現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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10話 切掛

 

 

 なぜ……このような事に。

 人間が、理を崩したからか……?

 

 

 

 ある時から、世界の在り方が変わってしまった。

 人間が与えられた枠を超えて、世間に異能を扱う人間どもが増えてきた頃からか。

 あらゆる物へと宿る霊力は薄れていき、土地も、ワシも力を失っていく。

 とうとう、自分が何であったかすらも薄れて来た。

 ワシの住処が、ワシの世界が壊れていく……

 異界すらも保てなくなってきたのは、千年以上も生きて来たワシも、ここで滅びるからなのか?

 

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!

 

 此処が、ワシの居場所なのだ!!

 他の何者にも、壊させなどしない!!

 

 残された力を総動員して、人間どもを滅ぼしてくれる!

 まずは未来を作る人間の子を!

 次は子を作る人間の女を!

 そして、全ての人間を滅ぼしてくれる!!

 

 世界は壊れ、何千年ぶりに地上へと放り出された。

 そして森から抜け出たところで目についた、子供であり女でもある者を攫う。

 森の中心で喰らおうとしたのだが、枠から外れた力を使う、幼児のような女に殴られる始末。

 

 ワシはいったい、どれほど弱くなったというのだ…?

 

 

*

 

 

 異界すらも保てなくなるなんて。

 唯守の呪力の回復にちょうどいいかと近くの神祐地を選んだのだが、ここももう終わりね。

 

「……見た目に反して深くはない。この子は大丈夫だから、行きなさい」

 

 治癒の術は専門ではないので大した治癒力ではないが、応急処置程度に塞ぐ事はできた。

 事実深い傷ではないし、これで大事に至る事はないだろう。

 式神に、街まで送らせておこうか。

 

「あ、ありがとうございます!」

「いいから、早く行きなさい。一人つけるから」

 

 適当な事を言っておいたら、真剣な表情でうなづいている。

 チラリと見せたコレの効力は強い。

 このヒーロー社会でヒーローに憧れないものは少ない。

 素直な子だ。

 私もヒーローの資格は持ってはいるが、活動などした事はないのだが。

 だけど、動きづらくなるのも困る。

 保険はかけておこうかしら。

 

「この事は警察や他のヒーローにも他言しちゃダメよ。機密任務だから」

 

 これでもう大丈夫。

 それよりも──

 

「滅」

 

 一部とはいえ、今までであればかすり傷一つつけることができなかったであろう妖相手でも滅却できている。

 やはり、唯守が吹っ切れる切掛はお父さんとの約束とやらが心の底にあるからか、自分自身に拒否反応を示したからかしら。

 

 自分以外の誰かが傷つく事で、守れなかった自分の無力さを嘆いての事。

 

 それが覚醒の切掛。

 随分と優しい事だが、同時に悲しい切掛だ。

 手遅れになってはじめて本領を発揮できるなんて。

 誰かを守りたいと願うあの子が、最も望まぬ形。

 

【ガ、ァァァ!!】

 

 もはや言葉も忘れたか。

 今の唯守と互角な時点で、自分の終わりなどとうに見えていただろうに。

 元々小三宮クラスの大した土地ではなかったとはいえ、土地神の末路としては随分と愚かで貧相。

 やはり、未だに強大な力を持つあの土地は、別格か。

 流石は歴代最強と言われた結界師と開祖の創り上げた場所でもある。

 私一人じゃ届かない。

 全ての準備が整うまで、暫くは力の扱い方を覚えさせるしかない。

 焦ったところでしょうがない。

 器が成れば、それでいい。

 ただ…もしも今唯守に話をしたら、なんて言うのだろう。

 無理矢理にでも決行しようとするのだろうか?

 それとも、生きてきた半分も一緒にいなかった私の言うことなど、信じはしないだろうか。

 

 そんな事を考えていたら、弟の脇腹に爪が減り込んでいる。

 だが、それと同時に緑色の小さな結界群は一切ブレる事なく成形されていく。

 未だ不完全ではあるが【夢想】に近い。

 それに、普段の唯守からは想像もつかない、立ち昇る強力な呪力。

 そのまま、古狸のような見た目の元土地神を蜂の巣のように穴だらけにしていた。

 

 どうやら、本当に自分の事はどうでもいいみたいね。

 

 

*

 

 

「今日はもうゆっくりしてていいわよ。明日からは場所を変えましょう」

 

 そう言った姉ちゃんはそのままどこかへと出て行った。

 特にやることもない俺は、森を出て今は目的もなく街をぶらぶらとしている。

 

 昨日俺が"負けた"のは土地神だったものらしい。

 そして、あの場所は小さいが神祐地と呼ばれる場所で、昔から伝説やら伝承やらが未だに語り継がれていた森だったと言う。

 残りカスのようなものだったみたいだけど、神祐地か…

 全然わかんなかった。

 

 あの時と同じく思考がクリアになったのは良いんだけど、脇腹が死んだと錯覚した程に痛かった。

 よくわからないが、あの状態って痛みも数倍になるのだろうか。

 1回目は耐えれたけど、元土地神と言うだけあって隠し玉があったらしい。

 奇妙な音が聞こえたと思えば、全くの意識の外から同じ場所に二撃目を喰らったところで、意識が遠のいた。

 姉ちゃんが言うには幻覚に近いものだと言ってたけど、幻を見せるのではなく誤認させるようなものだと。

 結果としてあの元土地神は姉ちゃんが滅し、俺は意識を失っていた。

 ただ、意識を失う少し前、青い結界が生成されたのだけは見えていた。

 やっぱり、俺に結界術の才能はないのかな。

 昨日の森に行き、修復術を森全体にかけている姉ちゃんを見て余計にそう思ってしまった。

 多量の呪力を使うのはまだしも、扱いが難しいと言っていたが、台詞とは裏腹にいとも簡単に使う我が姉。

 

 才能の差を感じながらとぼとぼと街を歩いていると、なんとも魅力的なものが視界に飛び込んできた。

 

 

*

 

 

 昨日の出来事は、一体なんだったのか……

 病院まで送ってくれた人はなにも言わずに消えてしまうし。

 佳代は命に別状もなく、傷口は塞がっているが出血が多かったのでしばらく安静にしていれば大丈夫との事で、少しだけだが話もできた。

 

 その後、警察とご当地ヒーロー【チーバー】と共に聴取で向かった森は、へし折れた木々の残骸や、抉れた地面も、その痕跡すらも何もなかった。

 調べてみる、とは言ってくれたものの、手がかり一つ出てきそうにない。

 

「それじゃあ、あとは我々で調べるから、協力に感謝するよ。拳藤さん。透明の個性ではなく、幻覚の個性の方が濃厚かもしれないね」

「私は…何もできませんでしたから…そうかも、知れません…」

 

 そう、何もできなかった。

 でもあれは、あの感覚は絶対に幻覚なんかじゃないと信じたい。

 それに、個性…というか、そもそもあれは人間ですらなかったんじゃないのか?

 あの二人の事は機密だと言うので話していない。

 あの治癒の個性を持った女性はヒーロー免許を見せてくれたのでわかる。

 でも、どう考えてもあの男の子は私と同い年くらいだ。

 どれだけ童顔だったとしても高校生の枠は超えていないと思う。

 サイドキックだとしても無理がある年齢だと思うけど、それが機密なのかな。

 

 雄英の入学決まってはいるけど、私はやっていけるのか。

 あの男の子みたいな人がいっぱいいるなら、私なんて……

 そう、少し落ち込み気味に家路を歩いていると。

 

「やっばー。これもいいけど…こっちも捨てがたい……うーーーん」

 

 しゃがみ込んで、唸りながらガラスケースを眺めている男の子が目に入った。

 避けようと、少し横に逸れたのだが、思わずその男の子を見返す。

 

「は?」

 

 思わず声が漏れてしまった。

 目の前でぶつぶつ呟き、頭を捻るたびにふわふわと跳ねてる黒い猫っ毛。

 もしかしなくても……

 

「ちょっと!!」

「わっ!すみません!まだ決めてないんで先どうぞっ……ん?」

 

 サッと立ち上がり先を譲ろうとしてるけど、そうじゃないんだけど……

 

「2名様ですね?こちらへど〜ぞ〜」

「え?ちょ…俺は違くて…」

 

 確かに違うけど、昨日のこと聞きたいし、ま、いーや。

 

「ほら。早く入るよ。店前だと迷惑かかるし」

 

 そうして店内に二人で入り、とりあえず私はブラックコーヒーを頼み、目の前の子はカフェオレを頼んで、視線を少し強めている。

 

「……えーと、誰?」

「私は拳藤一佳。そっちは?」

 

 不信感たっぷりだなー。

 『お前も知らんのかい』という顔をしてる。

 そりゃ、そうなるとは思うけど。

 

「間。誰って、そうゆう意味じゃなかったんだけど」

「あぁ、ごめんね。わかんなかったか。昨日はありがとね間。佳代も、友達も無事だったんだ。今は少しだけど話もできるくらいだ。本当にありがとう」

 

 パッチリとした目を見開いて驚いてる。

 確かに、間は私らには目もくれなかったし、覚えてないか。

 でも、今のでわかってはくれたよう。

 安心するのか、助けた事を恩着せがましく言ってくるのか。

 後者は名乗りもせずに消えた時点で無いと思ってたけど、間の行動は全くの予想外だった。

 

「……ごめん!俺、間に合わなくて……その、傷とか…残んない、よな?」

 

 勢いよく頭を下げられ、出てきたのは、謝罪の言葉。

 しかも後悔の念のようなものも感じる。

 そんなつもりで、話したかったわけじゃ無いのに。

 

「傷も残らないって。時織さん、だっけ?の治癒の個性のお陰らしいから。謝らなくていいよ。お礼を言いたかったから誘ったんだ。私こそ、一緒にいたのに何もできなかったから…」

「……んな事ないだろ」

「え?」

 

 なんだか、様子が変わったけど……怒ってるのか?

 あげた顔は無表情で、そこに感情は見えない。

 

「何もできなかったわけないだろ。あの時、拳藤は友達の前に出た。個性を攻撃でも、自分が逃げるためでもなく、守る方に使ってた。

── 無条件でそれができる奴は、凄いんだよ」

 

 私は、全然凄くない。

 凄いのは、お前だろうに。

 私の中の、嫉妬のような黒いものが出てくる。

 話して確信したけど、きっと同い年か年下だ。

 それであんなバケモノ相手にできる強さを持ってて、プロヒーローの手伝いまでしてて。

 私に無いもの、全部持ってんじゃん。

 

「でも、結局私は──」

「結果、拳藤が守ったおかげで友達は無事だったんだ。俺たちが来たからってのも無しだ。それは結果そうなっただけで、拳藤が追いかけない限り、友達が助かる事はなかった。きっと死体を前に戦ってただろうな。誰かのとった勇気ある行動は、結果としてどこかで誰かのためになってるんだよ。それが、あの時の拳藤の行動で、友達が助かったのが結果だ」

 

 私が追いかけなければ、佳代はそのまま攫われてて。

 私がいなければ、間達はもっと間に合ってなかったわけで。

 全部が全部、繋がってる。

 私は、無意味じゃなかった…?

 私の行動が、佳代を助けたってこと?

 そして、無表情から戻った顔は、微笑んでいるように見えた。

 

「まぁ、受け売りだけどな。

 話せたんだろ?その友達、なんて言ってたんだよ?」

 

 そうだ。

 佳代は、私に ──

 

「ありがとうって、助けてくれてありがとうって、言ってくれた」

「ほら。これでもまだ、なにもできてないか?」

 

 なに自信無くしてたんだろ。

 そうだ。

 まだヒーローでも無いのに、なにを求めていたのか。

 私は、まだまだこれからだ。

 

「…ありがと。なんか吹っ切れた。そういえば、間は今いくつなの?」

「ん?15だけど?」

 

 やっぱり同い年か。

 15歳でサイドキックだなんて聞いたことない。

 

「サイドキックなの?時織さんの」

「ん……みたいな、もん?」

 

 頭を捻りながら答えてるが、機密なんだろう。

 これ以上聞くのは、やめておこう。

 無駄に困らせてしまった。

 この店の前で唸ってたくらいだし、お礼はしとこ。

 

「そっか。話せない事だろうし、もう大丈夫だよ。ここはあたしからのお礼だから、好きなの頼みなよ。さっきまで何頼もうか悩んでたでしょ?」

 

 じゃあお言葉に甘えてと呟いたのはいいが、さっきからパフェとケーキのページを延々と見比べている。

 年相応、というより急に子供っぽくなったな。

 

「そんなに悩むんならどっちも頼んじゃいなよ。半分づつもらうけど」

「本当か?拳藤はいい奴だなー。じゃあ……コレとコレにする。苦手なもんある?どっちだとしても食べれるか?」

 

 顔を上げ、パァッと笑顔を浮かべたと思えば、伺うような顔してる。

 コロコロと表情が変わる奴だ。

 

「もっとクールな奴だと思ってたよ。もしかして、そっちが素なの?あと、どっちだとしても食べれるからいいよ。じゃあ頼んじゃお」

「ん。俺はミントよりクールな男だぞ?スイーツとロックの前以外でな」

「ふふっ。なにそれ?」

 

 そうして私の前で本当に嬉しそうな顔でパフェを口に運んでいる自称クールな男。

 

「そういえばさ、間の個性ってすごい便利そうだよな。色々できそう」

「ん…まぁそうなんだけど、色々となぁ。拳藤の個性のがシンプルで強そうだけど」

 

 なんか、悩んでんのかな?

 わかんないけど、それこそ私の個性よりも使い道なんていくらでもありそうだけどな。

 

「あんたには言われたくないなぁ。そんな強個性に。まあ、どんな個性も使い方次第じゃん?使い道多いと考えるのも大変だろうけどさ」

「使い方次第……考えるか。やりたいようにやれって、もしかしてそういう事もあるのか…相変わらずわかりづらい。一つの言葉に多くの意味を込めるなよな。ただでさえわかりづらいっての……と言う事は、ジジイの教えと指南書に囚われすぎてたのか。もっと自由に……いや形すら、いけんのか……」

 

 なんだかぶつぶつと言いながら考え出すし、ちょっと、変な奴。

 それだけ真面目じゃないとプロには通じないのかも知れないけど。

 

「少し、見えた気がする。ありがとな。仕方がないが、これは譲ろう」

 

 そう言って、ケーキに付いてた綺麗に飾られたチョコを指差している。

 

「いや、私が払うんだし。お礼をお礼で使うなよ」

「ん…今はやれるものが他にないからな」

「そもそもなんでそれが間のものって前提なんだよ。半分もらうって言ったでしょ?もう半分食べてる間のじゃなくて、それはもともと私のだ」

 

 ちょっと変わった、そして図々しくもある間との会話は意外にも楽しかった。

 その後、完食した後は普通に別れて、家へと向かう。

 今思えば聴取のまま家に連絡することも忘れており、携帯には母からの着信履歴ですごい事になっていた。

 

 きっともう会う事は無いかもしれないけど、私もヒーローになったら出会うかもな。

 そん時には、もうアイツはもっと上の世界にいるかも知れないけど、私も負けてられない。

 なんて思っていたのだが、まさかわりと直ぐに出会う事になるとは思っても見なかった。

 

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