現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
18話 救助訓れ、
ピィーーーー!!!
「さぁ!スムーズにバスに乗り込めるよう番号順に2列で並ぼう!!」
災害水害なんでもござれ。
今回行うレスキュー訓練のために、そんな演習場へ向かうバスの前で、新委員長となった飯田が笛を吹き号令をかけた。
そう、今日の訓練はレスキュー。
つまり救助訓練だ。
それこそがヒーローの本分ということからか、みんな騒いでたのだが、俺はその災害発生事態を止めたいんだけど。
だがそれにはまだ、圧倒的に力も足りていない。
夢物語だという事もわかってはいるが、天災は無理でも人災であれば、なんて未だに考えてしまう俺は自分を過信してるのだろうか。
昨日感じたアレ。
もう一度と深夜になるまでどれだけ試しても上手くいかないんだよなー。
学校は式神に任せて修行し、疲れたら昼間に寝ているという生活をしていた為、昼間学校に行き、夜にも修行のために起きている今の生活はまだ慣れておらず割と眠たい。
そういや、そろそろ雄英にきて初めての休みか。
響香に空いてると伝えたが、どこいくんだろ。
そんな関係のない事を考えながらもバスに乗ったら、並んでいたにもかかわらず割と適当にみんな席についていた。
それもそのはず。
左右2席シートのタイプではなく、乗り込み口からは正面に、後方のみが2席で前向きについているタイプの市街地を走ってるいるようなバスのような席だったからだ。
出席番号順にさせられたせいでほぼ最後の方に乗り込む事になったのだが……
あ、響香の隣空いてんじゃん。
眠たいし、眠るなら慣れ親しんだ響香の横がいいと手を伸ばした。
「響香、隣……ん?」
「アァ…?んだコラクソ猫毛」
一つ前の出席番号である爆豪がまさかの響香の隣にドカリと座り、俺の差し出した右手は宙に漂っている。
自身のイヤホンジャックを携帯に挿していた響香は苦笑しており、腰掛けた爆豪はギラリと眼圧を増した。
「…なんでもない」
「間ちゃん、こっち空いてるわよ」
梅雨ちゃんに手招きされ、横向きの席、梅雨ちゃんの隣へと腰掛けた。
「緑谷ちゃんの個性、オールマイトに似てる」
そう言った梅雨ちゃんの言葉にばたばたと大袈裟に手を振り否定する緑谷だったが、周りもまた否定していた。
俺も、似ているとは思ったが、オールマイトの戦闘は画面越しでしか見たことがないのでなんともいえない。
「派手で強ぇって言ったら爆豪と轟。便利でなんでも出来るのが間だよな!」
「なんでもはできねーよ」
便利というのは否定しないが、なんでもは流石に言い過ぎだと切島に向かって言う。
「間ちゃんはまだ人気でそうだけど、爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気でなさそ」
「んだとコラ!!猫毛より出すわ!!」
立ち上がり怒鳴る爆豪を「ほら」と指差す梅雨ちゃんであったが、引き合いに使わないでくれ。
たしかにアレより人気でないのはキツいが。
その後も爆豪がいじられながらもわーわーと個性談義に花が咲いているようだけど、眠さがそろそろ限界だ。
ちょっとでもいいから、体力回復に眠るとしよう。
バス移動で校内を回るなんてどれだけ広い学校なんだと思いながらも、不規則に揺れるバスと、たまに触れ合う梅雨ちゃんの体温が心地よく、俺はすぐに眠りについていた。
*
「………」
「さぁ、皆さん行きますよ」
続々と集まるならず者共。
どいつもこいつも大したことのない、見るからにザコばかり。
こんなんで本当に平和の象徴に勝てんのかね。
「さぁ、あなたも私の個性範囲に入っていなければ……あぁ、あなたは大丈夫ですよ」
めんどくせ。
あの親玉の様なヤツはいねーみたいだし、コッチ側には碌なのがいない。
せめて相手側には面白いヤツがいりゃいいけど。
つっても俺もまだ見たこたぁ無いし、現世最強と名高い平和の象徴 オールマイトとやらの戦闘でも見物できりゃ暇潰しになるかと参加はしてやったが、ダルけりゃとっとと逃げてやろ。
「というか、なんでコイツはいいんだー?」
「こちらのお嬢さんには別の仕事があるからですよ。護衛も別のものがついていますから」
「ふーん」
この女……身体は呪力で構成されてるし、ただの式神だろう。
術者は近くにゃいないようだけど、コイツらは気付いてないのか?
こんなのに護衛とか言ってる時点で呪いの知識はゼロか。
式神如き気にするまでもないし、まぁいいか。
「へいへい」
この個性だの超人社会だのって、随分とつまんない世界になったもんだ。
妖まじりのような【個性】とやらを持った若造どもが。
経験も大してないようだし、良いのは威勢だけのよう。
まるで、烏森を攻め込んだ時のザコのようだ。
群れることと、土地の力を自分のもののように勘違いをして調子に乗ってしまう奴らと同じ。
牙銀様のように、圧倒的な力を持っていながらに情緒不安定で、そんで実は仲間思いで涙もろい。
そんな人について、暴れ回っていたから"オレ達"は楽しかったんだが。
そんな牙銀様も殺され、黒芒楼が潰され、白に植え付けられた頭の虫も取れて以来、ずっと"3人"で過ごしてきた。
時代の流れと共に土地神や主たちは弱り、妖を自らの異界へと閉じ込め糧にしていき、現世での数を減らしていいった。
というのがオレら見解。
そんなザコと同じようにオレ達が捕まるはずもなく、退屈に負けて久しぶりなどという言葉では足りないほど久しぶりに俗世に出てきたが、どんどんとつまらなくなっていく世界。
「なー。もしかして、オレらは今の世界では最強の部類に入るんじゃねーか?」
「あー、あるかもな。それこそ当時の牙銀様のように」
「妖ももういねーし、俺たちの事見える人間もほぼいないだろーしな。結局コイツらも俺らの事は見る事すらできてないみたいだし」
わざわざ人皮をかぶらないと、今の人間どもに俺たちの姿は見えない。
最後に藍緋の研究室から一度逃げ延びるためならとパクってきたのが今になって効いてくるとはな。
でも、俺たちが最強な世界だったらそれはそれで面白い、のか?
いや、つまんないだろーなー。
*
「すっげ―!USJかよ!!?」
そう言った切島であったが、テーマパークにしては随分と物騒すぎるだろう。
テーマパークのように見えるのは目の前の噴水広場くらいで、傍目には倒壊した建物やら火事の現場なのか火の手の上がった場所やらがそれぞれ独立したスポットのようになっている。
バスで寝たのでわりとスッキリしているので、キョロキョロと周りを観察していた俺であったが、目の前から宇宙服に身を包んだ人が歩いてきた。
「みなさんようこそ。ここは、あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場。その名も、ウソの災害や事故ルーム」
U (ウソの)
S (災害や)
J (事故ルーム)
つまり、本当に関西地方にあるテーマパーク、USJと同じ呼び名だった。
名前、大丈夫なんかな。
この演習場について説明してくれているのはスペースヒーロー・13号というらしく、緑谷が興奮気味に説明してくれていたのを小耳に挟んでいる。
相澤先生と、13号先生が何やら話しているようだが、妙な胸騒ぎがするのは気のせいか。
「間ちゃん、どうしたの?もしかして、まだ怒ってるのかしら」
梅雨ちゃんに心配されてしまった。
怒っているのか、というのは、バスで俺を起こそうとクラスの奴らにあれやこれやといじられていたからだ。
そうだというのに全く起きず、知らぬ間に俺の髪は梅雨ちゃんの髪のように小さな蝶々結びで溢れかえっていたのだ。
それに気づかず、口を完全に手で覆い隠して震えて笑う響香とクラスメイトたち、そして大笑いしながら携帯で写真を撮りまくる透にチョップを繰り出した事から、まだ怒っているのかと聞いたのだろう。
「ん。なんでもないし、怒ってはない」
ガシガシとまだ残っているのかと頭を掻くも、指に引っかかりはないし、大丈夫のよう。
どうやらそんな話をしている間に二人の話は終わったらしく、相澤先生が「始めるか」と呟くと、13号先生は話し始めた。
「えーでは、始める前にお小言を一つ、二つ、三つ……四つ……五つ……」
だんだんと増えていくお小言の数に比例して増えていく13号のたてられた指。
「皆さんご存じだとは思いますが、僕の個性は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んで、塵にしてしまいます」
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
13号先生の言葉に緑谷が相槌を入れ、ついさっき13号が大好きだと公言していた麗日が全力で肯定の意を示し、ぶんぶんと首を縦に振っている。
「ええ、そうです……しかし、簡単に人を殺せる個性です」
その一言で、全員の気が一気に引き締まった。
それもそのハズか。
俺の"個性”じゃ人は殺せはしないが、轟も、爆豪も、緑谷も、麗日も、多くの生徒の個性が人を殺せる力を持っている。
俺の、結界術もそう。
一歩間違えれば、俺たちもその辺の人も、みんな強力なヴィランになる可能性を秘めている。
それが現代の、超人社会。
体力テストで自身の個性の可能性を知り、次の戦闘訓練でそれを人に向けて使うことの危うさを体験。
そして今日、人命のために各々の個性をどう活用するか。
それがこの授業で学ぶ事だと。
「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではなく、救けるためにあるのだと心得て帰って下さいな。以上! ご清聴ありがとうございました」
ぺこりと13号先生がおじぎをしたところで、拍手と歓声が鳴り響く。
そうだよな。
守るために、結界術はある。
俺も、頑張らないと。
──ッ!?
なんだ……
強力な、妖力を感じる。
あの時の、鬼もどきよりは弱いか。
地獄を乗り超えた今の俺なら問題ないレベル。
でもまたなんで、こんなところに?
「相澤先生、なんか変なのが──」
「全員、ひとかたまりになって動くなッ!!!」
俺の直後に気付いたであろう相澤先生が手を翳し叫んだ。
それと同時に、唯一この場所で綺麗な噴水の前に広がっていく黒い靄。
「13号!生徒たちを守れッ!!あれは──!
ヴィランだ!!!」
入試のようにもう始まっているパターンかと茶化しているものもいるが、そんなはずもない。
仮にそうだとしたら、動け!!
ヴィランと何故行動を共にしているのかは知らないが、妖相手は、俺のお役目だ!
「唯守ッ!!先生の言う通り動いちゃ──」
「あれは、俺が止める。俺が……結界師として!!」
*
そう言って飛び出してしまった唯守を、私は止める事ができなかった。
「お、オイ!間!!」
「唯くん!?」
ウチの声も、もう誰の声も届いていない。
黒い霧から続々と現れるヴィランたちに向かって躍り出た相澤先生とは違い、結界を使い上を飛ぶ唯守。
狙いは奥の、目の部分を黒いマスクで覆ってるアイツ?
「間!下がれ!!コレは演習じゃないんだぞ!!」
「先生…コレばっかりは俺がやらなきゃいけないんスよ」
13号先生はみんなにUSJから避難するように指示を出し、相澤先生から言われ通信を試している上鳴もうまくいってないみたい。
「間!それ以上指示に従わないなら除籍処分にするぞ!!」
「コイツの横に立つ2人、相澤先生にゃ見えてないでしょう!? 結!!」
横?
ウチには見えない。
それに、「結界師として」という事は──
「唯くん!一人外れてるよ!!」
「わかってる!」
え……?
葉隠には、見えている?
葉隠に叫びながらも上げた左腕のガード。
そこを何かに殴られでもしたのか、吹き飛んでいく唯守だが、結界の上に着地すると右手の人差し指と中指を立てて構えをとった。
「……今のはなんだ、お前は何に迎撃されたんだ? 間。お前には、何が見えている?」
「この世とあの世の、間にいるモンですよ」
そういって、またも結界を打ち立てた。