「ああ、そうだ。言い忘れていた。夏休みの間、親戚の子が遊びに来るんだ」
ある日の朝、ちゃんと服を着ながら朝食を食べているとおじさんがそんな事を言ってきた。
「親戚……ですか?」
俺もおじさんとは親戚だ。つまりその夏休みに来る子とやらも俺の親戚の可能性がある。知っている奴だろうか?
「ああ。あの家族はへんじ――うん! ちょっと、変わっていてな……」
あのおじさんが言い淀んだ!
俺が参加しているダイビングサークル(一応呑みサークルではない)ピーカブーのアレな奇行を見ても一切動じないおじさんが。
どれだけヤバい奴なんだ!?
「それで親戚付き合いもほとんどないから多分伊織は会ったことないと思うぞ。俺も何年も会ってないしな」
「へぇ、そうなんですか……」
何だろう、嫌な予感しかない。出来れば会いたくない。
「凄い変な顔……そんなに嫌なの?」
「そりゃ、そうだろう千紗。あのおじさんが言い淀む相手だぞ! ヤバいに決まってる! 後『変な』は余計だ」
「気持ち悪いの間違いだった」
「より酷くなってる!」
千紗は何故かいつも俺に厳しい。
俺が何をしたと言うんだ!? 全く心当たりがないぞ!
……アレの日か?
「安心しろ伊織。来るのはその息子だ。友達数人と一緒にダイビングをしに来るらしい」
それは安心……できるのだろうか?
ヤバい奴の息子ならそいつもヤバいのでは?
「ダイビング!?」
思わず立ち上がる千紗。
相変わらずダイビングの事となると目の色が変わるな。
「ああ。全員初体験らしいからちゃんと教えてやるんだぞ」
初体験か。
初めて海に潜った時の事を思い出す。あの時の感動は今でも忘れられない。
そして遂に俺も教える側か……。
考え深いもあるな。
「新しいダイビング仲間が増えると良いわね、千紗ちゃん」
「うん。普通の人だと嬉しい」
「おいおい、待てよ千紗。それだとお前の周りに普通の人がいないように聞こえるぞ」
「…………」
ちょっと考えて、それから千紗は結論を出した。
「……梓さんとか?」
「他にもいるだろ」
梓さんは見た目は美人だし普通に見えるけど、見えるだけだ。
あの人はバイだ。
「奈々華さんでもないぞ。ちゃんといるだろ、男で」
「……男で?」
千紗が視線を上に向けて考える。
そうだ、ちゃんと考えれば俺という存在に辿り着くはずだ。
だが、千紗の顔が俺の予想とは反対に段々と曇っていく。
「……マトモな人間が一人もいない」
確かにウチの先輩とか学科の連中とか耕平は間違いなくヤバい人間だ。だが、俺は違う。
正に清廉潔白を絵に書いたような人間。その俺がアイツらと同じような扱いを受けているみたいで不愉快だ。
「あんたも変人側だから」
「まだ何も言ってないぞ」
「そのバカ面を見たら何が言いたいかぐらい分かるわよ」
「くっ……!」
反論したいところだが、俺の考えを読まれたのは本当だから言い返せない。
こうなったら俺も千紗の考えを読んでやる。
……ふむふむ、なるほど。「こっち見んな」か。
「そんな事より来るのって今までの言い方からして学生でしょ?」
「ああ」
「中学生? 高校生?」
ん? 中学生?
不意に俺の頭に最悪のシナリオが浮かんでしまった。
「難しい顔をしてどうしたの、伊織くん」
「いえ、大した事じゃないんですが、このままだと耕平が警察のお世話になる恐れが」
「今の流れから何でそんな話に?」
「気にしなくていいよお姉ちゃん。どうせ馬鹿な事を考えているだけだから」
「馬鹿な事とはなんだ。これは切実な問題だぞ」
もし可愛い女子中学生が来たら、アイツ暴走するんじゃないだろうか。
そうなったら止めないと。耕平が捕まるのはどうでもいいが、女子中学生が可哀そうだ。
「よく分からんが、来るのは全員高校生だ」
「良かった……」
これで耕平が犯罪者になる事はない。
……いや、まだ安心するのは早いか。アイツは正真正銘の変態だ。本当の中学生じゃなくて中学生っぽければ暴走する可能性がある。
「確か6人ぐらいで来るって言ってたな」
「結構な大所帯ね」
「部屋足りるかしら」
それは確かに大きな問題だ。
この家はあくまでダイビングショップで旅館とかじゃない。一人や二人ならともかく、6人となると部屋を用意できない。
「大丈夫じゃない? 私がお姉ちゃんの部屋に泊まって、伊織が外で寝れば」
「私が千紗ちゃんと一緒に……」
「千紗さん!?」
降って湧いた幸運に言葉を言葉を失っている奈々華さんはおいておくとして、問題は俺だ。
部屋が足りないからって何で俺が追い出されないといけない!?
「何の不満があるの? たまに酔って外で寝てるじゃない」
「俺だって常に酔ってるわけじゃないぞ!」
「……酔ってたらいいんだ」
「……そういう事ではないが」
もしOKしたら先輩との飲み会で酔い潰れたところを本当に追い出されそうだ。
「それでも部屋が足りないぞ」
「そんな事より先に娘さんにもっと俺に優しくするように言ってくれませんか!」
「そこは狭いけど、男女に別れて一緒に泊まってもらうしかないんじゃない?」
「それしかないか」
俺を無視して話が進んでいく。
くっ、何故世界はこんなに俺に厳しいんだ……。何も悪い事はしてないはずなのに。
「確か男が3人、女が2人、秀吉が一人って言ってたな」
「……秀吉ってなんですか?」
男女の割合の話のはずなのに、何で一人だけ男でも女でもなく名前なんだ?
「さぁ? 聞き返しても『秀吉は秀吉だよ。それ以外の何者でもない』って答えただけで」
「……?」
意味が分からない。
俺が知らないだけでそういう名前の第3の性別があるのだろうか?
オカマみたいな特殊なタイプなら、普通にオカマって言えばいいだけだし。
これはやっぱりヤバい奴の息子はヤバいのではないだろうか?
しかし、この時の俺はまだ知らないのだ。ヤバいのはその息子だけではない事を。そしてそいつは想像以上のバカである事を。
次回から本編でバカテスのキャラとぐらんぶるのキャラを絡ませていきます。
基本明久視点ですが、場合によっては伊織だったり他のキャラ視点でも書いていくつもりです。
良かったら感想とかください。もし貰えると作者のテンションが上がります。