現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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15話 唯守の日々【前編】

 

 

 今日もダメだ。

 目の前に生成されている結界を見て、そう思う。

 

 今日の訓練で思うところはいくらでもあった。

 他の奴に劣っているところはいくらでもあったし、あんだけ鍛錬していた自分からすると、普通に焦る。

 

 相方である梅雨ちゃんの運動能力の高さと、蛙っぽいことができる個性は純粋に強い。

 昔で言う妖混じりって感じなのか、発動型の個性の人間と比べて通常のスペック差を感じた。

 それに、八百万の観察眼も大したもの。

 動きの組み立ては講評の際の発言も理にかなっていたし、きっと他者を絡めての指示とかは俺より全然適してるように思える。

 そして何よりあの個性。

 創り出しているのか、亜空間から取り出しているのはわからないが、色々とその場へと物を生み出す個性と合わさればかなりのチートだ。

 

 轟にも最終的に結界は破られたし、爆豪のあれだけの火力も今の俺には受けることはできない。

 それは緑谷も同様だし、芦戸の酸のようなものも受けたらどうなるかわからない。

 切島の【硬化】の個性は俺の"結界"では傷をつける事は難しいだろう。

 まぁ、やりようはいくらでもあるとは思うが、純粋に力が足りない。

 透は衣服の完全透明化のオンオフを使い分ける事により、その戦いの幅は大きく広がっている。

 響香もまた、個性の威力も範囲も純粋に広がっていたし、何よりそれに伴っての立ち周りが上手かった。

 コスチュームのサポートアイテムにより、指向性を持った衝撃波まで繰り出せるようになってたし、めっちゃ成長してる。

 上鳴とのコンビでも、アイツの電気での速攻と響香の索敵能力……発見速殺に優れたコンビだし、相手にしてたら相当厄介だっただろうな。

 

 ひとまず、俺もこのままじゃダメだ。

 姉ちゃんによって体力と強度は上がった。

 だか、姉ちゃんの指摘や教えは対象が曖昧で、道筋が無い。

 そのため、今は拳藤にヒントをもらって取り組んでいるのが、新しい結界。

 これが、全くもって上手くいってない事も焦りに拍車をかける。

 

 そしてまた、正方形が三つ書かれた紙に向かい右腕を振り上げる。

 

「まーた、失敗……」

 

 "二重"に、だが歪に重なった結界が、"三重"に書かれた正方形の線からズレて成形されたのを見て、そう呟いた。

 

 

──ピロン。

 

 まだ聞き慣れない電子音が鳴り、それを手に取ると、響香からだった。

 というか、今日持っていき忘れたわけで、未だ響香の連絡先しか知らないんだった。

 

『今日はお疲れ。今度の休み、空いてる?』

 

 打つのはまだ慣れちゃあいないが、もう失態は繰り返さない。

 一回一回確認して送ればいいんだ。

 

『おつかれ。』

 

 よし。

 次は、えーっと、あ、い、て……

 

『あ、まだ慣れてないか。

 明日は持ってきてよ?教えるから。

 

 返事は明日でいいよ。

 どうせ修行してるんだろうし。

 せいぜい、昔みたいに無理はしないよーに。

 また明日ね』

 

 俺の三文字に対して、何行返信してくるんだ。

 レベルの差を思い知りつつも、俺の行動をお見通しなのがまたなんというか…

 

 ったく。

 響香の成長を見たから、俺も焦ってるんだってのに。

 

 

 

 

「ふわぁ〜」

 

 大欠伸を決め込みながら、まだ3回しか通っていない通学路を歩き学校へと向かう。

 

──ズビズビズビ……

 

「あれ?ねぇ、あなた…」

 

 歩きがてらにコーヒー牛乳をストローで啜りながらも、雄英へと近づくたびに、ザワザワといつも以上に人の声が聞こえてくるような。

 

「ちょっと」

 

 今度はえらく近くで聞こえるなぁ。

 ハキハキとした、元気の良い女の声。

 響香に連れ回されていた時に考え事してて、話聞いてなかった時の俺のようだ。

 

「聞いてんの?」

 

 よく言われたなぁーそのセリフ。

 聞いてる聞いてる。

 たまに聞き流してたりもするんだけど。

 

「間ぁ!」

 

 んー、そこは唯守と名前呼びだったけど。

 もしくは問答無用でイヤホンジャックの爆音ハートビート。

 ん?

 間って、オレの事か?

 くるりと振り向くと、少し怒った顔の、オレンジ色の髪をしたサイドテールの女の子。

 見覚えは……あるな。

 

「やっぱり間じゃん!って、何……」

 

 ギョッとした顔をしてるが、ズビズビと最後の一滴まで吸い出しているコレらの事を言っているのか。

 

「昨日の夜飲み忘れたから、2倍飲み」

 

 何を驚いているのか。

 牛乳は骨を、身体を作る。

 基本中の基本だろうに。

 まぁ、俺も自分以外で一度に二つのパックコーヒー牛乳を飲んでいるやつは見たことないが。

 

「まぁいいや。それより、雄英生だったの?サイドキックなんじゃなかった?」

「拳藤も雄英だったんだなー。久しぶり」

 

 サイドキックってなんの話だっけと思いながら、口に咥えた2本のストローから出てくるものも無くなったので結界でベコベコと押し潰し、掌程のサイズまで二つ纏めて圧縮する近くのとゴミ箱に捨てた。

 

「サイドキックじゃなくて、インターンだったのか?あれ、でも同い年だったよね?」

「まぁ、それには色々あるんだよ。多分同い年だよ。雄英の一年生だし」

 

 姉ちゃんとの修行のはじめの頃に出会った拳藤。

 いい奴なのは確かだけど、俺、あの時も間に合わなかったんだよな…

 

「なんとなく、考えてることわかるけど、佳代だったら元気にしてる。助けてくれたヒーローにお礼をしたいって言ってたし」

「そっか…」

 

 ならよかった。

 とは、ならないよなぁ。

 俺は、いつも間に合わない。

 婦警さんの時も、拳藤の時も。

 

 俺に近しい人たちが、誰も傷つくことのない世界。

 一度は本物のヒーローに託した、小さな頃の、本当に子供のような俺の夢。

 でも、妖相手なら話は別だ。

 呪力を持たない人間に妖は見えない。

 それはプロヒーローとて例外ではなく、俺たちが相手にするしかないんだ。

 結界師として、22代目の次に現れた数世紀ぶりの正当継承者、23代目間流結界師当主として。

 そう言えば聞こえはいいのかもしれないが、未だになぜ俺が継承者なのかはわからない。

 姉ちゃんの方がずっと強いし、結界師として遥か高みにいる。

 母さんに至っては、もはや俺なんかでは推し量れない世界にいると思う。

 

 でも、それでも俺がやるんだ。

 継承者としてじゃなく、男だから。

 

「あんたが私に言ったのと同じだよ。あんたが来たから私たちは助かった。昔のこと言ってもしょうがないし、それでいいじゃん」

 

 笑顔でそう言った拳藤に、どこか救われた気がした。

 過去は変えられない。

 だから、もう振り向かない。

 次こそ、誰も……

 

 よしっ。

 ウジウジ終わり!

 

「ん。ありがとう。あ、そう言えばあん時のお礼をと思ったけど、甘いもの好きか?」

 

 久しぶりに、チョコレートケーキでも作ろうかな。

 ようやくの一人暮らしで、モノも時間もある。

 本人にはなんとなく気恥ずかしいので言わないが、拳藤の言葉には助けられてるし。

 

「実はそんなに得意じゃないんだ。でも、いいよ気にしなくて。あの時は私のお礼だったんだから」

 

 そういえば、ブラックコーヒーなどと言う罰ゲームドリンクを自ら進んで飲んでいたような……

 

「じゃあ、甘くないの作ってやるよ。今度持ってくな。拳藤はB組だろ?」

「作る…?って、そうだよね。私のクラスにいないんだから、間はA組か」

「ん。ヒーロー科A組。じゃあ楽しみにしとけ。俺のお手製を食べられるのは世界で7人目だぞ」

 

 ん?

 響香と、母さん、姉ちゃん…葉隠家3人……俺自身を入れたら8人目か。

 まぁ、細かいことはいいだろう。

 

「あそ。じゃあ、楽しみにしとくよ」

 

 ニヤリと微笑む拳藤。

 様になってるというか、なんかかっこいいな。

 

「おっはよーっ!!」

 

 ベシリと背中を叩かれてビクリとした。

 すると次は隣を歩く拳藤をみてキョトンとしている。

 まったく、コイツはいつもいつも……気配を絶って近づくなぁ。

 俺に透明化は通じないからか、背後からの襲来が基本。

 それでも反応する俺に対して、足音と気配を殺す術を学び出した時にその本気度は伺えた。

 そういえば、コスチュームも靴底に足音のしない細工がなんたらとも言っていたような。

 

「唯くんの友達?ん〜でも唯くんに友達がいるわけないもんね〜」

 

 まったくもって……失礼なやつだ。

 ただ、本当のことなのでぐうの音も出ないとはこの事か。

 

「アハハ。間ってそんな扱いなの?確かに友達じゃないけど。私は拳藤一佳。ヒーロー科一年B組のね」

 

 透の人懐っこスキルは異常だな。

 歩きながらも拳藤と会話を繰り広げ、気づけば仲良くなっており、知らぬ間に、今日の学校終わりに俺んちでお菓子作りの約束をさせられていた。

 

 

 

 

 校門の前まで来たところで、マスコミに絡まれたのだが、記者が拳藤にマイクを向けた隙に透と抜け出せたのは良かった。

 クラスの連中もそんな話をしているが、まぁ普通に面倒だよな。

 

「拳藤さん一人おいてきてよかったの?」

「おいおい。ノリノリで一緒に走ってたやつが俺一人のせいにしようとしてもそうはいかんぞ」

 

 あははと笑ってる透。

 バレたみたいな顔してるが、どう考えても共犯だ。

 

「あ、飯田くんも騒がしいし、チャイム鳴るね!席につかなきゃ!」

「おーい、逃げるな。放課後一緒に謝るぞ」

 

 グッと親指を立てたまま、透が一番後ろの席へと座ったところで周りが一斉に静かになった。

 相澤先生がプリントの束を片手に入室し、口を開く。

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績は見させてもらった」

 

 その後、爆豪に苦言と、能力がある事を伝え、緑谷には注意と激励を伝えている。

 俺を挟んでの二人なので、間にいる俺はなんとなく居心地が悪かったので椅子に深く座り、視線を窓の外へと向けた。

 まだ、マスコミいるんだなー。

 

「……さて、HRの本題だ…… 急で悪いが今日は君らに……」

 

 窓の外に向けていた意識は、教室内が重苦しい雰囲気に変わったようで我に帰る。

 誰かのゴクリと唾を飲む音が聞こえた気がするし、みんなも身構えていた。

 時間にすれば一瞬だろうが実際よりも数倍長く感じた静寂を破り、相澤先生は再度口を開く。

 

「学級委員長を決めてもらう」

「「「学校っぽいの来たあああああ!!!」」」

 

 声を揃えて叫ぶクラスメイトたち。

 もちろん全員ではないが、わりとほとんどが揃ってたと思う。

 学生生活初心者とも言える俺はまだ馴染めないなー。

 なんて思っていると、みんなはこぞって手を挙げ始め、委員長をやりたいと立候補している。

 基本的にはやりたいなのだが、峰田だけは既にマニフェストを掲げている。

 スカート膝上30cmなんてシーフード一家の海藻ちゃんじゃないか。

 エロ目線なのはわかるが、エロを通り越してウケになってしまう気がするのは俺だけか?

 隣の瀬呂も手をあげており、斜め前の席で響香も「ウチもやりたいス」って言ってるし、前の席の爆豪は「やらせろ」と強姦魔もビックリなドストレートな発言をかましている。

 

 しっかし、なんで学級委員長なんてやりたいんだろうか。

 と思ったが、芦戸のリーダーという言葉でしっくりきた。

 

「静粛にしたまえ!」

 

 わーわーと騒がしかった教室が、飯田の一言で静まり返る。

 多を牽引する責任重大な仕事であり、やりたい者がやれるモノではないと。

 信頼あっての聖務であり、みんなで決めるべきだと、神妙な顔で言うが…

 

「これは投票で決めるべき議案!!!」

「そびえ立ってんじゃねーか!何故発案した!?」

 

 そう。

 言葉と態度とは裏腹にそびえ立つ右腕。

 

「日も浅いのに信頼もクソもないわ。飯田ちゃん」

 

 俺の思った事は梅雨ちゃんが言葉にしてくれていた。

 飯田的にはだからこそ複数票得た者がふさわしいと言っており、なぜか寝袋に再度入り始めている相澤先生的には時間内に決めれば何でもいいとの事で、お前らで決めろという感じ。

 結局そのまま投票制となり、投票用紙、といってもノートの切れ端に名前を書いて教壇の箱に一人ずつ入れる事となった。

 

 うーむ。

 自分は無いとして…まぁ、あいつかなぁ。

 

 

 

 

 教壇に近いからという理由で、尾白さんが投票の結果を黒板に書き出していく。

 そして、その結果は……私が、三票…。

 それは嬉しいのですが。

 

「僕 四票ーー!!!?」

 

 緑谷さんが四票を集めてトップ。

 私は、一歩及ばなかった。

 

「0票…わかってはいた…流石に聖職という事か…!!」

「……何がしたいんだ飯田……」

 

 他に入れたんですわね。

 0票なのは、飯田さんと轟さん、間さん、麗日さん、葉隠さん。

 飯田さんと麗日さんは緑谷さんとは仲が良いようですから、きっと緑谷さんにいれたんでしょう。

 昨日の反省会の様子だと、間さんも緑谷さんに入れたのでしょうか。

 

 結局、緑谷さんが委員長、私が副委員長で決まりとなったが…

 うーん、悔しいですわ……

 

 そのままHRは終わり、午前の授業も終わりを迎えて昼食の時間。

 大食堂へと向かおうとしたところで、

 

「八百万さーん!よかったら、一緒に食べよ?」

「えぇ。もちろんですわ」

 

 葉隠さんと連れ添って歩く。

 もしかして、私に票を入れてくださったのは、葉隠さん?

 

「席はどこもいっぱい…あ!あそこ空いてるかも!」

 

 ハンバーグ定食(大盛り)を手に、透明な彼女を追いかけるのだけど、彼女は透明が故に見える部分が他の人より頭ひとつ低いのではぐれてしまいそうになる。

 

「なるほどね。講評の時カッコ良かったもんね」

「まぁ。そもそも俺はリーダーって柄じゃないしなー」

「確かに」

「即答はヤメロ」

 

 すると、ちょうどすぐそばの席に座っていた方達が立ち上がったので、その机に視線を向けると。

 そこにいたのは、耳郎さんと、間さん。

 

「あっち埋まっちゃってたー。あれ?ココ空いたね!お二人さん、お邪魔していいー?」

 

 間さん。

 個性把握テストでは一位の成績。

 昨日の訓練でも万能な個性と蛙吹さんとのコンビネーションを見せつけた優秀な方。

 耳郎さんも昨日の訓練では上鳴さんとのペアでその探知能力の高さを見せていたのが印象的だった。

 

「いいよ」

「ありがとー!」

 

 耳郎さんの隣に私、間さんの隣に葉隠さんが座り、そのまま食事を始めた。

 

「葉隠も0票だったけど、誰に入れたの?」

「響香ちゃんも、透って呼んでいいのに〜」

「んっ。その、慣れたらね」

 

 少し頬を赤くしている耳郎さんが可愛らしいが、確かに葉隠さんは誰に投票したのでしょうか。

 葉隠さんはわかったよと腕を突き出しているが、透明が故にその手の形は見えない。

 

「私は緑谷くんにしたよ!頑張ってたし、責任がある委員長になれば無茶もケガも減るかなと思ってー」

「そーな。あいつケガしすぎだもんな」

「そーそー!ちなみに唯くんは誰に?」

 

 もしかして、間さんも緑谷さんに?

 だとしたら私に入れてくださったのが麗日さんか、飯田さんか、轟さんの中のお二人になりますが……

 

「ん、俺は八百万にいれた」

「あ、ありがとうございます」

「ちなみになんでー?」

 

 葉隠さんが理由をお聞きになってるけど、目の前で言われるのは少し気恥ずかしいのと、何を言われるのかと不安があるのですが…

 隣に座る耳郎さんは、間さんに視線を送っている。

 それはきっと、先程既にお聞きになっているからだろう。

 アイコンタクトだけでお互いの気持ちがわかるのか、間さんも耳郎さんに視線を送り、私の方を向いた。

 

「一番"向いてる"と思ったからだよ」

「そうですか。ご期待に添える用、副委員長として頑張りますわ」

 

 クスリと微笑んだ耳郎さんと、

 

「確かに!"ヤオモモ"は絶対私より向いてるし!」

「まぁ、そりゃそうだろうな」

 

 と、言ってくださる葉隠さんに同意した間さん。

 ひどいと言っているけど、その様子と声色は、楽しそう。

 それに、ヤオモモと呼ばれたのは初めてですわね。

 最初は"副"委員長を残念と思っていましたけど、こうして私に票を入れてくれた方のためにも、頑張らないといけませんわね。

 

 

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