「な、何今の…。」
「アレが彼の能力。」
マスタースパーク程の範囲も迫力も無い。ただひたすらに相手の意識を刈り取ることだけを主に置いた技。
「それなりに楽しめたわ。あんがとよ魔理沙。」
気を失い倒れている戦友に礼をする。元いた世界では到底味わえなかった技、魔法。それを魅せてくれた彼女に、敬意と感謝を伝える。
「ちょいと加減間違えちまったか?全然起きねぇ。」
「居間に布団に敷いといたからそこに寝かせとけば良いわよ。」
冷たい少女という印象であったが、意外と優しい一面もあるようだ。
「それで?さっきのは貴方の能力でいいのかしら?」
「そうだな。多分そうなんじゃねーか?」
「何で自分のこと分からないのよ…。」
「俺は外の世界で育ってるからな。」
外の世界では能力という概念は非常識、幻想郷では常識。故に灰は自分の能力を能力と断定する事が出来ないのだ。外の世界に答えがなかったからこそ、何となくそういうものと捉えていた。
「どういう能力なのかしら?」
「あぁ……残念ながらこの話は後になりそうだなぁ。」
いざ説明しようとした瞬間、辺り一面が薄暗闇に包まれた。
「これは…。」
「ハハハ、なんだぁ?あの愉快な雲は?」
その正体は幻想郷の空を埋め尽くす、赤黒い雲。その雲の影響で太陽光が遮断されているようだ。
「異変ね。」
「異変だぁ?」
聞き慣れない単語に思わずオウム返しをしてしまう。
「えぇ。どっかのバカが、幻想郷の安泰を脅かすような事をしでかす。それが異変。」
「へぇ…。」
つまり要訳すれば、幻想郷に喧嘩を売ってきた。ということだ。
それを聞き灰なニヤリと笑ってみせる。
「霊夢。お仕事よ、行ってきなさい。」
「分かってるわよ。」
きっとコレを解決するのが霊夢の仕事だと直感的に理解した。博麗の巫女とは幻想郷の秩序を守るものなのだろう。
「灰、アンタは魔理沙の面倒を見てて。それじゃ、」
そう一言残し飛んで行ってしまった。
「はぁ、マジかよ。」
「あら?魔理沙も可愛い部類に入ると思うのだけれど…霊夢の方が好みだったかしら?」
行けない事も歯痒いが、それ以上に霊夢という強敵を逃してしまったことが惜しいと感じていた。
「ハハハ、見た目に騙されちまったよ。美味そうな魔女を味見してみたが、もう一つの絶品とも言えるご馳走を逃しちまった。」
灰は霊夢の実力は何となく理解していた。だがたかが巫女、魔女ほどの愉快な技は使ってこないとタカをくくっていたのだ。
「ふふふ♪あまり食べ過ぎると胃もたれしちゃうわよ?」
「安心しろ、胃は頑丈なんでな。」
あの巫女が行かなければならないレベルの異変。どれほどの強敵がいるのだろうか。
「あぁ、速く行きてぇな。」
何となく、根拠もない。ただの直感。同類が居るという直感。自分と同じでどこか狂ってしまった哀れな誰かがいる。
「魔理沙、起きろ。」
「ブファ!?ゴホッゴホッ…な、何が起きたんだぜ?」
突如魔理沙の頭に水が落ちてきた。
「異変だとよ。霊夢は行ったぞ。」
「はぁ?いや、状況が読めないんだぜ!?」
魔理沙が困惑する中、知ったことかと灰は魔理沙の手を取る。
「ほら行くぞ。」
「ちょ、待っ!!」
最後まで言うことすら叶わず灰に連れられて行ってしまった。
「彼の能力…一体どんなものなのかしら?」
扇子で口元を隠し鋭い目で灰が向かった方向を見つめた。
「ハイ、到着。」
「おわっ!?」
到着と同時に魔理沙を無造作に放り投げる。
「危ないんだぜ!乙女をなんだと思ってるんだぜ?」
「魔理沙なら問題ねぇだろ。」
知らぬ間に名前呼びになってる事、一応女だと言うこと、色んな感情が混ざりあって顔が赤くなる。
「お?誰か立ってる…ボロボロだけど。」
そんな事も露知らず、スタスタと歩いて行ってしまう。
「イタタタ…あの人容赦が無さすぎますよ〜。」
「よぉ。」
「…?」
不敵な笑みを浮かべながら、中国服に身を包む女性に話しかける。
「御二人もお嬢様の邪魔をしに来たんですか?」
ボロボロ…だが身に纏う覇気は見た目とは正反対。来るなら殺るという意思がヒシヒシと伝わってくる。
「ハハハ、いいねぇ。魔理沙先に行け。コイツは俺の獲物だ。」
「2人でやらなくていいのかぜ?」
「馬鹿言え。コイツ見るからに武術家だろ。それならサシでヤる以外の選択肢はねぇ。」
魑魅魍魎の類との単純な力比べ。これ程までに心躍ることがあろうか。
「おや、貴方も武術を嗜んでおられるのですか?」
「聞きかじった程度だけどなぁ。まあ安心しろ。ステゴロだ、飛び道具も何も無い純粋な殴り合い。」
「それはそれは…。そういう事なら受けて立ちましょう。」
女性も理解した。この男は強い。タダの人間ではない。故に手合わせしたいと。
「はぁ…勝手に話が進んでるんだぜ。それじゃあアタシは先に行くぜ。」
そう言って箒に跨り屋敷の中に入って行った。
「先に名乗っておきます。私は紅美鈴。紅魔館の門番を務めております。」
「色無灰。特に何かしてるわけじゃねぇからな、浮浪者とでも思っててくれ。」
「それでは……ハァッ!!!」
左の突き。中国拳法で言うならば崩拳に当たる技を繰り出す。
「なっ!?」
が虚しくも左に受け流される。
「フッ!」
即座に左のハイキックで返す灰。
「くっ…!」
咄嗟に右腕を上げてガードするが体勢を崩してしまう。追撃が来ること考えバックステップを踏む。
が、灰はそこを詰めなかった。
「…なぜ、追撃を辞めたのですか?」
「逆に聞くわ。なんで手を抜いた?」
「え…?」
美鈴には分からなかった。先程の崩拳は牽制とは言え渾身の一撃だったに違いない。それを灰は手を抜いたと言ってきたのだ。
「俺を倒すという意思を感じなかったぞ?舐めてるのか?」
灰は許さなかったのだ。牽制、様子見で打ったあの一打を。これは弾幕ごっこでは無い、言ってしまえばタダの殴り合いだ。
「殺す技で来い。じゃねぇと殺す。」
幻想郷において殺人は罪。それも重罪だ。ただ、お互いに了承を得た上ならば別。今この男は私に本気で来いと言った。ならば応えるのが道理だろう。
「失礼しました。ようやく目が覚めましたよ。どうやら心のどこかで侮っていた。故にあの牽制などという巫山戯た事をしてしまいました。」
そう言いながら構えを取る。
「次は確実に殺す技で…。貴方を殺しましょう。」
「ハハハッ!いいねぇ。是非殺してくれ。」
一足で間合いを詰める。
「フッ!!」
喉に向けた貫手。
(さっきとは違う、鋭いが、まだ甘い。)
体を逸らす事で避ける。が、読まれていた。
「ゴホッ!!?」
回避した所に、鳩尾に向けた右の超ショートパンチ。発勁のようにも見えるが体勢が不十分なため、腰と肩のみで打ってきた。が、美鈴は妖怪だ。その腎力は人のそれとは違う。
「ハァッ!!!」
「ブッ!!?」
蹲り、顔が下がったところに膝蹴り。そこから美鈴の嵐のような連撃が始まる。
テンプル、顎、喉、鳩尾、膝、腕、体全身余すことなく打ち続ける。
「セイヤァァァ!!!!」
今までとは違い力強く、全力で踏み込む。これは技ではなく、ただ全力で殴る。彼が言ったある意味殺す技で、彼にトドメを刺すための方法。
ドグシャ!!
人を殴ったとは思えない音。何かが潰れるような音が鳴り響く。
「ハァ、ハァ…。貴方は本当に、人間ですか?」
「ぺっ!歯が折れた。今のは効いたわ、やるな美鈴。」
全力で振りかぶり、全力で踏み込み、全力で振り抜き、全力で妖力をこめ、能力で気すら纏わせた一撃だった。渾身の必殺の一撃だったのだ。
「アハハ、自信なくしますね…。」
「んなこたァねーよ。俺相手に血を出させたんだ。お前は強ぇよ。だが、」
全力で踏み込む。
「俺の方が強ぇ!」
そして全力で振り抜いた。
「またヤろーぜ、美鈴。」
ステゴロ対活…勝者は灰だった。