現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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30話 本気

 

 

 それは、雄英体育祭第二試合が始まってすぐの事。

 

「エンデヴァーさん。これから少し妙な気配がすると思いますが、我々の"仕事"ですのでお気になさらず」

「なんだ貴様は?」

 

 No.2のトップヒーローであるエンデヴァーの側に現れたのは、もうすっかり暖かくなった春の季節だと言うのに、丈の長い、季節外れのコートを着た男だった。

 

「ブルーロック事務所の者です。御子息もいらっしゃるので、『危険』と貴方が判断されれば我々には動く事を止めはできませんが」

「……フンッ。貴様らがこんな日中に行動しているとはな。好きにしろ。俺も好きにする」

「えぇ。ありがとうございます。もしもですが、貴方にも"視える"のであれば、是非お力添えを」

「……俺はオカルト話に興味はない」

 

 エンデヴァーは胡散臭いものを見る目を男から逸らすと興味を失ったようで、再度息子である轟焦凍が出場している舞台へと目を向けた。

 ただし、今までとは打って変わり、最大限の警戒をしながら。

 

 

 

 一方で、No.1ヒーローであるオールマイトをはじめ、雄英の教師陣は一回戦が始まるよりもずっと前から臨時の雄英警備員となった刃鳥の話を聞いていた。

 

「体育祭の防衛ですが、事務所(うち)には霊体だのを感知する力、所謂霊感の強い者がいます。そこに関しては私も含め皆さんよりも向いていますので、私が動いた場合でも相手が視認できないのであればほうっておいてください」

 

 そう言った刃鳥にもちろん反発する者や、突然現れた臨時の警備の者に任せろと言われても、という意見が多かったが、実際問題視認すらできないような霊感の弱い、呪力をもたない人間では霊体や妖へ効果的にダメージを与えることは難しい。

 妖などの者は基本的に精神体のくせに、こちらの実像にダメージを与えてくるといった、文字通りあの世とこの世の間の住民。

 殺り合うのであれば、精神体に直接ダメージを叩き込む呪力を用いる事が一番効果的な為、刃鳥はこうも続けた。

 

事務所(うち)の者も警備に当てますし、何か動きがあれば必ず伝えましょう。もちろん、(ヴィラン)が相手であれば我々よりも皆さんが対処された方が確実ですので、その場合我々はサポートという形を担当しますよ」

 

 (あやかし)であれば刃鳥たちブルーロック事務所が、(ヴィラン)であればヒーロー達が対処すると言う事で半ば強引に会議を終わらせた刃鳥。

 

 そして今、雄英の教師陣は刃鳥の部下から襲撃かはわからないが霊体と接触しているという話を聞き静観はしていた。

 それは他の警備に当たっているヒーロー達も雄英からオカルト事務所との関わりを聞いていたため、同じくただ静観している。

 ただ、確かな実力を持ったヒーロー達は、見ることは叶わないが遥か上空で何かが起きている事を確かに感じ取っていた。

 

 

 

 

「そう怖い顔するなよ。俺は"まだ"何もしていないじゃないか」

「オイコラ。その腐った目こっちに向けんな。消すぞ」

 

 唯守の目から光は失われ、代わりに膨大な呪力を身体に纏っている。

 そうして現れたものには、明確なまでの対象を"消滅"させると言う意思が具現化された、拒絶の結界であった。

 

「アンタはちょっと、黙ってなさい」

 

 そんな唯守の全力の結界に向け、時織は自身の持つ天穴、片鎌槍の穂先で結界を数度切りつける。

 たったそれだけで、唯守が全力で成形した結界はいとも容易く切界され練り込まれた呪力とともにあたりに霧散した。

 

「……は? コレになんかあんのか? 何がしたいんだよ?」

 

 なぜ邪魔をするのかと、実の姉に向けて苛立ちのままに呪力をぶつける。

 しかし、姉はそんなモノ意にも介していないが、この場を包み込んでいる結界内部には元々姉の呪が満ちている。

 そこに生じた弟の呪力も重なり、混じり、交錯する。

 結界師とはさまざまな空間使いの術師の中でも、遥か昔から最高峰に位置する術師。

 今は時織の作り出した巨大な結界の中とは言え、それはこの現代ではあり得ないほどの濃密な呪を放っていた。

 

 

 

 

「耳郎?どうした?」

「時織姉来てない? しかも唯守とマジゲンカしてるっぽいし……」

「誰それ?」

 

 様子のおかしい耳郎に問いかけた切島と、耳郎のよくわからない返答に首を傾げた瀬呂。

 耳郎からすれば姉弟喧嘩、というか唯守が時織に突っかかる事は珍しい事じゃないが、今感じるコレはたまに間家で起きる背筋がゾクゾクとする感覚の比ではない程に強い。

 そんな様子に、爆豪は苛立ちを全開にして吠えた。

 

「うるっせぇぞクソ耳!テメェらも集中しろや!今目の前のことに!全部ぶっ倒すんだろが!!」

 

 そうだ。

 爆豪の言う通り、そうなんだけど、気になるし、心配だ。

 でも、今は体育祭中で、しかもチーム戦。

 勝手はできない…… 

 耳郎の胸の内は自分でも言い表せないほどに、葛藤していた。

 

「オイ耳。なにがあんのかしんねぇが、ここにゃオールマイト含めプロヒーローがアホみたいにいんだ。だから、今は俺の役に立てや!」

 

 一瞬、ほんの一瞬試合中ということも忘れて呆けてしまったが、すぐに顔を引き締めた耳郎。

 

「あんがと。ただ、あんたの役に立つためじゃないけど! ほら瀬呂! 峰田の来てるよ!」

 

 今は、目の前のことに集中する事にした耳郎。

 障子に乗る峰田から放たれるモギモギをソニックブームで叩き落とした。

 遥か上空にいるであろう三人とプラスアルファが気にはなるが、逆にあの間姉弟がいるのであれば、自身の憧れたヒーロー達がいるのであれば、問題は起きないのだろうと思考を切り替えていた。

 

 

 

 

 いきなりの展開で驚きはしたが、なぜこの二人が対立しているの…?

 姉弟喧嘩が仮にあったとしても、絶対に今ではないだろうに。

 

「頭領。今は──」

「刃鳥。邪魔なものはもう消したから、あなたは抑えた方がいいわよ」

 

 相変わらず人の話を遮る人だが、無駄なことを言う人じゃないことは知っている。

 恐らくだが邪魔なものと言うのは道中に滅したであろう低級な妖の事だろう。

 だが、"押さえた"方がって、どういった意味……?

 何か来ているのだとしても、ウチ一番の感知タイプが気づいていないはずが──!!

 

「こちらに構うな!!」

 

 スタジアムから感じたのは紛れもなく妖気。

 完全変化などこんな場所で、ましてや生徒が行えばどうなることか。

 影宮はスパイでもなんでもなく、一番若いうちの関係者ではあるが、まっとうな道を歩んでもらいたく雄英の受験を勧めたのだ。

 こんなところでいらぬ猜疑心をかけられるのは、影宮にとっても私からしても望んだことではない。

 時織はやると言ったらやる人間であることは熟知している。

 だから、私が今すべき事は影宮を止める事と……唯守くんを競技に戻す事、か。

 

「ふむ。あの程度じゃあ百でも足らんか。それに、お前"も"子飼いの連中は妖混じりばっかりか? 今じゃほとんどいないはずだが、歴史は繰り返すものだな」

「? そんなことより、本当は何しに来たのかしら?」

 

 キチキチと音をさせてホバリングをする黒い蜻蛉は、その複眼全てで無道を捉えている。

 そんな中、無道は縛られた念糸などまるで無いかのようにすり抜け、大袈裟に両手をあげておどけて見せた。

 

「やれやれ。本当にただ見に来ただけなんだが、俺は現代のオリンピックを見ることも許されないのか?」

「現代、ね。 

──あなた、あと"何回"殺せば消えるのかしら」

「くくく。俺に関してどこまで知ったか知らんが、まだ情報はやらん──」

「そう。じゃあ用はないわね」

 

 頭領は会話をしながらも、話している途中の霊体を結界で消滅させた。

 会話でもわかるように、あの霊体、無動を消滅させるのはもう何回も行われている事らしい。

 事実、この光景を見るのは私ですら三度目の事だった。

 

「結局消すんじゃん。何だってんだよ」

「消せてないわよ? 『不死身』って言われてたらしいし、あの余裕ぶりからすると、もう10回は殺しても死なないでしょうね」

 

 最後に、情報くれないなら残す意味もないと付け加えていた。

 無道は『不死身』という通り名の通り、遥か昔から現世にとどまり続けている霊体。

 下手な主クラスよりも確実にヤツは力を持っている。

 事実、アイツは臨戦体制の私に対し、気にした素振りすらなくいつ現れるかといない頭領を気にしていたようだった。

 私もまだまだ……弱い。

 

 それにしても、葉隠ちゃんを見てからの豹変ぶりが気になるわね。

 あの子に何かあるとは聞いてないけど、頭領はなにか知ってるのかしら?

 

 

 

 

「えっとー……つまりあの妖は倒せてないけどもう安心で、そんで、もう試合に戻ってもいいのかな?」

 

 そんな顔しないでくれと思うが、透は誰にも見られるこのない人生を送ってきていたからか、驚くほど顔に出る。

 いつもぱっちりと開いた大きな瞳はその長い睫毛が覆い被さっている。

 いつもニコニコと上を向いている口元は珍しく下を向いていた。

 どうやら俺も正気じゃなかったようだ。

 透は、というより俺以外の人間はこの体育祭に全力を注いでいる。

 俺だけが、本当にただのイベントとして参加していたんだと思い知った。

 

「あぁ、多分終わりだから戻るぞ透。姉ちゃん、妖は任せろって言ったよな?」

「……そうねぇ………」

 

 俺の方を見る事もなく、そう言った姉は最後に小さく「こっちが釣られたか」と呟いた。

 あの霊体が何者で、一体なにを考えて動いているのか俺にはわからないが姉に任せれば安心だと思っていた自信が少し揺らぐ。

 この姉よりも、強い者がいるのかと疑問が湧くも、ただ今は、そんな事よりも──

 

「透。出遅れた分取り返す。1000万、獲るぞ」

 

 そう言った俺に、目を丸くした透は俺の顔へとダイブしよじ登る。

 普通に痛い。

 

「うん。

 ──よっし! やったろ!!」

 

 その顔は見えないが、声色は、いつも通りのように思えた。

 

 

 

 

「お前……いったいなんの個性なんだ……?」

 

 俺に跨る心操は、顔は見えないがいつものようにバケモノを見る目で俺を見下ろしているのだろう。

 声色から、そんな事は容易に察しがつく。

 

「……もう落ち着いた。これからはお前の指示通りに動くから、ほっといてくれ」

「……そうか、お前も……」

 

 も?

 とはなんだ。

 コイツは別に妖混じりでもなんでもないだろうに。

 と思うが、心操は有難いことにそれ以上話しかけてくる事はなかった。

 

 

 しかし、やっちまったな。

 副長に止められなければ、あの正真正銘のバケモノ姉弟のとんでもない呪力に当てられて完全変化するところだった……

 しかし、あのバカだと思っていた弟も半端じゃない事はわかったな。

 ただ、それとは別に……アイツから感じたあの底知れないモノはなんだったんだろうか。

 

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