的に有利であっても、油断を許さないことを意味していた。サイラオーグ側のメンバーは絶対的な実力を持つチームリーダーのサイラオーグ・バアル、彼を支える副官の「女王」、そしていまだに得体のしれない駒消費7つの「兵士」であった。このため、ダイスの最低基準値は7とかなり高いものになっている。そして運命を占う第5試合目の数値は9であった。
リアスはこの数値を見た時、相手の出場選手を「女王」であるクイ―シャ・アバドンと予想した。この試合になるまで機会があったにもかかわらず、相手が「兵士」を出さないことを考えると相当温存しておきたい存在なのだろう。
だからクイ―シャ・アバドンはマシな相手かというと当然そういうわけにいかない。彼女は悪魔の中でも実力者である一族「番外の悪魔(エキストラ・デーモン)」のアバドン家だ。それにサイラオーグが「女王」に選ぶ女性なのだから、その実力はやはり計り知れない。
「私が行きますわ」
その状況でリアスに進言したのは、彼女の右腕である朱乃であった。
「…朱乃、いいの?相手は『女王』はアバドンの者よ?記録映像を見る限りでも相当な手練れだったわ」
「俺が行きましょうか?勝てる算段はあるんですけど」
リアスや一誠の心配に朱乃は首を横に振る。
「それは例のトリアイナを使ったものでしょう?まだ出してはダメよ、イッセーくん。もっと大きな数字が出た時───終盤で見せてこそですわ。それまでは私がなんとか削りましょう。うしろに祐斗くんやゼノヴィアちゃん、ロスヴァイセさん、そして部長とイッセーくんが控えていてくれるからこそ、できる無茶もあるんです」
朱乃の答えに一誠は違和感を抱いた。兄の名前が入っていなかったことはさすがに不思議であった。彼女の中に大一への信頼が無いとは思えなかったが…。
リアスはそのことには言及せずに静かに朱乃へと話す。
「…わかったわ、朱乃。お願いするわね」
「ええ、リアス。勝ちましょう、皆で」
そう言った朱乃は大一へと近づき、真剣な表情で話しかける。
「もしもの時は───」
「今更、俺らの仲で言う必要あるか?」
「うふふ、そうね。行ってくるわ」
「任せたよ」
短いやり取りを終えて、朱乃は移動用魔法陣へと向かっていく。恋人同士であることには間違いないのだが、それ以上に今の2人はリアス・グレモリーを支える両翼としてこの試合に臨んでいる。それをリアスもよく理解している。一誠は改めて3人の盤石な関係性を目の当たりにしたような気持ちになった。
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第5試合のフィールドは無数の巨大な石造りの塔が並んでおり、朱乃はそのひとつの頂上に立っていた。この状況なら嫌でも空中戦を強いられるだろう。そして彼女の眼前の塔には金髪をまとめてポニーテールにした女性が立っていた。サイラオーグ側の「女王」であるクイ―シャ・アバドンだ。
『やはり、あなたが来ましたか、雷光の巫女』
『ええ、ふつつか者ですが、よろしくお願い致しますわ』
対峙する「女王」同士の対決は、観客も多大な期待を寄せていた。そしてついにその勝負の火蓋が切られる。
『第5試合、開始してください!』
審判の合図と共に、両者は空中へと飛び上がる。先に仕掛けたのは朱乃であった。得意の魔力による属性攻撃を展開させていく。しかしそれはクイ―シャも同様であった。朱乃が強力な火炎を撃ち出すと、クイ―シャは対抗するように氷の魔力でそれを相殺する。今度は大質量の水で攻めると、相手は風の巻き起こしそれを防ぎきる。互いに魔力に物を言わせた破壊力のある攻防の応酬で、試合としてもド派手な内容であった。その証拠のように歓声は大きく響き、一方でフィールドの石の塔は攻撃のぶつかり合う余波でどんどん崩れていく。
とはいえ、これでも互いにまだ力を温存していた。朱乃はもっとも得意な雷光を発生させていないし、クイ―シャの方はアバドン家の特殊能力である空間に「穴(ホール)」を作り出すこともしていない。
そんな状況で果敢に攻める朱乃は、上空に黒雲を作り出した。それだけで彼女の一手が予想できる。もっとも得意である強力な雷光がクイ―シャに落ちていく。普通に魔力で防げないと判断したクイ―シャは、手を上に向けた。間もなく空間に歪みが生じ、雷光がその中へと入っていく。
『ここですわ!これならどうでしょう!』
相手が穴を出すことを待っていたかのように朱乃はさらに多くの雷光を落とし込む。一撃の威力も先ほどより遥かに強力な上に、雨のように雷光が降り注ぐ。もはやフィールドの大半を覆うほどの雷光の攻撃に、一誠達は朱乃の勝利を確信した。さすがに相手も「穴」ひとつで防げるほどのものではなかった。
そう、ひとつだけならの話だ。実際のところは彼女の周囲に大量の「穴」が生まれた。朱乃の雷光同様に、その規模も最初に出したものよりも遥かに大きく、朱乃の攻撃は瞬く間に吸い込まれていった。
この光景に絶句している朱乃に、クイ―シャは冷笑を浮かべる。
『私の「穴」は広げることも、いくつも出現させることもできます。そして「穴」の中で、吸い込んだ相手の攻撃を分解して、放つこともできるのです。───このようにして』
クイ―シャの言葉と同時に、朱乃を取り囲むように「穴」が発生する。先ほどの彼女の言葉を考えれば次の展開は火を見るよりも明らかであった。
『雷光から雷だけ抜いて───光だけ、そちらにお返ししましょう』
眩い程の光が朱乃を襲う。彼女の攻撃力はそのまま自分へと返ってきたのだ。そして悪魔にとって光がどれほど強力なものかは誰でも知っている。つまり…
『リアス・グレモリー選手の「女王」、リタイヤです』
審判が5試合目が終わったことを知らせるのであった。
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「吸い込むだけでなく、あのようにカウンターにも使えるのか」
祐斗の絞り出すような声を隣で聞きながら、大一は無表情で朱乃が脱落したフィールドを見る。クイ―シャを甘く見ていたことが敗北に繋がったのは間違いないだろう。少なくとも攻撃力においては、朱乃の方が上回っていたように見える。
冷静に試合の経過を頭で整理する一方で、大一は頭の中で静かに呟く。
(「女王」同士の勝負…見事だった)
(いいねえ、その冷静さ。だからこそ次の勝負にも期待できるものだ)
ディオーグの満足そうな声が頭に響く。戦いの最中は血肉がたぎるような感覚を求めつつも、自分に関係ない勝負には冷静さを求めるのはなんともちぐはぐな印象を感じた。
いやおそらく彼なりに、宿主に気がかりであったのだろう。最も信用する仲間の脱落が彼に精神的に大きな揺れをもたらすことになるのを予想していたのだ。しかし実際のところは、大一は落ち着いて試合を見守っているに過ぎなかった。
一方で、大一は他の仲間達に目を向ける。皆が悔しそうな表情をする中で、弟の一誠の表情には少々不安を覚えた。悔しさが全面的に出ている彼の我慢はかなり限界に近付いているように見えた。
相手が陣地に戻ると、リーダー同士第6試合の基準値を決めるダイスを振る。そして出たのは…
『出ました!ついに12が出ました!この数字が意味することは、サイラオーグ選手が出場できるということです!』
『おおおおおおおっ!』
実況の声に歓声が大きく沸き立つ。それに応えるかのように、サイラオーグは上着を脱いで準備をしていた。もはや出場を隠すつもりも無いようだ。そして彼がリアス側に向ける視線、それだけでも一線を画すプレッシャーを感じるのであった。
そしてこの試合の出場選手として、祐斗は一誠の肩に手を置いて話す。
「僕とゼノヴィアとロスヴァイセさんでサイラオーグさんと戦う。できるだけ相手を消耗させるつもりだ。キミと部長のために」
「ああ、頼む」
あまりにも落ち着いた祐斗の話し方に、一誠は激情を強引に押さえつけているような静かさで答え、一方でリアスは不安を含んだ声で彼に訊く。
「祐斗!あなた、まさか…」
「僕単独ではサイラオーグ・バアルには勝てません。そんなことは重々承知です。では、僕の役目は?簡単です。できるだけ相手の戦力を削ぐ。この身を投げ捨てでも───。ゼノヴィア、ロスヴァイセさん、付き合ってくれますか?」
「ああ、もちろんだ。イッセーと部長が後ろに控えているというだけでこんなにも勇気が持てるとはな。朱乃副部長の想いがよくわかる」
「役目がハッキリしている分、わかりやすくていいですね。───できるだけ、長く相手を疲弊させましょう」
ゼノヴィア、ロスヴァイセ共に祐斗の願いに呼応するかのように覚悟を決めている。もはや彼らを止めるのは無理というものだろう。
しかし彼らを合わせると合計数値は11、つまり駒の数がひとつ分空いているのだ。大一は立ち上がると、祐斗に対して話しかける。
「駒の数がまだひとつ空いている。俺も出ることは出来るが…」
「朱乃さんが脱落した今、いざという時に皆を支えることができるのは先輩だけです。それに次の試合、最低値が7となりますが先輩がいれば…」
「どこにでもねじ込めるってわけだな」
大一は静かに答える。次の試合から最低値が7であれば、相手は兵士を出すしかないものの、一誠か大一のどちらかを出せる。8以上であればタッグも組めるし、回復の必要性が薄くなってくる終盤ではアーシアを出してすぐにリタイヤさせて相手の出場選手を縛ることも出来る。ここで出す必要性よりも、今後に残っていた方が期待できることは多いようだ。
「ここが正念場です。僕たちがサイラオーグの力を削ります。それにやれるなら倒す」
祐斗のさわやかな笑顔に対して、その言葉は強固な要塞のごとく力強さを感じた。仲間の想いを目の当たりにしたリアスは大きく息を吐く。
「お願いするわ、3人とも。サイラオーグに少しでも多くダメージを与えてちょうだい。…ゴメンなさい。さっき、心中で覚悟を決めたばかりなのに、またあなたたちに教えられてしまったわ…。本当に私は甘くて、ダメな『王』ね」
「僕たちは部長と出会って、救われました。ここまで来られたのも、部長の愛があったからこそです。───あなたに勝利を必ずもたらします。僕たちで」
リアスの自嘲に、祐斗は安心させるように言葉を紡ぐ。こうしてサイラオーグと戦う3人は転移魔法陣へと向かっていった。
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『そうか。リアスは一皮むけたようだ』
湖畔のフィールドで祐斗たちと対峙するサイラオーグは口角を上げる。愛情深いだけでなく仲間の覚悟に応えることを、彼らが現れたことで判断したのだろう。
『お前たちでは俺に勝てん。いいんだな?』
『ただでは死にません。───最高の状態であなたを赤龍帝に送り届けるッ!』
『いい台詞だッッ!お前たちはどこまでも俺を高まらせてくれる…ッ!』
『第6試合、開始してください!』
審判の合図により、試合が始まる。開始早々、サイラオーグは自分の四肢に施していた負荷を与える枷を取り除いた。祐斗たちの覚悟に敬意を表したからなのだろうが、その力は想像をはるかに超えるものであった。枷を外した瞬間、彼の立っていた地面は大きくえぐれてクレーターとなり、湖の水は大きく揺れている。
ベリアルの解説では、彼の鍛えぬいた肉体から溢れ出る活力と生命力が闘気となって現れたとのことだ。
開幕早々にその実力は見せつけられた。ロスヴァイセが祐斗の指示のもと、お得意の魔法によるフルバーストを行うが、サイラオーグは撃ち込まれる魔法を拳で殴り返していったのだ。あっという間にロスヴァイセとの距離を詰めたサイラオーグは、彼女の腹部に空気が振動するほどの重く鋭い一撃を入れて彼女を吹き飛ばした。
『───まずは1人』
『うおおおおっ!』
すぐにゼノヴィアが斬りかかるが、これも目にも止まらぬ速度でサイラオーグは回避すると彼女に向かって蹴りを入れる。ぎりぎりで避けた彼女だが、その風圧で吹き飛ばされた。蹴りひとつ取っても、彼の体術のレベルの違いを見せつけてくる。
『木場───ッ!こいつはヤバいッ!全力中の全力でなければ勝てないぞッ!』
『わかっているよ、ゼノヴィア!後先考えるのはよすべきだ!余力を残すなんてことを頭の片隅に浮かべただけでもやられる…ッ!それほどの相手だッ!』
『それでいい。俺の拳を止めてみせろッ!』
魔物を倒せるのではないかと思えるほどの気迫で、サイラオーグは闘気を拳に溜める。祐斗は聖魔剣を地から創り出して壁にするが、闘気を纏った彼の拳は刃物も聖なる力もものともせずに打ち砕いていく。次々と生まれていく聖魔剣が追いつかないほどの速度で砕いていくサイラオーグの拳は、ついに祐斗に一撃を与えた。
仲間のピンチに今度はゼノヴィアが広範囲にデュランダルによる聖なる波動を撃ちだす。悪魔にとっては致命傷になりかねない威力のものであったが、サイラオーグは全身に闘気を纏うとその波動すらも無傷で受けきった。彼の鍛えに鍛えぬいた肉体が、文字通り彼の武器としての万能さを見せつけていた。
『ゼノヴィア、コンビネーションいくよ!』
だがここでしり込みするようなグレモリー側ではない。祐斗とゼノヴィアの連撃に加え、彼の新たな禁手「聖覇の龍騎士団」による物量でも攻める作戦に出た。これをサイラオーグは最小限の動きで避けていき、向かってくる騎士団をことごとく拳で砕いていく。受けるだけではない。スピードにおいても一級品であった。
『才気溢れる動きだ。可能性に満ち溢れた攻撃を感じる。───しかし、この場では俺の方が上だ』
サイラオーグは2人の斬撃を掻い潜り、隙を見つけてゼノヴィアに掌底を、祐斗に蹴りを入れこむ。不快なメキメキという身体がきしむような音が発せられる。2人はその場に膝をつくと、軽く吐血する。
これほど強靭な肉体を名家とは言え、いち悪魔が得られるとは信じられなかった。それほど彼の実力は確固たるものなのだ。
祐斗とゼノヴィアは苦悶の表情で立ち上がる。2人ともその苦しさは想像を絶するところなはずなのに、眼は闘志に満ち溢れて輝いていた。
『…まだ、寝てはいられないか』
『さあ、削ろうか、ゼノヴィア。少しでもイッセーくんのために、部長のために、剣をふるおう』
『まだ楽しませてくれるのか…ッ!』
『ああ、楽しませてやるさ…!』
サイラオーグの笑みに対するようにゼノヴィアも不敵に笑う。その瞬間、彼女の後ろから殴り飛ばされたはずのロスヴァイセが現れて、サイラオーグに肉薄する。
『油断しましたね!近距離からの魔法フルバーストならどうです!?』
ゼノヴィアのエクス・デュランダルは持ち主の承認さえあれば、聖剣の因子がなくても他のデュランダルの能力を使うことが短時間使うことができるようになっていた。今回は擬態の聖剣と透明の聖剣を使い、ロスヴァイセはずっとサイラオーグの隙を狙っていたようだ。
即席ながらも3人のコンビネーションに、一誠はリアスの説明を受けながら興奮する。一方で大一はただ目を細めただけで試合の展開を見守っていた。
さすがに至近距離からの大火力の魔法には、サイラオーグも無傷とはいかず全身に血をにじませていた。
『…アナウンスがないので怪しくは感じていた。リタイヤするかどうかのギリギリの状態で、光に包まれながら湖の底で気絶しているだけかと思っていたのだが…。───見事だ、お前たち。
敬意を払うと共に、これを送りたい』
相手の連携に感心したサイラオーグは右腕に闘気を溜めると、ゆっくりと引いていく。静かであったが、これまでの闘気の力を考えれば今から打ちだす一撃は想像もつかない威力が発揮されるだろう。
3人は素早く下がり、祐斗が注意を促す。
『本当の正念場だ!例の作戦で───』
彼の言葉が終わる前にサイラオーグの拳が放たれる。映像は激しく揺れて収まった後には…地面を大きくえぐったような跡がはるか先まで続いていた。彼は拳に乗せた闘気を一気に撃ち出したようだ。
『リアス・グレモリー選手の「戦車」1名、リタイヤ』
審判のアナウンスが聞こえる。今度こそ、ロスヴァイセはリタイヤしたようだ。
『…こいつはかすっただけでも相手に致命傷を与える拳打だ。生半可な攻撃ではこいつを止められん!』
そう言ってサイラオーグは再び右腕による一撃を放つ。その瞬間、祐斗が右腕に斬りかかった。彼の闘気は聖魔剣の刃を砕くが、すぐに振り下ろされるゼノヴィアのデュランダルを2人がかりで押し込んだ。もはや傷を受けるのも気にせずにただサイラオーグの右腕に集中する。2人で握るデュランダルは強力な一層強力な光とオーラを放ち、ついにはサイラオーグの右腕を斬り落とした。
『見事だ。右腕はお前たちにくれてやろう。これで俺は否応なくフェニックスの涙を使わねばならない。───万全の態勢で決戦に臨みたいからな』
そこからのサイラオーグの動きは素早かった。まずゼノヴィアを蹴り上げると、浮いたところに目にも止まらぬほどの左腕による拳と両足の蹴りの連撃で彼女にダメージを与え、止めに地面に叩きつけた。
すぐに祐斗が距離を取ろうとするが、サイラオーグはそれを残された左腕で顔を掴むと再び地面に叩きつけた。さらにそのまま地面を引きずっていき蹴り上げると、宙に投げられた祐斗の腹部に拳を打ち込んだ。
右腕を失ったことに疲れを感じさせないあっという間の出来事であった。これほど攻撃を受けながらも祐斗は立ち上がり、息も絶え絶えに話す。
『…僕たちの役目は…これで十分だ。あとは…、僕の主と、僕の親友があなたを屠る…』
『───見事としか言いようがない。お前たちと戦えたことに感謝する』
サイラオーグの感謝のこもった言葉に、祐斗はどこか安堵した感情を抱きながら倒れ込む。
『…イッセーくん。部長。勝ってください。必ず、この人に───』
『リアス・グレモリー選手の「騎士」2名、リタイヤです』
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フィールドの去り際にサイラオーグが自分の右腕にフェニックスの涙を使ったのを確認したリアスは正直なところ安堵していた。愛する仲間達が次々と敗北していったのは悔しい。しかしそれ以上にそれほどの仲間達が自分のための勝利に貢献してくれたのは、なによりも喜ばしかった。残酷になった…というよりも、以前よりも覚悟が決まったという方が正しいだろう。
そんな中でダイスを振り、出た合計数値は9。おそらく相手は「女王」であるクイ―シャ・アバドンを出場させるのだろう。
一誠が静かに立ち上がる。彼の表情は憤怒に満ちており、仲間の敗北に怒りを感じているのは間違いない。しかし…
「おい、一誠。ちょっといいか?」
「どうしたんだ、兄貴?」
「ちょっと話すことがあってな」
呼び止めた大一はゆっくりと一誠に近づくと不意に彼の額を人差し指ではじいた。いわゆるデコピンだ。この突然の行動にリアスもアーシアも驚いたが、当然一番驚いたのはそれを受けた一誠本人であった。
「痛ってぇッ!何するんだよ!」
「ちょっと頭を冷やせ。お前を今のまま行かせたら、相手を殺しかねない」
「しょうがないだろッ!仲間達がこんなにやられて冷静でいられるかよ!」
「それは相手も同じだ。あの人たちは敵ではあるが、禍の団のような相手ではない。その思いをぶつけるのはお門違いだ」
淡々とした大一の態度に一誠は不満げに抗議する。
「兄貴は悔しくないのかよッ!」
「悔しいさ。だがそれとこれとは別だ。お前の今のその想いをぶつけたいのなら、サイラオーグさんほど強くなきゃ受け止めきれないだろうよ」
大一の態度にリアスは驚きつつも、同時に少し感心した。想いが強いことは否定しない。一誠含めて仲間達の強さの原動力はそこにあるのだから。しかし同時に大一のような存在も間違いなく必要であった。いざという時にストッパーになる存在、なにかを未然に防ぐ彼の立場は祐斗が期待していたようないざという時の支えなのだろう。
「いいか、一誠。その思いは持ちつつも、ぶつけるのならサイラオーグさんにしろ。情けない話だが、お前しかあの人に勝てるであろうメンバーはいないんだよ。そしてもうひとつ、あの人を───いやあの人たちへの敬意も忘れるな。仲間達と同じくらいにな」
大一の声は静かであった。このゲームを試合として認識していたのは、立場からだろうか、ディオーグの考えに影響されたからだろうか、いずれにせよ大一自身もそれはわかっていなかった。
しかしそれはこの勝負に手を抜くことでは無い。やることをやるだけ…彼もリアスを勝たせたいという想いは他の仲間達に負けていなかった。
大一はリアスへと視線を向けると、いつもの調子で話す。
「ここは俺が行きますよ。どっちにしろ、ここで一誠を出してトリアイナを見せるのもしのびない。一瞬で決まるとはいえ、魔力も多少は持っていかれるでしょうし。こいつには本当の意味で万全の態勢でサイラオーグさんに当たって欲しいので」
「…勝算は?」
「あります。あとは指示だけしていただければ」
「…わかったわ。大一、任せたわよ」
大一は軽く頭を下げると、再び一誠へと向き直る。腑に落ちない表情であったが、兄の態度が弟の頭を少し冷静に戻したようだ。
「任せろって。俺は負けないよ」
「…わかった、絶対勝ってくれよ」
原作の一誠の状態に、オリ主はこんな感じで話すんじゃないかなと思いました。