現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
俺が意識を失った後の事。
話を聞くと、姉ちゃんが脳無を結界で遥か彼方にブッ飛ばしたところでオールマイトがUSJに登場した。
ただでさえ姉ちゃんにより完全に負けムードとなっていたのに、そこに来たオールマイトの圧倒的な存在感によりヴィランたちは戦意喪失。
流石に分が悪いと思ったのか、オールマイトに悪態をつきながらも主犯格のヴィラン2名はワープゲートですぐさま逃走。
俺からすれば姉ちゃん相手に真っ向勝負する気になったってのがもはやただの命知らずなのだが。
そう考えれば、オールマイトはやっぱりヒーローで、姉ちゃんは違うんだろうな。
誰もが知る犯罪抑止力と、正体不明の一般人もどきの姉じゃあ敵に与えるものも、味方にもたらす物も天と地ほどの差があるのかも。
怪人 脳無は姉ちゃんが結界で遥か彼方へとぶっ飛ばしたものを警察と先生たち、近隣のヒーロー事務所の人たちで拘束したそうだ。
その時は全く暴れる様子もなく、大人しいものだったらしい。
結局姉ちゃんはUSJでオールマイトと軽く会話をした後に、俺を担いで消え、その後は俺が目を覚ました通り、姉ちゃんに病院に放り込まれていたと言うわけか。
うーむ。
やっぱり、姉は無茶苦茶だ。
俺が一方的にやられたあの怪人をなんなくぶっ飛ばすとはな。
そりゃあ弱いと言われるわけだが、正直腹立った。
好き勝手にやってるつもりはなかったが、認めさせるには強くなればいいんだろう。
追い込みかけて、なんとしてでも強くなってやる。
それにしても、どのくらい寝てたのかはわからないが未だに瞼が重い。
鍛錬は起きたらにして、今はもう一眠りするとしようか。
*
オールマイトと根津校長とセキュリティーについての話を交わしていると、ガラリと扉が開け放たれた。
そこにいたのは、
「ミイラ……?」
包帯だらけの中から小汚い髪が溢れている人型のなにか。
西洋も東洋も、世界中を旅をしたものだが、ホンモノは初めて見る。
「相澤くん、動いて大丈夫なのかい?」
「えぇ、処置が大袈裟なんですよ。それよりも──」
と、どうやらミイラとは違うらしい。
相澤……知らない。
いや、そういえば葉隠ちゃんが担いでいた唯守の担任か。
ん、私を真っ直ぐに見る目。
敵対心こそ無いものの、そんな量られるような目を向けられるような覚えは……いくつかあるわね。
「どうかされましたか?」
「突然ですみませんが、間さんはあの世とこの世の間にいる者、ご存知ですか?」
妖の事か。
式神を通して、あの場にいた者の力の残光は見た。
あのレベルまでなら苦もなく倒せるようになっていたのは良かったのだけど、その後がね。
「えぇ」
「それは、何者なんですか?」
「ただの悪霊。私たちの先祖は悪霊退治が仕事でしたので、その名残で霊感が強いからか、見えるんですよ」
嘘は何もついていない。
妖と言うよりもこの方が何倍も伝わるだろう。
私は稼業には興味が無いし、知られようとも何とも思わない。
どうせこの人達は知ろうとしたところで、その根底は何も理解できないのだから。
「悪霊ですか……」
「えぇ。稀ですが、未だにそう言った類のものはいますよ」
原因不明の昏睡、神隠しなんかは未だにある事件であり、幾つかは確かにヴィラン、所謂人間の仕業ではあるものの、妖の仕業でもある。
呪いの廃れた現代、その数を激減させてはいるが、残ったものは臆病か狡猾か、人へと化けているか。
それか、純粋な強さや特殊な力を持った者たち。
「なるほど。もうひとつ、質問があります」
「どうぞ?」
疑う事もないか。
格好とは違い、礼儀もあるようね。
話も簡潔だし、さっきの話の通り今後雄英に関われというのであれば是非この人を窓口にしてもらいたい。
「間と、時織さんの使用する、結界とはなんですか?」
唯守が使ったのは、結界とは別に念糸、天穴、式神、そして治癒術もどき。
結界術と個性は別だけど、それを教えると騒がられて面倒に巻き込まれるというおじいちゃんの教えは言えてるからな。
おじいちゃんの親世代、今よりも世間が荒れていた頃は個性に対する偏見なんかも多くあったというし。
「なにって、個性ですよ? ただし、正確には結界と言うより【空間操作】ですけどね」
「空間操作?」
オールマイトと根津校長も聞いているし、良い機会かしら。
「空間を隔て固定、滅却するのが結界。
空間に穴を開け吸い寄せるのが天穴。
空間を狭め傷を塞ぐのが治癒。
自らの力を時空間で切り離し、操るのが式神。
空間を固定して捻り、紐状に具現化させたのが念糸。
まぁ、唯守に出来ることはこのくらいですけどね。
私は話した通り、空間を歪ませて短距離ならワープのような事もできますが」
ほぼ出任せではあるが、この方が話が早い上に勝手に解釈してくれるので都合がいい。
そもそも他人の個性、いわゆる異能が何をエネルギーに動いているのかはきちんと調べなければわからない。
ただ、結界術に関しては呪力を読み取れる医師でもいない限りわかることはないだろう。
そして、私たち姉弟の個性はどちらも"時間"に関するもの。
結界と同じで、この珍しい個性もその辺の町医者に推しはかれるものじゃない。
だから、私たちの個性は目に見えてわかりやすい【結界】で登録されている。
「そうですか。お話しいただきありがとうございます」
「構いませんよ。話したところで別に困らないので」
そして、やはりこの人はこれで十分納得してくれたよう。
式神に関しては我ながらめちゃくちゃな答えではあるが、何を言われようと答えを変えるつもりもない。
この人はそれがわかっているから聞いてこないのだろうけど。
きっと、私から情報を抜き出すのはこれ以上無理と今までの会話で判断したようだし。
「二人とも、会話が終わるの早すぎやしないかい…? 私はもう少し気になる所がいっぱいあるのだが……」
「なんだか似た者同士な気がするのさ」
似ている?
私が、この人と?
なぜ?
「校長、オールマイトさんも、俺なんかと一緒にされたら若い女性には失礼でしょう」
別になんとも思っていないが、何が似ているのかはわからない。
昔から、私は"大好きな"家族以外に興味がない。
とは言えこの人はすぐに話を切ってくれたし良い印象。
彼女には相澤さんを訪ねるように伝えておくとしよう。
「話も終わったようですので私はこれで。明日にでも担当させる者を遣わせましょう。いろいろ言いましたが、これからも弟を宜しくお願いしますね」
相澤さんが部屋に来る前に言われた校長とオールマイトのお願い。
私に雄英の防衛に関わってほしいという依頼。
一応プロヒーローなのは確かだが、私もそこまで暇じゃないし、何より唯守以外には興味も情もないので務まると思えない。
とはいえ、今回の出来事から唯守に"妖"が引き寄せられている可能性がある……
という事で、私の事務所。
のつもりは無いのだが協力者たちを派遣する事にした。
私の海外への移動やらに利用したり、神祐地を巡っていた際に出会った者たち。
その後は何故か私を慕っているらしい団体の彼女を貸し出すとしよう。
話も終わったので部屋を出た。
のだけど、
「時織くん。少し、話せるかな?」
「どうぞ?」
部屋を出て、帰路に着こうと廊下を歩いているところで呼び止められた。
その相手は、オールマイト。
流石に私でも知っている。
今の時代を象徴する、絶対的なナンバーワンヒーロー。
「サイロック…いや、君たち姉弟のお母さんは今──」
「さぁ? 私にはどこにいるのかわかりません」
お母さんを知っているのか。
だが、私の前でお母さんの話はしないでほしい。
自分の力の無さを思い知らされてしまうから。
サイロックとは、アメリカで聞いた事がある名前。
たった10日間で本場の凶悪なヴィランを殲滅したサイキック忍者である女性ヒーローだとか。
そんなアメリカのヒーローコミックから肖った半ば都市伝説と化していたサイロックの名は滞在中は散々聞かされた。
青いキューブや光の鞭を操りヴィランを拘束、殲滅するという特徴からお母さんのことだろうとは思っていた。
だから、影で動いていた私が何かをするたびに、表ではサイロック再来と騒がれていたようだし。
10日間のみ出没したと言うのも両親から聞いたアメリカ旅行の期間と一致するし間違いないだろう。
「そうか……私がアメリカにいた頃に、一度話した事があってね。数年前の再来というニュースも見たが、その後はまた全く話を聞かないから元気でいるのか気になってはいたのだが……すまない。個人的なお礼が言いたかっただけなんだ」
「母はヒーローではありませんから、お礼はいらないと思います。
が、もし会えば伝えておきましょう。もう、いいですか?」
「あぁ、時間を取らせて、すまなかったね」
「いいえ。それでは」
お母さんはいない。
まだ、準備が整っていないから。
いくらオールマイトであろうとも、今のお母さんをどうこうできるはずもない。
あんな"弱った"身ではなおさら。
しかし、今気になるのは今更現れたあの霊体が何を考えているのか。
そして見返りとは何か。
食えない霊だが、私相手に生半可な嘘は逆効果だとは理解しているだろう。
少し、探りをいれる必要があるかしら。
もしも唯守に手を出す気であれば、完全に現世とお別れをさせてやろう。
*
「間、時織さんに協力を要請したんですか?」
俺の質問の意図も理解し、一聞けば十返してくる。
だが、好意的とは程遠く、秘密主義な合理的な女性といった印象。
肝心な部分をはぐらかすだけの胆力も、それを押し通す力もある。
【悪霊】の事も【空間術】に関してもどこか引っかかりを感じた。
全ての個性を消せるなんて驕りは無いが、あの結界は今まで消してきた個性とも、消せなかった個性とも違う、別の何かだと思うのだが。
空間を塞ぎ治癒、と言いつつ崩壊したらしい間を直したのは説明が付かないだろう。
だが、それを詳しく話す気は全くなかったので話を切った。
しかも、雄英のセキュリティーを突破したのは空間を歪ませて通り抜けたとの話で、わけがわからない。
つまり、彼女を一言で言うならば"厄介"。
生徒の身内ということもあるし、そういう目で見たくはないが今の状況からして部外者を入れる方が危ういと思うのだが。
「その通りなのさ。彼女の強さは本物。それはオールマイトも認めているのさ」
「あぁ。彼女の母親、間少年の母親でもあるが、彼女と私は会った事があるんだ。私など及ばない程の強さを持った人だったよ」
「ナンバーワンにそこまで言わせる人、ですか?」
あの怪人とやらを圧倒的に退けたのでその強さは認めるが、それはいささか大袈裟だろう。
オールマイトが及ばない程のヒーローであれば、例え極度のマスコミ嫌いだったとしても、俺と違い誰もが知る人物のはずだ。
「まぁね。彼女もサイロックと同じ力を持っているだろうが、彼女たちの強さは種類が違う。物理的、肉体的な強さは意味をなさないんだ。もしも彼女が母親であるサイロック程の力を持っているとしたら、私の全盛期であれど、負けはなくとも勝てもしないだろう」
負けないが、勝てない。
間の結界もそうか。
串刺し、足止め、拘束、分身。
空間を扱うという言い方からしても、極めれば真っ向勝負が成立するような相手ではないという事か。
「そうですか」
「それに、噂のヒーロー事務所が彼女を慕っているらしいからね。悪霊なんて話が出たし、警備チームとして依頼をしたのさ」
慕う…?
彼女のヒーロー事務所、ではなく?
「僕も今の今まで知らなかったけど、正体不明の青い箱の個性。その正体が彼女の母親と、彼女だったのさ。そして、今回彼女が提案してきたヒーローチームが、ブルーロック事務所」
ブルーロック事務所だと……
あぁ、そういう事か。
「あの、訳あり事務所ですか……」
通りで悪霊などと言うはずだ。
ヒーローの中でもはみ出し者の集まりと言われるオカルト事務所、通称【夜行】。
通常のヒーロー事務所とは違いその活動は主に夜〜早朝にかけて。
たかだか数名の事務所だが、原因不明な依頼ばかりを受ける事から揶揄されるようにその呼び名がついた。
少しだけ、間姉弟の事がわかってきた気がするな。
*
「クソクソクソ!!なんなんだあの女ぁ!!」
ガキも強ぇし手下は瞬殺。
平和の象徴以前に、あの女はなんなんだ。
あんな奴は予定ではいないはずだろう。
教師は三人、イレイザーヘッド、13号、オールマイトだったはずだ。
「話が違うぞ!先生!」
『そのようだね。ただ、オールマイトが弱っているのは本当だよ』
「まぁ、ぼうやがいた事は想定外だったが、それによりお嬢さんが現れたのは必然だったかもしれないな」
声だけが聞こえる。
それはモニターから聞こえる先生の声と、女子供のような声のくせに年寄りじみた話し方をする声。
コイツの事も、いけすかない。
「……アンタがあの女を止めてりゃあ脳無がガキどもを殺してオールマイトを殺れたんだ……」
そう。
このなんでも知った風に話す透明人間が悪い。
俺の計画を滅茶苦茶にした原因はコイツにある。
「無茶を言うなよ。全盛期ならまだしも、今の俺ではお嬢さんの相手はできんよ。せいぜい引かせる事が精一杯さ。脳無はどうしようもなかったが、お前ら二人逃しただけでも評価して欲しいものだ」
あのガキ……殺したはずだったのに崩壊が無かったことにされた。
あの女はある意味オールマイトよりヤバいと感じた。
コイツは何かを知っているはずなのに、遊んでやがるし…
先生はなんだってこんなヤツを……
『悔やんでも仕方ない!今回だって無駄では無かったハズだ』
「そうだぞ。それに、お前が役立たずと言ったあの式神も役に立ったじゃあないか」
ムカつくが、正論だ。
確かに式神とかいうヤツらを使い通信系統を破壊した事で援軍は遅らせる事ができたし、変更されていたとはいえカリキュラムも奪えた。
「式神ですか……それは生徒の一人も使っていたようですよ。少なくとも私がいた場所と死柄木弔のいた場所。二人同時に存在していましたから」
「それはそうだろう。昔は式神なんて異能者にとっては当たり前だったからな。ただ、時代は変わったものだ。こんな時代になるとは流石の俺も思っても見なかったぞ」
なんだと……
という事は、あのガキは骨董品のような妙な力まで使いやがるって事か…?
『まぁ、昔は昔、今は今だ。
まずは精鋭を集めようじゃないか!
じっくりと時間をかけて!
我々は自由に動けない。
だから君のような"シンボル"が必要なんだ。死柄木弔!!
次こそ、君という恐怖を世に知らしめろ!』
クソ。
次だ。
次こそ殺す。
平和の象徴もヒーローもクソガキどもも。
全部、ぶっ壊してやる。
*
オールフォーワン、か。
かつて私が嫉妬を覚えたあの圧倒的な存在。
その戦慄を僅かながらにも思い出させてくれた彼に興味が沸いたのはいつの事だったか。
近づいてわかったが、彼は総帥とは違い、自らの力をちゃんと理解した上で過信し、いつまでも邪悪でいてくれる。
俺も結局は極悪の部類に入る存在。
歪んでいく世界と歪に成長していく若者を見るのはいつぶりか。
せいぜい楽しませてくれるといい。
だが、これは流石に聞いておく必要があるか。
まぁ、素直に話すとは思えんがな。
「まったく、あのぼうやがいる事を黙っているとはお前も人が悪い。
それで、何をたくらんでいるんだ?」