峠 Beginning   作:れいめん

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 いつも身近にあった愛車を失ってから2日後――。
 照は深夜、コンビニへと立ち寄りそこに偶然、迅斗と遭遇する。


第10話:後悔先に立たず

【AM1:00 とあるコンビニ】

 

 照

「よ、こんな遅くにコンビニとはな…。」

 

 ウォーキングでたまたま立ち寄ったコンビニで、まさかこんな時間に照と会うなんてな。

 

 迅斗

「どうしたんだよ、こんなとこで。」

 

 照

「ちと眠れなくてな…散歩がてら来たって感じだ。」

 

 迅斗

「やっぱり、シビックのことか?」

 

 照

「まーな…壊れてなかったとはいえ、愛車が急に居なくなんのは、走り屋として切なくなっちまうよ。」

 

 あれからというもの、照のシビックはミストラルの方で預かることになり、動かなくなった原因は、過度な走り込みから生じたスパークプラグの摩耗…そこからエンジンへの負担が大きくなって、エンストに至ったというわけだ。

 幸いにも、エンジン自体は無事だったらしく、オーバーホールから始めて1週間で元に戻れるらしい。

 

 照

「走ることだけに熱中して、俺は車のことを見ていなかったんだ…。

先輩にお灸を据えられてよく分かったよ。

走り屋ってのは、ただ楽しいだけでやってく世界じゃねえんだなってさ。」

 

 確かに、走り屋…というより車を持つということは、経済的にも苦労することになる。

 車だって、お前ら人間と同じく磨いてやらなきゃいけないんだと、86買ったときに親父から言われたっけ。

 

 走り屋というのは、いつも以上に車を走らせるのを引き換えに、それ相応の代償を伴うものだと、今の照を見て改めて身に染みた。

 

 よほど精神的に参ったのか、普段の照からは想像もつかない程おとなしかった。

 

 何か励みになれれば…と、俺は照に弐香呉峠の外れにある丘までドライブに誘った。

 俺は足早に家のガレージへと向かう。

 親父も寝てるであろうから、深夜に車を動かすのは少し気が引けたが、浮かない顔をした親友をこのまま黙って見ているわけはいかなかった。

 

【街中】

 

 照

「…お前さ、上手くなったよな…運転。」

 

 迅斗

「え?そうかな。」

 

 照

「納車されたばっかの頃さ、ガッチガチに緊張してエンストさせまくってたじゃねえか。

あれから半年以上経って、見違えるように上手くなってるよ。」

 

 迅斗

「それも親父や先輩たちのおかげ…かな?」

 

 照

「親父…か。」

 

 それ以降、照は目的地に着くまで窓に映る景色を眺めていた。

 

【弐香呉峠】

 

 夜も深くなり、あたり一面が暗闇に包まれた峠に、1台のヘッドライトが輝く。

 

 美舩

「――こうしてアナタの隣に乗るのいつぶりだっけ?

全く変わってないわね、ペダルの踏み方…シフトチェンジ、ステアリング…そしてその目つき。」

 

 勇仁

「若いヤツらがあれだけ頑張ってんだ。

俺も少しは気張っていかねーと、後輩どもに揶揄(からか)われちまうよ。」

 

 美舩

「…ホント、今のアナタを見てるとそっくり…あの人に。

普段はヘラヘラしてるのに、根は大の負けず嫌いな所が特にね。」

 

 勇仁

「走り屋ってそーゆーもんだろ。

何の気なしに車転がしてるやつもいれば、誰よりも速くなろうとひたすら走り込むやつもいる。

今までいろんなスタイルの走り屋を見てきたけど、気がつけば殆どの人間が後者になってんだよ。」

 

 そんな話をしていると、2人は前方からテールランプが光るのに気づく。

 

 勇仁

「スイスポか…ってことは…。」

 

 美舩

「まだしつこく探してたみたいね。

 

どうするの?相手からすれば、ようやく巡り会えたターゲットだけど。」

 

 勇仁

「しょーがねえ…

このまま他の走り屋に煽り入れてんのを黙って見てるのもなんだしな…。

 

ちょっとばかり、お灸を据えてやるか。」

 

 ワンエイティはスイスポに向けてヘッドライトを点滅させる。

 

 桐哉

(…ハッキリとは見えんがリトラクタブルの車だな。

それにこの、背後から響く直4のSR…

だとしたら無視するわけにはいかない。

 

2年越しの借りをここで返させてもらう!!)

 

 勇仁

「――さーて、ちゃちゃっとやりますか。」

 

【弐香呉丘】

 

 

【挿絵表示】

 

 

 照

「ん~、丘の空気ってのはひと味違えな~。

それとここから見下ろす街の景色は、心が洗われるぜ。」

 

 迅斗

「言ってることオッサン臭いぞ…。」

 

 照

「にしてもさ、ここ来んのって小学校の時以来じゃねえか?

今はもう無いけど、公園とかあってよく3人で遊んでたよな。」

 

 確かにここに来るのは久しぶりだな。

 今となっては馴染み深いのが、この埼玉の街を一望出来るこの場所だけだ。

 俺と照はしばらく街灯の点った深夜の景色に見入っていた。

 その後、深く息をついて照が口を開く。

 

 照

「――俺さ、みんなと初めてサーキットに行った数日前に、親と口喧嘩しちまったんだよな。

走り屋になる為に、車譲ったわけじゃねえとかいろいろ言われてさ…。」

 

 迅斗

「でも、名義変更して金とかはお前が負担してるんだろ?

なのに、何で…。」

 

 照

「親からしてみりゃ、走り屋ってのは、ガキの遊びみたいなもんなんだろうよ。

 

――俺ら次の年で二十歳になるだろ?

いつまでも、遊びに金使ってばかりいるなっていう親なりの戒めってやつだろうさ。

家業を継げとかそんな話も出たし…。

 

親父も昔は車が好きで、それ絡みに金当ててたみたいだけど、結局残ったのは後悔ばかりだったってさ…だから、俺にはそうなってほしくねえんだろうよ。」

 

 そうか…レース後にどこか浮かない顔をしていたのも、俺たちを避けて1人で走っていたのもそのせいだったのか。

 

 照

「…ったく、親ってのは勝手だよな。

それに嫌気がさしてヤケになって走ってたりしてたけど、今思うとこれまで何やってたんだろうなって…。

 

俺がバカやったばかりにシビック壊れちまうしで…。」 

 

 悔しさのあまりか、照の目は少し潤んでいた。

 涙を流さないよう上を見上げた後、腕で目をこする。

 

 照

「あれから親にもこっぴどく怒られた…。

自業自得なのは自分でもよく分かってる。

車に乗るだけ乗って、車のことを分かろうとしなかった結果がアレなんだからな。

 

思えば俺、ずっと楽な方向に生きてきたんだよな…ジントや舞依みたいに、キツいことがあっても、乗り越えようとしないで避けてきた。

そのツケがこういう形でまわってきたんだ。

これからどうすりゃいいかな…俺。」

 

 迅斗

「…照…。」

 

 感傷に浸る照の姿を見て、俺は名前を呟くことしか出来なかった。

 こういう時、何か一言かけるのが親友としての務めじゃないのか…?

 

 迅斗

「…そんな照だけどさ、お前にだって良いところあるよ。」

 

 照

「?どういうことだよ。」

 

 迅斗

「…負けん気の強さだ。

お前は、走り屋になったことで、自然と負けん気を身につけるようになったと思うんだ。

それは俺と、舞依という親友…いや、ライバルが出来たからさ。

俺もさ、一時期2人に置いてかれそうで焦った時期があった。

でも、俺のそばには先輩や美舩さんといった頼れる人達…そして86のおかげで前に進むことが出来たんだ。

今お前は、将来のことや車を壊したことで頭を抱えたくなるのは分かる。

だからこそ、ここで走り屋の人生で身につけた負けん気を発揮するときじゃないのか?

周りに左右されずに、自分を貫いてこそ、大人になることの1歩なんじゃないのかよ!?」

 

 一言といったが、俺は次第にヒートアップしてしまい、最終的に説教じみたものになってしまった。

 ここまで熱くなったのは、バトル以外では初めてかもしれない。

 ふと我に返った俺は、照の様子をうかがう。

 

 迅斗

「ご、ごめん…つい、ここまで言うつもりはなかった。

何言ってんだろうな俺、偉そうに…。」

 

 そう言うと、照は吹き出した後、声を上げて笑い出した。

 

 照

「いや~、まさかお前がそんな喋るとはな。

誰かが乗り移ったみてえだったよ。」

 

 迅斗

「わ、悪い…。」

 

 照

「謝ることねえだろ!

おかげでスッキリしたわ。頭ん中のモヤモヤが晴れたっつーかさ。」

 

 迅斗

「そう…か。1人で熱くなって一方的に喋ってしまったけど…。」

 

 照

「――よし。

俺、走り屋続けるわ。

お前らが前に進んでるのに、自分だけ後ろにいるワケにもいかねえしな。

それと、車のことも理解しようと思う。

    

その為には、親にまた何言われるか分かんねーけど、車系の専門学校に行くことに決める!

んでもって、恩返しとして家業は継ぐ!

少しは俺も大人になっていかねーとな。

 

いつまでも、うじうじしてらんねぇ…。

後悔役立たず(・・・・・・)って言うし。」

 

 迅斗

「先に立たず…な。

これから先、今まで以上にしんどくなりそうだけど、俺も応援してるからさ。

事情を話せば、親御さんも解ってくれるよ。

それと、次からは1人で抱えこまないで、俺や舞依にでもいいから、困ったことがあったらお互い話していこう。」 

 

 吹っ切れたのか、これまで陰りのあった表情は嘘のように消え、ようやくいつもの照に戻った。

 

 そんな親友の姿に安堵していると、静寂の場を掻き消すように、峠方面から車のスキール音が響いたのを聞き逃さなかった。

 こんな時間に、誰かバトルしてるのか…?

 

 照

「さーてと、気持ち切り替えて1杯やろうぜ。

自販機に行くぞ。」

 

 迅斗

「あ、ああ…分かった。」

 

 照

(へっ…ジントの言葉に救われるなんて、正直思わなかったぜ。

ありがとよ、親友!)

 

 

 




つづく。
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