バカと酒とやっぱりバカ   作:ゲッコウ

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第一話 

「え~と……」

 

車を降りると同時におじさん――古手川登志夫さんが周りを見渡して僕らを探す。

そしてすぐに見付けたようで、こっちに向かって歩いてくる。

 

「明久か。大きくなったな」

 

「お久しぶりです」

 

普通に挨拶しつつも実は僕はおじさんの事を覚えていない。なのに僕がおじさんの顔を知っているのは、こっちに来る前に姉さんに写真を見せてもらったからだ。

相手は覚えていてくれたのに、僕が覚えていないのは別に記憶力が悪いとかじゃない。

会ったのが小学生低学年ぐらいの時に一回会っただけだからだ。

これで覚えていろ、という方が無理がある。

 

「初めまして、島田美波です。今回はお世話になります」

 

「姫路瑞希です。よろしくお願いします」

 

「木下秀吉じゃ。よく勘違いされるだが、れっきとした男じゃ」

 

皆が次々に挨拶していく。

今日はバカ達がいないから話がスムーズに進んでいく。これがFクラスのメンバーならどうなっていたことか。

何でかと言うとおじさんには娘さんが二人といると聞いているからだ。しかも両方かなりの美人だとか。

あの連中なら挨拶もせず見るに堪えない醜いアピール合戦を始めることだろう。

いくら何でも今からお世話になろうという人に見せる光景ではない。

僕も姉さんにしつこく失礼のないように言われている。

本当、失礼な姉さんだ。僕がそんな事するはずないのに。

 

「皆礼儀がいいな。ウチのバカ共にも見習ってほしいぐらいだ」

 

「……?」

 

どういう意味だろう。

娘さん――え~と、確か千紗さんに奈々華さんだっけ? 

二人とも常識のある普通の人だと聞いているけど。他にも誰かいるのだろうか?

 

「ん、そういや人数が足りないな。確か6人じゃなかったか?」

 

「ああ、二人ほど海に飛び込――」

 

「町に散策に行きました。何か初めての伊豆って事でテンション上がったみたいでして!」

 

「後、一人はとうさ――」

 

「街の風景の写真を取りに行ったのじゃ。ムッツリーニは写真を撮るのが趣味じゃからの」

 

美波と秀吉が僕の説明に被せてくる。

どうしたのだろう、妙に焦っている様子だけど。しかも嘘までついて。

 

「イタタッ……!」

 

美波が僕の耳を引っ張りながらおじさんと距離を取る。それから耳をつまんだまま、おじさんに聞こえないように小声で怒鳴ってきた。

 

「あんた、馬鹿なの! 何を言うつもりなのよ!?」

 

「何って事実をそのまま説明しようと……」

 

「はぁ……」

 

呆れたように溜息を吐く美波。

? 全く意味が分からない。美波は何を言いたいのだろう?

 

「いい、耳の中の鼓膜までよくかっぽじって聞きなさい」

 

鼓膜までかっぽじったら何も聞こえないと思うけど。

 

「あんたの常識は非常識なのよ」

 

「……はい?」

 

何の説明にもなっていない。ただただ僕が罵倒されただけだ。

 

「島田よ。何の説明になってないぞ……」

 

「そうですよ、美波ちゃん。それだと明久くんに常識がないみたいに聞こえるじゃないですか」

 

「ないわよ」

 

「ワシもないと思うぞ」

 

姫路さんだけだ。僕に優しい言葉をかけてくれるのは。

美波も秀吉も酷いよ。

 

「そんな事ないですよ。……ちょっと周りの人と感覚がズレているだけで」

 

姫路さん、それ何のフォローになってないからね?

 

「さっきから何をコソコソしてんだ?」

 

「ほら、おじさんも不審がっているから早くしてよ」

 

「ワシらにとってはムッツリーニの盗撮は日常じゃが、学園以外の人からすると犯罪じゃからの。だから言わない方がいいとうことじゃ」

 

「ああ、なるほど」

 

さすが秀吉。説明が分かりやすい。

美波も一々僕を罵倒せず、そう言えばいいのに。というか、それだと非常識なのは僕じゃなくてムッツリーニじゃないか。

 

でも、確かにそれは気を付けた方がいい。もしムッツリーニが捕まったりしたら大変だ。

って、今も写真を撮りに行っている最中だった!

とは言ってもムッツリーニがどこにいるかなんて分からないし。

……ムッツリーニなら見付かるなんてヘマはしないか。僕に出来るのは信頼して成果を持って帰ってくるのを待つだけだ。

 

「じゃあ、話も終わったようだし早くおじさんのところに戻ろうか。ずっと待たせるのも悪いし」

 

そして僕らは車に乗って移動を開始する。

席は僕が助手席で、他の三人は後ろの席だ。これは別に僕が美波や姫路さんと密着する事で須川くんからの制裁がある事を恐れたからとかではない。

単純にたまたまそういう流れになっただけだ。他意はない。

 

ちなみに雄二達の事は後で自力で合流するとおじさんに説明した。

まだ高校生だし初めての土地という事で心配しているみたいだけど大丈夫だろう。アイツらなら道に迷っても何とかなるさ。

 

「ついたぞ」

 

おじさんからダイビングの話を聞いているうちに目的地についたみたいだ。

 

ここがおじさんがやっているダイビングショップ『グランブルー』か。

ダイビングって初めてだけど楽しみだな。おじさんの話を聞いているうちにより興味が湧いてきた。

美波達も同じように興味を持ったらしい。

まぁ、今日はついたばかりだから潜るのは明日になるらしいけど。

 

「車をおいてくるから先に入っていてくれ」

 

「分かりました」

 

それとおじさんの話だと近くの大学のダイビングサークルの人達がよく来るらしい。

どんな人なんだろう? 仲良く出来るといいけど。

僕は店の扉を開けて――

 

「……」

 

そして閉めた。

何いまの光景は!? そこに広がっていたのは想像していたものとは全然違うものだった。

 

「いやいやいや」

 

今のはきっと何かの間違いだ!

うん、そうに違いない! 今はまだ昼だぞ!

……いや、夜でもおかしいけど。

 

「何してるのよアキ。早く入りなさいよ」

 

「ごめん、ちょっと幻覚が見えたものだから」

 

そして再度扉を開けて――

 

「Vamos!」

 

そして、やっぱり閉めた。

先と同じ光景が広がっていた。どうやら見間違いとかではなかったらしい。

これは女の子に見せていいものではない。

 

「どうしたんですか、何か変な汗をかいているみたいですけど」

 

「何でもないよ。ちょっと不審者がいただけで」

 

「それは大問題じゃないですか!?」

 

「うん、だからちょっとおじさんを呼んできてもらえるかな? 美波と秀吉も連れて」

 

「? 分かりました」

 

不思議そうにしていたけど、何とかおじさんの所に行ってくれた。

さて、どうしたものか。僕はさっき見た光景――昼間から酒を呑んで裸で騒いでいる連中の事を考えて憂鬱な気分になった。

ただ一つ分かったのはこの人達がおじさんの言っていたバカどもだという事だ。




次回は明久と伊織を絡ませます。

更新は週一ぐらいでのんびりやっていこうと思います。

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