現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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16話 唯守の日々【中編】

 

 

「八百万って、結構食べるんだね」

 

 今は食事に集中して会話もごはんも少なくなったころ。

 八百万の残りわずかとなったハンバーグ定食(大盛り)と、彼女の胸元をチラリと見ながらそう言った。

 確かに、と葉隠はポンッと軽く手を叩いているような仕草。

 唯守は、早々に親子丼を食べ終えて、何やらノートを取り出して書き物をしているよう。

 懐かしい。

 昔は授業中ずっとこんなだったっけ。

 流石に雄英に来てから、授業中にお菓子の【設計図】を書くことは無くなったみたいだけど。

 

「そうですわね。私の個性、【創造】は体内の脂質を様々な原子に変換していますので、蓄えておかなければ個性が使えなくなってしまいますから」

 

 っと。

 頭では違う事を考えてしまっていた。

 というか、原子に変換して、その上で物として創造するって事?

 めちゃくちゃ頭使いそう……

 

「身体からいろんな物がだせるのって、すごいよねぇー!」

「だからいっぱい食べないとなんだ」

 

 発育いいのは、それだからなのかなぁ。

 とはいえ、透明な葉隠もその制服の膨らみはウチよりあるし……

 自分の控えめな胸を見ながら思うけど…いやいや。

 そう、ウチは人より、遅いだけだ。

 

「えぇ。間さんの個性も、何かを変換して出されているわけではありませんの?」

 

 八百万の質問は宙を舞い、唯守の耳には入っていない様子。

 カリカリとノートを取る手は止まることはない。

 凄まじい集中力。

 だけど、それをここで発揮するかな。

 

「…唯守、聞いてる?」

「………(カリカリカリ……)」

「話を聞け」

「イデェッ!! 響香…お前個性の威力あがってんだから…昔の感じでやられると痛えよ」

 

 うんうん。

 ウチも成長してる証拠。

 そっちは、こーゆーところは成長してない。

 

「話聞かないからじゃん」

「そーそー。あ、これって今日作るやつ?」

「そーだよ。一緒に作るってんなら、簡単な奴じゃないと時間かかるだろ?」

「作る?一緒に?」

「そーだよー!あっ、響香ちゃんもヤオモモもおいでよ!」

 

 葉隠が説明してくれたのだが、今日の放課後に唯守の家で作るチョコレートのケーキの設計図らしい。

 なぜか、葉隠にウチと八百万も呼ばれ、唯守も特に断る事はなかった。

 こっちにきた唯守の家に行くのは初めてだな。

 葉隠は、行ったことあるのかな。

 この様子だと、きっとあるよね…

 

「あとはねーB組の拳藤さんもいるの。きっと楽しいね!」

「もともとは拳藤に渡すだけのつもりだったんだけど、透が話をおっきくするから」

「でもでも、楽しいよきっと!親睦を深めなきゃ」

「はいはい」

 

 葉隠に押されてたじたじ。

 ホント、仲良いな。

 それに、拳藤って子は知らないし、いつのまにか私の知らない知り合いが増えているみたい。

 いい事なんだろうけど、ウチ以外とほとんど話さない、あの頃の唯守じゃなくなったんだなと、改めて思った。

 

「チョコレートのケーキだと言いましたね。では私はそれに合う紅茶をお持ちしますわ」

 

 口調からしてもお嬢様なのだろう八百万は最後に、「楽しみにしておりますわ」と付け加えて笑みを浮かべている。

 携帯のお礼といって昨日もらったチョコクッキーは美味しかったし、茂守さんがいない今は、大っぴらに作れるのだと喜んでいた顔を思い出すな。

 

「じゃあ、今日はみんなで唯くんちだね!拳藤さんと響香ちゃんとヤオモモとぉ、他には誰誘おっか?」

「おぉい。そこまで広くねぇし、もう勘弁してくれ」

「私、同級生の、それも殿方のお家にお邪魔することなんて初めてですわ!」

 

 少し目を輝かせて、その大きな胸に手を置いてそう言った八百万は、なんだかワクワクしてるみたい。

 というか、葉隠が呼んでる『ヤオモモ』って、なんか良いな。

 うん、『ヤオヨロズ』より呼びやすくていい。

 ウチもそう呼ぼ。

 アダ名はいいけど、透って呼ぶのは…まだ少し恥ずかしいな。

 

 ウチも、楽しみになってきた。

 この時はまだ、あんな事になるなんて思っても見なかったから。

 

 

 

 

 女の子が3人寄ればかしましいと言うが、確かにだったな。

 まぁ、その原因のほとんどが透だけど。

 

「ムッ。何かしつれーな事思ってる?」

「まっさか」

 

 鋭い。

 でも、迷惑だとかは思った事ない。

 透に巻き込まれながらも遊び回った時は純粋に楽しかったし、その明るさに救われた事も何度もあるし。

 飯も食べ終え、そろそろ教室に戻るかと思ったその時。

 

──ウウ〜〜〜ウゥ〜〜!!

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください。セキュリティ3が突破され………』

 

 大音量で警報が鳴り響き、アナウンスも直後に響き渡る。

 

「え、なになに!?」

「セキュリティ3?知ってるか八百万」

「いえ、私も知りませんわ」

 

 透は何事かと立ち上がり、その髪を揺らしながらもキョロキョロとあたりを見渡している。

 まぁ、おそらくだが食堂が原因ではなさそうだ。

 そもそもセキュリティ3とはなんぞと八百万に聞いてみるも、知らないよう。

 

「待って…校内への無断侵入…だって。上級生が話してる」

 

 その個性で周囲の声を聞き分け、その理由を教えてくれた響香。

 流石、頼りになるな。

 

「なるほど。ここに、じゃないなら別に今すぐ慌てることでも──」

『誰かが校舎に侵入したってことだ!三年間でこんな事は一度もなかったぞ!!みんな早く逃げろ!!』

 

 浮き足立った同級生や上級生。

 今しがた聞こえたその大声で食堂はパニック状態。

 普通科か何科か知らんが、どんだけだ。

 

「わわわっ!押さないでって」

「ちょっ!痛いから!」

「これ、は!雄英に、あるまじき…」

 

 奥から横から斜めから。

 押し寄せる人の波にもみくちゃにされていく3人と、俺。

 一番近くにいた透を抱き寄せ、宙へと飛んで結界を生成して着地。

 

「ちょっと待ってろ」

「う、うん。ありがと」

 

 天井の高い食堂の中、結界を使い宙を舞う。

 無理やり響香を、そして八百万を引っこ抜き、窓側へと移動させていた透の側へと着地。

 

「ごほっ、はぁ…助かったよ、唯守」

「あ、ありがとうございます、間さん。それにしても、なぜ侵入を…」

「あれだな」

 

 雪崩れ込んできているマスコミの姿と、それに応対している先生たちが見える。

 

「あ、それでこんなパニックに…」

「こんな事で…慌てるような事ではありませんわ」

「そっ。ガキみたいに慌てて…どうしたもんかな」

「ウチの個性で無理やり黙らせようか?」

 

 あ、響香ちょっとムカついてるな。

 ん?

 それになんか、呟いてるような。

 それも、胸部を隠すように腕を組んでる。

 最後の方だけ、少し聞こえた。

 

「──触られたし…」

 

 ………。

 さぁ。

 磨り潰してしまおう。

 コイツら全員……記憶を、失え。

 

「捻り潰して無理やり止めちまおう」

「ちょちょっ!どうしたの唯くん!?」

「止めるな透。俺は今、最っ高にイラついて…」

 

 とりあえず、騒ぎ立てている出入口付近のやつらを押し潰し、無理やりにでも落ち着かせてしまおうかと巨大な結界の為に呪力を練り上げていたのだが。

 

「大丈ーーー夫!!」

 

 聞き覚えのある大声が出入口の方から微かに聞こえた。

 

「あれは…飯田さんですわ!」

 

 八百万が指をさした先は、出入口の上についた【EXIT】の看板。

 の、更に上。

 そこには、我らが注意番長である、飯田がそこにいた。

 

 

 

 

 その後は警察が到着して、マスコミは厳重注意を受けて解散。

 

 今は他の委員を決めていくという議題を仕切る為に、委員長の緑谷と、副委員長の八百万が前に出ているところ。

 そんな中、初めにあったのが新委員長である緑谷からの、"提案"。

 

 先程の大食堂でパニックをおさめた飯田の姿を見て、あんなふうにかっこよ……かったかはわからないが、人をまとめられる人物が委員長を務めるのが"正しい"と思う、とのこと。

 まぁ、俺は潰して静めようとしたが、飯田はその身で語りかけ止めた。

 俺より向いてるのは確かだし、他の奴らも異論は無いよう。

 というか、誰よりも八百万が何も言っていないのに、他の奴がとやかく言うのはお門違いな気もするし。

 

 という事で、我らがクラスの学級委員長は飯田という事に決まった。

 

 その後別の委員が決まっていく中、俺は見事に全ての委員会から外れる事に成功したのだった。

 

 

 

 

「それでは、私は一度紅茶を持ってから迎わせていただきますね」

「私も一回帰ってから行こうかなー。ヤオモモ同じ方向だよね?」

「ウチは通り道だし、直でいくよ」

「私も耳郎と一緒かな。逆方向だし」

 

 なんでこうなったのかよくわからんが、女の子4人と、俺だけ。

 峰田なんかがいた日には何言われるかわからんな。

 

「それじゃあウチらは材料買って先に行ってるよ」

「うん!また後でね〜」

 

 透と八百万と別れ、3人で買い物。

 響香はもちろんだが、拳藤も良いやつなのでお互い普通に話してるし、そのコミュ力の高さは羨ましい。

 けど、俺はあったところで使う事はないかもしれんが。

 

「こんなもん?後は家にあるんだっけ?」

 

 拳藤の質問に頷きながら、買い物も終え、ようやく家へと辿り着いた。

 

「へぇ〜綺麗にしてるじゃん」

「確かにね。男子の一人暮らしって小汚いイメージしかなかったけど」

「うるさいよ」

 

 部屋に入ってすぐにキョロキョロとし始めることはわかっていたので、まだ中身の入ったままの段ボールに棚の上の写真立てを大急ぎで放り込み、段ボールごと部屋の隅へと避けておく。

 焦りなど微塵も感じさせるつもりはない。

 どうやら作戦は成功したようで、特にツッコまれることなく二人はソファーへと腰を下ろしていた。

 

「この、至る所に貼られた紙って、なんなの?」

「あー私も気になってた。何コレ? 四角いのとか、三角形とか、丸が書いてあるし、なんかちょっと怖いな」

「なんかお札みたいなのもいっぱいあるし。コワッ」

 

 修行用に壁や天井に貼っていた大量のコピー用紙たち見ている二人。

 結界の精度を上げるために貼り付けていたのだが、四角以外の結界を成形するのはかなり難しい。

 特に丸なんて無理だ。

 なので今は、一番やりやすかった多重結界を練習しているのでその辺のは殆ど使ってない。

 響香は式紙用の札をそれぞれ用途別で箱に入れておいていたのを見て「マジでなんなの?」と心底嫌そうな顔をしている。

 そういえば、心霊系得意じゃなかったような。

 

「壁は結界の鍛錬用。あと、そっちはお札じゃないから安心しろ」

「じゃあなんなの?」

 

 素直に教えるのもなぁ。

 透と違ってミスって気付かれたわけじゃないし、バレるにしてもビビらせてからにしたいし。

 

「………ナイショ」

「それが怖いんだけど」

 

 たっぷり溜めて伝えた為に余計に嫌そうな顔をしている。

 仕方がないのでそのまま段ボールの中へと閉まっておいた。

 警戒している響香を宥めてる拳藤。

 ちょっと面白い絵面だなぁ。

 

「まぁ、今日は時間ないし簡単なブラウニーでも作るよ。レンジでできるし」

 

 決して広くないキッチンに3人は並べないので、分担して作業に取り掛かり、あっという間に冷やすだけ。

 響香と拳藤はなんで俺のこと知ってんのかという話に華が咲いており、普通に時織が俺の姉ちゃんだってバレたけど、その辺は適当に誤魔化しておこう。

 姉ちゃんもプロヒーローである事には変わりないし。

 そういう事で、姉ちゃんの話はあんまりしないで欲しいという事を伝えられたので良しとしよう。

 そんなこんなで今は雄英での話。

 拳藤はA組の話を聞き、自分たちはこうだったと話してくれたのだが、この三日間はやってる事はほぼ一緒だったよう。

 

「へー、B組も似たような事させられてんのな」

「というか、一緒だね」

「間が個性把握テスト一位ってのは、なんか納得かも」

 

 やっぱり話として盛り上がるのは、昨日の戦闘訓練。

 聞く限りだが、B組も面白そうな奴はいっぱいいるようだ。

 俺は知らなかったけど、轟と八百万は推薦組。

 B組にも推薦組は二人おり、そのどちらもが能力は高いらしい。

 相性によっては、俺も負けるかもなぁと知りもしない奴へと想像が膨らむ。

 

「それにしても、葉隠と八百万、遅くないか?」

「いや、ちょうど来たみたいだよ。少し声が聞こえる」

 

 響香の個性で音を拾ったのか、近づいてきていた二人に気づいたらしい。

 だが、しばらく待っても入ってはこないし、チャイムが鳴ることもない。

 部屋間違えたかと疑問が浮かんだその時。

 

「──っ!?」

 

 ビクリと、響香の肩が震えた。

 

「……?」

「どうしたの!?」

「今、隣の家のドアが開いて、閉まる音がしたんだけど……その時に…微かにだけど悲鳴が……」

 

 と言って、響香が見ている方向は、麗日の住む部屋とは、逆。

 そっちのお隣さんは、大家である鑑平介の使用している部屋……

 

 悲鳴というその言葉に、俺の心は激しく動揺していた。

 

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