現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
11話 はりさけろ入学
今日から、雄英。
教室に着いたら、同じようにウキウキとワクワクとドキドキがおり混ざった顔したクラスメイトで溢れてる。
それは、例に漏れず自分もそうだと思うけど。
三年前の約束通りウチはここに来たけど、約束をした片割れの姿は始業時間の2分前だというのに未だない。
もしかしたらB組かも知れないし、会う事ないかもしれない。
でも、いざ会ったら……なんて言おう?
全国から受験生が集まる超有名校であり、倍率もトップを誇るヒーロー科なのだから、他に顔見知りもいない。
はずだったのだが。
「耳郎さん?」
「あ…」
待ち人じゃないけど、知り合いがいた。
「葉隠…同じクラスだったんだ。改めて宜しくね」
「うん!宜しくね、響香ちゃん!」
いきなり名前呼び。
ハズイけど、唯くん呼びしてるのも、もしかしてこんな感じなのかな?
「ふふふ。唯くんも受かってるよ!」
「そうなんだ ──ん?」
受かってるのは、なんとなくわかってたから驚きもしないけど、教室の入口で何やらザワザワしている。
どうやら寝袋を着てる人が、入試の時騒がれてた緑頭の人に注意でもしてるのか。
ボソボソと話すので聞き取りづらいが、個性のおかげで話してることは聞こえた。
『お友達ごっこがしたいなら他所へ行け』
それは、その通りだ。
気を引き締め直し、そのまま雄英のガイダンスの説明にでも入るのかと思えば。
「はい。静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」
なんか、クセありそうな人。
合理性には欠いているかも知れないが、きっとこの人より常識は欠いてない。
「担任の相澤消太だ。宜しくね。早速だが、コレ着てグラウンドに出ろ」
UとAが前面に大きく描かれた青い体操服を取り出している。
いきなり体操服だなんて、唐突だな。
ホントなにするんだろ。
響いていたチャイムが鳴り終わったところで、突然の事にみんな戸惑っている中、担任の相澤先生は振り向いた。
「── あと、お前はギリギリすぎるぞ」
そう言った相澤先生の後ろに見えるのは、記憶よりも少し低くなった声と高くなった身長。
「ん?……時計ズレてる……でも、遅刻じゃないスよね?」
そして、フワフワとした、見慣れた黒い猫っ毛。
想像していた姿と、全く同じ。
苦笑いを浮かべた、幼なじみがそこにいる。
今日ここから、私の夢は動き出すんだ。
三年前に止まっていた何かが、今再び動き出した気がした。
そして、目の前の葉隠はサッと走っていってしまった。
「唯くん!同じクラスじゃん!」
感情のままにああやって行動できるのって、ちょっと羨ましいかも。
*
「お前さー入学初日から遅刻ギリギリってやばい奴だなー」
「ん…厳密には遅刻じゃない。チャイムの終わりにはいたし、ジャストだろ?」
俺だってやっちまったと思ったけど、金髪の黒メッシュの奴が蒸し返すように話しかけてきた。
「ジャストとは…雄英たるもの10分前行動が基本だろう!」
「あ。入試の時の眼鏡!」
「眼鏡ではなく、飯田だ!」
そんな俺に早速入試の時のように説教をかましてくる眼鏡こと飯田には、赤い髪をおったてた奴が俺が思った事と同じ言葉を発してくれた。
「なぁ……何もう女子と仲良くなってるわけ…?」
えらく身長の低い奴は殺気を孕んだ目で俺を睨みつけている。
ちょうどズボンを下ろしたところなので、タイミングはずらして欲しかった。
ただ、教室で空気を読まずわーっとよってきた透のことを言っているのだろう事はわかった。
「同じ中学だからだよ。なんでそんなキレてんだ?」
「クッソー!フラグじゃねーか!」
いったいなんなんだと思うが、怒気を発したままに着替えを再開するチビッコ。
わけわからん。
クラスの人数も20人と少ないし、今は男子更衣室なので男だけだが、名前も知らない奴らにあーじゃこーじゃと言われるのは初めての経験。
実際自己紹介すらなしに更衣室からグラウンドへ移動となったので、本当に顔しか知らないままに進んでいく。
ただ、それよりもずっと気になってることがある。
響香…いたな。
思ってた通りのまま大きく、綺麗になってて、何というか、自分の思ってたイメージにしっくりきた。
話しかけられないままに移動しちゃったけど、いざ話すとしたら……
なんて言おう?
考えもまとまらないまま着替え終わってグラウンドに集まると、入試の時に俺を止めに来た人の一人。
担任の相澤先生の呟くような小さな言葉に一部のクラスメイトが照らし合わせたかのように声をそろえた。
「「「個性把握…テストぉ!?」」」
別にそれはいい。
それよりも、気になる事があるから。
グラウンドに出てから、響香を見てたら目が合った。
それももう、何度目かもわからないほどに。
だが、必ず目が合うと逸らされる。
その度に、なんかモヤモヤとしたもので心が埋め尽くされていく。
俺、なんか変だ。
というか、なんかしたっけ。
嫌われてんじゃないかと不安になってきた。
「あ!お隣さん!まさかのヒーロー科やったんや!」
「あぁ、麗日も同じクラスだったんだ」
「勝手ながら普通科だと思ってたー。でも、なんか知り合いいると安心するね!それに、個性使っての体力測定って、ちょっと楽しそうだよね」
「ん、どーだろ。相澤先生の狙いがわからんから」
そう言って話しかけてきたのは、まる顔に赤いほっぺが特徴的な女の子。
俺の引越し先である『レジデンス鑑』の隣の部屋に住む麗日お茶子であった。
面白そう、かどうかはわからないがなんとなく、それだけで終わらない気がする。
ボソボソと喋り、初日だから当然だが観察されてる感じが強い。
その観察眼には何か含みを感じるし。
そして今、入試で一位の成績だったらしい、爆豪と呼ばれた目つきの悪い爆発頭がソフトボール投げを行うため前に出た。
「んじゃまぁ……
──死ねぇ!!!」
FABOOM…!!
爆発による爆風でボールを加速させたのか。
派手な個性だなぁ。
羨ましい。
死ねって叫びながらなのがウケる。
「まず、自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
そう言いながら端末の画面に表示されているのは先程の飛距離だろう。
【705.2m】
大した距離だ。
個性無しでの俺の12倍。
誰かのあげた、面白そうと言う言葉に、相澤先生の雰囲気が変わった。
「面白そう…か。ヒーローになるまでの三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」
わずかながらに放たれるプレッシャーに混ざったものは……
先ほどまでと同様にボソッと「よし」と呟き、空気が変わる。
「トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」
本気か?
試されてるのはわかるが、見込み無しの判断をこんな単純なテストで見るとはな。
響香の個性は体力測定向きじゃないし、透もそう。
大丈夫とは思うけど、心配するのも違うな。
この世が理不尽ばかりだというのには賛成だし、やってやるか。
雄英高校の新一年生たち。
同い年の最高峰たちを見れるのもいい機会だ。
自分はどの位置にいるのか、まずはそれを把握する。
そんで、透の無茶振りもあるし、まずはこん中で一位になってやる。
「生徒の如何は
ようこそ。これが、雄英高校ヒーロー科だ」
姉ちゃんが帰ってきてからの地獄の二ヶ月を乗り切ったばかりで、ようやく再会した幼なじみに嫌われているかもしれない俺のテンションは今、おかしな事になっている。
自分でも異常だとわかるほどに、無駄にやる気は燃え上がっていた。
*
第一種目は50m走。
今のところ一位は飯田という眼鏡。
走りに特化した個性は確かに速い。
青山ってやつも、使い方は良いけど射出時間が短いのがネックだな。
ただ、俺は違うぞ。
そこそこのサイズの結界の成形まではベストの状態でも2.9秒。
50m走でその所要時間は致命傷だが、スタート前に生成は済んでいるし、止められもしていないので問題ない。
「アレ、なに?」
「不思議な個性だけど、何する気だろう」
結界を見て僅かにざわついているクラスメイト達。
そんな中、俺の視線はいつものところで止まる。
今度は、目を逸らさないでいてくれた。
それだけで、騒いでた心も安心したように静かに落ち着いていく。
見てろよ響香。
俺も、成長したぞ。
『ヨーイ、START!』
ロボから流れる甲高い電子音が聞こえたと同時に、背後の結界の形を変える。
突端に手をかけ、一気に伸ばしてそのままゴール。
4.04秒で、一位の飯田からちょうど1秒遅れてだが現状二位の好成績。
「スッゲー!形も変えれんのかよ!」
「お隣さん!その個性なんなん!?」
「さっすがー!」
赤い髪をした更衣室で絡んできた切島、お隣さんである麗日、そしてお馴染みの透。
やいのやいのと騒げるのはすごいな。
麗日なんてさっきまで、「理不尽すぎる!」と相澤先生に言っていた気がするが。
そんな褒められてちょっといい気になっている中、視線を移すと、俺を見る響香の目が…冷たい。
あれ…?
なんか怒ってるような……
その後もテストは次々と進んでいく。
【第二種目 握力】
障子という異形系の個性だろう、腕を何本も持つ奴のマネをして、自分自身の握力に結界の力もプラス。
巨岩を持ち上げてきた結界の力はバカにはならない。
218kgで結果四位。
一位は八百万、二位は障子、三位は常闇であった。
【第三種目 立ち幅跳び】
地面につかなきゃいいのだろうと結界に着地して伸ばして前へと進めていると、下から反則だと言う声が上がる。
ただ、相澤先生は何も言わないのでセーフっぽく、もうやめていいと言われ初めての一位。
【第四種目 反復横跳び】
反発力の高い結界を左右に生成。
結界を蹴りつつ行う。
130回で結果、似たような方法だがオートで跳ねるっぽい個性を使った峰田に次ぐ二位。
【第五種目 ボール投げ】
立ち幅跳び同様スタート時から高所且つ結界の反発力を利用して飛ばす。
無限を叩き出した麗日が一位。
なんかわからんが一々絡まれる属性でも持ってるのか、一悶着あった緑頭の緑谷が二位。
そんで、爆豪が三位。
俺は結果四位だった。
そして、あの時の先生の発言の意味はわかった。
緑谷になぜか襲い掛かろうとした爆豪を捕縛した時の不可解な事。
爆破による加速を急にやめた爆豪であったが、そうじゃない。
やめたんじゃなく、やめさせられた。
個性を消す個性。
他のクラスメイトの発言もあり、それは確信に変わる。
抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』
俺の結界を消せない事で出たのが、あの発言か。
ま、ここで詰められないって事はほっといてもいいか。
仮に詰められても『さぁ?』で通そ。
【第六種目 持久走】
流石に普通にやるしか無いが、中学校生活の3分の1投げ出してまで鍛錬していた俺を舐めるなよ!
と思っていたが、結果として三位。
二位の轟は氷の個性でスケートみたいにしてたのはまだわかる。
だが、あの八百万って子の個性なんなんだ?
握力の時といい、乗り物作るとか、ワケがわからん。
それと、個性の反動か指がへしゃげたままの緑谷はドベ。
発現したてなのかわからないが、小さな子供と同じ、個性に振り回されているといった印象が強い。
よく入試で受かったな。
身体バッキバキになりながらもロボを粉砕したのか、隠しポイントに気付いてレスキューしまくったんかどっちかな?
というか、痛々しいから治療くらいしてほしい。
だけど、それはアイツ自身の『まだ動ける』と言う発言を覆すことになるから、藪蛇か。
【第七種目 上体起こし】
反復横跳び同様に結界を反発させて行うも、これも峰田には劣る。
と思っていたが峰田の異常に低い身長が災いし、上手く個性が機能しなかったようだ。
ただ、尻尾の生えた奴に至ってはもはや尻尾で起き上がっており、流石にアレには勝てん。
結果として尾白が一位で、俺は二位だった。
【第八種目 長座体前屈】
何の個性かわからないが、パッチリオメメの蛙吹と言う子がペタリと潰れるように前屈して二位。
完全透明化した透が大記録を叩き出し一位。
誰も確認のしようがないが、俺には見えてる。
普通に指先で押してたし、もはやガッツリ動いてた。
人差し指を口に当て、「しー」というポーズを取っているから確信犯だろうが、俺も立ち幅跳びで反則まがいのことしたし、お互い様か。
やりたかないが仕方がないと、俺も自分を生成した結界で押し潰す。
「ぐべっ!」
変な声が出たが、何とか三位に食い込んだ。
ドMなどと言っている奴がいるが、断じて違う!
俺は至ってノーマルだ!
他の連中の個性はすごい。
けど、単純な身体能力は俺が上かな。
確かな手応えを感じながら、個性把握テストは終わりを迎えた。
*
「んじゃ。パパッと結果発表」
この中の誰かが、除籍か。
ウチはきっと上位にいない。
何も目立った結果を残せなかった。
最下位ではないと思うけど……
順位は単純に各種目の点数の足し算との事。
という事は、なんとなく一位は予想できる。
ほとんど毎回上位に名を連ねてた、三人。
その中でも、見慣れた名前。
それにしても唯守のヤツ…
わかってたけど、遠い。
結界が万能な事はわかってた。
でも、速さも力強さも増してるし、何より唯守にはまだ個性がある。
ウチだって…成長してるはずなのに…
それに、お隣さんって何?
あの子の隣に住んでるの?
ウチには住んでるとこもまだ教えてくれてないくせに…
あー。
考えが逸れた。
今はそれより、結果を見よう。
「ちなみに、除籍はウソな」
は?
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
ウソって、でも最下位だった人とも、これから先も一緒にいれるってことか。
頑張って受かって、初日で除籍は流石に可哀想すぎる。
「「「はーーーー!!!???」」」
遅れて大声をあげる連中に対して、目立ってたポニーテールの子があんなのウソに決まっているとツッコミを入れてた。
そんな中、相澤先生の端末から結果の画面が浮かび上がり、ウチも含め、全員が目を奪われる。
一位 間唯守 十一位 麗日お茶子
二位 八百万百 十二位 蛙吹梅雨
三位 轟焦凍 十三位 葉隠透
四位 爆豪勝己 十四位 口田甲司
五位 飯田天哉 十五位 青山優雅
六位 常闇踏影 十六位 瀬呂範田
七位 障子目蔵 十七位 上鳴電気
八位 尾白猿夫 十八位 耳郎響香
九位 切島鋭児郎 十九位 峰田実
十位 芦戸三奈 二十位 緑谷出久
下から、三番目……
わかってたけど、やっぱりこうやって見せられるとキツいな。
でも、逆にわかりやすくていいか。
今のウチの位置はココ。
後はここから、登っていくだけだ。
目指すのは、一位の隣なんだから。
入学初日はこれで終了。
疲れた。
何人かは遠くから通っているらしく帰宅をはじめ、少し話していたクラスメイトたちも次々と教室を後にしていき、気づけば最後の一人になっていた。
いきなりの個性把握テストで一位を飾った唯守は早々に消えていた。
結局、話せなかったな。
ウチの事、忘れてないよね…?
目は合ってたし、流石にそれは無いと思うけど……
──ガラガラ……
ドアの開く音が、誰もいない静かな教室に響く。
誰か、忘れ物でもしたのかな。
カバンから顔を上げると、頭の中と同じ顔した人がいた。
「……唯、守?」
「ん、久しぶり。約束守ったぞ」
戻ってきたのって、それを言うため?
「うん」
何話したらいいか、まだわかんない。
そんなウチの気持ちを知ってか知らずか、話しながらもゆっくり近づいてくる。
「俺、あの頃より強くなったぞ」
「うん」
知ってる。
元々強かったけど、雄英のヒーロー科で、クラスで一番になるほどだし。
「それに、お菓子作りも上達した。今度こそ、マズイって言わせないほどに」
「うん」
あぁ。
あれはマズかったなぁ。
カスカスのスポンジと、味のないクリーム。
そんな事も、あったな。
「背も伸びた。ほら、追い抜いてるだろ?」
「……バカ。見たらわかるし」
最後は、目の前で自分の頭の上で手をひらひらさせており、ウチとの身長差を強調してる。
当時は、女子の方が成長が早いから、ウチより背も低かった唯守。
今は少し見上げるくらいで、わざわざそんな事しなくても見ればわかる。
「あと、響香には負けねーから」
「ウチのセリフ。すぐに一位から引きずり下ろすよ」
「ん。楽しみにしてる。俺も素直に負ける気はないけど」
ニコニコしちゃって。
なんだ、全然変わってないじゃん。
「ねぇ」
「ん?」
やっぱ、変わってない。
そりゃあ見た目は変わったけど、あの時のままだ。
「連絡先、教えてよ」
「あー。そういうのは、ない」
は?
今、なんて言った?
よく聞く話の、ナンパを断る理由にしても古すぎる。
ウチが嫌いになったわけでも、ないよね?
もしかして…
「え?まだ携帯持ってないの?」
「うん」
全く……
変わって、なさすぎ。
いったい間家は何時代を生きてるんだ。
「じゃあさ、買いに行こ。今から」
「ん?今から?」
「うん。今決めた。ほらっ。いくよ!」
随分と久しぶりなはずなのに、懐かしくも、ついこの間のように感じる。
小さい頃は、こうしてよく手を引いて歩いてたっけ。
今はウチより前にいるかもしれないけど、すぐにココまで駆け上がってやるから。