コミュ障チート冒険者の失敗   作:かりん2022

1 / 4
いつのまにか密偵ということになっていた

 

 俺はトリッパーでチーターでソロの冒険者である。

 ソロであるのは、色々秘密もあるが、人間不信が理由だ。

 

 いろいろな可能性を考えて、念入りに対策をして挑んだ冒険者デビューは上手く行った。

 全く目立たず生活が出来ている。

 

 街では普通の冒険者の服装、冒険に出る時は装備を変えて狩りをしている。

 生産も納めているのだが、ギルド関係が恐ろしいので自分用以外に作っていない。

 素材を売ってお金を貯めつつ、チートアイテムで生活をしている。

 正直チートアイテムだけでも生活できそうなのだが、人と全く会わないのは不健康だし、働かないと人間だめになりそうだしな。

 大きな街なので、たまの贅沢で観劇を見に行くぐらいか。後は吟遊詩人の歌を聞いたり、娼婦の子から冒険者から聞いた冒険譚を又聞きしたり。

 

 領主とか憧れないでもなかったが、器じゃないからな……。人恋しくはあるが、人のそばにずっといると衰弱する。面倒なのだ、コミュ障オタクは。

 

 最近は、楽器スキルを利用して、ストーリー風の曲を作る事に挑戦している。披露する勇気はまだないが、推しの冒険者が出来たのだ。あと、領主様にも興味がある。この世界、吟遊詩人の歌はニュースでもあるのでデタラメを歌うわけにも行かないし、実在の人物を歌うのは当然注意が必要。とても大変なのだ。匿名発信ができた現代が懐かしい。

 

「よぉ。クロウ。お前、弟子を取らねーか」

「Bクラスの仕事だろ。俺はDクラス。ランク違いだ」

「そのランク上げのために言ってんだよ」

「俺はランクDから上げるつもりはないし、色々特殊だから参考にならないと思うぞ」

「知ってるよ。お前が街の宿を取らずに外に出るのも、いつも小綺麗なのも、外に出ると装備変えてんのも、本当は魔法使いなのも、領主様や腕利きの冒険者の情報を集めていることもな。その上で頼んでるんだ、密偵殿。日中だけでいいから社会勉強させてやってくれ」

 

 おっと。

 

「えっ その前提で俺に任せるってやばくない?」

「もちろん、変な真似をしたら護衛がスパン! だ。何、いつもどおりにしてくれればいい。期間は一ヶ月だ。報酬にプラスして観劇のチケットが出るぞ。報酬は実費込みだが、連れ回す分にはせいぜい食事くらいだろ」

「俺が用意するのか!?」

「それともお縄につくか?」

「うげえ……溶け込めてると思ったんだが」

「明日、引き合わせる。用意しておくものはあるか?」

「食器と武器と解体ナイフくらいは用意しておいて下さい」

 

 

 

 そして、当日。冒険者ギルドでは三人が待っていた。

 1人が身なりの良い少年。彼がメインだろう。

 後は若者が2人。護衛かな?

 

「初めまして。クロウです。一ヶ月、宜しくおねがいします」

「おお、密偵よ! 私の名前はカイルという! よろしく頼むぞ!!」

「護衛のヒューバートだ。変な真似はするなよ」

「カイル様の活躍を記録する係です! レインと言います!」

 

 マジかよ。領主様のご子息じゃん。ご領主様、勇気ありすぎだろ。

 

「ところで皆さん、手ぶらに見えるんだけど」

 

 ちなみに俺は、リュックをお腹側に背負っている。

 背中だとスリが怖いからね。普通に鞄にナイフで穴開けてくるんだよ。こわっ

 

「じゃあ、元気な内に近場で狩りをしましょうか」

「おお!」

「こうして、謎の密偵についてカイル様は冒険の旅へと出るのだった……!」

 

 なんだか騒がしい事になりそうである。

 街から徒歩で離れることしばし。

 正直、徒歩で狩りになんて行ってられない。徒歩一日で済むような場所まで魔物の接近を許すはずがないのだ。ダンジョンに行くという手もあるが、それは明日。

 道中で何が出来るのか聞いたが、大抵のことは出来るらしい。まあ、ファンタジー世界の貴族だし、そこは信じていいだろう。

 俺は、笛を配った。

 

「後で返してくださいね。俺も借りただけなんですから」

「これは、召喚笛!?」

「クロウ殿の雇い主は太っ腹だな……!」

「これは凄い」

 

 もちろん、普段使っているのとは違って最下級である。全員揃って乗馬したところで、俺は先導して狩場へと向かう。いつもの狩場よりも弱めの場所を選んだ。

 

「では、着替えたら魔物を呼び寄せます」

 

 俺は荷物から装備を取り出し、最期に楽器を取り出す。

 

「楽器?」

 

 俺は剣をすぐ取れるように軽く地面に刺し、楽器を鳴らした。

 

「な、何だこれは? 不安な音色だ……それに魔力が」

「魔物を呼び寄せると言ったでしょうが。ご存じない?」

 

 これは失敗したかもしれない。ガサガサッと音がして、魔物達が現れる。

 楽器を放り出し、剣でサクサクっと刺す。

 ぽかんとしたカイルは、ヒューバートが守った。

 

「……よし。もう現れないようですね。それでは、解体をします」

 

 魔法を併用して、せっせと解体をする。

 

「……獲物の解体はしないのですか? 今日のご飯ですよ?」

「う、うむ! もう少しゆっくり見せてくれないか。覚えたい」

「わかりました」

「魔物をおびき寄せたな!!」

「いや、1人で狩りをする際の基本ですよね? このあたりの魔物は弱いですし、普段どおりとのことでしたので……。それが嫌なら、どうぞ依頼をキャンセルして下さい」

「やめよ、ヒューバート。教えてくださっているのだ。君は護衛に専念して欲しい」

「す、凄い!! 魔物を呼び寄せる歌!? そんな物があるのですか!」

「ええ……。ソロの基本ですよ? 知らないなんて大丈夫です?」

「知らないから学ぶのだ。次はレインにやらせてみてくれ」

「楽器はお貸ししますが……折角だから、癒やしの歌でも奏でてて下さい」

「あの、それも教えて下さい」

「君、本当に吟遊詩人?」

 

 食事を作って食べた後、魔法の楽器を渡し、弾いてもらう。魔力を通せと言っているのだが、中々出来ない。一番簡単な勇者の旋律すらできない。

 

「これは……そもそも才能がないな!!」

「ガーン!!」

 

 思わず敬語も取れるというものだ。練習には軽く一ヶ月は掛かってしまうだろう。現実化してスキルの取得は厳しくなっている。そんな練習に付き合っていられない。仕方ないので、スキルブックを渡す。これでバードスキルが生えるはずだ。

 

「読め。吟遊詩人の極意が書かれている。一度読めば消える」

「こ……これは、達人を模倣できるというスキルブック!?」

「一冊しかないがくれてやる。別料金だ。金貨20枚。ただし、楽器はただでやる。勝手に売り買いしたのがバレるとこっちがヤバいからな。スキルブックのことももちろん内緒だ」

「わ、わかりました! 買います!」

 

 眼を限界まで見開いてスキルブックを読む。

 一時間ほど読んでから、勇者の旋律を一度で成功させた。

 その間、こっちは解体の練習をみたり採集をしていた。

 早めの夕飯を済ませ、馬で帰る。召喚笛を回収して、冒険者ギルドで解体した物を換金した。

 

「レイン! 教えた曲を教えた順に練習しろ。スキルはとにかく反復練習だ。後、レインが選んだ人間だけに歌の効果を届かせる練習をしろ。それが出来ないとお話にならない」

「はい!」

 

 そして、俺は慌てて街を出る。宿で泊まるのはごめんだからな。

 

 翌日は、吟遊詩人の曲を聞いて回る。

 娼婦からの聞き取り調査も同時に行い、冒険者の英雄譚をメモしていく。

 レインの歌が上手くなるまでの一週間、情報収集をした。お金の減りが著しいので、残り三週間、張り切って稼がねば。

 

 それにしても、英雄譚について話すのは楽しい。つい口が軽くなった。

 

「今、俺の一番の推しはジークだな。彼は強くなる」

「ジーク殿は今でも強いぞ」

「でも武器があってない。防具も酷いが武器が全然レベルに合ってない。あの人は武器で変わるよ」

「武器か……。クロウ殿はそんな武器を手に入れる伝手とかあるのか? 楽器型の魔法の媒体などダンジョンの出土品くらいだと思うが」

「あー。まあな。弱小の裏工房を知ってる。ギルドに入ってないから外部に作った品が流出する事はないが、そこそこ希望の通りのものが作ってもらえる」

 

 その名も、THE俺工房である。

 

「そう言えば、クロウ殿の本来の武器は大鎌と聞いた。どこで買ったのかと思ったが」

「よく見てるね。マジで。視線を感じた覚えはなかったんだけどなー。気をつけよ」

「なんと、大鎌!? ぜひ見せて欲しい! ジーク殿に合う武器もそこでなら手に入るのか?」

「ダンジョンでね。ジークのレベルが高いからなぁ……適正武器ってなると……ちょっと。店主の秘蔵品にならあるかもね」

「どうすれば取引できる!?」

「ジークと……とと、ジーク様と親しいのか? 凄いな」

「うむ! ジーク殿と約束したのだ、壊れない剣を用意する、と」

「それは無理かな……。壊れない装備なんてないし」

「ジークは数合打ち合っただけで剣を壊してしまうのだ」

「こわっ」

 

 さて、一週間、毎日馬を駆って狩場に生き、歌で魔物を釣って狩り、解体をした。

 カイルは目出度く解体をマスターした。

 

 次の二週間はダンジョンだ。

 大体適正レベルはわかったので、ダンジョンエレベーターでショートカットする。

 

「「「!??」」」

 

 え。これも知られてないの。

 とにかく戦って戦って、ある程度素材が溜まったら帰還して換金。

 カイルが思ったよりやるし、レインも成長著しい。ヒューバートは普通に強い。

 

 俺は調子に乗って、どんどん階層を上げた。パーテイプレイ、やっぱり楽しいわ。

 今まで、俺はコソコソして、気づかない内に色々我慢してたんだって知った。

 話すのもパーティで戦うのも、楽しかった。

 既に今の俺の適正レベルでの戦闘、本気の大鎌を出しての戦闘である。

 このレベルだとちょっとカイル様だときついので、魔法の杖をレンタルさせてもらった。

 

「結構いい素材集まったな」

 

 ダンジョンは解体は出来ないが、魔物が一つ二つ素材を残すのだ。また、採取などが出来る。俺はせっせと仕分けする。ちゃんと三等分である。更に自分の分を選り分ける。

 

「今は何の仕分けをしているのだ?」

「工房に届けるのと、売るのを分けてるんだ」

「おお、裏工房! 私も取引したい! ジークもそうだが、私も魔法の杖が欲しい! これもその工房の作なのだろう!?」

「んー。秘密を守れるか?」

「無論だ!」

「レインには楽器をやったしな。カイル様にはその杖を、ヒューバートには盾をやろう。更に、取引券を一回だ」

「おお!」

「ただし、このメンバーでボス戦に三周させてもらう。後は、俺への仲介料としてジーク様の英雄譚」

「ボス戦?」

「次の階層が30階だろ? そのボスだよ」

「何だと!?」

 

 ヒューバートが怒る。

 

「嫌ならいいけどさ。取引券もなし。店主がボスの素材を欲しがってたからさ。三回分のボス攻略素材全部と交換ってわけ」

「一回でいいではないか!」

「はあ? 料金はなしなんだぜ? 試行錯誤とかも必要だし、それくらいは当然だろ。しかも、楽器に、杖に、盾に、オーダーメイドチケットだぜ? 10回でもいいくらいだ。もういい! せっかく仲介してやろうと思ったのに!」

 

 俺、逆ギレである。確かに調子に乗りすぎていたかもしれない。カイル様領主の子だしな……。

 

「じゃあ、帰りましょうか。今日で依頼は終わりですしね」

「いや! 取引はする! それも正規の取引材料の10回でだ! ただ、盾は先渡ししてくれ。後、一度体を休めたい」

「……良いのか?」

「うむ、私は約束は守る。ジークに剣を約束したのだ!」

「おお……立派です、カイル様! 英雄譚っぽくなってきましたよ!」

 

 レインはカイル様を称える。

 

「くっ ……わかりました。カイル様」

「じゃあ、地面に刺すと岩の壁が出来る盾を渡そう」

「10回だな。致し方ない」

 

 そんなわけで、ボス戦である!!

 

 敵はミスリルゴーレム。

 

 勇者の旋律で攻撃力を上げれば、ギリギリ俺とヒューバートの攻撃は通るはずである。

 カイル様は牽制しつつ、レインを守ってもらう。

 

 途中、休憩をはさみつつ、一ヶ月ほど掛けて十周した。

 そして、なんとジークに直接会わせてもらえることになった。

 ふわぁ。生ジークだ。凄い。本当に炎みたいに真っ赤な赤毛だ。格好いい。デカイ。凄い。

 

「カイル様の献身には感謝するが……。あくまでも俺の士官の条件は俺が使える剣だ。裏工房だかなんだか知らないが、俺の武器が本当に作れるのか?」

「い、一応親方からサンプルと質問チェック表を頂いてます! 俺もサイズぐらいだったら図れるし! しっかり仲介するんで任せて下さい!」

「本人が来ないのかよ」

「親方忙しいんで、すみません」

 

 まずは採寸を終えてしまい、その後大きな木箱を開ける。

 中には大量の装備を入れてある。

 

「おもしろ武器の展覧会か?」

 

 言いつつ、用意したカカシをロングソードでズドンと切って灰にする。凄い、真っ二つだ!

 

「「「「魔法武器!?」」」」

「あ、炎属性が得意と聞いていたので、ほとんど炎武器で纏めてありますけど、良いですよね?」

「凹み一つない……」

「この際、自分に最も合う武器を追求されてはいかがですか? たまには冒険もいいですよ。その為のオーダーメイドですし」

「しばらく試していいか? 本当に壊れないか、実際に魔物で試したい。質問チェック表を見せてもらおうか」

「一ヶ月と出来上がるまでなら構わないですよ。作っている間の武器も必要でしょう。ただ、ちゃんと全部返してくださいね?」

「ああ、わかった。これがサンプルってことは、もっと良いものがもらえるってことだろ」

「カイル様が良いミスリルを、十分な量確保してくれてますから、多少の我儘は親方が叶えてくれると思いますよ。なんと今回は剣に似合う服付きです!」

「鎧じゃねーのか」

「親方、槌を振るうより機織りのほうが得意なんです。まあ、服も期待していいですよ。親方から服を仕立てられるなんて光栄ですよ」

 

 少なくとも、今の鎧よりずっと防御力は上である。数値上は。

 

 ジークは、悩んだ末にミスリルゴーレムを十回狩ってきた。

 なんでも、鞭が凄く気に入ったが、役立つ場面が限られるから剣と両方欲しいのだという。仕方ないなあ。短剣もオマケにつけよう。

 

 そして三ヶ月後、ついに装備セットが揃った。

 赤を基調にした、燃えるような色合いの服。マント付きである。ちゃんとブーツもあるよ!

 裁縫はカンストさせてあるのでマジで凄い。炎吸収の効果である。。

 

 領主様がジークに下賜する、という体裁でお披露目もされ、結構な話題になった。

 そして、そのままジークは火竜討伐に向かい、討ち取ってきた。

 

 レインが歌う。

 剣を壊してしまう勇者。折れない剣の代わりに忠誠を誓うという勇者と少年の約束。

 やがて少年は、賢者と出会い、試練を課される。

 英雄譚と素材を捧げよ。さすれば折れない剣を授けん。

 少年は高貴な身分に関わらず、自ら命を懸けてミスリルゴーレムを十度討伐し、その素材を捧げた。

 そうして、折れない剣を約束の通り渡された勇者は、忠誠を捧げるとともに言った。

 

「ならば、私も代価を払わなくては。英雄譚を賢者と少年に捧げます」

 

 そして、勇者は火竜を討伐する。身に纏うは炎を活力に変える魔法の服。

 振るうは炎の鞭。そして、けして折れない炎の剣!!

 

 うむ。たしかに英雄譚である。

 

 でも内緒って言ったじゃね―か!!!

 ほ。ほとぼりが冷めるまでおとなしくしてよう……。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。