現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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14話 スタートライン、それぞれの

 

 

 無事に勝利を収めることができた。

 戦闘訓練なんて初めてのことだったけど、とても楽しくできたのはきっと隣の間ちゃんのおかげ。

 

「今回は、ヴィランチーム二人がMVPだな!」

 

 講評に入り、オールマイト先生はまず、私たち二人ともがMVPだと言ってくれた。

 けど、私にすればMVPは彼だ。

 事前の話から戦いの流れまでを決めたのは、ほとんどが間ちゃんなのだから。

 

 

『蛙の個性……じゃあ、跳んだ方が速い?』

 

 その通り。

 走るよりも、飛び跳ねた方が私の機動力はもっと活かせる。

 

『このくらいなら足場にできるか?撹乱するなら速さが肝だし。まぁ梅雨ちゃん次第だけど』

 

 一瞬でできる結界ギリギリのサイズらしいけど、それくらいであればいける。

 確かに、彼の言う通り私の自由度も増すし、撹乱にはうってつけね。

 大量に空中に足場を作り撹乱。

 それが、第一段階。

 その次が、私の好きに動いていいという速さと自由度を増した第二段階の作戦となる。

 そしてトドメは、彼がバランスを崩させるか動きを封じるとの事。

 

『ん。簡単な決め事は大事だろ?急な選択で迷いがなくなる。だから、"簡単"でいいんだよ』

 

 確かにそうね。

 制限ではなく、簡単な決め事。

 それがあるとなしとじゃ咄嗟の思考に差が出るのはわかる。

「簡単なんだから、別に破ってもいいし」という彼の横顔は、とても綺麗に見えた。

 

『核兵器のサイズ的に逃げ切るのはきついし、こっちからしたら制限時間を待つというかは殲滅戦想定の方が楽だな。機動力があるからって、矢面に立てて申し訳ないけど、梅雨ちゃんには相手が誰であれ俺の結界で傷ひとつつけないようにするから、安心してくれ』

 

 

 事前の作戦や動き、考え方、そしてチームとしての役割。

 はじめての戦闘訓練のペアが間ちゃんとで良かった。

 深く考えることで、私にできること、もっとたくさんありそうね。

 

 そんな事を思っている中、講評は進んでいる。

 轟ちゃんの能力は高いけど、想定の甘さと無線ですぐに障子ちゃんを呼ばなかったことが反省すべき点。

 障子ちゃんは異変を察知して侵入、奇襲を読んで初撃を凌いだのは良いが、そのまま相手取るのではなく、2対1という不利な状況なのでなりふり構わず核に向かうべきだったと言われている。

 まぁ、そうさせないように立ち回っていたのだけど。

 

「轟さんと障子さんはもう少し相手を警戒して、せめてお二人で同時に侵入するべきだったかと。そうすれば、お二人と相対した時に二人を引き剥がすという選択肢も生まれましたわ」

 

 またもポニーテールの似合っている八百万ちゃんが的を射た講評をして、オールマイト先生は「うん…そうだね」と言った後に、二人の能力の高さを褒めていた。

 その後は、私たちの講評へと移る。

 終始ペアで行動し、意思疎通から目的達成までの動きも評価された。

 

「轟少年の力は恐らく二人にも予想外だったとは思うが、核兵器の有る部屋での戦闘となっても相手を寄せ付けない立ち回りは良かったぞ!障子少年相手の動きは、正に賢しいヴィランの様だった!」

 

 その言い方はちょっと気になる。

 と思ったら隣の間ちゃんも微妙な顔をしていたけど、訓練なのでいいやとでも思ったのか、急に気の抜けた顔になった。

 時折垣間見える素の顔が可愛く、見ていて飽きないな。

 みんな私の動きを評価してくれたみたいだけど、その道を作ってくれたのは間ちゃん。

 自分は終始核を守る位置から私の援護をしていたし、個性の性質的にも間ちゃんが守りに入るのがあの時のベスト。

 講評も終わり、凍結しているビルとはまた別のビルへと移動となった。

 その道中、隣を歩く彼に話しかける事にした。

 

「なんで初めから轟ちゃんを結界で囲ってしまわなかったの?」

 

 それは、少し気になっていた事。

 そうしてしまえば足止めも、時間稼ぎも、あらゆる面でもっと楽な状況になっていた。

 そう言った私の方を見ることなく、前を向いたまま、少しだけ口元を緩ませた彼。

 

「それだと二人でやる意味なくないか?実戦だったら迷いなくそうしただろうけどさ。あっ、でも手を抜いてたとかじゃなくてだな……」

 

 轟ちゃんの一撃で終わっても、二人を結界の個性で囲って終わりでも、確かに授業の狙いとしては機能はしてないわね。

 あくまで自分の為だとか、最後もそうだが囲ったところで壊されたしとか。

 直接的な拘束は、とっておきとして核を守る時に使うつもりだったとのこと。

 出し惜しみなのではとも思ったけど、そのお陰で私にとってはいい"訓練"になったわ。

 

「間ちゃんとペアでよかったわ。ありがとう」

「俺こそ。うまくハマったもんなぁ。あっ次に組む時があったらさ……」

 

 こんな事も出来るんじゃないかと想像を膨らませているのか、今は子供のような顔で話している。

 

「ふふふ」

「え?…ごめん。なんか変だった?」

「いいえ。さっきまでと雰囲気と全然違うから。でも、私はそっちの間ちゃんの方が好きよ」

 

 思った事を言ってしまう性格だと言う自覚はある。

 今の今まで、クールで物静かなタイプだと思っていたけど、たった今私に語りかける彼は、その作られた仮面を外したように思えた。

 だからそのままの言葉で伝えたのだけど、彼は耳を赤くして照れていた。

 

 私もまだまだここからだ。

 雄英で学べる事も、クラスメイトから学べる事もいっぱいある。

 雄英(ココ)でのこれからは、楽しくなりそうね。

 

 

 

 

「だぁーーつっかれったぁーーー!!」

「でも、楽しかったよなぁ!」

「急がないと終礼に遅れてしまうぞ!急いで着替えたまえ!」

 

 戦闘訓練も終わり、更衣室で勝ったやつも負けたやつも、みんな高揚を前面に押し出し騒いでいる。

 俺も割と楽しめた。

 妖でもそうだが、人間相手だとそれ以上に色々考える必要があるし。

 

 だが、訓練が終わってからずっと、やけに静かにしてる奴から妙なプレッシャーを感じるな。

 

「………チッ」

 

 舌打ち……

 あーやだやだ。

 こういう目で見られるのは中学までだと思ってたんだけど。

 チラチラ意識してるみたいだし、なんだってんだよ。

 面倒くさいな。

 そう思いながらも戦装束を脱ぎ、アンダーシャツも脱いだところで、横から誰かに肩を抱かれる。

 

「それにしてもやっぱスゲェな間ぁ!結界ってやっぱめちゃくちゃ便利じゃん!入試で止められたって噂も本当っぽいな!」

 

 ピクリと、俺に意識を割いていただろう爆豪の肩が動いた。

 上鳴もタイミング読めよな。

 前は峰田にパンツ姿で声をかけられ、今度はシャツを脱いだばかりの上裸の姿でヤロウに肩を組まれている。

 

「……おまっ…なにそれ…?」

「ん?あぁ…まぁ、ちょっとな」 

 

 5年前に付けられた、左手の甲から肘までをズタズタに引き裂かれた傷。

 その傷跡は消えることなく、皮膚の色は火傷の跡みたいに変色している。

 他のは、まぁたいしたことない。

 修行中に結界で受けきれなかった岩に潰されたり、妖相手についた小さな傷ばっかりだし。

 

「……お前も、苦労してんだなぁ」

 

 苦労、と思ったことは無いのだが。

 最近はめっきり無かったが、結界師家業も姉ちゃんが「妖はもうほとんど出てくる事などないだろうけど、私がしておくから安心しなさい」ってんだから卒業するまでは問題ないし。

 というか、上鳴はホントにいい奴だな。

 俺が女だったら惚れてるかも。

 上裸で肩を組まれたから思い浮かんだのか、そんなわけのわからない想像を頭から振り払う。

 

「いや、苦労はしてないかな。てかそろそろ着替えないと飯田が喧しいぞ」

「ほら!君たちも早く・・・!!」

 

 麗日のピッチリスーツ談義を交わしている瀬呂と峰田に注意をしている飯田を指さしたところで、上鳴は笑っていた。

 

「だな!」

「ん」

「…テメェが…入試で止められた…だと?」

 

 ここで絡んでくるんかい。

 面倒くさいやっちゃな。

 

「……まぁ、そうだな。途中で相澤先生とミッドナイトにやめていいって言われた」

 

 驚愕と怒りの折り混ざった、信じられないと言った、なんとも言えない顔。

 

「……クソがっ!!」

 

 更衣室のロッカーを殴りつけるように閉めて出て行く爆豪。

 その爆豪に向かって注意しながらも追いかけて行く飯田。

 もはや飯田の注意根性は凄いな。

 風紀委員のプロとかいたら、きっとそれになれるな。

 

「なんなんだ、いったい」

「さぁ…わかんねぇけど、とりあえず俺らも急ぐか!」

 

 上鳴の言葉にうなずき、俺たちも教室へ向かう事にした。

 

 

 

 

「じゃあ、今日はここまでだ。午後のホームルームは終わり」

 

 そう言って教室を後にした相澤先生。

 もう少し強くならんとなぁ。

 自分を浮かせたり、大きなものに使うと気持ち悪くなって吐いてしまうのが私の個性の欠点。

 

「反省会しようぜ!俺は切島鋭児郎!」

 

 赤い髪をおったてとる切島くんが反省会の提案をするとみんな乗っかり、自己紹介をしながらもアレやコレやと話してる。

 話題の中心は、主に五人。

 

「緑谷、熱かったよなぁ!一回戦でアレ見せられたら嫌でも沸る!!」

「轟くんも半端ないよね。あんなの反則級じゃん」

「ビル壊した爆豪もヤバかったよなー」

「八百万の個性も訳わかんないし、峰田と組ましたらトラップマスターだもんなぁ」

「間はなんでそんな余裕なの?」

「ん?短かったし、あんくらいじゃ別に疲れんだろ」

 

 デクくんと、爆豪くんと、轟くんと、八百万さんと、お隣さん。

 

「なんか疲れんコツとかあるん?私やりすぎるとすぐ気持ち悪くなるんよ……」

 

 コツがあるなら是非聞きたい。

 芦戸さんの言う通り、お隣さんの間くんは終了後も顔色ひとつ変えず、ただ一人汗すらかいてなかった。

 もしかしたら私の欠点も……

 

「コツ?そんなの無い。強いて言うなら、キツかろうがやり続けるだけ」

 

 ぶった切られた。

 なんとなく予想はしてたけど、ズバッと言うなぁ。

 

「私、個性使いすぎると吐いちゃうんよなぁ……」

「吐いてもやる。吐き尽くしてもう全部投げ出して死んでもいいと思っても、気絶中に勝手に治療されて、やめさせてくれない無限地獄を見たら嫌でも体力つくぞ?」

「「「は……?」」」

 

 みんなドン引きなんやけど……。

 耳郎さんと、葉隠さんだけ、苦笑いしてる。

 

「麗日も一回経験してみるといい。というかして欲しい。同じ気持ちを味わって欲しい」

 

 私の手を握りしめてきた。

 ちょっと、顔、近いんやけど…

 

「やるのかやらないのか聞いてくるくせに、やらないと言ったら視線で人が殺せるのでは無いかと思うほどの冷たい目を向けられ、『そう』とだけ言われる気持ちがわかるか?」

 

 なにやら豪語している。

 至近距離で両手を握られているが、ドキドキなんて感情は一切なく、普通に怖い。

 

「間ちゃん、怖い」

「落ち着け!」

 

 耳郎さんから伸びるイヤホンが間くんに刺さったと思ったらドグンッ!と何かが弾けた様な重い音。

 波打った彼の体内には、きっと衝撃が駆け回っている事だろうと思う。

 

「痛ったぁ…」

「唯くん、正気失いすぎ!」

 

 イヤホンが刺さっていた右肩をさすりながら、葉隠さんに怒られている。

 そんな中でも私にごめんと言う彼。

 色々、あるんやろうな。

 でも、耳郎さんと葉隠さんとは、元々知り合いなんかな?

 入試の時も、透明の子探してたし。

 それって葉隠さんのことやんね。

 

「まぁ、近道なんかないよ。日々鍛錬」

「うんうん!スタートラインはそれぞれ違うし、速度もみんな違う。入学したばっかりなんだから、みんなで頑張ろっ!!」

 

 葉隠さんの制服の袖がガッツポーズをとっているように折り曲げられており、その言葉にみんなうなづいてる。

 それは私もおんなじだ。

 私はヒーローに、ならんといかんから。

 今日はみんなに見せつけられた。

 このままだったらあかん。

 私もデクくんみたいに、がんばらんと。

 

「おっ!緑谷きた!!」

 

 そんな中、保健室からデクくんが教室に戻ってきた。

 芦戸さんや切島くん、蛙吹さんに絡まれてる。

 

「麗日、今度飯いかね?何が好きなん?」

「おもち…」

 

 突然上鳴くんに好きなものを聞かれたので、咄嗟に口から出たのだが、それと同時にようやく視界に入ったデクくんは、右腕を吊っている。

 飯田くんがまた誰かを注意してるみたいだけど、それは耳には入らなかった。

 

「あれ!?デクくん怪我!治してもらえなかったの!?」

 

 そんな私の心配をよそに、デクくんは目線をキョロキョロと動かしており、何かを探しているみたい。

 

「これは僕の体力のアレで…あの、麗日さん…それよりかっちゃんは…?」

 

 かっちゃん、爆豪くんの事だよね。

 探してたのは、爆豪くんか。

 

「みんな止めたんだけど…」

「間に舌打ちして帰ってったぞ?」

 

 確かに、帰る間際に、間くんに舌打ちをしていたのは印象的だった。

 デクくんをバカにしている人みたいだけど、何をあんなにイラついてるんやろ。

 もしかして、あせってるのかな?

 

「え?アレってやっぱり俺にだったの?みんなにじゃなくて?」

「「どー考えてもお前だろ」」

 

 デクくんに答えた上鳴くんに自分を指差して尋ねる間くんだか、みんな上鳴くんと峰田くんの言葉に同意してる。

 私も、そう思ったし。

 

「そうなんだ。じゃあ、僕も今日は帰るね。みんなそれじゃあ!」

 

 あ。

 デクくんもサッと教室を後にした。

 きっと、爆豪くんを追いかけて行ったんだろう。

 無意識に追いかけようとしたけど、間くんに止められた。

 

「ここは緑谷に任せとこ」

 

 デクくんと爆豪くんの事、間くんも知ってるのかな。

 

 

 

 

 かっちゃんには、校門前で追いついた。

 君には、これだけは伝えなきゃいけないと思ったから。

 

「人から授かった”個性”なんだ」

 

 誰からかは言えない。

 そもそも個性を使う気はなかった。

 使わずに、勝とうとした。

 でも、やっぱり君には追いつけなくて、個性に頼った。

 僕はまだまだ、これからだ。

 

「だから ──

 いつかちゃんと自分のモノにして、”僕の力”で君を超えるよ」

 

 誰にも言えない、母にも言えない僕の秘密。

 それを、言ってしまった。

 一方的に話し続け、騙していたわけじゃないと伝えに来ただけのはずなのに。

 

「だからなんだ!?」

 

 罵詈雑言を言われると思ったが、予想外にかっちゃんは顔を俯かせて、個性など関係ないとでも言うように吠える。

 

「今日…俺はてめェに負けた!!そんだけだろが!!」

 

 歯を食いしばり、本音をブチまけている。

 

「氷の奴見てっ!スゲェって思っちまった…!!

 ポニーテールの奴の言うことに、納得しちまった……クソ!!!」

 

 彼の剥き出しの本音を聞くのは、初めてかもしれない。

 

「猫毛野郎には、敵わねぇって思っちまった!!

 俺の一位はマヤカシだ!!アイツは!!入試でストップかけられてんだぞッ!!!そんな中で、俺が入試一位だと!?とんだ茶番じゃねェか!!」

 

 顔を手で覆い隠しているのは、その目尻に光る物のせいだろうか。

 僕は見れていないけど、終始余裕の立ち回りで、ビルごと凍らせた轟くんも退けたとか。

 

「クソが!!クソッ!!テメェもだ…!デク!!」

 

 ようやく、僕を見た。

 意図せず、なぜか宣戦布告のような言葉を言ってしまった僕を。

 自分よりも下に、後ろにしか見ていなかったであろう僕を。

 

「こっからだ!!俺は…!!いいか!?俺はここで、一番になってやる!!」

 

 僕を、同じ位置に見た。

 僕と同じ事を、あのかっちゃんが思っている。

 

「俺に勝つなんて、二度とねえからな!!クソが!!」

 

 いつだって一番だったかっちゃんを脅かすクラスメイトが、雄英(ココ)にはいる。

 かっちゃんの導火線にも火がついたようだけど、僕のやることは変わらない。

 僕は、背中を追うだけだ。

 

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