D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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11巻分の始まりです。
いつものごとく、今後の展開のための基盤固めから。


進級試験とウロボロス
第97話 寒さを感じて


 ある日の夜、格式ばった屋敷にひとりの妖怪が招かれていた。立派な屋敷とは対照的なおどろおどろしい雰囲気と空気が周りを包んでいるが、零はこの場に呼ばれたこと自体が気分の悪いものであった。

 

「…何の用だ、八坂?」

「お前が最近、妙な動きをしていると聞いているから見に来ただけじゃ」

 

 突如、呼び出しを食らった零は眉間に不満のしわを刻み込みながら、目の前に座る京都妖怪の御大将へと視線を向ける。立場上はたしかに八坂の方が上であったが、独立した立場でありどちらかといえば友人としての関係性であった零からすれば、八坂の不信感がむき出しの問いかけはあまり気持ちの良いものではなかった。もっとも八坂もそれ相応の理由があるからこそ、彼女を呼んだのだが。

 

「私の行動にお前は関与しないだろう」

「昔から貴様を見てきているのじゃ。何を企んでいる?」

「企んではいるのは、私じゃないな。どうも例のテロリストに動きがあるのが気がかりなだけだ」

 

 零は静かに答える。京都での事件以来、禍の団の動きを警戒していた零は密かに調べていた。多くのネットワークを持ち、裏の世界にも精通している彼女からすれば八坂の目についた時点で、かなりの情報を得ている可能性があった。

 当然、八坂からすればそんな零が報告しないことは不満を感じるのであった。そしてその感情を隠さずに、苛立つ声色で同じ狐の妖怪である彼女に問う。

 

「なぜ報告しない?」

「お前に言ったら、すぐにでもあの同盟に告げ口するだろう。私はまだお前と違ってあいつらを信用したわけじゃないんだ」

「足並みを揃えないことには───」

「おっと説教を受けに来たわけじゃない。それにな、これはお前のためでもあるんだよ。どうも一部のテロリストがあの堕天使総督と通じていることがわかってね」

 

 零の言葉に八坂の眉がピクリと上がる。堕天使総督のアザゼルは、同盟の中でも発言力が大きく、加えて先日母子共々自分達を救ってくれた赤龍帝とは既知の仲でもある。もしこの事実を公の場で報告でもしようものなら、他の妖怪たちに妙な不安を与えかねないだろう。だからこそ零は私的な話の中で出してきたのだ。

 もっとも別のやり方があったのかもしれないと考えた八坂からすれば、零の飄々とした態度はあまり好ましいものではなかった。友人でありながら、同時に寒気すら感じる存在の妖怪だ。

 

「…まったく貴様の性格の悪さには呆れるな」

「これくらい立ち回らないと、私はとっくの昔に死んでいるよ。それにこれは偶然知ったことなんだ。禍の団も我々同様に一枚岩じゃないようだ」

 

 すっかり話の主導権を握った零は、まるで気にしないかのように爪についた埃を取っていた。彼女が持ってくる情報がウソならばどれほど安心できるだろうか…しかし八坂が零を雇ってからこの日に至るまで彼女が公的、私的共に持ってきた情報が偽物であったことはこれまで一度も無かった。

 となれば、禍の団でも近いうちに何かが起こる可能性はあるのかもしれない。そして理解しながらも、この場で聞いたことで公にすることも難しくなってしまった。

 

「まったく協力は表向きでその裏は…まるで帝釈天殿のような立ち振る舞いだ」

「それはたまに思うね。他の勢力など知ったことじゃない、そんな考え方をする時はあるな。ただあの神様と違って、戦いは好まないがね」

 

 どこまでも掴めない友人だと八坂は思った。色気で国を落としたこともある彼女と違って、零はもっと狡猾に立ち回り、いかに自分が厄介な存在かを印象付けて生き残ってきた。そういう意味では、3大勢力のような大きな力には頭ごなしに信用するわけにもいかないのだろう。

 八坂自身も一誠に助けられなければ、ここまで友好的になっていたかは自信がなかった。それでも今は娘の九重と同様に彼らを信頼していることを考えると、いかに一誠が不思議な存在なのかを実感するのであった。

 そんな彼女の心境を見透かすように零は話し続ける。

 

「信頼するのはいいが、盲目的にはならないことだな。そういう意味ではあのドラゴンが何かしてくれるのでは…と期待することもあるね」

「赤龍帝のことを言っているのなら───」

「いや、名無しの方だよ」

 

────────────────────────────────────────────

 

 早朝から、大一は相も変わらずにトレーニングを行っていた。場所はいつもと違って学園の旧校舎近くの開けた場所でのトレーニングであった。寒くなってきて日が昇るのも遅くなったが、彼の生活リズムはまるで変わらない。この日もダッシュを終えると、腕立て伏せをこなしていた。

 身体を動かすのと同時に、頭の中でもディオーグとの会話が繰り広げられていた。

 

(前の試合では小手先でなんとかやって来たが…このままじゃ上手くいくはずがないな。どうにかしてもっと強くならなければ)

(足引っ張りたくないの一心で鍛えているお前じゃ限界があるだろうな)

(うるさい)

 

 ディオーグの言葉に、大一は具体的な反論は出来なかった。強くなるという前向きな意識はあるが、ディオーグの指摘通りその理由はとことん後ろ向きであったのだから。

 

「お、お兄様、顔が険しいです…!」

「ん?いやディオーグがまたうるさくてな…だから違うっての」

「イッセー先輩の…ドライグと違って…表に出るのが…短いですものね…」

 

 スクワットをしながらジャージ姿のギャスパーが話す。息を切らしながら行うその姿は彼の必死な努力が伝わるものがあった。

 先日の試合で自身の力不足を感じたギャスパーは、朝から大一と共にトレーニングをしていた。元々あったメニューとは別に、身体を鍛えて基礎体力を上げる…それにあたり、彼は大一のトレーニングに付き合うことになった。

 

「何度も言うが、無理だけはするなよ。それで本来のお前のトレーニングがこなせないんじゃ本末転倒だからな」

「だ、大丈夫です…!」

 

 少し苦しそうな表情のギャスパーであったが、彼の目に宿る決意は後輩ながらに頼もしく感じる。先日の試合では勝利に大きく貢献しながらも、慢心することなく強くなろうという姿勢は、以前の彼を知るからこそ大一としては感心した。一誠や仲間に感化された面も強いが、それ以上にギャスパー自身の成長なのだろう。

 

(あいつは特有の強みがあるのに偉いものだよ)

(お前は今のままではエロガキの弟の劣化みたいなものだからな)

(言いたいこと言ってくれやがって…否定しきれない俺にも腹が立つ)

(お前に赤髪女に黒髪女…この辺りか、この前から散々なのは。まあ、いいさ。今のうちにしっかり鍛えて、弟も越してやれ)

 

 大一は舌打ちしたくなるような気持ちで話を聞く。相手からの敗北を喫するリアスと朱乃、正面勝負では勝ち目の無かった大一と現状では上級生がいまいち戦果を残せていないのは事実であった。もっとも3人ともその自覚はあり、トレーニングに力を入れていた。特にリアスは滅びの力を活かそうとして必殺技になりえるものを作ろうとしていた。

 ただ一誠に追いつけるかは、大一としても懐疑的であった。彼の新たなる力「真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)」は目を見張るものであった。先日の一戦を見返したが、禁手化した神器を身につけ強化されたサイラオーグを相手に一歩も退かずに攻めたてて勝利を掴んだその場面に、大一は感動よりもさらに一誠が遠くなったことを感じた。いくら彼を赤龍帝としてではなく弟として見ても、やはりその実力の隔たりは実感してしまった。

 

「もっと、もっと強く…!」

「ギャスパー、気負い過ぎるな。それで小猫は以前オーバーワークでぶっ倒れたんだからよ」

「こ、心に留めます!でもやっぱり力になりたいです。レーティングゲームでも、禍の団との戦いでも…」

 

 小さく呟くギャスパーに、大一は忠告する。どうも1年生の後輩たちは気負いしやすい面があるように彼は思った。これほどまで才能豊かなのだから急ぐ必要も無いと感じたが、それでもギャスパーの決意を止めることは出来ない。

 同時に、彼の発言で大一はふと思い出したことを口に出していた。

 

「そういえばこの前、紅葉から連絡が来ていたんだよな」

「紅葉…ああ、お兄様が京都で会った豆腐小僧ですね」

「なんか、この前の試合を見ていたらしくてな。ご丁寧に連絡してきたんだよ。あとできれば遊びに行きたいとかも言っていた」

 

 ギャスパーに話す大一の頭の中には先日友人となった妖怪とのやりとりを思い出していた。内容は至って普通でサイラオーグ戦の感想と、今度は九重と共に遊びに行きたいというものであった。少し掘り下げてみると、「聖母の微笑」を持っていることを知られて駆り出されることも増えたため、京都妖怪との交流も増えて、九重や八坂とも親しくなったのだという。それでも零が手を加えて、前線に引っ張られることは無いようだ。大一としても、彼があまり戦いを好まないのだと知っている分、その方が良いと感じていたし、紅葉自身も主には感謝している様子であった。しかし…

 

「紅葉の主である零さんがどうも『禍の団』を調べているみたいなんだ」

「それって、炎駒様のお友達なんですよね?」

「らしいんだが、どうも嫌な予感がするんだよな。零さんは基本的に厄介ごとを嫌うのに、自分から調べるっていうのは妙な勘繰りをしてしまう」

 

 大一としては京都で彼女に会った時の態度や表情から、自分達に火の粉が降りかかるのは本気で面倒がっていた印象を抱いた。それ故に、紅葉からその話を聞いた時は首をひねる想いであった。しかも彼女は師匠である炎駒や実力者である初代孫悟空も信頼するほどの存在のため、それほどの人物が主体的に動くということは、その対象になんらかの動きがあるからだと考えられる。

 

(あんな狐妖怪の才能にビビるものかねえ)

(でも実際、その情報収集能力や人脈、術の力は本物だよ)

(まあ、百歩譲って才能が重要なものであることは認めてやるよ。お前の弟なんかまさにそれだからな)

(やっぱりあいつに才能が無いとは思えないよな)

(そりゃ、お前なんかよりも遥かに強いからな。だがな、持っている手札が違くても強くなることは出来るんだ。力はもちろん、魔力、頭脳、度胸…あらゆる要素を合わせてな。それなのにお前は弟への罪悪感も捨てきれずに───)

(あー、はいはい。その話はとりあえずいいだろ)

 

 大一はディオーグの言葉を遮る。彼の考えには同意しかねる感情であった。一誠への負い目は確かにあったが、それが自分の強さを妨げている理由になることがわからなかった。自分の実力は自分のものであり、一誠は関係ないはずなのだから。

 一方でディオーグから見れば一誠が悪魔人生を謳歌しているようにしか思えなかったため、勝手に責任を感じている大一の態度は苛立つものがあった。兄は兄で弟は弟、なぜ彼がわざわざ悩む必要があるのだろうか。ましてや、一誠は多くの支援を受けているのに大一が気にする必要など無いはずだ。

 

(あー!むしゃくしゃしてきたら、食い物が欲しくなってきた!しかもこの冷たい空気も鼻につく感じで今はいいものじゃねえ!)

(もうちょっと我慢しろ)

 

 腕時計で時間を確認した大一は錨を取り出し、縦に力強く振る。この実感できる重さが、ディオーグの繋がりと小言も併せて肌に感じるようでいい気分がしなかった。

 そんな状態で声をかけてきた人物がいた。バスケットを持ったレイヴェルだ。後ろにはなぜか黒い笑みをした朱乃と、元気の無さそうな小猫がいた。

 

「お疲れ様です、2人とも。差し入れを持ってきました」

「わあ、ありがとうございます!」

 

 嬉しそうにギャスパーはレイヴェルから弁当を受け取る。細やかな気づかいやサポートができる彼女の人間性を垣間見た。

 一方で、朱乃のプレッシャーを感じる笑顔に大一は少したじろいだ。

 

「いちおう聞いておくけど、どうして何も言わないの?」

「め、迷惑かなと思いまして…」

「それで後輩の前でお腹鳴らしていたくせに。前にも言ったでしょ、迷惑なら断るって。そして迷惑じゃないから持ってくるの。はい、お弁当」

 

 朱乃はぐいっと大一の面前に丁寧に包まれた弁当箱を突き出す。力の入ったその動作には、大一も思わず一歩引いてしまった。

 

「…なんか怒っている?」

「不満はあるわ。朝からリアスはイッセーくんとラブラブで朝ごはんの時も見せつけるように惚気ている。一方で、私はせっかく彼氏がいても早々にトレーニングに行ってひとりですもの」

 

 当てつけるように朱乃は、目の前の彼氏に話す。朝からリアスは一誠とたっぷりいちゃついて、朝食時には両親から孫を楽しみにしていると言われる。すっかり2人の空間を作り、周りは楽しんでいるやらライバルの先取りにやきもきしているやらであったが、親友の圧倒的な幸せを見せつけられているような気分になった朱乃はどうにも不全的な感情であった。祝いはしているものの、自分にも相手がいるのにという気持ちがどうしても湧いてくるのだ。

 大一も一誠とリアスの様子は知るところ───もっとも彼の場合は付き合う前からの煮え切らない様子も知っているのだが───であったため、朱乃の気持ちには申し訳なく感じた。

 

「あー…その…ごめん」

「謝るだけなら誰にだって出来るわよね」

「それもそうだが…」

 

 大一はちらりと他の3人に視線を向ける。ギャスパーとレイヴェルは気にしたようにちらちらと視線を向けていたし、小猫に至ってはどう見ても覇気がない。正直なところ、小猫の方が心配にも思えたが、少し考えた末に大一はごまかすように肩をすくめる。

 

「…さすがに後輩の前ではさ」

「…ハア、そうよね」

 

 大一の態度に期待外れというように朱乃はため息をつき、ギャスパーやレイヴェルも何か言いたげな視線を向けていた。

 

「…部室でお茶を淹れましょうか。行きましょう、小猫さん、ギャスパーさん」

「わ、わかりました」

 

 呆れるレイヴェルは2人に合図をして旧校舎内へと向かっていく。ギャスパーも一緒に歩いていき、小猫は返事こそしなかったもののその後をついていった。

 

「…やっぱり一誠達みたいな方がいい?」

「だってもっと一緒にいたいし、大一に必要とされたいもの…ワガママかしら」

「いや俺が満足させられないのは悪いと思っている…だから…あー…近くの自販機で一緒に温かい飲み物を買ってこないか。それで良ければ、2人で近場のベンチに座ってさ」

 

 気恥ずかしそうに大一は話し続けるが、その様子を見た朱乃は少しだけ目を丸くする。弟よりも彼女ができたのは前なのに、いまだに慣れない雰囲気がある。先日の学園祭などでは男らしい面も見せている。そんなちぐはぐな相手なのに、肌寒さを感じさせないような温かい感情を抱いてしまうのだ。

 

「でも、もう少しだけ欲しいわ」

「…わかったよ」

 

 頭を掻きながら、大一はさっと辺りを見回すと朱乃のあごに手を添えて軽く口づけする。慣れないながらも、同時にもっと触れていたくなるような柔らかい唇であったが、それ以上に恥ずかしさが勝っていた。それでも朱乃は少し納得した様子で笑顔を向けていた。もっとも彼女自身も我ながらちょろいと自嘲していたが。

 

「じゃあ、行きましょうか。寒くなってきたから温かいものが美味しいはずね」

「思うけど、その制服で寒くないのか?」

「もう長袖よ」

「いやスカートとかさ…」

「ニーハイにしたから大丈夫。魔力使えば気にならないし。それとも中身が気になるかしら?」

「一誠じゃ無いんだから、そういうのはねえよ」

 

────────────────────────────────────────────

 

 2人が歩いていく姿を1年生組は旧校舎の2階の窓からこっそり見ていた。会話は聞こえなかったが、変に拗れることは無かったらしい。

 

「ちょっと心配でしたわ。お二人でも喧嘩することがありますのね」

「喧嘩じゃなくて、朱乃お姉様のおねだりみたいなものですよ。お兄様も不器用ですし」

「うーん、でも羨ましい関係性ですわ。意中の殿方とそういった関係になるのは」

「アーシア先輩も同じようなこと言ってましたよ。うーん、やっぱりそういうの気にするんですね」

「わ、私だって色々と…とにかくお茶を淹れますわ」

 

 ごまかすようにお茶を淹れる準備をするレイヴェルに、ギャスパーはちょっと踏み込みすぎたかもしれないと思いながら、嬉しそうに彼女から貰った差し入れを開けていた。

その一方で小猫はぼんやりと窓越しに大一の後ろ姿を目で追っていた。あの隣に自分も歩くことは出来るだろうか。寒さを共有して、身体を温められるだろうか。そんな気持ちが一瞬のように、それでありながら強く残るように感じる。

 

「先輩は…」

「準備出来ましたわ」

「小猫ちゃんも一緒に飲もう」

 

 2人の友人の誘いを機に、小猫はゆっくりとその場を離れて行った。

 




ヒロインの件も、ずっと考えていたんですよ。
おそらくこの章がひとつの分かれ道になりそうです…。
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