現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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26話 あがる体育祭

 

 

 とうとう雄英体育祭当日。

 この2週間、やれる事は全部やった。

 正直あんまやる気も無かったけど、あのクソやろうのおかげかやる気は十分。

 後は、雄英に話をしにいくついでに久しぶりに鑑さんと会うと言っていたジジイの言葉。

 

『またも大怪我を負うとは情けない。ワシが現役の頃であれば余裕で優勝しとるわい。むしろせんと許さん。結界術で他を圧倒できるくらいには強く在れ。個性の方はこれ見よがしに使うんじゃないぞ』

 

 色々と秘密だったのではなかったかと思うが、結局は強い事が大前提のよう。

 ジジイの現役云々の話は知らんが。

 

『少しはマシになったかしら。同い年の子の中だと、個性抜きで優勝くらいして欲しいものだけど』

 

 姉ちゃんにも、響香ともどもボッコボコにされた昨日言われたな。

 煽られたままおとなしくいられるほど大人ではない事は自覚してる。

 むしろ、こんだけブチのめされた発散場所が欲しいのもある。

 それに、隣もやる気は十分みたいだし。

 

「なに?」

「いや、今更だけど、ごめん」

「謝らなくていいって。ただ、やっぱ時織姉は守美子さんと一緒で規格外だね……」

 

 少し遠くを見ている響香であったが、姉ちゃんからは結界術以外はよくわからないので純粋に体の使い方と戦闘術を叩き込まれていた。

 傍目にはわからないが、2週間前とは比べ物にならんくらいになってると思う。

 

「確かに。俺はちゃんと聞いたしな。響香の意志だぞ」

「だからいいってば。まぁ、やれる事はやったし。優勝すんのウチだから」

「……上等!」

 

 グッと出された拳に拳を合わせて、なんかハズイけどちょっと上がるな。

 

 

「客観的に見ても、お前より俺の方が実力は上だと思う」

「へ!? うっ、うん……」

「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索する気はねぇが……お前には勝つぞ」

 

 なんか話してるとは思ったけど、轟による緑谷への宣戦布告。

 クラス全員のいる更衣室の空気が変わる。

 だが、緑谷も覚悟は決まってるらしい。

 初めは自分を卑下するようなものだったが、それは徐々に変わっていく。

 

「皆、他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。

 僕だって、遅れをとるわけにはいかないんだ……

 僕も本気で、獲りにいく!」

 

 緑谷……良い顔してんなぁ。

 熱のこもった瞳とその覚悟の色にはこっちも思わず熱くなる。

 ただ、轟はなんで緑谷にだけ、宣戦布告したのか。

 オールマイトに目をかけられてるってのはなんとなくわかるけど、そんなんでこっちをモブ扱いされるのはたまったもんじゃない。

 俺がこの2週間で何回殺されかけたと思ってんだ……!

 

「ぐちゃぐちゃウルセェ。半分野郎も、クソデクも、テメェらも全員ぶっ倒して、一位になるのは俺だ……!」

「無視して二人で盛り上がってんじゃねーよ。俺が勝つんだよ」

 

 奇しくも爆豪と同じタイミングで立ち上がり、声も被り、同時に顔を見合わせる。

 気まず。

 

「被せてんじゃねェ!猫毛がコラァ!」

「しゃーねーだろあの二人の空気ムカつくし。てか、猫毛って悪口なのか?」

「二人で盛り上がってなんて……」

「……」

 

 四人で睨み合いになったところで、扉が開く。

 どうやら入場の時間らしい。

 

「……チッ!」

「……」

「間、お前にも負けねぇ…!」

「取ってつけたよーに言ってくんなっての」

 

 爆豪も、緑谷も、轟も。

 クラスの連中も誰一人として舐めてかかってちゃ足元掬われる相手。

 ただ、その中でも一番厄介なのはきっと、

 

「ロックしてんね。まっ、ウチが勝つんだけど」

 

 隣で不敵な笑みを向けている、響香だと思うけど。

 

 

 

 

「頭領は見ないんですか?」

「そうねぇ。少し調べたいこともあるし、私はここを離れるわ」

 

 頭領こと、間時織。

 たかだかひとつ上の年齢でありながら、その実力は折り紙付きで底知れない。

 "妖混じり"である自分や仲間たちを「役に立ちそうだから」と助けてくれたのはきっと、本当に自分のためだったのだろう。

 いや、家族のためか。

 

 個性の暴走。

 個性を制御できていない。

 そう言われ、親からも見放された私たちに居場所をくれた。

 炎縄印というものを付けられた時はかなりの痛みはあったが、どんな理由であろうとこの力を扱えるようにしてくれた。

 私たちを人に戻してくれたこの人は恩人であり、私にとっては家族に等しい。

 初めは嫌がっていたが、いつしか仲間たちから頭領と呼ばれる事も受け入れてくれたみたいだし、あの弟くんのおかげか最近は少しだけ、人間味もあるように思える。

 

「そうそう仕掛けてはこないでしょうし。まぁ大丈夫でしょ」

「そうですか」

 

 この人が言うのであれば、きっとそうなんだろう。

 それよりも、少し気になることがあった。 

 

「そういえば、なぜあの子にも手ほどきを?」

 

 私たちですら、頭領から妖の力の使い方以外を習った事はない。

 なのに、あの少女には弟くん同様に真面目に訓練をつけていた理由が気になっていた。

 

「? だって、可愛いじゃない」

 

 こんなにも人間味のある人だったかと疑うが、自分の家族が絡むこととなると途端に人が変わるのは、いつものことか。

 

「どうかした?」

「いえ、頭領もやっぱり人間だなと思いまして」

 

 失礼なと口では言っているが、その口角は上がっている。

 

「まぁ。頭領不在の間は私が彼を守りますよ」

「えぇ。任せるわね」

 

 随分と久しぶりに自分を頼ってきてくれたのだし、仕事はきっちりこなすとしよう。

 他ならぬこの不器用な人のために。

 

 

 

 

『雄英体育祭!!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!!』

 

 プレゼント・マイク先生の大音が場内に響き渡る。

 

『どうせテメーらアレだろ!? こいつらだろぉ!? ヴィランの襲撃を受けたにも 拘らず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星』

 

 とんでもない煽り。

 一番に入場なのはこのクラスなので自分たちの事を言ってるのだろう。

 

『ヒーロー科!! 1年!!! A組だろぉぉ!!!?』

 

 体育祭の会場であるスタジアムに大歓声がこれでもかと響いている。

 えらく持ち上げるような紹介の中での入場ってのは、緊張するな。

 

「間ちゃん。落ち着いて」

「お、おぉ。ありがと梅雨ちゃん。俺こーいうの初めてなんだよ」

「全部式神任せでサボってたもんねー。安心してっ!中学の時はこんなんじゃないから、みんな初めてみたいなもんだよ!」

 

 ソワソワとしていたからか、近くを歩いていた梅雨ちゃんに言われて我に帰る。

 それと、透の言う通り、緑谷も切島もソワソワとしているし、峰田は人の字を手のひらに書いて飲み込んでいた。

 なんだ、みんな緊張してんじゃんと周りを見て自分の心を落ち着かせる。

 

『お次は同じくヒーロー科!! 1年B組ィィィ!! B組に続いて普通科C、D、E組に、サポート科F、G、H組も来たぞー!!! さらにさらに経営科の……』

 

 続々と入場してくる一年生たちも、緊張している者もいたり、俺たちを異常に持ち上げる実況に対して不満そうにプレゼント・マイク先生のいる放送席を見上げていたりと様子は様々。

 中でもB組の対抗心のようなものは漏れ出しており、こちらへと突き刺さるが、拳藤と目が合うとグッと拳を突き出していたので俺も答えておいた。

 みんながみんな、A組に対してそういうわけじゃないか。

 襲撃を乗り切ったとはいえ俺は死にかけて終わっただけだし。

 と、そこで拳藤の奥に見える金髪はニヤニヤと俺を見ている。

 

 あんのヤロォ……B組かよ……!

 誰かも知らんがブッ潰す!!

 以前俺を煽ってくれたのは忘れてない。

 というかテメェのおかげでやる気出たんだ。

 舐められたまま終わるのはムカつくから完膚なきまでに負かしてやる。

 

 と、人知れず俺が燃えている間に一年生全員が入場を終え、整列が完了した。

 

「選手宣誓!!!」

 

 中学校で言う朝礼台のデカいバージョンみたいなのに登壇したミッドナイトがピシャンと音立てて、鞭を振るった。

 

「18禁ヒーローなのに高校にいていいのか」

 

 常闇が小さく疑問を口にしたところで、峰田は「いい」と即答。

 他にもザワついてる生徒がいたからか、「静かにしなさい!!」と再度ミッドナイトは鞭を鳴らし、一喝する。

 

「選手代表!! 1-A爆豪勝己!! 前へ!!」

 

 え、アレが代表?

 相澤先生も止めなかったのか?

 ヒーロー科の入試一位とはいえ、絶対人選ミスだろ……

 

「あいつ一応入試主席だったからなぁ」

 

 俺と同じことを瀬呂は呟き、普通科の女子から「ヒーロー科の入試な」と、言われている。

 感じ悪いなー。

 けど、アイツはもっと感じ悪いだろうな。

 

「せんせー」

 

 ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま登壇した爆豪は、スタンドマイクの前でそう言った。

 会場は異常な静けさに包まれている。

 その後の一言で、爆発するとも知らずに。

 

「俺が一位になる」

「「「絶対やると思った!!!」」」

 

 やっぱ、みんな仲いいなー。

 全員ではないが切島を筆頭に声が揃っている自分のクラスの連中であったが、他のクラスの人間からしたら舐めきった選手宣誓にブーイングの嵐が巻き起こる。

 調子に乗るななど、ヘドロヤローなどと他のクラスからは罵声が飛び、

 

「何故品位を乏しめるようなことをするんだ!!?」

 

 と、同じA組の飯田からもツッコまれている。

 だが爆豪はそこから追い討ちのように言葉を続けた。

 爆豪へのヘイト値がMAXになった他クラスの生徒たちに向け、親指で首を掻っ切るポーズ。

 

「せいぜい跳ねのいい踏み台になってくれや」

 

 やってくれんなー。

 まぁ、他の奴らはどうでもいいか。

 俺は俺で、一位を獲るだけだし。

 

「さーて、それじゃあさっそく第一種目行きましょう!!」

 

 騒がしさも収まっていない中、ミッドナイトもサクサクと進行を進めていく。

 麗日の言う「雄英ってなんでもさっそくだね」と言う言葉には激しく同意した。

 なんでもかんでも早速早速と進んでいくイメージは確かにあるもんな。

 

「いわゆる"予選"よ!毎年ここで多くの者がティアドリンク!!」

 

 ミッドナイトの言葉と共に、突如現れたホログラムへと視線が集まる。

 

「早速ではないよね」

「言いたいだけなんじゃね?」

 

 響香の呟きに、上鳴はホログラムからは視線は逸さずにそう返していた。

 確かに、ドゥルルルとスロットのリールのように回転しているホログラムは全然早速ではないし、はよしてくれ。

 

「さて運命の第一種目!! 今年は……コレ!!!」

 

 バンッと決まったミッドナイトのポーズと共に、バンッと表示されたのは『障害物競走』の文字。

 

「計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周およそ4km!」

 

 総当たり戦。

 一気に振るいにかけるわけか。

 まー予選って言ってたし、何人くらいを勝ち上がらせるのか。

 11クラスで200人以上いるが、三種目で終わりだしまずは50人ってとこかな?

 最後は20人いるかいないかくらいまで絞るのか、10人まで絞るのか。

 まぁどっちてもいいや。

 一位になれば、そんな考えは意味がない。

 

「我が校は自由さが売り文句! ウフフフフ……

 コースさえ守れば何をしたってかまわないわ!」

 

 何をしたってかまわない。

 なら、このレースは完全に俺向きだな。

 

「……完全に唯くん向けじゃん」

「確かに……」

 

 透の呟きに同意している響香。

 どうやら気づかないうちに口角は上がっていたらしい。

 ただ、俺と比べると2人は機動力を補助するような個性でもないので俺の方が有利なのは確実。

 

「ハハハ。第一種目はもらったな。二人は地道に走ってくれい」

「あくまで第一だし。予選なんだから最後に勝てばいい」

「うん!私も負けないからねー!」

 

 口を尖らせた響香と、どこぞの戦闘民族のようにワクワクが全面に出ている透。

 響香は共に姉ちゃんに扱かれたからわかる。

 が、透も何をしてきたのか知らないが呪力が目に見えて増している。

 一体何をしてきたというのか。

 他の連中もそうだけど、やっぱ体育祭って気合い入るもんなんだな。

 

「さあさあ、位置につきまくりなさい……!」

 

 ミッドナイトの声がし、俺たちもスタート位置である、大きな門の前へと向かう。

 

「よっしっ!つきまくろー!!」

「じゃ、お互いがんばろね」

「ん」

 

 二人との会話もそこそこに、位置につきまくれとのことなので俺も適当な位置を陣取るとしよう。

 A組潰しでも発動しかねない勢いだし、一発仕掛けとこうかな。

 

 会場の外に続く巨大なゲート。

 そのゲートの上の部分には三つのランプが点灯していた。

 そのランプが順々に消えていくのを集団の後ろの方から眺めながら、最後のランプが消えると同時に、練り上げた呪力を解放した。

 

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