現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
『スターーーーーート!!!!』
スタートの合図と同時に、狭いゲートから飛び出したのは轟だったようだ。
なぜ轟だ! と言いきれないかと言うと、俺はそれを見ていないから。
見ていないのに何故わかるかと言うと、眺めている限りは氷が地面を這っているから。
そう、俺はそもそもゲートを潜っていない。
上から見下ろし、まーまーな人数が氷による足止めを受けているが、A組は全員、B組も殆どの者が氷をどうにかして突破している。
確かに自由だと言っていたし、邪魔すんのもありだよな。
『さぁー実況していくぜー!!って!! 早速客席から一人飛び出して来てんぞー!? アレありなのかー!?』
むっ。
「え? ルールじゃあ、コースさえ守れば自由だろ? "ゲートをくぐれ"とは聞いてないぞ!?」
一応スタジアムの一番高所にある客席の最後方より少し進んだ位置で立ち止まり、放送席に向けて聞こえるかはわからないが確認をしておく。
コースの説明も平面のみで、そのルールに則っているつもりだ。
それで失格なんてことはないだろう?
ゲートをくぐるとこからやり直しならまだいいが失格は勘弁願いたい。
さっきのロッカールームでのやりとりもめちゃくちゃダサいし、何よりこのやる気の行き場を失う。
誰かなんか仕掛けてくるだろうから、はなから開けた空を選択したのが仇になったか……?
「そうね………アリ!!!」
主審であるミッドナイトの言葉を聞き、結局出遅れた事になったが速度を上げる。
そうとわかれば飛んでりゃいいんだし。
コースギリギリを最短で、駆け抜けるだけだ。
『スタートから一悶着あったが一位はA組の轟!!氷結の妨害でスタート地点はぐちゃぐちゃになってんぞぉー!』
今の一位は轟か。
地味に離されてんな。
「結!!」
結界を成形しながらも、遥か上空から轟を追う。
と、下では突破した峰田が上位へと喰らいつき、轟に向けて頭のブヨブヨへと手を伸ばしている。
おぉ!
やったれ峰田!!
「轟のウラのウラをかいてやったぜ!ざまぁねぇってんだ!! くらえ!オイラの必殺──」
と思ったが、その口上はフラグだ……
まぁ、上から見ているから、峰田へと迫るモノが俺からよく見えているのもあるけど。
「グレェーー、ブッ!!!?」
横から飛び出してきたアームにぶん殴られて、峰田の小さな身体は華麗な円を描きながらも地面を転がっていた。
『さぁ! いきなり障害物だ!! 第一関門、ロボ・インフェルノ!!!』
入試の時のロボと、その馬鹿でかいのがいっぱい。
轟も一瞬だが足を止めているようだ。
まぁ、空を行く俺には関係ないけど。
「クソ親父が見てるんだから」
そんな先頭の轟がなんか呟いたけど──
「うっお!?」
ひょいひょいとロボの上を通過しようとしたところで、氷の壁が俺の視界を塞ぐ。
あのヤロウ、狙ってやってんのか?
「あの隙間! 通れるぞ!!」
凍ったロボの合間を縫って進もうとする他の連中だが……
「やめとけ。不安定な体勢ん時に凍らせたから、倒れるぞ」
妨害込みね。
俺もお返ししてやる。
「結!!オラァッ!!」
轟の凍らせたロボが倒れ込む中、中心部に結界をセットして、一気にそのサイズを大きくする。
『1-A轟!!攻略と妨害を一度に!! なんだぁぁあ!? ロボが弾けたぞ!?』
『あれは間の仕業だな。普段は何考えてんのかわかりにくいやつだが、轟に邪魔された事にイラついているようだな』
「もう一発!!」
無事な方のロボの腹を結界でブチ抜く。
もちろん、ブチ抜いた金属の塊は轟目掛けて飛んでいく。
「チッ…!!」
氷で防がれたか。
でも、遅れはもう取り戻してる。
このまま進んで追い抜いて──
「邪魔だ!! ドケクソがッ!!」
後ろから爆豪がとんでもない形相で迫ってきていた。
「じゃあ、お前が道変えろ!」
結界で爆豪を拘束し、すぐさま破壊されるも、爆豪の頭上に新たに成形した結界を伸ばし地面へと叩き落とす。
「こんの…! クソ邪魔箱が…!!」
墜落していく爆豪から視線を外し、気配を感じる後ろを見れば。
「飛べんのはお前らだけじゃねーぞ!」
「ケロっ。結界、私も使わせてもらうわね」
「着地」『アイヨ!』
瀬呂に梅雨ちゃん、常闇もロボの頭上を飛び越えてきていた。
「制空権は持っときたいんだよな。 結!!」
厚みは無いが、特大の結界を設置しておき、止めとくとしよう。
「イデェ!!」
「ゲロッ!?」
「グッ!!」『踏陰!!壁ガアンゾ!!』
全員まとめて結界の壁にぶち当たり墜落していく中、轟の後を追う。
「ん。成功」
『なんだコイツら!? 轟といい、間といい、なんかズリィな!!』
これで追撃の手も止んだし、またも結界で最短ルートを行く。
つもりだったのだが。
「クッ……結!っと」
──BOOOM
飛び乗る気だった結界を破壊され、足元に結界を成形し直して着地。
対空攻撃。
しかも目に見えない技。
こんなことしてくんのはたぶん。
「チェ。おしかったな」
やっぱ響香か。
イヤホンジャック同士をぶつけ合う事によりランダムな方向へと飛び散る衝撃波を、たかだか2週間で任意の方向へと飛ばす事ができるようになった響香の新技。
アイテム無しでも放たれるようになったのは素直に凄いし、習得早すぎないか。
まぁアイテム有りの方が威力も精度も断然上なので今のような制約がある場合か、補助アイテムの使用を警戒させた時の隠し球として使えるってとこだが。
とはいえ、どいつもこいつも妨害したいと見える。
なら、俺も邪魔することに注力してやる!
「どいつもこいつも邪魔しやがって……よしっ。かかってこい。ここは通さんぞ」
大中小と結界郡を生成しながら全員を見下ろして構えを取った。
「邪魔すんなボケ!!」
「どーなってんだよコイツ!!なんとかしろよA組!!」
「俺が行く!!」
吠える普通科やB組と、切島と似た個性らしいやたらと硬い男を結界で叩き潰し地面に埋める。
「通さないと言っただろ?」
『なんで自分が障害になってんだコイツァー!?』
『……アホだな』
と、確かにとしか言えない実況の声。
恥ずかしい。
俺は何をしていたんだ……
「アホすぎるだろ……本当にあの人の弟かよ……」
恥ずかしさのあまり、誰かのそんな呟きは俺の耳には入ってなかった。
*
なんだアイツ。
なんなんだアイツ。
あれで本当に頭領の弟かと疑いたくなる、というか疑っている。
あの人は副長や戦闘班の人らよりも数段、なんていうのも烏滸がましいくらいにかけ離れた、人外の人。
その弟が、コレ?
適当に走りながらも、そんなアホの背中を追う。
そもそも、こんな体育祭なんかにゃ興味はないんだが、副長の命令とあっては仕方がないかと適当に流している。
一回戦敗退となればまた扱かれるのかもしれないし、二回戦でおさらばしよう。
はぁ、めんどくせぇ。
「そっち危ないよ」
腕を掴まれたかと思えば、グイッとそのまま後ろへと引かれる。
そもそも戦闘班じゃないし、非力だと自覚はあるがこうも簡単に女子に腕を引かれると……
「あぁ。ありがとう」
目の前に氷の塊が結界で砕かれて落ちてきたところだった。
別に避けて通るつもりだったが、いつもの対人スマイルを決めて、まぁいいかと心を落ち着かせる。
妖混じりとはいえ、俺に戦闘力がないのは自覚してるし。
とはいえ、こんなヒーロー学校の生徒達に混じって俺に何をしろというのか。
と、一応助けてくれた女にお礼を言ったのだがギョッとした。
そこには誰もいない。
だが、たしかに腕を掴まれており、元気な女特有の高い声が俺の耳に入ってきた。
「うんん!怪我したらヤダもんね!そんじゃ先行くねー!!」
あー、あいつが聞いていた葉隠透か。
ヒーロー科の、頭領の弟と仲の良い女。
結界が乱立しているから撒き散らされた呪力に紛れているし、そもそも探っているのは妖力なので見落としていたな。
呪力で衣服とその身を消しているのだろう透明な彼女は俺の腕から手を離すと、きっと先へと進んだのだろう。
なんて考え事をしていたら、普通に第二関門を通り過ぎてしまっていたらしい。
第二関門は崖から伸びる道が一本のロープになっている。
他の者は尻込みをしたり、先に行く者が渡り切るのを待っていたようだが、別にそんなものは普段通りであれば全く苦ではないので、普通の道のように駆け抜けて、ましてやロープ上で先に行く奴を飛び越え追い抜いてしまっていた。
"普通科"の俺が目立つのもなんだし、気をつけていたはずなのに。
考え込んで周りが見えなくなるなんて、夜行失格だな。
「影宮やるじゃん!」
「まぐれだよ」
今更な言い訳をたった今抜かしたクラスメイトにしながらも、再度感度をあげる。
命令通り、異様な事態を察知するために、少しでも妖力を感じ取れるようにと。
*
怒りのアフガンとか言うアナウンスを聞き流しながらも最終関門、地雷ゾーンへとたどり着いた。
俺はトップ集団に食い込んでいるが、この集団は相手を蹴落としながらゴールへと向かっているので気を抜くとやばい。
「耳!!さっから──ウッゼェーンだよッ!!」
「ジロウだってば。そりゃあ邪魔してんだからそうでしょ、っと!」
響香は男三人に比べて足は遅いが、走りながらも地面へとイヤホンジャックを埋め込み、地雷に向けて振動と音波を放ち、地雷を次々と爆発させて俺たちの邪魔をする事で食らい付いて来る。
「後ろに道作る事になるが、そうも言ってられねぇ…!!」
地雷の爆発を嫌い、轟の氷が地面を這い、響香の爆発地獄をいったん大人しくさせたところで、
「それで防いだつもりか? 下への意識は忘れちゃダメだろ」
「あ、それ時織姉の……」
姉に何度も言われたセリフを真似しながらも、凍らせたために警戒の薄くなった下方向、轟のすぐ前の地面から結界を迫り上げて妨害。
「クッ…!!」
睨んでくる轟の上を飛び越えた瞬間、自身を結界で囲う。
ようやく抜かした。
これで暫定一位──っ!!
「結!!」
「んなもんッ!!」
──BOOOOOM!!!
こんなところでそんな火力発揮するかね。
結界を解いて下へと自由落下で移動しながらも、爆豪に向けて新たな結界を成形して動きを封じる。
と、ここで響香に抜かされた。
『ゴール前のデッドヒートがヤベェーーー!! コイツらホントに一年かよ!?』
『(耳郎の動きが異常な程に向上しているな……もともとセンスのある奴だとは思ったが、何があった?)』
着地の瞬間を響香に狙われるも、抜かしたばかりの轟を盾にして回避。
「それ流石にズルくない!?」
「あるもの使うのは基本だろ?」
「間ァ…!」
一瞬脚を止めた轟は無視。
響香を抜かして、これで一位に返り咲き!
「固まってんなら…纏めて死ねやァ!!!」
マジで殺す気できてんじゃないのかと言う爆豪に対して、多重結界を成形しようとしたところで。
『ゴール目前の四人に対して、A組緑谷が爆発で猛追ーーー!! っつーか!!!抜い、てねーーー!!!』
爆豪にかける予定だった結界を変更。
方囲のサイズを一気に広げて巨大結界で二人を鉄板ごとまとめて囲う。
「「「ッ!!?」」」
──BOOOOOOOM!!!!!
声にならない声が聞こえた気がするが、ゴールは間も無く。
サイズもデカいし、結界は簡単に砕け散ったが、緑谷も失速してる。
これでゴール……!!
『争いは争いを生む!!争いは決して無くならない!!』
『何言ってんだお前』
後は五人でのデッドヒート。
奇しくもロッカールームで睨み合った連中。
はっはっは。
やっぱ俺の勝ちだった。
『一歩飛び出たのはA組の間ァ!!これは決まったかぁ!!?』
よしっ。
勝っ──てない!!?
『緑谷最後の地雷源で間髪入れずに鉄板スイングで再び爆発を起こし、後続を引き離すー!!!』
チッ!!
結界で、オラァ!!!
緑谷をハエ叩きの要領で叩き落として……
「SMASHHHH!!!」
ゲッ!?
『序盤の展開から誰が予想した!? 今、1番にスタジアムへと帰ってきた男!!緑谷出久の存在を!!!』
緑谷のデコピンから生み出された衝撃波により、俺の結界は粉々に。
一位だと、思ったんだけどな。
俺を追い抜いた鉄板を投げ捨て……ん?
そこには見覚えのある少しボヤけた人影がくっついており、それは鉄板から勢いよく飛び立つ。
『そして二位はA組はざ──あん?』
それはだんだんとハッキリしてきて、実況席や客席からも見えているようで、ザワザワとしていた。
「はっはっは!!緑谷にはギリ届かなかったけど……唯くん!私の勝ち〜!!」
これでもかと言うほど眩しい笑顔で俺へとVサインを決める透が、そこにいた。