幻想灰色録   作:ゆず1252

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前から書きたかった作品です。
指摘があればお気軽にどうぞ!


プロローグ

「つまんねぇ…。」

 

灰色の髪をした細身の青年がそう呟く。

 

「退屈だ。」

 

緊急事態を知らせる赤いランプがチカチカと照らされる長い廊下をただ目的も無く歩く。

 

「ひっ!!?」

 

「あ?」

 

廊下の脇で蹲り震える人がいた。防護服で身を包んでいるため性別は分からないが、声色的に女性だと判断できる。

 

「あ、あぁ…。」

 

なぜ防護服?気にするのはそこではない。最も気にしなくてはならない部分は…。

 

「おいおい、アンタ。血まみれじゃねぇか。」

 

黄色を基調とした防護服。全身が夥しい量の血で染まっていた。血脂や恐らく臓物、肉片などのせいでこびり付いてしまっているのだろう。

 

「近づくな!!!」

 

そんな状況でも歩く速度を変えず、女性に近づこうとする青年に叫ぶ。

 

「はははっ、何をそんなに怖がってるんだ?俺何かしたわけじゃねぇのによ。」

 

「五月蝿い!!近づくな!!化け物!!」

 

咄嗟に懐にあった刃物を青年に向ける女性。膝や腕は笑い、防護マスクの上からでも分かるほど恐怖を滲ませて、それでも青年に刃物を向ける。

 

「化け物…ね。」

 

そんな状況でも青年は気にした様子は全く無く、歩みを止めることなく近づく。

 

「被検体の癖に!!逆らうんじゃない!!」

 

多大なるストレスが影響してか、脳での処理が上手く出来ず会話のキャッチボールが出来なくなっていく。

 

「はぁ…。」

 

そんなに女性、いや研究員と言った方がしっくりくる。そんな研究員をみて青年は興味が失せたように溜息をつく。

 

「ば、バカにして!!」

 

恐怖と怒りが入り交じった声色で青年を精一杯睨みつける。

 

「もう興味ねぇから失せろよ。壊れた玩具を壊しても面白くもなんともねぇ。」

 

そう言って研究員の目の前を通り過ぎようとする青年だが、去り際に一言告げた。

 

「ここで会ったのもなんかの縁だ。一応伝えとく。さっさと逃げた方がいいぜ?」

 

「…は?」

 

研究員の彼女は理解が出来なかった。先程までドロドロとした殺意を向けてきたというのに今度は何だ?自分の身を案じて来たのだ。何がしたいのか全く分からない。だがしかし、彼の言う事は最もだ。どこの馬鹿がやらかしたかは分からないが、この研究所は今化け物どもで溢れかえっている。さっさとこの場を立ち去るのが最善というのは猿でもわかる。

 

思考をやめ、その場を去ろうとしたその瞬間。

 

「あー、手遅れか…。」

 

『アアアアアアアアアァァァァァ!!!!』

 

「うっ!?」

 

およそ人から発されることは無い音。耳を劈くような音で思わず研究員は耳を塞ぎ、防衛本能で身をかがめる。

 

「え?」

 

状況を確認しようと顔を上げると目の前には、形容し難いナニカがいた。

 

なにか行動を起こす事も叶わず、そのナニカが腕を振るう。

 

「おごふっ!?」

 

研究員は紙っぺらのように吹き飛び、壁に叩きつけられてしまった。

 

「あっ…がっ?」

 

本人も何が起きたか理解しきりれておらず、ただ本能に従い這いずりながら逃げようとする。

 

ペギョッ

 

そんな不快音が聞こえた。何の音かも分からない。ただひたすら逃げようと藻掻くが、体が前に進まない。

 

「はははっ!脳ミソショートしちまったか?自分がどうなってるかも分かんねぇみたいだな!」

 

愉快にそう告げる青年。

 

「え、あ?」

 

「自分の足を見てみろよ。」

 

そう言われ目を向けてみると、人の形はしているが類人猿に近いナニカが研究員の足を踏み潰していた。

 

「あ、あ、ああぁ、、」

 

痛みは感じない。ただ暖かい何かが抜け落ちていく不快感のみ感じる。認めたくなくて考えたくなくて、ただ叫ぼうとした。

 

ガシッと大きな手が研究員の頭を掴む。

 

「まっ…!」

 

研究員の頭は卵を握りつぶすくらい簡単に無造作に、ナニカの手の中で潰されていた。

 

「さて…。」

 

青年はそのナニカに目をやる。

 

「どうすんだ?俺と殺り合うか?」

 

『ウゥゥゥゥ…』

 

既に臨戦態勢。そう受け取れるような殺気。

 

「その必要はありませんわ。」

 

「あ?」

 

ボトッ…

 

凛とした女性の声が聞こえた瞬間、目の前のナニカの首が落ちた。

 

「蘭、この子以外は全員始末してちょうだい。理性のない妖怪はいらないわ。」

 

「御意。」

 

そう言って蘭という女性は消えてしまった。

 

「ふふっ、驚いたかしら?」

 

「あぁ、随分と今日は女運がいいらしい。」

 

「あら、お上手ね?」

 

「んで?お前は何者だ?」

 

先程と打って変わって濃密な殺意を込めて問う。

 

「ふふふ、予想以上ね。失礼、私の名前は八雲紫。幻想郷の賢者をしております。」

 

「幻想郷だぁ?」

 

聞いたこともない単語が出てきた。

 

「えぇ、そこは人間と妖怪が共存している土地。そこに貴方を招待したくて、私達はここに来たのよ?」

 

「俺が行くメリットはあんのかよ。」

 

「ふふっ、あるわ。」

 

その時の微笑が何故だか分からないが、癪に触ってしまった。

 

「断るわ。かんなんちゃらてんだっけか?んな意味わかんねぇところ行くわけねぇだろ。」

 

「幻想郷よ。理由を聞いてもいいかしら?」

 

YESと答えるのが普通なのでは?と言った表情が青年にとっては気に入らない。何故お前が勝手に決めているのか、何故お前ごときが俺の事を知ったふうな口を聞くのか。全てが気に入らない。

 

「自分で考えろ、三下。」

 

頭に向けて指をさして挑発気味に言ってやった。やっと自由になったんだ。わざわざ気に入らねぇヤツのいる所に行く必要は無い。俺の好きように生きる。俺の人生に色を塗っていいのは俺だけなのだから。

 

「活きがいい人間だこと…。いえ、ホムンクルスと言った方が正しいのかしら?ねぇ、半端者?これも違うわね。゛まがいもの ゛が1番しっくりくるわね。」

 

「ははっ、ははははは!!」

 

唐突に笑う青年。

 

「何がおかしいのか聞いてもいいかしら?」

 

扇子で口元を隠し、誰もが見惚れるであろう微笑みで青年に問う。

 

「その顔やめろ。気持ちわりぃんだよ。」

 

はぁ〜、笑った。と一息おいて青年は答える。

 

「多分生まれて初めて正面から馬鹿にされた気がする。あ〜、悪くねぇな。」

 

「ふふっ、もしかしてそういう性癖でも持ってるのかしら?」

 

「そうだと言ったらもっと罵ってくれるのか?」

 

さぞ愉快だと、青年の顔が語る。かく言う八雲紫も驚愕している。普通の人間ならば妖怪と聞いた瞬間から自分の事を恐怖するか媚びへつらうかのどちらかがほとんどだ。こんな生産性の無い会話が心地よく感じる自分が居ることに驚いている。

 

 

「さて、そろそろ決めて貰えないかしら?」

 

悠長にしている時間はもう無い。化け物が出歩いている状況を、ここの世界の人間共が見逃すはずがない。早急に対応策を打ってくるだろう。

 

「いくつか聞きてぇことがある。さっき聞けなかったからな。」

 

「手短にね?」

 

「さっき言ったメリットはなんだ?」

 

「簡単よ。貴方の人生に色がつく。」

 

少し驚いた顔をする青年。

 

「それだけかしら?」

 

「お前ら、幻想郷にとってのメリットは?」

 

「きっと良い刺激になるから。」

 

随分と抽象的な答え。だがそれでいい。具体的な事しか言えねぇヤツはつまらん。その会話がそこで完結してしまい、尚且つ会話内で想像が膨らまない。そういう面で青年にとって八雲紫の好感度が少し上がっていた。

 

「なるほどな。ここに残ったところで今のまま死んでいく。ならより良い方を取るのが道理か。」

 

「人間という種に生まれ、短い人生を与えられた。その短い人生の時間の内、数十年という時間を無駄にしてしまったわ。ならばこの後することは簡単でしょう?」

 

「間違いねぇな。どっかの誰かが言ってたな。人生は一度きり、楽しまなきゃ意味がねぇって。」

 

「あら、いい事を言う人間もいるのね。」

 

「本心かは知らねぇがな。」

 

「それで、来てくれるってことでいいのかしら?」

 

もう答えは決まっているだろ?と言わんばかりに手を差し伸べてくる。

 

「人生生まれて初めての逆ナンだ。断るなんてことはしねぇよ。」

 

それに苦笑いしながらその手を取る。

 

「おかしいわね…。さっき断られたのは気の所為かしら?」

 

「小せぇことは気にすんな。シワが増えんぞ?」

 

「殺すわよ?」

「美人に殺されるのも悪くねぇかもな。」

青年にとって自分の命とは紙よりも軽い。ただその死ぬ時にどうやって死ぬかの方が重要なのだ。

 

「本当に変わった人間ね。そういえば名前はなんて言うのかしら?」

 

「色無灰だ。よろしくな八雲紫。」

 

「紫でいいわよ。こちらこそよろしく灰。」

 

こうして1人の人間、いやホムンクルスが幻想郷に招き入れられた。この先の人生がどんなものになるかは誰も知らない。

 

 

 

 

 

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