現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
レスキュー訓練でのヴィラン襲撃事件の翌日は臨時休校となった。
そのため、クラスのみんなでお見舞いに行こうという話になり、なんとあの爆豪までもが唯守のお見舞いに来るという事となった。
聞けばワープで飛ばされバラバラになっていたハズなのに、ほぼ全員が唯守と接触していたらしい。
それが式神だったとはいえ、みんなは知らないし、お見舞いをしたいというのはきっと純粋な気持ちから。
特に、目の前で唯守がボロボロにされたという蛙吹と峰田のメンタルがヤバい。
緑谷もその場にいたそうだけど、緑谷自身も怪我をしてるし、別のヴィランに殴りかかっていたらしいからか二人ほどではないみたいだけど。
峰田はまだ明るく振る舞おうとしてるけど、蛙吹は心配からかずっと下を向いてる。
時織姉が来ていたという事は透からも聞いていたのでウチも大丈夫だとは思っているんだけど……
心配なものは、心配だ。
昨日もよく眠れなかったし、メッセージももちろん返ってこない。
そもそもそのまま病院直行だったから持っていないのかもしれないけど。
「お見舞いといえばメロンだよな!」
「いや、一人でそのサイズもらっても困るくない?」
「無難にお菓子盛り合わせとかでいいんじゃね?」
「餅にする?」
「いや、お見舞いにお餅なんて聞いたことないよ!」
今はおよそ半数の人間でお見舞いの品を買いにきており、デパートの地下一階で切島と芦戸と瀬呂、上鳴と麗日があーだこーだと話しているところ。
「なーなー葉隠。間って苦手なもんとかあるのか?」
「え?私?なんだろー。苦いのが嫌いってイメージはあるけどー。響香ちゃんは知ってる?」
峰田は唯守と仲の良い透へと質問を投げかけたけど、それを華麗にウチへとシフトしてくる。
嫌いなもの。
なんだっけ、ゴーヤとしいたけとか?
って、明らかにお見舞いの品じゃないものくらいしか思いつかないや。
「えっと、フルーツでいいんじゃない?アイツ好きだし」
小6で止まっているので振られたところで知らない。
透の方がきっと詳しいし、透の方が仲も良い。
でもなんであの時……
『最優先の対象を確認──』
「オッケー!じゃあどれにするー?」
パッと透が私の手を取って棚の前まで引っ張られたところで思考は中断された。
*
「………チッ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
病院で合流組と先にお見舞い品を買いに行くというグループで分かれていたんだけど、僕もデパートにいけばよかったと思った。
こちらの面子はかっちゃん、轟くん、障子くん、常闇くん、口田くん、飯田くん。
完全に分け方がおかしいよ。
さっきからかっちゃんの舌打ちしか聞こえて来ない。
唯一この場を紛らしてくれていた飯田くんといえば、
「そろそろ待ち合わせの時間だな。面会が可能か聞いてこよう!」
と言って中に入ってしまっていたので堪ったもんじゃない。
このあまりにも居た堪れない空間にも、ようやく終わりが訪れた。
「緑谷は、あの場をどう見た?」
なんと轟くんが話題を振ってきたのだ。
個性通りクールで寡黙な彼が話しかけてくるなんて珍しいと思い僕も話そうと思ったところで。
「あぁ?」
「爆豪、おまえに聞いてるわけじゃないだろ?」
「………騒がしいやつだ」
「………」
昨日からずっとイライラしているのか、喧嘩腰のかっちゃんに声をかけた障子くんと常闇くん。
口田くんはオロオロとしながらもかっちゃんから一歩距離を取ったみたい。
「あれがプロの世界。正直俺のところにいた奴らは大した事は無かった。だが間が相手にしたのは相澤先生を倒すほどの、ヴィランが用意したオールマイトを倒す算段のあった奴だ。そいつを俺は見てないからわからないからな」
そういう事か。
プロヒーローの世界。
僕は初戦がうまくいったところで、冷静なつもりだったけど完全に舞い上がっていた。
僕らがいなかったら、間くんもあんな怪我をしなくて済んだかも知れないのに…
「相手はもちろんだけど間くん自身もすごく強かったよ」
「………チッ」
かっちゃんの舌打ちが聞こえるが、怒っているわけじゃない。
かっちゃんも、たぶんみんなと同じことを思ってるんだ。
「相澤先生を重傷に追い込んだヴィランの足止めを少しでも成功させたんだ。僕らがあの場にいなかったら、もしかしたら逃げ切れていたかもしれない」
「ハッ!クソデクが足引っ張ったって事だろうが」
「おい、爆豪!」
障子くんが間に入ってくれようとしているが、僕はそれを手で制した。
「緑谷……?」
「そうだよ」
その通りだから。
そんな事、僕自身がずっと思っていた事。
僕たちが思っているよりも、プロの世界は厳しく、冷たい。
今でこそ思うが、守られた世界にいる僕らとは違って、間くんは既にその世界に半身が入り込んでいるように思えた。
自分の命すら投げ出して他人を守る。
文字通り、僕達のために命すら投げ打った姿は、紛れもなくヒーローに見えた。
なのに……僕は……
「僕の渾身の一撃でも、びくともしなかった。それはきっと轟くんでもかっちゃんでも、同じ事だったと思う」
「んだと…?」
「……」
かっちゃんは怒り気味に、轟くんは無言で、障子くんも常闇くんも、口田くんも僕をみている。
でも、そうとしか思えない。
オールマイトの力。
ワンフォーオールのスマッシュすら効かなかったのだから。
「そんな相手に対して、逸らし、躱し、串刺しにして、戦ってたんだ!
足手まといの僕らを気にかけながら!
僕は…僕は何もできなかった!
あの場にいたのに!!
目の前で間くんは殺されかけたんだぞ!
自分に腹が立たないわけがないじゃないか!!」
気がつけば、かっちゃんに向かって叫んでいた。
「………」
「聞いて悪かったな、緑谷。でも──」
「オイラだってそうだ!!」
既にみんなが来ていたことにも気づかないほど、僕は周りが見えていなかったらしい。
「オイラを庇って間はやられたんだ。同じ学校の同級生だってのに……オイラのせいなんだよチクショー!!」
「いいえ峰田ちゃん、私のせいよ」
峰田くんに、蛙吹さん。
僕と同じく、彼に守られた二人。
二人もきっと、昨日から僕と同じ事を考えていたんだろう。
「二人のせいじゃないって!なぁ耳郎!」
「うん……アイツ、昔からあぁだから。なんとも思ってないと思うよ。むしろ二人が凹んでたらそっちを気にする」
上鳴くんと耳郎さんは二人を励まそうとしていた。
だけど、実はかっちゃんだけが前を向いていたらしい。
「うだうだとウルセェ……! 結局のところ、俺たちゃザコ倒して終わりだったんだ。ホンモノのとこまで行ってねぇ。だったら!登るしかねぇだろ。まずはアイツのところ、そんでプロのところまでよぉ。
俺はこっから先、テメェらみてーに止まる気はねぇぞ」
そう言ってプイッと背を向けたかっちゃん。
「僕(私)(オイラ)だって、止まる気はない(わ)(ぞ)!!」
かっちゃんのその言葉に、笑みを浮かべる人、表情を引き締める人。
僕ら三人だけじゃなく、みんなの心にも火をつけたようだった。
「聞いてきたぞ!面会はできるそうだが……いったい何があったというんだ……?」
たった今戻ってきた飯田くん一人を除いて。
*
コンコンと、今回はかなり強めにノックの音が響く。
雄英の手引きであろうこの嫌に広い個室ではドアが遠くノックをするわけにもいかないし、今は手が離せない。
「どーぞー!」
なので強めに答えると、ガラリとドアが開け放たれた。
そこにいたのはクラスメイトたち。
なのだが、なんだその顔は。
「「「何してんの!!?」」」
声でけー。
こんな時でも声を揃えてくるとは、コイツら仲良いなー。
「病院だぞ、ここ?」
ここをどこだと思っているんだと伝えたが、逆効果だったらしい。
「「「こっちのセリフだッ!!おまえがなにしてんだ!!?」」」
またも揃った大声。
なんだというのだ、まったく。
見ればわかるだろう。
「なにって、筋トレ?」
左肩も完全復活しているので、逆立ち腕立てをしていただけなんだが。
走り回ってもないし、自重トレーニングは病院向きじゃないか。
ただ、治りきっていない頭に血が登ってきたからか少し痛むな。
「「おとなしくしてろ!!」」
「ぎゃあ!!!」
透と響香のチョップをくらい、バランスを崩して倒れてしまった。
その後恥ずかしいことに障子に抱きかかえられ、無理矢理ベッドに寝かされ、と言うよりは瀬呂のテープで縛り付けられていた。
アホが。
何を考えているんだ?
アホなのか。
元気そうなのはいいけど筋トレって……
アホなの?
ウチがどんな気持ちでいたと思っているのか。
アホだな。
いーかげんにしなよっ!
こいつ以外とアホだったんだな。
などと好き勝手言われてしまう。
アホとはなんだアホとは。
何人かはまじめに心配してくれていたのでこの後の検診が終われば退院だと伝えると心配して損したとまたも好き勝手言われる。
どーしろってんだよ。
「間ちゃん、元気そうでよかったわ」
「元気元気。ホラ、傷もないっしょ」
少し顔を斜めに上げて首を見せると、少し微笑んでくれた梅雨ちゃんに癒される。
「オイラも心配してたんだぞ……心配した気持ちを返せよ!!白衣の天使を呼べこのヤロー!!」
「呼んでもいいけど……たぶん期待してんのとは違うタイプだぞ?」
峰田の要望は残念の一言。
俺の担当はベテランっぽい貫禄のある看護婦さんであり、白衣の天使と言うよりかは白衣を着た鬼人のような筋骨隆々の人だ。
「本当にごめんね、間くん。僕がもっと強かったら」
「ん?緑谷いなかったらたぶん死んでたし、ありがとうって感じだよ。脳無だっけ?アレに殴りかかれんのなんてクラスじゃお前くらいだもんなー」
「お前らこのクラスの命知らずトップ2だもんな」
切島がそういうが、いつの間に俺と緑谷がそんなもののトップを走っている事になっているのやら。
「俺だってイケるわ!!」
「オメーは殴るっつか爆破だろ?」
なぜか爆豪と言い合いになり、貫禄のある強そうな看護婦さんが現れたところで面会の時間は終わりを迎えた。
「チョーシに乗るんじゃねぇぞ!テメェなんかすぐに追い抜いてやるからなッ!!」
屈強な看護婦さんに引きずられながら爆豪は強制退出させられ、
「お前には、負けねぇ」
轟にはなぜか宣戦布告のような事を言われて、その後も捨て台詞のように声をかけてきながらもゾロゾロと去っていくクラスメイトたち。
「唯守、また明日」
「もー、今日くらいトレーニングせずに寝てなよ!」
最後に出て行った響香と葉隠に軽く手をあげて答えると、やたらと部屋は静かになった。
ついさっきまでが嘘のよう。
なんて騒がしい奴らなんだと思いながらも、今までのクラスメイトとは全く違う同級生たちを嬉しく思っていた。
*
「では、また明日!」
「ありがとうございました」
まさかのオールマイトに送ってもらい、家へと着いた。
そーいえば夕飯も食べていないし、特になにも残ってなかったような。
今は病院に届けてもらった学校に置きっぱなしだった制服を着ているので、着替えてコンビニにでも行こうと思っていたのだけど。
ピンポンと言う未だに聞き慣れない音が耳に入り込んでくる。
こんな時間に?
と思いながら扉を開けると、そこにいたのは思ってもみなかった相手。
「姉ちゃん…! どうしたんだ?」
「? 強くなりたいんでしょ?」
確かにそう思ってはいた。
だが、心の中では矛と盾が戦っている。
強くなりたいのは確かだが、地獄は嫌だと。
なので、一応聞いてみる。
「…………今から?」
「予定でもあるの? どうせ今日は1日寝てたようなもんでしょ?」
だが、そんな俺の矛だろうが盾だろうがお構いなしに粉々に打ち砕くのが、我が姉。
「ないみたいね。それじゃ、始めましょうか」
あぁ、そうだった。
そもそも俺に選択権はないんだった。
でも、願ったり叶ったりか。
姉ちゃんに何にも言わせないくらい強く───
「え…ちょ…! うわぁぁぁぁ!!」
覚悟を決める間も無く、強制的に異界へと放り込まれた。