倦怠期の夫婦みたいになっちまった幻影の魔女と淫魔の王   作:京谷ぜんきまる

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何でこんなの書いたのか自分でもよく分からん


倦怠期の夫婦みたいになっちまった幻影の魔女と淫魔の王

「はぁ・・・・・・」

 

 幻影の魔女、水城不知火は物憂げなため息を吐いた。

 息を吐く所作さえどこか淫靡な感じがある。

 不知火はかつては魔と対峙する忍、対魔忍であった。

 だが彼女にとってはそのことが随分昔のことに思える。

 つい先ほどまで淫魔の頂点に君臨する“王”の夜伽の相手をしていたところだ。

 ショック死寸前の快楽に肉体は燃え上がり、いつも通りの絶頂地獄を味わわされた。

 

 しかし――今では、それも結構、慣れてしまった。

 

 さすがに事の最中は余裕がない。

 色んな体液を垂れ流しながら、不様なアヘ顔を晒して絶叫したりしてるのだが――。

 まあ所謂“喉元過ぎれば熱さを忘れる”という奴である。

 ましてや、体の魔族化が進み、淫魔の力と肉体を得た今となっては尚更であった。

 

 キングサイズのベッドの上で半身を起こし、遠い目をする幻影の魔女。

 

(はぁ~~、今とは違う別の道もあったのかしら・・・・・・今さら元に戻れないのは分かってるんだけど・・・・・・)

 

 そんなことを考えながらポワワっとした妄想に耽る不知火であった。

 

 

――――

―――

――

 

 たとえば・・・・・・。

 正体を隠したまま、不知火は娘のゆきかぜと交戦し、断崖絶壁の縁に追い詰める。

 そして全身ラバーの頭部を脱ぎ、遂に正体を晒すのだ。

 

「アイ・アム・ユア・マザー☆」

「そ、そんな」

 

デーンデーンデーンデーンデデーンデーンデデーン♪(超有名なSF映画のテーマ)

 

「嘘だよぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~!!!!????」

「ここで死ぬことはないわゆきかぜ・・・・・・さあ、私と一緒に来て。私が新たな力を授けてあげる。 あなたなら淫魔王を倒せるッ。そして私たち母子二人で魔界を支配するのよ!」

「・・・・・・ぬい。しら・・・ぬいよ」

 

 

――――

―――

――

 

「不知火っ」

 

 背後から見知った男の声が聞こえて、不知火の妄想は中断された。

 不知火は振り返り、ジト目で声をかけてきた男を睨む。

 

 浅黒い肌に銀髪。端麗な顔つきをした男は、淫魔王その人である。

 

「そなた・・・・・・今、その、謀反を企ててなかったか?」

 

「・・・チッ!」

 

 引きつった笑みを浮かべながらおずおずとそう問い質す淫魔王に、不知火は心底苛つきながら、くっそ大きな舌打ちを鳴らした。

 

「夢の中で犯すだけじゃ満足できないの? 起きてる最中の思考まで覗き見ないでくれる? 鬱陶しいんだけど?」

「いや、でもそなた今、謀反を――」

「妄想よ妄想! 大体私が一人娘を巻き込むと本気で思ってるわけ? それとも実際に実行しようとするだけじゃなくチラッとでも頭の中をかすめた空想さえも許さないってことなのかしら? まるで何処かの独裁者みたいねぇッ」

「いやしかし、さすがに妄想でも謀反は――」

「“全て思うがままに自由に振る舞うがいい”とかなんとか、ドヤ顔で以前私におっしゃってなかったかしら? ()()()?」

 

 嫌みっぽくそう言われ、「そ、そうであったな」と呻くように言った後で口を噤む淫魔王であった。

 

 

――――

―――

――

 

 

 日を改めて不知火はまた妄想に耽っていた・・・・・・。

 

「うわあああぁぁぁ~~~!」

 

 激痛にのたうち回るゆきかぜ。

 攻撃しているのは黒いローブに身に包んだ淫魔王である。

 

「余に逆らう愚か者め!」

「ママ・・・・・・ママ、助け、て・・・・・・」

「クックック・・・・・・不知火の娘よ。そなたは死ぬ!(電撃バリバリ~!!!)」

「あぐ! アアアアア! お、お母さん、お願い・・・・・・」

 

 どんどんかすれていくゆきかぜの声。淫魔王と娘を何度も交互に見つめる不知火は――。

 

「おい、不知火よ!」

 

 

――――

―――

――

 

 

「なによもう!」

 

「いや、なにを空想するのもそなたの自由だが、余はあんな気色の悪いローブなど着たことはないぞ!?」

「だ・か・ら、勝手に他人の頭の中を覗くなと――ツッコむところそこなのッ?」

「それに、なぜ余は皺だらけの老人になっているのだ???」

「妄想の設定に下地にした奴があって・・・・・・はぁ~~~~~~、なんでこんなことを説明しなきゃならないのよ・・・・・・」

「映画を二、三本鑑賞するくらいの時間、そなたがずっと空想しているのを眺めていると色々気になってな。それに余は雷など操ったりはしな――」

「だから勝手に覗かないで! デリカシーって物がなさすぎるわ!」

「す、すまん。おい待て、何処へ行くのだ」

「仕事よ。例のリゾートビーチの件。優雅に玉座に座っている何処かの誰かさんと違って私は忙しいの」

 そう行って部屋を出て行く不知火を引き留めることもなく淫魔王は見送るのだった。

 

 

 

 

 

 数週間後、淫魔王は都内のエリート高校・聖修学園の会議室にいた。

 今の姿は人間の少年だった。

 

「これか」

「はい、間違いないかと」

 

 教師に扮した淫魔族の男に数枚のディスクケースを渡される淫魔王。

 

「仰っていた内容と完全に一致しています。お探しになっておられたのは随分昔に人間が制作した映画でございました。世界中で今も愛好されているシリーズだそうで」

「そうか」

「続編を含めれば九作ございます。スピンオフを含めれば他にも・・・・・・さらにアニメやゲーム化もされており、黒井様のご要望があればそちらもご用意しますが」

「いや、当面はこれだけでよい。ご苦労だった」

 

 聖修学園の特待生・黒井竜司。

 地上における淫魔王の仮初めの姿だ。

 

「時に――不知火の奴はもう来ているのか」

「はい。お部屋で黒井様を待っておられますよ」

「しばらく二人にしてくれ。何があっても誰も入ってくるなと皆に伝えろ」

「かしこまりました」

 

 言いつけを終えた後、淫魔王は会議室を後にした。

 

 

 聖修学園は淫魔の巣窟である。

 元は鷲津グループという財閥が運営していたが、その鷲津グループの総帥や重鎮達が淫魔にすげ替えられており、上流階級の生徒達を淫魔の魔力で籠絡し、支配している。

 現在は淫魔が精気を吸う格好のエサ場であり、同時に勢力を拡大させるための重要拠点と化していた。

 そのため、学園内にはヨミハラやアミダハラといった魔がはびこる都市にある奴隷娼館顔負けの施設がある。

 さらに地下には巨大な淫魔の宮殿が設けられている。

 

 もちろん、そこには王がくつろげるベッドルームも存在していた。

 

 室内はシャワーの音が微かに響いている。

 そわそわした様子で淫魔王は部下から受け取ったディスクを巨大なベッドの側に据えられた鏡台の上に置き、室内にあるこれまた巨大な壁掛けディスプレイとシャワー室を交互にチラチラ見る。

 淫魔王は緊張していた。しかしなぜ緊張しているのか王自身も分からないのだった。

 気を落ち着けるためにベッドの縁に座ったその時――。

 

 せわしない足音が聞こえ、バタンと大きな音を立ててベッドルームに男が入ってきた。

 先ほどの会議室で会った部下である。

 淫魔王の顔が、感情も表さぬ無表情となる。

 だがそれだけで室内の温度が急激に下がったような寒気を部下の淫魔は感じた。

 

「誰も入ってくるなと命じたはずだが」

「も、申し訳ございません! ですが――」

 

 部下は言葉の最後まで言うことが出来なかった。

 淫魔王が椅子から立ち上がり睨めつけてきたからである。

 だが淫魔王は部下を見ていなかった。見ようとしたのは彼の背後だ。

 

「ちょっとそこを退いてもらえるかな?」

「な!?」

 

 部下は後ろからの声に震え上がる。

 いつのまにか青いフードを被った少年がいた。

 病的なまでに白い肌と髪。それ以外はか細い子供に見えるが・・・・・・。

 

「その少年の言うとおりだ。もういい。行け」

「し、しかし」

「出ていけと言っている」

「は、はい」

 

 部下は深々と頭を下げた後、退出していった。

 

「優しいんだね。逆に手下を呼び寄せると思ったんだけど」

「お前が相手では意味が無かろう・・・・・・何だその姿は」

 

 目を細める淫魔王に少年はクスリと笑った。

 

「なに、君のやり方を真似たわけじゃないんだけどね。ちょっとした気分転換さ」

「ほう・・・・・・で、何の用だ?」

「用ってほどのことじゃないんだけどね。一言君に言いたいことがあってお邪魔したんだ」

「そうか。ならはやく言え」

 

 ――そしてさっさと帰れ。淫魔王の偽らざる本音だった。

 いつの間にかシャワーの音が止んでいた。

 

 

「では言わせてもらうね」

 

 少年は一端言葉を切り、咳払いをした。なぜだがプフッと含み笑いをした後で――。

 

「君んところの部下ってさ、結構イロモノが多いよねっ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

「いやぁ、筋肉ムキムキのインキュバスなのに何故か女装してる奴とか、対魔忍の里で色々やらかしてる子とか、他にも色々面白いのがいそうで。なんか僕、シンパシーを感じちゃってさ」

「・・・・・・」

「それがどうしても言いたくなって来たんだ――じゃ♪」

 

 本当にそれだけが言いたかっただけらしく、少年は踵を返して去ろうとする。だが少年の小さな背中を見つめながら、淫魔王はわなわなと沸き起こる感情を抑えることが出来なかった。

 

「貴様に・・・・・・」

「ん? なんだい?」

 

 振り向く少年は無邪気な顔をしていた。それが余計に淫魔王の勘に触った。

 

「貴様にだけは言われたくないぞ! エドウィン・ブラック!!!」

 

 淫魔王は少年の名前を叫ぶ。

 エドウィン・ブラック。吸血鬼の始祖。

 現状、地上においては他の追従を許さない大勢力を誇る人魔結託の巨大組織ノマドの長である。

 

「え、なんで?」

「イロモノ揃いはお前のノマドだろうが! 主の動向をいちいちブログに書き記し、“今日は何回ブラック様と目が合った”とかしょうもないことをこっそり書き込んでる秘書や、その秘書に心酔するあまり妙ちきりんな歌やブロマイドを作る小娘に内ゲバが激しい魔科医! あと朧だ!」

 

 一々説明するのが面倒かつ長くなるので、朧の事は省略して淫魔王はブラックを非難した。

 だがエドウィン・ブラックは毛ほども堪えてはいないようだ。

 

「うん。僕は部下には自由にやらせる主義だからね。だから君にシンパシーを感じると言った」

「ぬうっ」

「でもまあ・・・・・・僕直々の命令に逆らったりした場合はきついお仕置きを処してるけどね。君は最近、仕留めたはずのレディの尻に敷かれているようだが」

 

 それは地雷原を踏み倒す発言だった。

 スッと無表情になった直後、淫魔王は嘲笑しながら爆発的な魔力を発散した。

 

「だが余は世界の有り様をしかと受け入れている。つまらないからといってゲームのようにリセットしたりはしない」

 

 ブラックの顔から余裕が消えた。

 

「知っているのか」

「貴様は他の高位魔族を見下しすぎだ。まるで癇癪を起こしたガキのように何度も何度も世界を作り替えられては迷惑きわまりない」

「口を慎め」

 

 今度は淫魔王が地雷を踏み抜いていた。ブラックの足下から影が広がるように不定形の闇が生じる。

 

「淫魔風情が私と直接やり合うつもりか。誘惑が通じない相手に対しては、幻惑して不意打ちするしか能が無いくせに」

 

 少年の姿はそのままに、口調が完全に本来の始祖吸血鬼のものに戻っていた。

 

「だから、他の高位魔族を舐めすぎだと言っているッ」

 

 二人の魔力が高まっていく。室内の調度品が震え、壁や天井が軋む。

 闘いが今すぐにでも始まりそうなその時――。

 

 

 

「うるっさいわね!! アンダーヘアの処理してる時は静かにしてって言ってるでしょ!!!!」

 

 

 

 バン! と勢いよくドアが開き、水城不知火が怒鳴り込んできた。

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

「し、不知火っ!?」

 

 不知火はバスタオル一枚を体に巻き付けた姿で「んん?」と見覚えのない少年を見る。

 

「誰よその子・・・・・・見た目通りの坊やじゃないわね」

「レディ、今なんて言ったのかな」

 

 すっかり毒気を抜かれたブラックが何か面白い物をでも見るような眼差しで、発言はアレだが突如現れたすこぶるつきの美女に聞いてみる。自分の声音にわずかに戸惑いがあるのにブラックは内心驚いていた。そのような感情が沸き起こるのは久方ぶりであった。

 

 不知火はタオルを勢いよく脱ぐ。次の瞬間には淫靡で妖艶な白と黒を基調とした戦闘装束を纏い、ズカズカとブラックに向かって迫っていく。

 

「よ、よせ不知火」

「わかりやすく言ってあげるわ。陰毛を剃ってるときに! 隣でバカでかい魔力を放たれたらびっくりして手元が狂うでしょ? だから静かにして欲しいのッ!!!」

 

 

 数秒の硬直の後、エドウィン・ブラックは苦笑していた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はははっ、これは失礼した」

 

 不知火は肩をすくめて鼻を付け合わすほど接近していたブラックから離れた。

 

「分かってくれればいいの。それじゃ」

 

 部屋を出て行こうとする不知火を見て淫魔王は慌てた。

 

「待て不知火。何処へ――」

「気分が乗らないから帰る」

「おまっ――」

 

 バタン。

 

 ドアが閉まる無情な音。不知火は振り返りもせずベッドルームを去って行った。

 立ち尽くす淫魔王。その背中はブラックにはなんだか小さく見えた。

 

「なんだか・・・・・・悪かったね」

「そうだ・・・・・・全部貴様が悪い。エドウィン・ブラック・・・・・・」

「えーと、急に来訪したことは謝罪するよ」

「ではその謝罪。受け入れる代わりに、今日は一晩、余に付き合ってもらおうか」

「・・・・・・・・・・・・冗談だろ?」

 

 ・・・・・・この後すったもんだした末に、酒飲みながら二人で映画鑑賞した。

 

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