峠 Beginning   作:れいめん

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 86対スイスポ…お互いの意地をかけた峠のバトルは、佳境へと突入する。


第13話:勝負の果てに

 桐哉

(まだついてくるか…俺が前に出たからには、負けなど目に見えてるのに。

お前なりの意地ってやつか?)

 

 スイスポに前を譲ってしまい、状況はより俺の方が苦しくなってきた。

 でも、それは相手だって同じなハズだ。

 なにがなんでも、ゴールまで食らいついてやる…!

 

 ここを抜けると、また高速区間がやってくる。

 

 迅斗

「踏ん張ってくれよ…86!」

 

 高速域ではスイスポが明らかに上…それでも俺はアクセルを緩めずに、スピードが乗った状態を維持する。

 途中で来るコーナーはアクセルオフで処理し、とにかく離されないことを意識していく。

 

 少し理想のラインから外れる所はあったが、上手く食いつけたようだ。

 

 桐哉

(このセクションを抜けても尚、ついてきやがる。

…まあいい、どのみち俺が勝つんだ。

お前は大人しくそこにいろ。)

 

 一定の差をキープしたままついている…しかし、こっちが抜き返せるというチャンスは全く来ない。

 それを窺おうにも、殆どのコーナーを隙のないドラテクで抜けていき、こっちは現状ついていくのが精一杯だ。

 どうする…このままテールランプを睨むだけで終わりか…!?

 

【弐香呉峠 頂上】

 

 照

「始まってからだいぶ経ったな…そろそろ来るかな?」

 

 舞依

「状況的にジントが不利なバトルだけど、ここから先どうなるんだろ…新嶋さんはどう見ますか?」

 

 勇仁

「ん~レースってもんは、終わるまでどうなるか分かんないからな。

不利な状況のままゴールしちまうか、どんでん返しが待ってることもある。

最終的には意地と意地のぶつかり合いだ。

どっちかの意地が勝れば、ソイツに軍配が上がる。

 

今のところ俺たちが迅斗にやるべきことは、全部やってきたんだ。

後は黙ってアイツの勇姿を見届けてやるだけさ…。」

(自分じゃよく分からないと思うが、迅斗はこれまでの経験で、諦めないというスキルを自然に身につけた。

それは身近にいる照と舞依(コイツら)と、桐哉(ライバル)とのバトルを経てついてきたものだ。

お前らは一人前への道をまた一歩踏み出そうとしてる…ヤツに届くかはお前次第だが、今の自分を遠慮なく見せつけてやれ。)

 

 必死に食らいつき、気がつけばコースは終盤のセクションに入っていた。

 焦るな…ここで焦りを見せたら、それこそ今までと変わりない。

 思えば、俺はこの人に2度負けているんだった。

 最初はすぐに相手のペースにのまれ、次はちょっとでも行けると思った自分の慢心から来る油断で負けた。

 心のどこかで、この人には絶対敵わないなんて思った反面、いつかは前に出て見返してやりたいという気持ちもあった。

 その気持ちが、今のバトルで強く出ているのかもしれない…そうじゃなきゃ、とっくにこの人に離されてるだろうし。

 

 俺は照のように猪突猛進ってワケでもなく、舞依のようにセンスがあるワケでもない。

 ただ、俺は…車が大好きだという気持ちと、これまで培ってきた走り屋としてのプライドだけは絶対に譲れないと思ってる。

 勝ちたい…今まで勝ち負けをあまり気にしなかったのに、なぜかこのバトルで俺はここまで意識している。

 実力差だとか優劣とか、もうそんなものは気にしない…今はとにかく、前に出てやるんだ…!

 

 次の右ヘアピン…おそらく相手はタックインを利用してコーナー前で少し間隔を空けるハズだ。

 その間隔はおよそ車1台分はある…オーバースピード気味に行けば、タイヤのグリップを利用してギリギリ…。

 そう考えているうちに、自然と俺の動きは実行に移っていた。

 予想通り、車1台分のスペースに車体をねじ込んでいく。

 スイスポがブレーキをかけると、俺はワンテンポ遅らせてブレーキングに入る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 桐哉

(コイツ…正気か…!?

この状況でインベタだと…?)

 

 我ながら無茶な行動なのは分かってる。

 でも今は自分を…86を信じて行くしかない。

 コーナリング中、車体が少しずつ膨らんでいくのを察知し、即座にステアリング操作でラインを修正していく。

 どうやら上手く行けたみたいだ。

 

 桐哉

(まさか俺がこの峠で抜き返されるとはな…。)

 

 残るコーナーもあと僅か…この次は、弐香呉最長のストレート。

 くっ…ここで前に出た所で、すぐに抜かれるじゃないか。

 さっきのでタイヤのグリップは大きく消費した…ストレート後に来る最後のコーナーで勝負に出るか…?

 

 今は考えてる暇はない…!

 とにかく行くんだ…!!

 

 今の今まで、鬱蒼とした木々に囲まれて続いてきたセクションも、このストレートではまるで別世界に入ったようで晴れ晴れとしている。

 感傷に浸る暇も与えず、背後に張りついたヘッドライトに動きが…やっぱりパワー差が出てるとどうにもならないか。

 

 徐々にスイスポが追い上げていく…まだだ、コーナーまで持ちこたえるんだ。

 

 照

「?この音…来てるんじゃないか?」

 

 美舩

「だいぶもつれ込んでるみたいね…。」

 

 ゴール手前の最終コーナー…消耗した状態で、スピードが十分乗ってからのブレーキング。

 さすがにキツいな…傍にはスイスポがいて、理想的なラインが作れない…!

 それに追い抜きの弊害でグリップが効きづらい。

 

 迅斗

「これ以上は、踏めないっ…!」

 

 被せるようにスイスポが前に出ていく。

 先にゴールラインを通過したのはスイスポ…鵜野さんの勝利で、このバトルは幕を閉じた。

 

 バトルを終え、照と舞依が俺の元に駆け寄ってきた。

 俺は負けてしまった事に謝ると、照から激励(?)としてヘッドロックをお見舞いされる。

 

 照

「バカ言うなよ!どうなってたかは後で聞くけど、健闘したんだろ?

それでいいじゃねえか。」

 

 舞依

「こうして何事もなくゴール出来ただけでも凄いよジント…。

今のジント、走り屋として輝いてる。」

 

 迅斗

「そんな大袈裟な…。

でも少し無茶はしたけど、俺も86も無事でゴール出来たのは、結果的に練習の成果が出せた…ってことなのかな?」

 

 美舩

「結果はどうあれ…あなたは今夜、このバトルで何か変われるきっかけを掴めたんじゃない?」

 

 変われる…か。

 ただがむしゃらに車を追いかけていただけだったけど、また1つ大きな経験になったのは間違いない。

 照のヘッドロックから解放されると、車から降りてきた鵜野さんが俺に訊いてきた。

 

 桐哉

「1ついいか?

あの時、お前が抜き返そうと俺の横についた時、行けるという確信はあったのか?」

 

 迅斗

「…行けると思えば行けましたけど、行けないと思えばダメでした…かね。」

 

 俺の曖昧な返答に、鵜野さんは怪訝そうな顔つきになる。

 

 迅斗

「仕掛ける前に、確信という程でもないですけど、行けるという感覚はあったんです。

俺の意志はもちろん、86自身も…

一瞬だけ生じた乗り手と車が“シンクロ”したって言うんですかね…。

86が『俺は大丈夫だ』と俺に伝えてきたみたいで…。

何か変ですよね。」

 

 鵜野さんは「フッ…」と返すと、車の元へと戻る。

 俺は一言伝える為に、慌てて彼を呼び止めた。

 

 迅斗

「あの…機会があったら

また走ってくれませんか?

俺、今日のバトルを糧にまた走り込んで、もっと速くなってみせますから。」

 

 桐哉

「…機会があったらな。

 

それと新嶋さん、俺の本来のターゲットはアンタだ。

次戻ってくる時は、兄貴の分までまとめて借りを返す。 

それまで首洗って待っとくんだな。」

 

 勇仁

「言うねェ…ま、気長に待つとするよ。」

 

 そう言い残すと、鵜野さんは車に乗り込み颯爽とこの場を去った。

 

 照

「よし、そんじゃあバトル中の様子でも聞かせてもらおうかな?」

 

 迅斗

「えぇ?そんな面白い話でもないけど…。」

 

 それからしばらく、俺はさっきまでのバトルについての話を、虚偽の無いよう洗いざらいやっていくのであった。

 

 俺は今日このバトルで、車が好きで…走り屋になれて良かったと改めて思う瞬間だった。

 

 周りから見たら、実にくだらないことをやってると思うかもしれないけど、こうして仲間やライバル…そして愛車がいるおかげで、走り屋であることを誇りに感じている。

 

 

 




つづく。
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