現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
*
── オールマイト ──
時織くんは、
授業の時は思いもしなかったが、間少年の危なっかしさは
話を聞く限りだが、向こう見ずに突き進む様、内に秘めたモノは正に父親に瓜二つのように思えた。
ただ、そんな未来あるヒーローの有精卵をこんな若くして散らせるところだったとは、本当に、自分が情けない。
あの二人を見ていると、アメリカ時代を思い出す。
──
「早く逃げろ!危ないぞ!!」
ヴィランの犯罪件数が日本と比べかなり多いとされるアメリカ。
そんな倒壊しかけたビルの下で日本人の男性が叫んでいる。
「──奥さんと子供が中に!? いいから、あんたは怪我してんだろ? 俺に任せとけ!!守実子、ちょっとこの人達を頼むな」
男性は一人でビル内へと入って行き、女性は静かにうなづいて男性を見送っていた。
「デイブ、救助が先だ!私が行く!!」
相棒にそう言って、飛び込もうとした瞬間に倒れ始めるビル。
アメリカは日本と比べてその国土の通り、建物も大きい。
倒れてきているビルも50階はあろうかと言う高層の大型ビル。
私であれば受け止める事はできるだろう。
だが、受け止めたとしても、折れてしまい街に被害が出てしまう…!
どうしたものかと思ったが、その心配は杞憂に終わった。
「あ、アンタがやってるのか……?」
先程ビルに駆け込んだ男性が肩を貸していた人は女性に向かいそう呟いていた。
消え入りそうなほどに白い肌をした女性は二本指を突き出した構えをとっており、青色の半透明な箱がビルの至る所に出現しその倒壊を支えているように見えた。
「えぇ。今のうちに、離れた方がいいわよ?」
「守実子ー!!これで全員だそうだ!!」
ビルへと駆け込んでいった男性と、ビルの警備員たち、そして逃げ遅れていたであろう人々がビルの外へと駆け出してきた。
「そう。じゃあ、もういいかしら」
「わわっ!もちょっとだけ、というか、倒れるくらいなら滅却できないのか?もう誰もいないし。ただ、俺ができたらいいんだが……いつもごめん」
「構わないわよ」
その後の光景は忘れられない。
突然、ビルをも超える巨大な青い箱が視界を塗りつぶす。
ビルを包み込んでいたその青い箱は一瞬で縮み上がり、視界を埋め尽くしていたモノはビルごとその姿を消した。
「流石は守実子!!俺の自慢の奥さんだ」
「? よくわからないけど、上にいた人達はどうしたらいいかしら?」
更には、屋上で倒壊の様子を楽しんでいたヴィランを拘束しているという離れ業。
「どう…あっ!おーいヒーロー!どうしよう!?」
「……なにも考えてなかったの?」
疲れた様子も何もなく、箱の中で暴れているヴィラン達だったが彼女の様子は至って普通。
凄い個性だ……
こんなところに、これ程のヒーローがいたとはと戦慄を覚えた。
「凄い個性だな!失礼だが、ヒーロー名はなんと言うんだ?見たところ、日本人のようだけど、日本では有名なヒーローかい?」
デイブは半ば興奮気味に女性へと尋ねている。
思った事は同じだが、私も知らない。
見たところ同年代のようだが、新人というにしても強すぎる。
「ヒーロー活動なんてしていないわ」
「そうなんだ…しかも今は新婚旅行中でね……時間取られるのもアレだからすまないけど任せた!!日本人仲間として宜しく!!」
そう言って、女性の手を取り駆け出してしまった。
──
その後もわずか10日間の間で二人に出会ったのは数度。
いつも唯盛くんが危機へと突っ込み、守実子くんがその圧倒的な個性で収めるという結果。
被害は最小、解決は最速。
それ故に、あっという間に噂が拡がったのも仕方のない事だろう。
いつもそこに私とデイブもいたものだから、いつしか四人で話すようになったのだったな。
いや、守実子くんは殆ど話す事はなかったか。
個性の無断使用はアメリカでは日本ほどの罰則は無いとはいえ、一部からは批判もされていたが、新婚旅行が終わると共に、噂もドンドンと消えていった。
それから何年後だったか。
奇妙な事だらけの事故の死亡者に、彼の名前を見つけたのは……
と、昔を思い出していたところで待ち人が来たようだ。
「ん? オールマイト?どうかしたんすか?」
「なに!君を送ろうと思ってね!」
学校の近くに住んでいる彼の家へと向かう途中、彼はゆっくりと話し始めた。
「オールマイト、強くなるには、どうしたらいいんすかね」
「努力あるのみ!それに、君は十分に強いよ。今回は、本当にすまなかったね。君は決して弱くない。君は恐怖に臆さない、人一倍強い心を持っている。雄英にいる間、どんどんと力をつけていき、お姉さんに心配をかける事もない立派なヒーローになるだろうさ」
そう伝えたものの、随分と自信のないような言葉と表情。
つい先日死にかけたんだ、当然の事だろう。
「すまないな。本当に……怖かっただろう……」
私は本当に……情けない。
「いや、そうじゃなくて、死にかけたとかも別に生きてたしイイんすけど……あと謝ってもらうのはもうお腹いっぱいっす」
「うん、わかった」
ジトリとした目を向けた間少年だったが、その理由を話してくれた。
「唯強くなりたいんですよ。
昔から、母さんや姉ちゃんと比べたら俺なんてザコだって思ってましたけど、最近変な自信がついてた。
緑谷も、峰田も、梅雨ちゃんも。姉ちゃんがいなきゃ死んでたかも知んない。
俺がいたのに。
命賭けても守れないなら、俺がいる意味なんかない。
だから、強くなりたい…貴方のように。
全部なんて言わない。せめて、俺の大事な人が消えることがないように、力が欲しい」
家族と比べて自分が弱すぎる事がコンプレックスなのか。
命を賭ける事に躊躇が無いところは、完全に唯盛くんに似たな。
ただ、彼よりも自分の命を軽く見ているのかも知れない。
そこは、きちんと教える必要があるな。
「私も、全部は難しいよ」
「……じゃあ、オールマイトも救えなかった事あるんですか?」
「あぁ、あるよ。私も人だ。
手の届かない場所にいる人は救えない。
だからこそ、私は笑って立つのさ。正義の象徴が、全ての人々の心に灯るようにと。
もちろん君も、いずれ皆の心に灯り、犯罪は減り、君と言う灯火を頼りに人々は強くなるはずだ。
だから、命は大切にな。間少年」
今の私の言えたことでは無いかもしれないが、彼は賢い子だ。
きっとわかってくれるだろう。
「そうした気持ちを失わず、日々の精進が身体も心も強くする。その為の最高の環境が雄英にはある。だから、近道なんてないんだよ」
彼は少しだけ考えるような顔をして、「そっすか」と呟いた。
君が来るべき戦いの時、緑谷少年の力になってくれるのならこれほど心強いこともないだろう。
他の少年少女もそうだ。
誰一人かける事なく、プロの世界を味わった。
生き残り、恐怖を味わい、実戦を潜り抜けた。
ヴィランよ。
今回で思い知ったろう。
このクラスは……間違いなく強くなるぞ。
*
── 耳郎響香と葉隠透と蛙吹梅雨 ──
「はいっ!お茶だけどー」
どーなってこーなったのかは覚えてないけど、病院を出てから梅雨ちゃんと透の家による事になった、らしい。
「ありがと。葉隠」
「透ちゃん、ありがとう」
家に着くなり一人サッと部屋着に着替えた葉隠のスウェットの袖がビッと立てられた。
きっと、顔の横で人差し指を立ててるんだろう。
透明だと言うのに、大きな動きと可愛らしい声色からどんなポーズで、どんな顔してるのか想像がつくからスゴイ。
それに、透明だからか躊躇なく脱いでいくのもスゴイ。
「透でいーってばー」
「透ちゃん、耳郎ちゃんのペースでいいのよ」
梅雨ちゃんの言う通り、まだ慣れてないし、ちょっとハズイ。
「うん、流石に無理にじゃなくてイイけどね」
「……慣れたらね、その、透」
透と呼ぶと間違いなく笑顔を浮かべているのだろう声色でパタパタと腕を振るのがウチと違って、女の子らしくて可愛らしい。
お茶を飲みながらも、結局話はレスキュー訓練の時のヴィラン襲撃に関して。
ウチはヤオモモと上鳴とヴィランを倒し、少しだけ危ないところで式神と共闘した時の事を話した。
透は唯守と透明なヴィラン(妖なんだろうけど梅雨ちゃんはわかんないからそう呼ぶ)を倒して、相澤先生を避難させていたそう。
梅雨ちゃんは、緑谷と峰田とヴィランを無傷で退けて、広場に戻ったところで、あぁなった。
「広場にいたヴィランたちは正に別格だったわ。間ちゃんが居なかったら……本当に…」
「大丈夫だったんだから、ね」
「うんうん。みんな無事だった!私たちはまだ有精卵なんだから、これからヒーローとして孵ればいいんだよー!」
また落ち込みかけていた梅雨ちゃんだけど、透の励ましで少しだけ元気になったみたい。
梅雨ちゃんも、明確に死を意識したのだと言う。
怖かったと。
ウチだって、そんな目にあったらと思うとゾッとする。
でも、アイツは躊躇もしないんだろうな。
実際頭割られた後に梅雨ちゃんと峰田の前に飛び出してるんだし。
「ヴィラン襲撃なんて大事件でも、みんな無事でホントに良かったよね。私もちょーっとだけ不安だったんだけど、唯くんも筋トレするくらい元気だったし!」
ぬいぐるみが多く飾られた女子っポイ部屋の真ん中で、チョコンと座布団に座りながらそう言った。
「えぇ。本当に、良かったわ」
梅雨ちゃんは心底安心したように呟いた。
全く、こんなに人に心配かけるなよ。
ウチの、目標のクセに。
でも、今思えば久しぶりに会って、強くなった姿しか見てなかった。
唯守だって同い年なんだ。
泣き虫で頼りない、小さな頃の姿が頭に浮かぶ。
「でも、間ちゃんは怖くなかったのかしら? 私も峰田ちゃんも、本当に死んでしまったのかと思っていたわ……」
「たぶんだけど、怖いとしてもそれがブレーキにならないんじゃないかな。アイツ、昔っからキレると絶対逃げないんだよね。自分のケガなんてお構いなしで突っ込んでいくし」
あの時も、左腕から血が噴き出す中、最後まで逃げなかったな。
自分は死なないとでも思っているのか、死んでもいいと思っているのか。
無いとは思うけど後者だったらひっぱたいてやろ。
「そっかー。唯くんって頼りになるけど、確かに一人で突っ走るもんね」
無理やり戦闘から引き離された時は本当に怒ったよと言ってぷんぷんしてる。
でも、頼りになる、か。
逆に出会った頃じゃ、今の唯守は想像つかないんだけどな。
「今はまぁわかるけど、昔のアイツなんて鼻水垂らして泣いてばっかだったよ」
「えっ!なにそれ!?詳しく詳しく!!」
その後も根掘り葉掘り聞かれて、目の前で透は大笑いしてて、梅雨ちゃんも微笑んでくれた。
学校で会った時に、何でイジろうかと思考を巡らせている透は本当に生き生きとしていたのだった。
そうこうして、透の家をお邪魔する頃には梅雨ちゃんも元気になっていたみたい。
明るくて、人懐っこくて、人を元気にさせる。
透は、すごいな。
*
── 麗日お茶子 ──
間くんも元気そうやったし、本当に良かった。
それにしても、デクくんと爆豪くんの会話は、なんか来るものがあったなぁ。
みんなもアレで気合はいっとったし!
男の因縁……悪いもんではないね。
私も頑張らんと!
入院中の病院で筋トレするようなアレな人やけど、本当に自分を追い込んであそこまで強くなったんやろうなぁ。
でも、『吐くまでやる、吐いてもやる』だもんなぁ……
自宅では絶対にやりたくない。
うーん。
一回公園で特訓してみようかな。
個性使用やけど、人にも物にも使うわけじゃないし、ちょっとだけ、気分転換に!
そう自分に言い聞かせて、扉を開けた。
と、めちゃくちゃ綺麗な人がそこにいる。
なんだが弓道部の持つ弓のような、薙刀のような物が入っているのか、長い棒状のナニカを布で包んだ物を持っている着物姿の女性。
すごく美人な、大和撫子やぁー。
「? こんばんは」
「こ、こんばんは!」
焦ったぁー!
めっちゃ見つめてしまってた。
声裏返ってたし、恥ずかしい……
でも、間くん家に用があるんかな?
お姉さん、とかかな。
チャイムを鳴らして、間くんちに入っていく女性。
間くんの声で、小さく「姉ちゃん」と聞こえたのでお姉さんなのだろう。
ただ、その後で聞こえた小さな悲鳴は、聞かなかった事にしようと思う。