迅斗たちは隔日でサーキットへ赴き、練習に明け暮れる傍ら、照が走りに全く来ていないことを知る。
それから後日…
日が沈む時間に、迅斗はミストラルへと車を走らせた。
【PM19:00 ミストラル】
迅斗
「どうも~遅くなりました。
予約してたパーツ、取りに来ました金村です。」
客席の方に目をやると、先輩と舞依の2人が座っていた。
俺に気づいた舞依が小さく手を振る。
迅斗
「珍しい組み合わせですね…なんか。」
舞依
「さっきまで美舩さんもここにいてね、馴れ初めの話とかで盛り上がっちゃってさ。」
迅斗
「そう…なんだ。」
女の子ってこういう話好きだよな…。
ふと先輩の顔を見ると、一瞬目が合ってしまい、俺は照のことについて訊いた。
迅斗
「先輩、どうも…。
知ってますか?最近、照のヤツ…走りに来ていないこと。」
勇仁
「…ああ、あれ以降全く音沙汰ないよね。」
舞依
「LINEも既読はついてるけど返信なし…。
いつもなら即刻、スタンプとかつけて反応するはずなんだけど…。」
迅斗
「一応、家にも寄りましたけど車がなくて、親御さんのほうにも訊いてみましたが、最近帰りが遅いんだとか。」
照は家業の配達以外にホームセンターでバイトをしている。
しかし、バイト先の話では仕事の方は出ているらしいが、特に連絡する暇もないほど忙しいというわけでもないようだ。
舞依
「どうしたんだろ…。
普段なら一番乗りで走りに来てたはずの照が…。」
勇仁
「…なあ、ところでさ…聞いたか?
この辺でやたら速いスイフトの噂。」
スイフト…?まさか、あの銀色の。
舞依
「そういえば、前からちょくちょく見る程度でしたけど、ここ数日、走り屋っぽい車を見つけては自分からパッシングして勝負を仕掛けてるって…。」
勇仁
「はぁ…相変わらずで何よりだな。」
そういえば、先輩にはスイスポの話をしたことがなかったな。
あの口ぶりからすると、何か知っているのか?
迅斗
「あの…。」
言いかけると、つなぎを着た美舩さんがガレージの入り口から現れた。
美舩
「あ、ジント君。遅かったわね。
今日は19時で閉めるって言ったじゃな~い。」
迅斗
「す、すみません…レポートの提出とかいろいろと…。」
美舩
「ま、大学のことなら仕方ないわね…。
パーツの方は外に出してあるから、持っていってね。」
迅斗
「分かりました。ありがとうございます。」
そんなやり取りを終えると、先輩が美舩さんにアイコンタクトを送る。
美舩さんが腰に手を当ながら、事務室に入っていった。
しばらくすると、事務室を出て普段着に着替えた美舩さんはこちらに歩み寄る。
美舩
「ね、舞依ちゃんさ、今から私とドライブに行かない?」
舞依
「え?それってどういう…。」
美舩
「仕事終わりのストレス発散ってやつ?
それに舞依ちゃん最近頑張ってるから、たまには助手席に乗って、ゆったりするのもいいかなと思って…いや、ゆったりすべきなのよ!」
強引だな…舞依のやつは満更でもなさそうだが。
そう言うと、美舩さんは舞依の手をとって店を出ようとする。
美舩
「んじゃ2人とも、ちょっとの間店番ヨロシク~。
あ、お父さんは事務室に居るけど忙しいから声かけないでねっ☆」
迅斗
「え、俺もですか?」
美舩
「ん~?男同士じゃ不満?
何か訊きたいことあったんでしょ?」
あぁ…そうだった。
あまりに2人きりという状況が苦手なためか、この場を逃れようとつい口走ってしまった。
そういうわけでよろしくと、美舩さんは舞依と2人で店を後にした。
迅斗
「はは…昔からあの調子なんですか?」
勇仁
「まーね。もう慣れたけど。」
【ミストラル 美舩用ガレージ】
舞依
「えっ…これって。」
美舩
「私の青春…かな?
しばらくロードスター頼りだったから、グズってなきゃいいけど。
さ、可愛いレディ2人も乗せるんだから、張り切ってもらうわよ。」
【弐香呉峠】
照
(…暗くなってきたな。
あれから1人で黙々と走ってるけど、気持ちがサッパリしないな。
何がなんだかわかんねーが、とにかく走らなきゃ腹の虫が治まらねぇ…!)
次第に夜の闇に包まれる峠を走るEK9…すると、背後から車の気配を感じ取る。
その気配は瞬時にEK9の真後ろについた。
照
(うっすらと見えるが、コイツ…ジントとバトルした例のスイスポか?)
スイスポはチカチカとヘッドライトを点滅させる。
照
(パッシングかよ…上等じゃねえか。
俺も丁度その車に挑みたかったんだ。
だがジントで勝てねーなら、俺が相手務まるかどうか…。
いや、そういえば俺もあの場にいて、バカにされっぱなしだったな。)
照はアクセルを深く踏み、バトルに応じる。
照
(今度は俺の番だろっ…!
抜けるもんなら抜いてみやがれっ!)
【再び ミストラル】
迅斗
「――そうだったんですか。」
美舩さん達が店を出てからしばらくして、俺は先輩と例のスイスポについて話していた。
話によると、そのスイスポ乗りは同好会を作るおよそ3年前に、先輩が所属していた走り屋チームのメンバーだった。
しかし、チームのスタンスに嫌気をさし、先輩ともそりが合わなかったことから短期間で脱退。
それ以降は埼玉から行方を晦ましていたらしいが、今年になってから見かけるようになったと昔の仲間から聞いたらしい。
尤も、俺もそれを見た1人であるが…。
勇仁
「歯が立たないのも無理はないさ。
アイツはメンバーの中でもとびきり若かったワリに、実力は高かったほうだ。
あれから3年…何やってきたか知らねーけど、昔以上に速くなってんのは確かだろう。」
迅斗
「でも、なぜ今になって埼玉に…?
単なる里帰りとかですかね?」
勇仁
「…アイツが今、弐香呉を走ってる目的はおそらく…
…俺だろう。」
【弐香呉峠】
照
(くそっ…全然離れねェ。
というか、さっきからずっと食いつかれたまんまだ。)
バトル開始から数分後、幾度かコーナー勝負を繰り広げるも、スイスポの膠着状態が続いたままだった。
照
(…! ここで前の踏ん張りがなくなってきてる。
走り込みのダメージがここで来るかよ。)
グリップが効きづらくなったフロントタイヤ…照は歯を食いしばりながらアクセルワークでラインを調節していく。
背後のスイスポは、照の出方をうかがうようにヘッドライトを張り付かせている。
照
(プレッシャーかけてんのか…?
いつでも抜けますってことかよ。
ふざけやがって…!)
苦戦を強いられる照の前方にひと筋のヘッドライトが差す。
照
(…っ!…対向車か…。
にしても飛ばしてるな。走り屋か?)
対向車とすれ違うと、スイスポは右へ移動し、EK9の傍に並ぶ。
照
(次の右で前に出る気かぁ?)
2台はブレーキランプを点灯させ、コーナーに入る。
即座にEK9が前に出させまいと、進路を塞ぐように車体を被せていく。
照
(…強引に出たのが仇になったか。
外に膨らんでいく…!)
照はステアリングをこじらせてラインを修正させるも、隙を突いたスイスポは立ち上がりの加速で前に出る。
そのまま次の左コーナーで再びインに入り、一気にポジションが変わった。
照
(速いな…
…って、感心してる場合じゃねえや。
離されたわけじゃねえから、まだチャンスはある。
頼むぜEK…お前は俺のこと、解ってくれるよな…!)
照はアクセルを緩めることなく、スイスポとのバトルは続く。
この後、予想もしなかった結末になることを知らずに…。
つづく。