現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
入学から2日目。
はじめてのヒーロー基礎学の授業は、戦闘訓練。
2人1組のチーム戦であり、そのチームメイトはクジで決められるので、今は出席番号順に次々とくじを引いていっている。
「次は、耳郎少女だな!」
テクテクと前に出た響香は、躊躇なくボックスへと腕を突っ込んだ。
どうせなら、小さい頃に考えた合体技試せるし響香とがいいなと思っていたが、今目の前で引いたアルファベットは。
「ウチはGっス」
Gは上鳴が既に引いていたのですぐにチームは決まり、上鳴の方へと向かい話し始めたみたい。
じゃあ、あとは誰でも良いやと思っていたら、自分の番が回ってきた。
一回ゴソッと玉をまわした後に、掴みやすい位置にきたものを引っこ抜く。
「間少年はHだな!」
間少年はエッチだなって、やめてくれ。
ガキのように透と峰田は笑ってるし、響香と上鳴もニヤけてる。
まぁいいや。
エイチは、誰だっけ。
「間ちゃん、私もHよ」
今の今だったので少し吹き出しそうになったがなんとか堪えた。
蛙吹梅雨、個性把握テストでは十二位。
緑色をベースに黒いラインの入ったコスチュームで、デフォルメされた蛙の眼のような大きなゴーグルみたいなのがついてる。
大きなオメメの下には黒いラインのメイクが入っており、艶のある長い黒髪が後ろで蝶々結びになってるのが可愛い。
「蛙吹、だよな。宜しく」
「えぇ宜しく。梅雨ちゃんと呼んで」
「へ?梅雨ちゃん?」
誰かにちゃん付けなどした事ないし、出会い頭なので少し戸惑うも、呼んでみたらニコニコしてたのでいいや。
「作戦立てましょうか」
「ん。ただ、ヒーローかヴィランか、どっちかも先に知りたいけど、そのくじをいつ引くか、だな」
守りか攻めか。
オールマイトは対戦の組み合わせとどちらの組になるのかもくじだという説明はしたものの、そのくじをいつ引くかは話していない。
「そうね。でも、直前かもしれないわ」
「確かにな。お互いのできる事、話しとこうか」
そんな話をしているうちに、全てのチーム分けが終わり、オールマイトが対戦相手と、自分たちがどちらの組になるかのくじを引くよう。
『HERO』、『VILLAN』とかかれた二つの箱に左右の腕をそれぞれに突っ込み、同時に引き出す。
その手に握られたボールは、ヒーローがAで、ヴィランがB。
その後は対戦組を残して移動とのこと。
つまり、次のくじを引くのも、相手がわかるのも直前か。
ともかく、第一戦は、麗日・緑谷 対 飯田・爆豪の対決。
おぉ、早速やったれるじゃん。
こっそり緑谷とお隣さんである麗日を応援しつつも、オールマイトと対戦組以外は地下のモニタールームで戦闘を観戦するために移動を始めた。
「それじゃ!屋内対人戦闘訓練、スタート!!」
そうして、オールマイトの掛け声と共に、はじめての戦闘訓練が始まった。
*
第一戦の終了後、対戦の場であったビルはボロボロとなっていた。
爆破の爆豪と、超パワーだかリスキーな個性を持つ緑谷。
俺とは違って大きな事ができるのは凄いな。
今の結界には、あの二人の威力を受け止める程のパワーは無い。
個性把握テストで少し良い気になっていたが、確かに雄英は最高峰なのか、強いな。
「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら……」
誰かが呟いた言葉は静かな部屋によく響いた。
爆豪の個性と自身の個性でボロボロになった緑谷はそのまま担架で保健室へとロボット達に運ばれていく。
その様子に、心がざわつくもクリアになっていくような矛盾を感じながらも、気を引き締め直した。
そして緑谷以外の三人。
顔色の悪い麗日と爆豪、悔しそうな顔した飯田もモニタールームに戻ってきたところで、先程の訓練の講評が行われる。
というか、オールマイトさっきまでここに居たのに、いつのまにか試合終了時には爆豪の横にいた。
あのスピード……人間じゃ無いな。
「今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」
飯田がMVPらしく、悔しそうな顔から一転し、嬉しそうにプルプル震えている。
そしてその理由がわかる人はと尋ねると、一人手を挙げるものがいた。
個性把握テストで二位だった、八百万百。
それぞれの動き、状況設定、諸々を完璧に説明をしてくれた。
その説明にオールマイトは少し震えた声で「正解だよ」といいながらサムズアップを決めていたのは、想定よりも答えられてしまったからだろう。
爆豪と緑谷によりビルは半壊してしまった為、場所を移して次の対戦のくじ引きが行われた。
「それじゃあ、次の組み合わせは……コレだ!
『ヒーロー』はB!『ヴィラン』はH!」
お。
もう出番か。
相手は…轟焦凍と、障子目蔵。
轟は氷の個性だが、障子はいまんとこよくわからん。
腕がいっぱいある時とない時があるくらいにしか思ってなかったけど、他に何ができるのか。
「ヴィラン側……話した通り、撹乱戦法ね。間ちゃん」
「そーだな。やったんぞ梅雨ちゃん」
さて、作戦通りにハマってくれるか。
ハマろうがハマるまいが、どっちにしろ楽しみだな。
*
さぁ。
はじまるわね。
間ちゃんの個性は【結界】。
私との相性もいいみたいだし、本当に汎用性の高い良い個性。
間ちゃん自身も、もしかして戦い慣れているのか流動的な作戦を次々と考え出すし、私の得意なことを活かす事も考えていた。
「それじゃあ、作戦通り最初は──」
話しかける私の方を見向きもしない。
そして嫌な予感が脳裏によぎった時には、既に彼は右手の人差し指と中指を立てて、上へと突き出していた。
「結!!」
足元から生えるように結界が伸びて、少しだけ宙に浮いている状態。
その後にできあがった緑色の半透明な箱の中に閉じ込められている。
そして、突如として地面が、壁が、守るべき核兵器すらも凍りついた。
その光景に、間ちゃんがいなかったら、一瞬で勝負はついていた……と、寒いはずなのに冷や汗が出たのではないかと錯覚する。
「梅雨ちゃんも気づいてたか。それにしても、アイツかなりヤバイな」
そう言いながらも、顔色ひとつ変えていない。
うん、相方が冷静だと、助かるわね。
まだ終わりじゃないわ。
まずは核を隠して撹乱戦法が作戦だったが、これじゃあもう核を動かすには時間がかかる。
それは得策ではない。
「さて、凍らせた部分も把握してるような個性だったら核の位置はバレたし、迎え撃つしかないか」
そんな事、あるのだろうか?
でも、もしも凍らせた物の形がある程度わかるだったり、そんな個性だったら間ちゃんの言う通りだ。
どれだけ過大評価だとしても、最悪を想定してるのか。
「これだけ大規模攻撃なら障子を巻き込まないために一人で来てるかもしんないけど、もしも2対2の場合、先に轟潰そう」
そして先に倒すべき相手は決めておく。
ただし、優先順位を無視してでも獲れそうなら獲ってよし、だったかしら。
もはや作戦とはいえないが、決め事があれば迷う事は少なくなる。
頼りになるわね。
「えぇ。ただ、私は個性上寒いのは苦手なの」
「じゃあ練習も兼ねて、跳んどく?」
右手の人差し指と中指を立てて私に話しかける彼の狙いはわかった。
もしかしたら、言うまでもなく、蛙という個性から寒いのが苦手だとわかっていたのかもしれない。
「えぇ。やりましょう。既に近くにいるかもしれないわ」
彼を真似て、最悪を想定する。
いざ会敵した際に動きが鈍っていたんじゃ話にならない。
「ん。じゃあ……結!!」
そう言って右手の突き出した二本の指をさまざまな方向に向けていくと同時に、宙に生成されていく大量の結界。
その結界の群れのひとつへと、私は跳んだ。
*
「仲間を巻き込まず、核にもダメージを与えず尚且つ、敵も弱体化!」
「最強じゃねェか!!」
「いや、でも間少年と蛙吹少女はうまく凍りつくことは回避したようだぞ!」
結界の中にいる二人は確かに凍りついていない。
私たちはこうして見えているが、ビルの中に一人入っていく轟くん。
障子くんは自分も凍りつくのを避けるために、未だビルの外にいる。
「アイツ…凍らせてない事に気づいてないぞ!」
「それにしてもさぁーあの結界って個性ズルくない?」
「僕の個性の方が美しいよ?」
個性的な人で溢れてるこのクラスのみんなはそれぞれ好き勝手話している。
ビルを一瞬で凍結させた轟くんは、勝利を確信しているのか一人でビルへと入っていく。
芦戸さんの言う通り、結界に包まれているヴィランチームは凍っておらず、なんなら何か企んでいるみたいだし。
青山くんは……一回置いといて。
私から見ても、轟くんは凄く強いと思う。
もしかしたらこのクラスで一番と言えるくらいに。
だけど、私は唯くんが負けるのは想像つかないかな。
修行と称して、彼が中学からしていた事はずっと見てきた。
鬼を相手にした時も、私を守ってくれた。
追いつきたいけど、追いつけない。
今はまだ。
だから、まずは一歩づつ、私も前に進んでいこう。
それにしても、一回戦の時といい、みんな、やっぱり凄い。
私も頑張らないとだ!
グッと拳を握り込んだところで、「おおぉぉ!!」と歓声が上がったのでモニターへと再び目を向けると、部屋中を跳ね回っている蛙吹さんの影が、轟くんへと迫ったところだった。
*
──だむだむだむだむだむだむ…
「なんだ…?」
「ケロ…!!」
結界の群れを跳ね回り、身体も熱を帯びている今の梅雨ちゃんの運動能力は最高潮。
ただ走るのではなく蛙の個性を持つ梅雨ちゃんは跳ぶ方が速い。
確保証明のテープを持った梅雨ちゃんが轟を通り過ぎて、巻き込むように再度結界を跳ねたところで、パキンッと軽い音がした。
「チッ…!」
右手から生み出されていく氷の盾、というには大きすぎる氷塊。
「結!!」
「ケロッ!?」
それにぶつかる寸前に結界を生成し、梅雨ちゃんは氷塊にぶつかる事は無く、ボヨンと跳ねて別の結界の上に華麗に着地している。
向こうも無線で繋がってるんだし、そろそろもう一人来そうだな。
それまでに、手っ取り早く一人は仕留めておきたい。
「梅雨ちゃん。こっから第二弾で」
「任せて」
再度跳ね回る梅雨ちゃんを見ながらも、横目で核を背にしている俺を警戒はしているようだが、さっきまでとは違うぞ。
「結結結!!」
「くっ…速い…!」
梅雨ちゃんが跳んだ方向へと結界を瞬時に生成。
どこからどこへ跳ぶかは、さっきまでとは違い、読むのは難しい。
縦横無尽に、それも壁が突然現れて方向を変えるので次にどう攻めてくるかを予測するのは至難の技。
人を囲うほどの結界の生成には2秒以上かかる。
だけど、梅雨ちゃんが蹴れるくらいのサイズであれば1秒を切るのは余裕。
影を目で追いながらもその先に結界を生成し続けていくと、どうやら痺れを切らしたらしい。
でも、それが狙い。
「部屋中を凍らせれば、終わりだろ」
大技に入るつもりで動かしたのは、やはり右腕。
高まる冷気から上がる白い霧がその発生を教えてくれる。
そして、一度目の氷塊を生み出したのも右腕だった。
ならば、起点はその氷の鎧に覆われていない、剥き出しの右側だろ。
「ココね。決めるわ」
「もち」
完全に俺から目を離した瞬間に、小型無線機から梅雨ちゃんの言葉が耳に入り、俺も答えながら呪力を練り上げる。
方囲でターゲットを指定。
それはもちろん、轟の右腕を起点とした半身、その周囲の空間全て。
定礎で位置を決めて、
「結!!」
右半身を完全に囲った。
放とうとした氷は結界の中で溢れ出し、その密度を上げていく。
結界の上からだが、梅雨ちゃんが伸ばした確保証明のテープを半周ほど回したところで、結界は壊れた。
「惜しかったな」
結界の形に氷がついているので両側が氷に覆われており、その右側は弾け飛ぼうと最後の膨張を始めているが。
「お前もな」
小さな結界群を、既に轟の周囲に生成済み。
俺の方が、速い。
「トドメね」
「ん」
生成させた結界を一斉に伸ばし、
轟の腕、足、肩、膝、踝と関節を時計回りに押し出していきつつ、氷の鎧を砕いていく。
「な…!?」
俺と梅雨ちゃんの方へと向けて翳していた右腕だったが、無理矢理に方向を変えられ、あらぬ方へと氷弾は放たれていた。
結界に押し出され、操り人形のように強制的に回転させた轟に向かって、両手から念糸を伸ばす。
「ケロ」
「獲りー」
確保テープのもう一方を念糸で掴むと、梅雨ちゃんの向かって走る方とは逆へと操作する。
これで、轟の両腕ごと身体をテープで巻き込む事に成功。
「クソ…!!」
『轟少年、確保だ!!その場から動かないこと!』
オールマイトのアナウンスがビルに響き、梅雨ちゃんの方を向くと笑顔で答えてくれた。
*
「やっべー!どっちもすげェ!!」
「確保されたとはいえ、轟さんも一瞬でビルごと凍らせるなんて凄い個性ですわ」
「蛙吹の機動力、ハンパねぇな」
「それを言うなら、高速で動き回る蛙吹の動きに応えた間もだろ?」
「あの結界ってので遠距離から殴られ続けたらたまったもんじゃない」
「鞭みたいにもなるの!?マジで反則じゃん!!」
二人の動きにみんなざわついてる。
まだ終わってはいないけど、轟が確保されたことにより、このまま2対1と有利な状況のまま障子を迎え撃つことができる。
即席とは思えないほど、ウチから見ても良いコンビだった。
ウチが轟だったらきっと蛙吹にやられてたし、ウチらがヴィランチームだったら、轟にやられてた。
唯守とペアだったなら、どうなってただろう。
「ヤッベェな!耳郎、俺たちも頑張ろうぜ!」
相方である上鳴も少し興奮気味。
他のみんなも、きっとそう思ってるだろう。
一回戦とは違い、完成度の高いチームワークを見せられたんだ。
目指すべきは、アレだと。
唯守の結界は矛であり、盾であり、檻であり、天も地も駆ける事ができる万能さ。
そこに念糸や個性が加わるのだから、その戦いの幅は限りなく広い。
それは誰と組んでも、きっとコンビとして上手く機能する程に。
ただそれは結界術のおかげだけではなく、即席だろうと相手の質を見抜き、合わせられる唯守自身の技量が高いのだ。
あれから一体どれほど成長したのか。
手を抜いてるとは言わないが、疲れた様子は微塵もないし、余裕すら感じる。
時織姉が見せたという地獄とやらのせいか、滅却も使わず、基本的には蛙吹を活かしての戦闘方法。
それに、個性も使ってない。
「うん。ウチらも、負けらんないね」
今はまだ、ウチに出来ることからだ。
背伸びするのはまだ早い。
唯守には唯守の、ウチにはウチのペースがある。
そしてまた、一人となった障子に奇襲を仕掛けている。
それは察知されていたようだが、結界を使い距離を取りながらも、2対1の状況のため全く焦ることなく、体制を立て直している。
先程と同様に蛙吹との連携で徐々に追い詰めていき、障子の確保にも成功したようだ。
『ヴィランチームの勝利!』
オールマイトの声がアナウンスでも地声でもモニタールームに響き、この二戦目も決着。
轟も障子も、どっちも戦闘向きの個性だったと思う。
2対1とはいえ、結果としては個性抜きで、更には無傷で勝利を収めてる。
でもまぁ、そうじゃないと。
どうせ目指すんだし、壁は高い方がいい。
その壁がどんどん迫り上がるって言うなら、好きなだけ高くなればいい。
それについて行くウチごと、引っ張り上げてもらおうじゃないか。
その頂上に手がかかった時は……
モニターの中、笑みを浮かべてハイタッチを交わしている二人を見ながら、そう思った。