現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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雄英体育祭編
25話 上に 隣に


 

 

 

 昨日は死ぬかと思った。

 と、思い返すのももう何度目か。

 

 今まで以上に、朝までみっちり扱かれた。

 多重結界を習得して良い気になっていたが、俺の限界である三重を優に超えた五重、六重の結界を成形してくる姉。

 

 結界師同士の戦闘では成形、切界、距離を置いて、詰めて。

 お互いに同じことの繰り返し。

 似たような光景が続いていても、それはすぐに差が出てくる。

 こっちは必死こいてやってるのに対し、あちらは余裕を持ってやりやがるからまた腹が立つ。

 

 幾度となく滅されては、瞬時に元に戻された四肢を撫でて無事についてるかを再度確認するくらいには何度も"モガれた"。

 ここまで直接的にボロボロにされたのは初めてだ。

 そして、姉のあんな顔を見たのも、初めてだな。

 

『痛みを知れば、少しはマシになるでしょう?

 あんたは、お父さんみたいになって欲しくないから』

 

 父さんみたい、か。

 俺も、命を賭ければなんでもできると思ってた。

 俺は賭けてもなにもできなかったから。

 なりたくても、俺じゃなれないんだけどな。

 

 数秒過去の自分の身体になるわけなので、すぐに元通りになるとはいえ実の弟の手足を滅却してくるとは……

 なんて事を考えながら、予鈴ギリギリだからか誰もいない廊下を歩き、教室の扉を開けた。

 

「皆ーーー!!朝のHRが始まる!席につけーーー!!!」

 

 どう見てもみんなついてるけど、と思いながら教室に入ると全員の視線を浴びている気がする。

 それはもちろん、飯田のも。

 

「間くん!遅刻ギリギリだぞ!!早く席につきたまえ!!」

「はいはい。俺とお前だけだもんな。立ってるの」

 

 微笑んでたり、対抗するような目を向けられていたり、舌打ちされたり。

 やかましくも多種多様なクラスの連中が誰一人欠ける事なくここに居る。

 それだけは、本当に良かったと思った。

 

 

 

 

「死柄木という名前、触れたものを粉々にする【個性】…20代から30代の個性登録を洗ってみましたが。該当無しです」

 

 ワープゲートの黒霧も同様に情報はない。

 無個性かつ偽名で個性届けを国へと提出していない、所謂裏の人間。

 そう、塚内刑事が話したところで、プロヒーロー且つ教師でもあるスナイプは呟く。

 

「なにもわかってねぇって事だな。結局逃したのだから、死柄木とかいう主犯も無傷に近いようだし、またすぐにでも襲撃してきたら面倒だぞ」

「……発言をしても?」

「あぁ、もちろんなのさ。屈託のない意見を話すのが会議なのさ」

 

 今日から雄英の警備事務所となったブルーロック事務所。

 その若き代表である刃鳥美切は校長にそう言われ、コクリとうなづくと口を開く。

 

「ウチの頭領の話であれば、生徒の話に出ていた悪霊、ここでは透明なヴィランと言いましょうか、それが言うには、死柄木を使役している者がいます。それは死柄木を”友人の教子”だと口にした事からも明確ですね」

「つまり、主犯は別だと?」

 

 時織の話を既に教師陣は聞いており、にわかに信じ難いと言うものが殆どではあった。

 だが、そこはイレイザーヘッドも実際に熱を放ち、唯守を殴り飛ばした存在を確認している為、透明なヴィランと言う呼称で呼ぶ事にしていた。

 1年B組の担任、ブラドキングに言われるも刃鳥は小さく首を横に振る。

 

「いいえ。あくまで今回の事件に関しては確かに死柄木が主犯なのでしょう。ですが些か小物すぎる。少なくとも糸を引くものはいるし、それが無能という訳ではない。というのがウチの意見です」

 

 時織という不確定要素の登場に慌て、思い通りにいかないと露骨にイラつき部下にあたる。

 そして、脳無という”所有物”を自慢気に語る。

 単純思考で襲撃から逃走までのお粗末さからしても、死柄木は姿は大人でも中身が子供なヴィランである。

 

 というのが、興味がないのか、妖の方が気になるのか覚えていないという時織の代わりに、相澤などに話を聞いてまとめた刃鳥自身の見解。

 

「それには同意だ。生徒たちからの話を聞いた限り、ゲームオーバーと言う発言や、予想外の事態に他者に終始アタるというのも見受けられたようです」

 

 子ども大人。

 とはいえ、たかが小物ではあるが70名以上のチンピラを率いてきたという事は少なくとも人を惹きつける邪悪である事は確か。

 

 悪霊という言葉を信じているものがこの場に何人いるかはわからないが、霊体の言葉を聞いていたものはもう一人いる。

 生徒であり、あの場でもっとも近くにいた者。

 緑谷出久。

 嘘をつける性格でない事は教師も把握しており、その言葉には信憑性がある。

 教え子という事は、優秀かは置いておくとしても、雄英のカリキュラムを盗み出し、チンピラとはいえ70名以上を引き連れるくらいの指導者がいるという事。

 

 死柄木も、子供が故に成長の余地がある。

 それは今後、大きな牙と爪を持って再度攻め込んでくる可能性があると言う事。

 

 警察は調査を続け、雄英もセキュリティー強化の話をしたところでお開きとなった。

 

 

 

 

 雄英体育祭。

 過去で言うオリンピック並みの知名度と人気を誇るそのイベントは二週間後に行われる。

 朝のHRで相澤先生に言われたからか、みんな随分な熱の入り用。

 かくいう俺はと言うと、そんなにやる気がない。

 基本的にイベントごとは病欠か式神任せだったので参加する事自体初めてだし、正直なところヒーロー免許を取得して姉ちゃんのように自由に動いて妖退治がしたいだけだからなー。

 あと、ちょっと緊張してる。

 

 午後のHRも終わり、姉が来いと言っていた場所へ向かおうと思っていたのだが、なにやら廊下がザワザワとやかましい。

 

「何ごとだあ!?」

 

 と、一番に教室を出ようとしていた麗日の声が聞こえた。

 我らがA組の扉の外はなぜだか大勢の生徒で溢れかえっている。

 ヴィランの襲撃事件を乗り越えた俺たちA組でも見に来たのか。

 一つ前の席の爆豪は荷物を持ちズカズカと柄の悪い歩き方で扉の前に立つとすぐさまとんでもない事を口にする。

 

「意味ねェからどけ。モブ共」

 

 爆豪の発言に、普通科の誰かとB組のデカいのが絡んでるけど、これがヒーローを目指してるヤツらねぇ。

 アホくさ。

 俺も早く行かないとキレられるし、とっとと帰ろ。

 

「関係ねえよ……上にあがりゃ、関係ねぇ」

「確かに関係ない。別にオマエら蹴落としてぇわけでもないし。どけよ」

「お前もなにしてんだー!?」

 

 爆豪と共にグイグイと人の波を押し避けて通ろうとするが、前の方から声が聞こえた。

 

「随分言ってくれるじゃないか!君だろう?逃げればいいものを唯一ヴィランに無謀に挑んでボロボロにされたのは!?さすが自分勝手な人は言う事が違うなぁ!!」

 

 嫌味ったらしいヤツだな。

 オマエら、と言うのに込めたつもりはないがザコと言われているとでも受け取ったのか。

 そういや爆豪がモブっつったからそれと同意してると思われたんかな。

 しかも言ってる事は合ってるってのが、自分でも腹立つな。

 

「だろ?クソ弱え自分が腹立つから、お前みたいにいちいち周りなんか気にしてらんねぇんだよ。わかったら……うるせえ口閉じて消えろ」

 

 あームカつく。

 コイツは少なくともブッ飛ばしたい。

 あれ?

 少し、やる気出てきたかも。

 

 

 

 

「あーもー!爆豪と間のせいでウチへのヘイト集まりまくってんじゃねぇか!!」

「でも、二人ともシンプルで男らしいじゃねぇか!」

 

 切島の言う通り、二人ともロックだな。

 

「あはは!仕方ないよーあの二人だもん。でもでも!私たちも負けてらんないじゃん!?あがろーよ!上に!」

「やる気ね。透ちゃん」

「そうですわね。周りを見ている暇もないですわ。私も、私にできる事を為すだけですわ」

 

 その通り。

 周りなんか気にしてらんない。

 ウチも強くならなきゃいけない。

 

 あのUSJで思い知った。

 やれる事はもっとあった。

 もう、後ろを走るのは嫌だ。

 隣がいいんだ。

 小学生の時の事件と何にも変わってないと、昨日葉隠の家から帰る途中にふとたち寄った病院で、寝てる唯守を見て改めて思い知った。

 

 その時に偶然出会ったのが、時織姉。

 

 

──

 

 

「唯守、ウチは何にも変わってない。アンタばっかりどんどん先に行っちゃって、全然追いつける気もしない。待っててなんて言いたくないけどさ。流石に、無茶すんのはやめてほしーよ」

 

 ガラにもなく耳郎響香は落ち込んでいた。

 唯守の頭に巻かれた包帯を撫でて、左手の傷を撫でる。

 昔も今も、自分は何もできていない。

 時織と自分を比べている唯守と同じで、唯守と自分を比べてどうしても劣っていると感じてしまう。

 全体から見れば上位の実力者ではあるのだが、自信が持てないのだ。

 そしてその劣等感のピークは、このヴィラン襲撃事件を機に2人同時に訪れていた。

 

「あらぁ?響香ちゃん?」

「時織姉……?」

 

 随分と久しぶりに出会った2人だったが、お互いにすぐにわかった。

 弟の想い人である、はずの少女と、憧れていた、幼なじみの姉。

 

「久しぶりねぇ。相変わらず、弟が心配かけるわね」

 

 口元が少し上がったようにも見えるが、その感情の起伏は無い。

 昔と変わらない時織の鉄仮面ぶりに、響香は変わらない姉弟だと内心で苦笑すると同時に、唯守の左手を握っている事に気づき、慌てて手を引っ込めた。

 

「あっと、久しぶり。です」

「昔みたいに、敬語なんて使わなくていいわよぉ?私は気にしていないから」

「うん。そっか。時織姉も変わりなくて良かった」

 

 寝ている唯守を尻目に2人で再会の挨拶を交わして、昔話に花が咲き、と言っても一方的に響香が話していたのだが、それはすぐに今回の話へと変わる。

 

「相変わらず、ウチは何もできなくてさ。ちょっと、落ち込んでた。唯守も唯守で相変わらず無茶するし、でもウチじゃ止めらんないし、助けにもなれなくて」

「そう。響香ちゃんはわからないけど、唯守は私が強くするから大丈夫よ。それじゃあ」

「え…?」

 

「まだ寝てるし、少し準備をしてこようかしら」と言って出て行こうとする時織を響香は呼び止めていた。

 

「時織姉…!ウチも、ウチも鍛えてくれない、かな?」

「……いいわよぉ」

 

 そう言ったのだが、特にその後の約束を取り付けることもなく、時織は出て行ってしまった。

 

 

──

 

 

 あと二週間……やれる事をやらなきゃ。

 どこいけばいいとかは聞いてないし、ひとまず唯守を追いかけてみよ。

 

「ん?響香?どしたの?」

「……ウチも、強くなりたい。どうせ修行してるんでしょ?あとニ週間はさ、二人でやらないかなと思って。時織姉にはもう話してる」

 

 たっぷりとウチの顔を凝視した後に、ようやく口を開いた唯守。

 

「姉ちゃんがいいなら俺はいいけど……後悔しないか?」

「しないし」

「本当に?腕とか足とか滅却でもがれるかも知んないぞ?」

「は!?」

 

 何言ってんだコイツは。

 とうとうおかしくなったのかと思う。

 

「いやホント。幻覚だとかそんなチャチなもんじゃなく、現実にもがれる。一応この通り元には戻るけど」

 

 そう言いながら軽く右腕と左脚を上げて見せる事から、きっと本当なんだろう。

 なんつー無茶苦茶な。

 でも、後に引くのはダサいよね。

 

「望むとこ。やってやろうじゃん」

 

 唯守は久しぶりに、昔と同じように満面の笑みを浮かべていた。

 あの時みたいな純粋なものじゃなかったのだろうけど。

 後で思う事になるけど、ホントにこの時の唯守は余裕なかったんだろうなぁ。

 

「これで響香にも共感してもらえるなー。あ、ギャグでもなんでもないぞ?」

「……何寒い事いってんの。唯守が無茶苦茶なのは知ってるし、時織姉がいるなら、ウチも確実に強くなれると思うから」

 

 でも、この時の事を一瞬、いやたぶん一瞬よりは全然多いと思うけど、ちゃんと後悔はした。

 

 

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