現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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3話 不可視可視

 

 

 間唯守13歳、中学2年生。

 

 3年前から、俺はかなり真面目に修行に取り組んでいた。

 妖をこの目で見たあの日から、俺の中で御伽噺は現実にあったものへと変わっている。

 残された多くの書物も、幼かった当時は理解できなかったものも、今ならできるはず。

 レーザービームや地球を割るほどの超パワーを求めてひたすらに読み耽っていたのだが、そんなものは流石になかった。

 世界をどうとでもできる力を永遠に封印したって……ご先祖様はよくコレだけでなんとかできたなと、指先に小さな結界を作りながらも改めて感心した。

 そんな考え事をしながら読みづらい文字を読んでいたのだが、そこで俺はみつけてしまった。

 こんな便利なものがあったとは……

 今思えば、家を開けると言ったはずなのに、いつまでも家にいるジジイを不思議だと思っていたが、その謎も解けた。

 書物によれば数百年前だから、まだ超常の発生する前とはいえ、文明は今とほとんど変わっていない時代。

 ご先祖様も、俺と同じ用途に重宝したことだろう。

 その「力」の名前は「式神(しきがみ)」。

 術者の呪力を具現化し、使役し働かせることのできる「力」。

 三椏(みつまた)やマニラ麻を原料とした、まぁお札に使われているような和紙に呪力を込めて作成できる。

 あらかじめ呪力を込めておけば、発動の時の呪力を少なくできるから作り置きが可能だし、なにより素晴らしいのは動きを細かく設定し、見た目も自由に具現化できること。

 形や動きを複雑にすればする程に呪力を消費するが、それは仕方がないことだと割り切っている。

 これを発見してからは、俺は少ない小遣いをはたき材料を買い集めると、ひたすらに式神作りに励んでいた。

 教室でも、家でも、暇さえあれば体力の許す限り、ひたすらに作成し続けた。

 単純命令用のB式神と、戦闘用のA式神を少々。

 そして、スクール用のS式神を大量に作成したことで、今の快適な修行ライフを手に入れた。

 

 それからというもの、学校は全て式神に通わせ、俺は山でひたすらに鍛錬を続けていた。

 目下行っているのは、結界の形状変化と性質変化。

 それは結界内の機微を察知する事ができる探査用結界であったり、結界にトランポリンのように反発力を持たせることも可能なもの。

 今までは強度を上げる事と、武器術ばかりをやらされていたが、ジジイ的にはまずは身体を作ることから始めさせていたと言うところだろう。

 もちろんそっちの鍛錬も忘れていないし、ひたすらに牛乳も飲んでいる。

 これで胃腸も骨も強くなり、あわよくば高身長も手に入れられることだろうと未来の自分に期待を膨らましていた。

 

「よし、やるか」

 

 小学校卒業と同時に出身地、と言っても生まれた時の、物心つく前まで住んでいた場所である静岡県に引越していった響香に、半ば強制的に約束させられたから。

 というのが理由ではないが、俺もヒーローを目指すことにした。

 目覚めた夜に、窓越しに見た響香の目には確かに涙が見えたし、あれからというもの、この左手をたまに見る響香の表情も見たくない。

 あんな顔は、もうさせたくない。

 俺がひたすらに強くなればいいのだと、日が暮れるまで今日も鍛錬に明け暮れていた。 

 

 

 

 

 葉隠透は中学校に入るとすぐに、いろんな人とすぐに打ち解けていた。

 【透明化】という個性のため、着用している衣服以外は全く見えない、透明故の積極的な存在アピールと、持ち前の明るさで、入学して半年も経てばクラスの中心的存在となっていた。

 だが、そんないつも明るく、悩みなどないように見える彼女にも、2年生になって悩みできた。

 透明でこそないが、どこか存在の薄い人間がいる。

 というか、人間なのかも怪しい人。

 1年生の時は同じクラスではないから見る事もなく、気にもならなかったが、2年に上がったクラス替えで同じクラスになった男。

 大抵は人じゃないような、なんとも言えない存在なのだが、ごく稀に普通だから余計に混乱する。

 下手をすれば透明な自分よりも希薄な男子生徒、間唯守が気になって仕方がなかった。

 

(なーんか変に見えるんだよね。ちょっと、後つけちゃお!)

 

 そんなノリで動くところも、葉隠透の人気のひとつであったが、今回は驚愕をすることとなる。

 学校ではハイかイイエ、ワカリマセンかスミマセンしか言わない、謎多きクラスメイトを下校後、ひたすらに追いかける。

 

(スニーキングミッションは私の専売特許!絶対にその正体を突き止める!!)

 

 心の中でそう思う今の葉隠は、生まれたままの状態。

 つまり、全裸であった。

 こうすれば、透明化できない衣服もなくなり完全な透明人間となり不可視となる。

 この状態であれば、尾行などお茶の子さいさいと思っていた。

 曲がり角を曲がり、人気の無い道へとどんどんと向かっていく唯守。

 なぜ、脇目も振らずこんなにも街の外れに向かうのか。

 

(これは、黒だね!さぁ!いったい何を隠しているの!間くん!)

 

 そうして、本当に誰もいない路地裏。

 というか、工場跡地の脇の通路に入っていくと、ボフンと軽い音を立てて、間唯守は突然その姿を消した。

 

「え?えぇーー!?」

 

 思わず声を出してしまうも、誰もいないため返事も無い。

 さっきまで唯守が歩いていた場所には、手のひら程のサイズである長方形の和紙が落ちており、中心には何で書いたのかはわからないが正方形が描かれている。

 

「え?なに、コレ?私、とんでもないもの見ちゃった……」

「とんでもないもの見てんのは俺だ!服着ろよ!」

「うわーーッ!?」

 

 今の私は完全に透明。

 見えるとしても手に持っているこの紙切れだけで、誰にも姿は見えていないハズ。

 それなのに服を着ろだなんて……

 背を向けて、自分の着物のような上着を手だけで差し出している。

 

「えっとー?もしかしてだけど見えてるの?そのー。私のこと?」

 

 背中を向けたままだけど、コクコクとうなづいているいるのはわかる。

 とたんに、私の体温が上がっていく。

 恥ずかしすぎる。

 誰にも見られる事のないインビジブルヒーローになる私に、とんだ天敵の登場だ。

 

「さっさと着てくれ」

 

 目を瞑ったままの彼に無理やりに被せられた服を着るも、普通に汗臭い。

 でも、正確に頭に被せてくるってことは本当に見えてるのかなぁー?

 

「めっちゃ汗臭ーい!」

「我慢しろ。自分の服はどこやったんだよ」

「ないよ。置いてきたから」

「………」

 

 目頭を押さえて俯いている彼に、突然チョップされた。

 

「アタッ!いきなりひどいよー!」

「はぁ……お前な。可愛い顔してんだからそんなんじゃ変質者以外にも攫われちまうぞ。今後はちゃんと服着て歩け。じゃあな」

 

 可愛い……顔?

 やばい。

 やっぱり見えてるんだ。

 

「イヤー!恥ずかしーーー!!」

 

 葉隠の絶叫が唯守も足速に去っていった、誰もいない廃工場に響き渡った。

 

 

 

 

 中学2年の夏。

 俺には悩みがあった。

 それは数ヶ月に一度と、極めて少ない頻度で行われる妖退治の話ではない。

 ついこの前に全裸で出会った、アイドル並みに可愛い美少女についてである。

 2,3ヶ月に一度くらいは流石に学校に自ら行くようにはしているのだが、あの美少女はなんとクラスメイトであった。

 あの時は裸だったために制服も着てないし、俺自身が学校に行くことなどないので、今日の今日まで気づかなかった。

 目の前で仁王立ちをしている葉隠透を見ながら、なぜこうなったのかを思い出す。

 

 随分と久しぶりに学校へ行ったものの、式神の時と大差のないように誰とも会話を繰り広げる事なくボッチでいる。

 数ヶ月分の遅れを取り戻すために授業には集中するものの、休み時間は一人延々と式神を作り続けていたのだが、その作業を突如中断させられたのだ。

 

「間くん!ちょっといいかな!?」

 

 綺麗な顔を僅かに赤くした葉隠に、突如話しかけられた。

 ビクリと身体を震わせて、式神用の札を隠しながら顔を上げると、周りの目は完全に俺を向いている。

 おいヤメロ。

 俺は目立ちたくないんだ。

 響香が引越してから、俺にこびりつけられていた美少女と仲良い奴のポジションが戻ってくるじゃないかと心の中で叫びつつも、顔にはなんとか出さなかった。

 

「なに?」

「……もー!来て!!」

 

 手を引かれて教室を出る時、俺を見るクラスメイト達の視線からは困惑が見てとれた。

 無理やり連れてこられたのは、学校の屋上。

 そこで、今に至る。

 

「ほんっとーに私のこと見えてるの?」

「あぁ。少し妙な感じはするけど普通に見えるぞ?」

 

 ガーン!という音がどこかから聞こえてくるほどに大きなリアクションをとる葉隠は頭を抱えている。

 質問の意図はわかる。

 なにかの個性なのだろうが、俺の眼には確かに葉隠の姿は見えている。

 どことなく、結界越しに見ているような妙な感じはするが。

 

「ん?なんかまずいのか?」

 

 俺の質問に答える事もなく、項垂れていたのだが、ガバリと起き上がると両肩を勢いよく掴まれた。

 

「私は透明人間なの!今まで誰にも見られた事なかったのにー!間くんみたいな人がいるなら、私裸見られまくりだし…もっといるなら、この個性でもヒーローになれないかもしれないじゃん…」

 

 尻すぼみにだんだんと声を小さくしていく葉隠は、その身体すらも小さくなってしまったと錯覚するほどに落ち込んでいる。

 こういう時、なんと言えばいいのかはコミュ力の低い俺にはわからないので苦手なんだけど…

 

「俺の先祖は超常が発生する前から、代々目に見えない異能を狩る仕事をしてたから。今で言う個性ってやつも俺の目は過敏に反応して見えちゃうんだよ」

「それじゃ間くん以外にもいっぱいいるってことじゃん!」

 

 あ。

 たぶんなんか間違えた。

 響香もたまに怒る時あったけど、上手く宥めるのは難しい。

 というか、俺っていま怒られているのだろうか。

 この落ち込みようだし、俺も裸でうろつかれるのも嫌だから仕方ない。

 少し修行の効率は落ちるが、助け船を出そう。

 

「今日、俺んち来るか?」

「急になんで!?身体で慰めるってこと?裸見たからって、私そんなんじゃないからねー!もーー!」

 

 あぁ。

 次は色々と間違えた。

 確かに言葉足らずだったのは認めよう。

 いくら多感な中2だからといって、俺にはそっちの度胸はない。

 響香が引越してからというもの、ジジイ以外との会話が無い俺は人との接し方を忘れてしまったようだ。

 

「悪い。そういう意味じゃない。葉隠も見たから言うけど、式神とは別に、異能を道具に付与する(まじな)い、呪刻(じゅこく)の記述も読んだ覚えがある。上手くいけば葉隠の服も透過させられるから、少なくとも、裸は見られなくて済むだろ?」

「え?そんなことできるのー!?じゃあ、私が触れたもの皆透明にも……」

 

 怒った顔からパァァァという音が聞こえてくるような笑顔に変わり、ブンブンと手を振る葉隠は普通に可愛い。

 響香はクールで綺麗可愛い感じだけど、葉隠は動きがいちいち大きいから愛らしい可愛さがある。

 女の子観察はこのくらいにして、あくまで可能性だし俺の欲しい力では無いから正直あまりちゃんと読み込んではいないので、釘は刺しておこう。

 

「触れたもの以前に、そもそもできるかどうかはまだわかんないけどな。それにさ、みんなに見えてないなら、俺とだけは連携とれるんだし、選択肢もやれる事も広がるだろ?」

「あ!確かにそーかも! って、間くんもヒーローになりたいの?」

「ん。まぁ一応」

 

 約束も、あるしな。

 

『ウチ、高校は雄英受ける。そんで受かるから。

 いや、だから……唯守もそうしてってこと。

 そんな顔してもダメ。もう約束したから。

 だから、絶対3年後に雄英で会おうね。

 うるさいなー。ヒーロー志望なんでしょ?

 じゃあ、もー約束したから』

 

 うん、無理矢理だった気はするけど、最終的にはうなずいたんだ。

 俺だけ落ちたら気マズイし3年になったら、少しは勉強しよう。

 葉隠は、ほーほーと妙な視線を向けて来たが、コロコロと表情の変わるこの子は、次は楽しそうに質問を投げかけて…いや、投げ続けてくる。

 

「ねーねー!まじないって他にもいっぱいあるの?あのボフンッ!って消えちゃったの…式神だっけ?あれも私にもできるかなー?

 あ。そう言えば間くんちってどのへん?」

 

 さっきまで落ち込んでいたのはどこへいったのやら。

 笑顔と元気を撒き散らす葉隠が、やけに可愛く見えた。

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