現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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21話 ゲームオーバー

 

 

 間の個性。

 今朝までは、結界だと思っていたが、今はいったいなんなのか検討もつかない。

 結界に加えて糸。

 ここまではわかる。

 だが吸引に治癒、更には分身して鳥へと変身する。

 めちゃくちゃなやつだ。

 どうやらちゃんと倒したようだし、俺が無事にコイツらを制圧できたら聞かせてもらおうか。

 

「ちっ!!」

 

 本命が来たか。

 周囲のヴィランを蹴散らし、本命である手首のヴィランに向けて炭素繊維に特殊合金を編み込んだ帯状の「捕縛布」を向けるも掴まれる。

 即座に引き抜き、その腹に右の肘を入れるも。

 

「無理をするなよイレイザーヘッド」

 

──っ!?

 

 咄嗟に左手で殴り距離を取る。

 肘が"崩れた"。

 崩壊させる個性か。

 その発動の起点は掴まれたところからすると手のひら。

 指か。

 俺の瞬きの瞬間を狙ってきたことからしてもバカじゃない。

 短期決戦に持ち込みたいのも見抜かれている。

 有象無象に相手をさせてやらしいタイミングで仕掛けてきやがる。

 

「かっこいいなあ。

 かっこいいなあ。

 

 ところでヒーロー」

 

 嫌な気配だ。

 コイツの後ろにいるヤツは……

 

「本命は俺じゃない」

 

 強烈な拳。

 異形系なのか俺の個性は効かない。

 捕縛布も圧倒的なまでの体格差と力の差で意味をなさない。

 その拳が、俺の視界を覆った。

 

 

 

 

 少しだけ時間は戻り、人馬の妖 爪灰を滅した後。

 

「ごめん」

「……唯くん」

 

 言いたいことがある。

 鬼の時もそう。

 思えば、いつだってそう。

 

「私だってヒーロー志望。守られるだけじゃないよ」

「………」

 

 自分一人でやろうとする。

 戦闘中だろうと相澤先生の方に意識を向けているのもわかったし、すぐさま式神をばら撒いたのは他のみんなが心配だからだろう。

 

「私たち、みんなヒーロー科。守られたくているんじゃない。守りたくて、ココにいるんだよ。現に私はまだやれたし、唯くん一人で倒せたかの保証もなかったでしょ」

 

 無茶しないで欲しい。

 いつか、大怪我を負いそうで。

 いつか、いなくなってしまいそうで。

 それが、怖い。

 

「心配してくれるのは嬉しいけど、信頼して欲しいよ」

「……違うんだ…透の事も信頼してる。俺は、俺が怖いのは」

 

 グシャリという嫌な音がした。

 柔らかいモノを無理矢理に押しつぶしたような、そんな音。

 筋骨隆々でオールマイト並に体格の良いヴィランの拳により、相澤先生の頭は地面に叩きつけられ、ゴーグルは割れている。

 ピクリとも動かないその様子に、思わず息を飲んだ。

 

「──っ!!先生!!」

「誰かがいなくなるのは、もう嫌なんだ」

 

 そう呟いた唯くんは、無表情なのに泣いてるように見えた。

 

 

 

 

「うェ〜い」

「上鳴、そろそろ戻ってよ!」

 

 出入口へと急ぐも、外に出てわかったがここからでは広場を通る必要がある。

 あそこは主戦場になっている可能性が高く、唯守の式神も遠回りをしているようだ。

 そんな中、個性の反動かアホになっている上鳴の手を引き走っているのだが、なかなか元に戻らない。

 

「耳郎さん!」

 

 八百万の声に、何事かと前を向くと。

 

──ボフンッ

 

 僅かな音と煙を発して、唯守は部屋で見た紙切れへと変わっていた。

 

「何か、あったのかもしれませんわ」

「……だとしても、今は出口に向かおう。ウチらじゃたぶん、邪魔になる」

 

 この時のウチの選択はきっと正しかったんだろう。

 でも、この選択をあれほど後悔するとは、この時は思ってなかったんだ。

 

 

 

 

── USJ内 火災ゾーン付近 ──

 

 

「助かったよ間くん。ヒットアンドアウェイもそろそろ限界でさ」

 

 突然現れた間くんの個性でこの火災エリアの火炎を躱し、上手くこのゾーンから脱出する事ができたけど、様子がおかしいな。

 

「間くん、どうかした?」

 

 反時計回りにUSJ内を広場を避けて走る。

 遠回りの方は安全が確認されているとの事で、山岳ゾーンに向かいながらも、突如身体を震わせたのでそう聞いたのだが。

 

「………え?間くん…?」

 

 だが、彼は僕の問いに答えることもなく消えると、その場にはお札のようなものだけが残されていた。

 

 

 

 

── USJ内 暴風・大雨ゾーン ──

 

 

「なんだコリャあ!?」

「どーなってやがる!!」

 

 それはそうだろう。

 今まで口田と二人がかりで相手にしてきたが、残る三人のヴィランを突如として拘束したのは全く別の個性。

 

「結界……」

「間くんの個性…」

 

 だが、姿が見えない。

 残っていた数人のヴィランを拘束していた結界だったが、突如その結界は消えた。

 

「ダークシャドウ!!」

 

 拘束の解けた瞬間、残ったヴィランを混乱冷めやらぬ内にダークシャドウで叩きのめし、意識を刈り取るも間の姿はどこにもない。

 個性把握テストから戦闘訓練。

 そのどちらでも強さを見せつけてくれた間だが、何かあったのか?

 

「鳥よ。周囲の探索を!」

 

 口田の個性【生き物ボイス】により鳥を操り、間や残っているヴィランを探してもらったが、どこにもいないらしい。

 

 違和感は残るが、ひとまずは広場へ戻るとしよう。

 

 

 

 

 13号先生は意識もあり、大丈夫だと言ってくれた。

 障子が13号先生を担ぎ、みんなで出口に向かおうとするも、一番後ろに間は立ったままでいる。

 

「間も!早く避難しよ!」

 

 声をかけるも、こちらへ振り向くこともなく背中を向けて突っ立ったままに口を開いた。

 

「主人からの命令はこの場の死守」

 

 この非常時に一生徒がなにをと思うが、なんか変。

 口調も態度も、なんか全部変。

 無表情なのはいつも通り、いや。

 葉隠とか耳郎といる時は結構表情あるもんな。

 やっぱ、なんか変だ。

 

「私は主人の分身にすぎないので構う必要はありません。芦戸さん」

「あ、え?」

 

 さん付けで人を呼ぶようなヤツじゃなかったと思うけど……

 というか、分身って何?

 結界で作られた間って事?

 ほんとなんでもありじゃん。

 

「急ぎここから避難を。主人に余裕が──」

「は!?何言ってんの!?」

 

 次は私の問いに答えることもなく、ボフンと言う音と共にその身をお札みたいな紙へと変えた。

 私がソレをしゃがんで拾ったところで、麗日の声が聞こえた。

 

「芦戸さん!間くんはどこいったん!?」

「コレになっちゃった……」

 

 そう言ってお札を見せたけど、麗日も私と同じく目を丸くしてた。

 

 

 

 

「対平和の象徴、怪人"脳無"は強いだろう?イレイザーヘッド」

 

 あぁ。

 コイツらはダメだ。

 きっとこうやって、何も思わず俺の大事な人を奪っていくのだろう。

 

「どけ!」

 

 結界を伸ばし、相澤先生にのしかかるヴィランを弾き飛ばし、即座に後方に巨大な結界を成形。

 

「続きは後で話そ。私は先生避難させるから!」

「透……」

 

 相澤先生に肩を貸して立ち上がった透だったが、最後にこちらを振り返った。

 その綺麗な顔を僅かに歪ませて。

 

「私だって、唯くんがいなくなるのは嫌だよ……だから──」

「死なないし、負ける気もない。ここは任せろ」

 

 俺の言葉にニコリと笑った透は、"相澤先生含め"完全に透明化を発動させ、ゆっくりとではあるがこの広場から出口に向かっている。

 いつのまに、自分以外も透明化できるようになったのだろう。

 透は呪いの才能がある。

 それに、俺よりよっぽどヒーローらしい。

 信頼なんて……もちろんしてる。

 終わったら、ちゃんと話そう。

 俺の役目はコイツらを後ろに行かせない事。

 式神も一体もやられていない事から、別エリアに強敵はいないようだ。

 拘束されていれば別だが、その場合は解除命令を出しているので行動可能且つやられていないと言うことは、きっとみんな大丈夫なのだろう。

 

「結」

 

 結界を成形するも即破壊された。

 パワーが化物だな。

 姉ちゃんや母さんの切界は俺の結界をまるで切れ込みでも入っていたかのように切り裂くが、コイツの場合はそんなのお構いなしに、滅茶苦茶なパワーによってぶち壊してくる。

 コレが、怪人 脳無。

 さっきの妖なんか比較にならないくらいに強い。

 今まで相手にしてきた奴らが可愛く見えてくる程だ。

 

「なんだ?生徒だろうが邪魔をするなよ。脳無、コイツ殺せ」

「……お前が消えろ」

 

 脳無と呼ばれたヴィランから伸びる腕の少し下に結界を成形し、直後に上へと伸ばす。

 拳を上へと逸らしたものの、拳圧で俺の額が裂けたのがわかる。

 出血はあれど流れ出る血液は目にはかからなかったので問題はない。

 そのまま脳無の立つ地面に薄い結界を成形し、天高く飛ばす。

 そして消す。

 パワーバカは動きを封じるのが手っ取り早い。

 

「飛べるタイプか?そうじゃなければ──強かろうが逃げ場はない」

「おい……ふざけんな。なんなんだお前は……」

「結!!」

 

 細長い、棒状の結界を成形して脳無の四肢を串刺しにして宙に固定。

 さっきからブツブツとうるさい手を体中につけたヴィランの側に、黒い霧が現れた。

 ワープゲートの個性のやつが戻ってきたらしい。

 

「………」

 

 一番厄介なヤツを拘束中とは言え、状況は二体一。

 アイツのワープで逃げられるのはまだしも、別のエリアに再び飛びクラスメイトを再度狙われるのが一番マズイ。

 戦闘になってもどっから攻撃がとんでくるかに警戒か。

 

「なぜ彼がここに…!」

 

 俺を見て驚いた様子なのは、式神の俺を見た上でだからだろう。

 死柄木と呼びながら手のヴィランに報告している様を見ると、アイツがボスなのか?

 それにしては小物のような──ッ!?

 

「危ない!間くん!!」

 

 拘束している結界を破壊された。

 四肢の関節も固定しつつ、10箇所以上串刺しにしたんだ。

 これで動ける、ましてや今の俺の結界を破壊するなんてどんなパワーしてやがる。

 脳みそ剥き出しのバケモンが。

 結界は…間に合わない!

 

「グッ!!」

 

 頭をぶん殴られるも個性を発動。

 その内に落ち着いて結界を生成し押し出すことで再度弾き飛ばし、今度は足を重点的に串刺しにする。

 そこで生じる違和感。

 どこをどう見ても血液すら流れでていないし、先程穴だらけにしたはずの腕にも足にも、穴ひとつ見受けられない。

 まさか、再生の個性…?

 

 さっき聞こえた声のした方を見てみれば、梅雨ちゃん、緑谷、峰田がいる。

 三人はどうやら無事だったみたいで安心した。

 だけど、俺の個性【先送(ディレイ)】の時間切れだ。

 自分自身と結界に作用する事象全てを先送りにできる個性。

 まったくもって、地味な個性。

 連発もできないし、遅らせる事ができる時間は僅か3秒。

 先送りにするだけで結果は必ず訪れるのだから、この個性が役に立つのは結界をちょっと持たせるか、覚悟を決める時間をくれる事くらい。

 痛みが来るタイミングはわかるが、それはどれほどのものか。

 きっとめちゃくちゃにいてぇだろうなぁ。

 先送りにしていた、殴られた衝撃が来るまで、後1秒。

 

「逃げろ───」

 

 覚悟していた。

 どんな痛みでも耐える気でいた。

 だけど、想像を上回る威力に一瞬で意識を刈り取られた。

 

「間くん!!」

「間ちゃん!」

「間ぁ!!」

 

 三人の悲痛な叫び声は、唯守の耳にはもう届いていなかった。

 

 

 

 

 脳無と呼ばれた、相澤先生をボロボロにしていたであろうヴィランを空へと飛ばして結界で串刺しにして拘束した間くん。

 相手の力を警戒しつつ動きを封じるのが最適解だと思う。

 やっぱり彼はスゴイ。

 僕らの中でも頭ひとつ抜け出ているとは思ったけど、スゴすぎるよ…!!

 

 僕は興奮気味に悠々と死柄木と呼ばれるヴィランを見つめる間くんを見ていたのだけど、突如としてそれは恐怖へと変わった。

 

「危ない!間くん!!」

 

 気がつけば叫んでおり、空中にいたハズの脳無は間くんのすぐそばにいた。

 その脳無の一撃を完璧に頭に受けた間くんだが、不思議な事が起きた。

 まるで何事もなかったかのように、結界で再度吹き飛ばしてまたも串刺しにしている。

 足を狙っている事から、機動力を奪うのが目的か。

 個性の精度もさる事ながら間くん自身の戦闘能力、身のこなしもすごい。

 僕には見えなかったけど、さっきの一撃も結界で防いでいたのかもしれない。

 と、思っていたのだが。

 

「逃げろ───」

 

 そう呟いた彼は、頭から血を吹き出して、広場のアスファルトをその頭で砕き減り込んだ。

 それは一人でに、突然の事。

 

「間ちゃん!」

「間ぁ!!」

 

 僕も、蛙吹さんも峰田くんも叫んでいた。

 何が起きたんだ?

 初めに言っていた見えないヴィランの攻撃?

 だとしたら、ここも安全じゃないし、間くんを連れて逃げないと……!

 

「チッ…なんなんだあのガキの個性は……なぁ黒霧、お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてるよ……」

 

 そう思っていたのだけど、黒霧と呼ばれたワープゲートのヴィランは生徒を逃したと言い、応援でくるであろう多くのプロヒーロー相手には敵わないと言っている。

 

「今回はゲームオーバーだ……帰ろっか」

 

 そう言って、僕ら背を向けている死柄木。

 

「帰る……カエルっつったか今!?」

「そう、聞こえたわ」

 

 やったぁと喜ぶ峰田くんは蛙吹さんに抱きつき、僕はヴィランたちと間くんを視界に入れながらも思考を巡らす。

 

「気味が悪いわ、緑谷ちゃん……」

「うん…これだけの事をしておいて、あっさり帰るなんて」

「いやいや、でも間も助けないといけねーし、カエルってんだからいーじゃねーかよー!」

 

 オールマイトが狙いなんじゃなかったのか?

 葉隠さんの個性か、突如透明になった相澤先生を追いかけるのは難しいだろうが、間くんにも僕らにもトドメを刺すわけでもなく…?

 

「けども、平和の象徴としての矜持を少しでも」

 

 そう言ってコッチを見たアイツの目は、笑っていた。

 

「へし折って帰ろう」

 

 蛙吹さんに伸びる腕。

 それをただ、呆然と見ている僕。

 だけど、動けないでいる僕の前を、黒い影が通り過ぎて行った。

 

「させ、ねぇ」

 

 現れたのは、間くんだった。

 その後ろには脳無。

 脳無の方は見ることもなく結界で串刺しにすると、蛙吹さんを左手で押しのけて死柄木との間に結界を生成している間くん。

 頭から血を流したままで、顔面は真っ赤だ。

 

「めんどくせぇなぁオイ……脳無!!」

 

 結界はボロリと崩れ去り、その腕が間くんの左肩、首の根本あたりを掴んだ。

 同時に間くんの真横から伸びる脳無の腕。

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!!

 せめて、コイツは!!

 

──SMASH!!!

 

 ズドンと脳無に僕の腕が減り込む。

 腕は折れてない。

 こんな時に力の調整がうまくいった?

 間くんは──

 

「間、ちゃん……」

「誰も…殺させない……」

 

 死柄木を左手で殴り飛ばした間くんだけど、僅か数秒後、ボロボロと崩れ去る間くんの左肩。

 

「あー、こりゃあマジでヤバい……透に負けねぇって…また約そ……」

 

 それは首まで進んでいき……

 ズルリと彼は地面へと倒れ込んだ。

 

「そ、んな……嘘だろ? なぁオイ!」

「一人殺ったか。崩壊まで時間差があったのは気にはなるが、一番厄介そうなガキを殺せたのはラッキーだったなぁ」

 

 力無く倒れた間くんの肩は不自然に凹み、首は崩れて喉は剥き出し。

 更に頭は肉を超えて骨まで割れているのか止めどなく血が流れ出ている。

 ヒューという音が聞こえているのは、きっと皮膚が崩れて剥き出しとなった喉から空気が出入りしているからだろう。

 そんな間くんを見ながら、泣き叫ぶ峰田くんと呆然とする蛙吹さん。

 オールマイトの力、渾身のワンフォーオールの一撃を受けたにも関わらず、無情にも僕へと振り下ろされている脳無の拳。

 

 そんな最悪の状況の中。

 この場に突如として舞い降りてきた人がいた。

 

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