3ヶ月ほどマイハウスでゴロゴロしつつ作曲したり生産したりしていたが、そろそろ良いかなと減った物資を色々と買い込んだ後、冒険者ギルドに顔を出してみた。ちなみにスキルは爆上がりした。
「よお、賢者殿。謹慎は終わったか? 生きていてよかったぜ」
「二度と装備は渡さない」
なんだかすごい勘違いをされているとわかるが、あえて訂正せずに断言すると、受付の男はクツクツと笑う。
「ところで、裏工房の親方に依頼が殺到しているが」
「仲介はもうしない。痛い目見たからな」
「一応、帝国のお抱えになる気はないか聞いといてくれ」
「は? いやいや、それは駄目だろ。大体小さい工房で、身内の物を作るので精一杯だって」
「そりゃ残念。じゃあ、お前は密偵やめる気はないか」
「おれぇ!?」
「癒しの歌、使えるんだろ? それだけで十分だ。追手が怖いなら守ってやる。それとも、一生日の当たらないところにいるつもりか? コソコソコソコソ、やりたい事も贅沢も我慢してよ」
「!!」
確かに、チートを得たのに、俺はコソコソしてばかりで、我慢してばかりだった。
ずっとこのままで良いのだろうか……?
「俺は……俺は」
「おう」
「ジークの英雄譚を歌いたい。たまには息抜きしたって良いだろ」
「謹慎からすぐ息抜きをするつもりか」
「情報収集もするさ」
そして、俺は早速酒場に向かい、勇気を出して聞いてみた。
「俺も歌っていいか……?」
「ふむ。一曲ぐらい良いだろう。盛り上がったらもっと歌わせてやる」
俺は舞台に上がる。もう後戻りはできない。
楽器を周囲に置き、深呼吸。
すっと手を指揮棒のように振って、楽器を浮かせた。
これぞ、楽器スキルの真骨頂。
1人で同時に幾つもの楽器を演奏できるのである。
俺は叫んだ。
「ファイヤー!!! ジーク! ジーク! ジーク! ジーク!」
派手に楽器を踊らせ、奏で、歌う。
ロック寄りのポップな音楽を奏でる。
初めはキョトンとしていた人達も、次第に乗り始めた。
初の俺のコンサートは、なんとか成功した。おひねりも貰った。
その後、ジークの英雄譚について盛り上がった。
楽しい時を過ごした俺は調子に乗り、しばらく歌を歌って稼ぐこととした。
5日後、カイル様がジークとヒューバートを連れて歌を聞きに来た。
「カイル様。今日はレインは来ないのか?」
「あれは一日中歌わされていてな……」
「えっ 一日中」
「癒しの歌は有用だからな」
「そりゃそうだけど。回復魔法か薬使えよっていう。楽器壊れるぞ?」
「どちらも簡単に使えるものでもあるまい。だが、楽器については困ったな」
「それが簡単じゃないなら、癒やしの歌も手軽なものじゃないんじゃないかな……。レインももっと自分を高く売ったほうがいいんじゃあ?」
「耳が痛い……。楽器やスキルブックは、手に入れられないか?」
「無理無理。めっちゃ怒られたんだからな」
嫌だNO! YES無理! これで俺の責任を回避する!!
「まあ、そうであろうな……。しかし、手を触れずに楽器演奏できるなら、1人で戦えそうなものだが。それに、これだけ楽器があるなら……」
「楽器を演奏している間は、剣は振れない。それにこの楽器は全部で一つの楽器なんだ。作るのすごい面倒だから、なくしたら親方に殺される」
装備の問題があるからね。複数の楽器が装備できるのは、楽器セットを使っているからである。ここは現実なので、実際は出来るかもしれないが、やろうとは思わない。
あと、これぐらい牽制を入れておかないとなんだかんだで買い取られそうだからな。
「うむ。しばらく歌っているというのなら、ついででこちらの用意した楽師を鍛えられないか? もちろん、代価は払おう」
「えっ? 吟遊詩人なんざ歌を覚えた後はひたすら戦場でバフ掛け続けるしかないだろ」
「バフ?」
「勇者の旋律とか、技工者の旋律とか、掛けると強くなる魔法や魔曲の総称をそう言うんだよ。魔物と戦いながら歌い続けろってこと」
「技工者の旋律は知らないな」
「教えないぞ」
「情報が対価ではどうだ?」
「例えば?」
「父上の事を、表に出せる範囲で何でも話してやろう」
「ほぅ」
「更に本人と話せる茶会が出来る!」
「なんと!」
「ま、まあそれなら良いかな。丁寧に教えたりはしないぞ! ひたすら弾くだけだぞ!」
「よし。言ったな。一週間後に段取りしよう」
「わかった」
取引が済むと、ジークが言った。
「話は終わったか? 装備の手入れをお願いしたいんだが」
「良いぜー。一週間後に代わりの装備をついでに持っていく。補修費は素材をお気持ち程度と銀貨6枚で」
「それは良いのか……?」
「一枚は俺、五枚は親方のへそくりになる」
「おいおい……ガバガバだな、お前の組織」
「工房と纏めてスカウトされるつもりはないか」
「それはない」
「ついでに僕達の装備も補修してくれ。素材に色はつけるぞ」
「わかった」
これで用事は済んだな。
楽器を台車に載せ、門が閉まる前に町の外に出なくては。
「その。歌、良かった」
「あ、ありがとう」
顔が真っ赤になる。ジーク本人に褒められるって嬉しいな。
というか、涼しい顔で自分を称える歌を聞けるって凄いよな。
この世界では当たり前なんだろうな……。凄い。
一週間後。
なんだか街に吟遊詩人が増えてきた気がする。
それにしても、荷物がとても増えてしまった。
アイテムバックお披露目したいな―。でもなー。
困った末に、馬車を借りてそこに乗せることにした。
チートってどこまで見せて良いんだろ。ポーションを見せたら地獄になることは想像できる。
馬車に乗って行って、領主のお城へ行く。
荷物の見聞をひたすら待つ。
代わりの装備を配り、修理対象の武器を預かる。責任持って授業の間領主様の方で預かってもらうことになった。
銀貨を貰い、倉庫に案内される。
「好きなものを20個まで持っていっていい」
「へ? 高いものから持ってきますよ?」
「構わん」
すげえ。太っ腹。
俺は倉庫を見る。さすが領主様。ラインナップがスゲェ……。
か、火竜の素材まであるじゃん。いいの? 本当にいいの?
俺は素材を選ぶ。ほしかったレベル帯の素材がある!!
「それだったらあるだけ持っていって構わん」
「え、えええー!?」
「親方殿によろしく頼む」
「わ、わかりました!!」
さすが領主様、やべぇな。