走る度に圧巻の走りを見せる『怪物』に、最強の三冠ウマ娘に、ナリタブライアンのような存在になりたい、それが彼女の夢
……だが彼女の体は『怪物』とは程遠く、とても小さかった
その日はウマ娘達がトレーナー達の前でレースを行い、実力を見せてスカウトを狙う『選抜レース』当日のこと。
新人トレーナーである彼はレース会場に向かう為、中庭を歩いていると……一人のウマ娘と出会った。
「だ……大丈夫、大丈夫……!私なら出来る……私はブライアンさんみたいな三冠ウマ娘になるんだから選抜レースくらい……!」
そのウマ娘はトレセン学園指定の体操着を着ているものの……中等部にも見えないくらい小さな、芦毛の少女であった。
身長は恐らく、120cmにも満たない。下手をすれば110cmを切っているのではないかと思うくらい小さい。
小声で何を言っているのか聞こえなかったが、恐らくは緊張しているのだろうとその後ろ姿からも分かった。
そこで彼は緊張を解そうと声を掛け。
[〉「大丈夫か?」
「ぴゃあぁあああぁぁっ!?」
それに驚いた芦毛の少女は尻尾をぴんっ、と立てて毛を逆立てる。
「だ、誰ですか!?わ、わわわ私に何か……はえ?えと、トレーナーさん……ですか?えと、いったい私になんのようで……」
[〉「緊張しているように見えて」
「き、緊張ですか……だ、だだだ大丈夫ですよ!わ、わた、わたしっ!さ、さんか……」
[〉「落ち着いて話せばいい」
「そ、そうですね……おほんっ」
小さな芦毛の少女は大きく深呼吸をすると改めて彼の方を見て口を開く。
「……驚いてすみません、私『ナリタブラリアン』って言います。今日の選抜レースに出る……その、ウマ娘……です」
[〉「……ブラ『リ』アン?」
「は、はい!ブラリアンです!ふふふー……驚きましたか?私、なんとあの『怪物』ナリタブライアンさんと一文字違いなんです!」
「それだけじゃないんですよっ!私が生まれて始めてみたレースもブライアンさんが走った選抜レースでして……!あのレースは本当に凄かったんです!知ってます?ブライアンさんは選抜レースでも他のウマ娘を何バ身と千切ってですね!?」
[〉「落ち着け落ち着け」
「あっ……!ご、ごめんなさいっ!」
……どうやら彼女はナリタブライアンのことになると口が止まらないようだ。
改めて、こんな所で何をしていたのかとブラリアンに尋ねると。
「き、緊張してたとかじゃないですよ?ただ……その……そう!精神統一をしていたんです!」
精神統一……あれは緊張していたようにしか見えないが。
「と、ともあれ!私、レースもあるのでこの辺りで失礼させていただきます!」
「……今日の選抜レース、見ててください。私、勝ちますから」
そう力強く宣言した彼女はレース会場へ向けて走り去った。
……緊張していたようだし、何よりもあの小さな体だ。怪我をしないといいが。
会場に向かうと既に多くのトレーナーが集まっており、今日行われる選抜レースに出場するウマ娘達について話していた。
その中でも話題になっていたのは──。
「やっぱりこの芝2000mで注目する子はあのジュエル家のご令嬢、ジュエルダイヤですかね」
「と言っても、芝2000mでは彼女のスタミナは活かせないんじゃないか?彼女の持ち味は適正距離4000mとも言われる尽きないスタミナだ」
「あっ!ヴァイブスリズム出るんだ!私、あの子の走り好きなんですよねぇ。一所懸命って感じで!」
「ただ常に全力投球ということろがなぁ。毎回毎回、死ぬんじゃないかってくらい全力で走るのを見るといつ故障するか分からなくて怖い」
……やはり名高い名家のウマ娘ばかりが注目されており、ナリタブラリアンについては話題にすら上がっていなかった。
緊張していたようだが、あの時見た闘志は本物。何か見せてくれてくれる筈だと期待し──選抜レースが始まった。
『前団1200m通過、これはやや遅めの展開でしょうか?ハナに立つのは注目の1番人気ジュエルダイヤ、その後ろをドタドタ、クレセントムーンが続きます』
『大外からはナリタブラリアン、2番人気ヴァイブスリズムはここにいた!』
レースではナリタブラリアンはやや後ろ、それに加えて大外を走っていた。
芝2000mを選択するという時点である程度のスタミナはあるのだろうと考えられるが、あの小さな体だ。大外を走るだけのスタミナはあるか心配だが……いや。
「……はぁっ!!」
『おおっと!第4コーナー、ナリタブラリアンここで仕掛けた!3番手、2番手、すごい足だ!?残り400m、ハナに立ったのはナリタブラリアン!』
先頭に立ったナリタブラリアンはそのままゴールに向けて加速する。
その末脚は凄まじく、後ろにしたウマ娘達をどんどんと引き離すも……すぐにその差は縮まっていく。
『最後の直線だ!ここで内側から凄い足、ヴァイブスリズム!追いつくか!?かわすか!?ブラリアンが逃げ切るか!?』
「くぅ、そ……!まだ、私……はっ!!」
スタミナが切れてきたのだろう、ナリタブラリアンはその末脚を発揮する間もなく、バ群に飲まれてどんどん沈んでいく。
『ゴールインっ!ヴァイブスリズム、差し切り勝ち凄い足!2着はクレセントムーン、3着ナリタブラリアンです!』
「はぁはぁはぁ……!私はこんなもの……なんですか……?」
……だが、それでも3着とある程度の結果は残せた。
あの小さな体ではバ群に飲まれれば抜け出せないと考えた結果、大外を走ったのだろうが、やはりスタミナが足りずに伸びなかった。
あの足を活かすなら、2000mの中距離よりも1400m以下の短距離から1600mのマイルが適正だろう。
そう彼が考えるよりも先に同じことを考えたトレーナーが彼女の下へ向かっていた。
「素晴らしい!ナリタブラリアン、君のその末脚は正しく天からの授かり物だろう!是非、君をスカウトさせてくれ!」
「……へっ?ほ、本当ですか……!?私のこと、スカウトって……!やたっ、やった!私……私!デビュー出来るんだ!」
「あぁ!だが、君の末脚を活かすには中距離は長すぎる。まずは短距離で──」
「……短距離、ですか?」
その言葉を聞いた彼女はひどく残念そうな表情を浮かべ、頭を下げた。
「……ごめんなさい、気持ちは嬉しいんですけど、短距離路線ということならお断りさせていただきます」
「な、何故!?」
「私、短距離は走るつもりは……いえ、違いますね。私は短距離路線じゃなくて三冠路線を走り……ううん!三冠を勝ち切って三冠ウマ娘になりたいんです!」
……その言葉を聞いたトレーナー陣からはざわめきが漏れる。
三冠ウマ娘、それはウマ娘の中でも最も栄誉ある称号である。同時にそれは三冠路線を走るということであり、ライバルは皆三冠ウマ娘を目指す『化け物』ばかり。
そんなレースを小柄な……しかも他のウマ娘と比べても頭一つ……いや二つ、三つ分は小さなナリタブラリアンが走るのは無謀だと言えた。
「そうか、すまない。……申し訳ないが、私には君が三冠路線を走る姿は想像できない。この話は無かったこと……ということで」
(っ!走る姿を想像できない……か)
「……ありがとうございます、それでは!」
……あの小さな体で三冠ウマ娘を目指すと宣言したナリタブラリアン。
その姿が強く脳裏に焼き付くのであったを
ナリタブラリアン
さんまのナンでもダービーというバラエティ番組で活躍した世界最強のポニー
当初は普通のポニーであったが、主戦騎手である森安輝正氏が調教していくことで競走馬として覚醒
他のポニーに追随を許さない圧巻の走りで幾つもの(番組独自の)重賞レースを勝ち抜いた
名前の由来は勿論、『シャドーロールの怪物』ナリタブライアン