現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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32話 妖混じりの男の子

 

 

 飛び降りてきた透をなんとか受け止めはしたが、さっき【先送(ディレイ)】した猛攻の痛みが遅れてきた今、ハッキリ言ってめちゃくちゃに痛い。

 ただ、その喜びようから察するにちゃんと1000万獲ったみたいで、俺も達成感を感じる。

 あー! 轟がハチマキぶらさげるところ見てて良かった!

 

「おー。イッテェから暴れんなって」

 

 ニッコニコしてんなー。

 それに、分身とゆうか、呪力で虚像を創り出すなんていつの間にできるようになったんだコイツは。

 透自身が呪力を纏ってると、邪気を孕んでないし俺でも結構見逃してしまう。

 ほかの奴からしたら元々見えなかった奴が急に服だけ見えて、しかもそれが増えて尚且つボヤけてるんだから余計にわけわからんかっただろうな。

 

「あの結界さえなければ間に合ってたと思うんだけどね。でも私の個性でビクともしないなんてねぇ…今回は負けたよ」

「うんうん!危なかったよー拳藤さん来た時めっちゃあせったもん!」

 

 一応労ってくれてるのか、僅かに口元を綻ばせた拳藤。

 と、それとは真逆の顔も向けられてんな。

 小さく悪態をつきながら強い視線を向けてくる轟と、叫びながら睨みつけてくる爆豪。

 あとは悔しそうな顔で、チームメイトに謝りながら地面を殴る緑谷。

 あーゆーところを見ると、本気でやってよかったと改めて思う。

 一回戦みたいな気の抜けたことは、もうしない。

 

 そんな思いに耽るのも束の間に、プレゼントマイクから各順位のアナウンスが競技場内に響いてる。

 

『早速、結果を見てみよか!!』

 

 との事で、結果は──

 

 

 1位 葉隠チーム 10,00720ポイント

    獲得ハチマキ 葉隠・緑谷

 

 2位 爆豪チーム 1,160ポイント

    獲得ハチマキ 爆豪・物間・小大

 

 3位 心操チーム 1,010ポイント

    獲得ハチマキ 鉄哲・蛙吹

 

 4位 轟チーム 725ポイント

    獲得ハチマキ 拳藤・心操・鱗

 

 5位 緑谷チーム 655ポイント

    獲得ハチマキ 轟・鎌切

 

 6位 拳藤チーム 245ポイント

    獲得ハチマキ 峰田

 

 他同率7位 0ポイント

 

 

 との事で、無事に一位通過。

 決勝は確か例年個人種目だよな。

 例年通りなら、後は自分で勝つだけだからいいんだけどな。

 

 と、そのまま次の競技の説明に入り、決勝である第3ステージの競技はトーナメント形式の1対1でのガチバトル。

 とはいえトーナメントだと1位チームである俺と透は2人なので人数が合わない。

 そのため、枠を減らしてではなく、増やした上でのシード扱いとなり上位5チームでの変速トーナメント戦にするらしい。

 俺と透が4人チームだったらキリのいい16名でのトーナメントだったかもしれないと考えると、緑谷チームは首の皮一枚繋がったため随分と嬉しそうにしてる。

 結果、あの更衣室で睨み合った3人と響香も残ったなー。

 

「それじゃあ!昼休憩の後に葉隠さんと間くん以外は組み合わせ決めのくじ引きするわよ!」

 

 ミッドナイトが言うには、このあとは昼休憩の後くじ引きしてからレクリエーションの流れ。

 例年何かしらの体育祭らしい競技やらどっかのプロのショーみたいなんがあったような。

 なんて考えてると、なぜか尾白が一歩前に出た。

 

「あの…!すみません。 俺、辞退します」

 

 なんか知らんけど、騎手のやつの個性なのか、騎馬戦中の記憶がないらしい。

 チラリと騎手だったヤツに視線を向けたけど、操作系の個性とかなんかな。

 法則はわからんが、だいぶ厄介そうだが。

 

「ねーねー唯くん。あの人が妖気?を感じた人?」

 

 透がぐいぐいと裾を引き小声で聞いてくる。

 透は自身の呪力を用いた呪いは抜群に上手いが、かと言って正確に読み取れるわけじゃない。

 初めて会った時、俺の式神を見破ったのも「なんか良く見たら変だったから!」との事。

 だから、俺があの時から気にしていた相手とは違うヤツをチラチラと見ているようだった。

 

「いんや、アイツじゃなくて──」

「僕も同様の理由から棄権したい!実力如何以前に、何もしていない者が上がるのはこの体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」

 

 B組のちっこくて丸いやつも、凄くかっこいい言い回しで決勝戦には出ないと言い出した。

 なんかカッケーな、あの口調。

 真似してみようかな。

 

「じゃーじゃー、あの人?」

「いんや、アイツでもなくて」

「なら、俺も出るわけにはいかないので辞退します」

「あの人か!」

 

 そー、あいつ。

 そもそも呪力や霊力は俺は距離があるとあまりわからない。

 だから、あの時ハッキリと感じたのは完全に妖力だった。

 多分としか言えないけど、妖混じりって奴だとは思うが、見た事ないしどうにもよくわかんねーな。

 

「まじないに関してちょっと聞いてみようかな」

「それはやめとけ。どんなやつかもまだわからんし、俺に聞けばいいじゃん」

「・・・」

「なんだよ?」

 

 なぜか呆けた顔で俺の目から視線を外さない透を不思議に思い聞いてみたんだが、完全に後悔した。

 

「べっつにー」

 

 あの時刃鳥さんが叫んだ相手もアイツのことだろうから警戒する程のことじゃ無いかもしれないし、呪いに関しても詳しいのだろうし、透の性格ならガンガン聞きに行きそうだし、念のため、釘を刺しただけだし。

 別に一見女とも取れる中性的な顔立ちに、ウェーブがかった少し長めの金髪を後ろで縛ってるアイツは確かにイケメンの部類に入るからとかじゃねーし。

 

「なんだそりゃ」

「なんでもないよ〜」

 

 ……んだよその妙な顔は!!

 

 

──

 

 

 そうして昼休憩も終わり、ようやくくじ引き。

 あの後、青臭い話が好みなミッドナイトが辞退を認め、2名シードをとっぱらってキレイな16名でのトーナメント戦にするとなった。

 てことで、6位だった拳藤チームに急遽舞い込んできた決勝戦への出場権だったが、ミッドナイト風に言うと青臭い話が続き、拳藤的には上位に食い込み自分達よりもポイントをキープしていた鉄哲チームの方が相応しい的な話をして、ミッドナイトはこちらも受けいれた。

 一位のチームからくじを引いていき、まずは透がBブロック。

 続いて俺がAブロック。

 

「お! 当たるのは決勝だね!」

「ん。というか、なんでチア?」

「え?なんかクラスでやるんだって!似合う?」

「ん、似合う似合う」

 

 実際、かわいい系の顔立ちの透には似合いすぎ。

 眼福眼福なんて思いながらも、調子にのるので視線を壇上へと戻すことにする。

 続いて2位のチームがくじ引きへと続き、爆豪と切島もBブロック。

 そんで、次が。

 

「Aブロック、6番……」

 

 俺へと強めの視線を向けている響香。

 響香の相手であるAブロックの5番を引いていたのは俺。

 本来なら一回戦からか。なんて気を引き締めるところなんだが、チアの衣装でおそらく小学校低学年以来であろう制服以外でのスカートを披露し、手にはボンボンを持っている響香が気になってまったく緊張感が入ってこない。

 俺の視線がスカートにいってるのがどうやらバレたようで、視線を更に強めていた。

 

 

 と、ようやく全員がくじを引き終え、トーナメント表がモニターへと映し出されていた。

 

 

 

緑谷 ┐        ┌ 上鳴

   ├┐      ┌┤

心操 ┘|      |└ 葉隠

    ├┐    ┌┤

轟  ┐||    ||┌ 常闇

   ├┘|    |└┤

瀬呂 ┘ |┏━━┓| └八百万

     ├┃優勝┃┤

間  ┐ |┗━━┛| ┌ 鉄哲

   ├┐|    |┌┤

耳郎 ┘||    ||└ 切島

    ├┘    └┤

飯田 ┐|      |┌ 麗日

   ├┘      └┤

発目 ┘        └ 爆轟

 

 

 

 

 

 

 レクリエーションが始まっている。

 が、決勝進出している者は自由参加との事で、俺は鬱陶しく絡みつく呪力の元へと向かっていた。

 決して、透が近づこうとしてるからとかそんなのではない。

 

「なんかようか? 正直うざいんだけど」

 

 そう話しかけた普通科の男、影宮だったかは人気のない、雄英内の林にいた。

 

「……副長、来ましたよ」

 

 そう言って、後ろから歩いてきたのは刃鳥さん。

 やっぱ、コイツも姉ちゃんの関係者か。

 姉ちゃんの人間関係が少し見えてきたようで若干嬉しい。

 絶対に天涯孤独を行く唯我独尊姉だと思ってたし。

 

「この子は影宮凪(かげみやなぎ)。心配しなくても歴とした雄英生。それと唯守くんの想像通り、妖混じりよ」

 

 ちなみに私もねと言いながら、そのカッコイイ刺青の入った腕を前へと突き出す。

 すると、その腕の紋様から黒い羽根を生やしていく。

 あの時もそうだったけど、アレが羽の本体?

 常闇みたいな個性じゃなく、純粋に妖の力ってことか?

 だとしたら、俺みたいに個性は個性で持っているってことなんか?

 疑問ばかりが浮かぶが、そもそも俺は妖混じりに対してよくわかっていない。

 妖混じりとは、生まれながらに妖の力を身体に宿す人間のこと。

 妖が身体の一部に寄生している【寄生型】と、身体全体に寄生している【統合型】の2つに分類される。

 はっきり言って俺の知識はその程度なんだが、刃鳥さんはあの刺青みたいなのから出てくるってことは【寄生型】って事なんかな。

 

「影宮は私よりも妖気が強いから、完全変化しかけたさっきの妖気が気になっていると思ってね」

「……別に、コイツなら完全変化したところで俺なんて瞬殺でしょうし、気にしても無いでしょう。そもそも俺は戦闘班ですらないんですから」

 

 なるほど。

 俺が妖気を元に影宮を狩ると思ってんのか。

 世を拗ねたような態度で、いったいなんだってんだか。

 

「唯守くん。影宮は妖気の探知、分析に特化してる未来の諜報部の人材。頭領の、あなたのお姉さんの予想では雄英に妖が現れる可能性があるそうだから気をつけて」

 

 刃鳥さんが成している途中、ぬるりと一本の木がその色を黒へと変え、途端に邪気が溢れ出している。

 

「──結ッ!!」

「それと、コッチが雄英に専属でつけるウチの翡葉(ひば)。結界、解いてあげてね」

 

 その黒い木をズルズルと自らの左腕に埋め込んでいく翡葉と呼ばれた大柄の男。

 薄い銀髪にキレ長の目をしたイケメン。

 妖混じりって美形しかおらんのか。

 そしてその高身長は羨ましいことこの上ない。

 

翡葉京一(ひばきょういち)です。以後よろしく」

「間唯守、です。よろしく」

 

 植物を操ってるのが個性なのか、妖の力なのか、普通の人間にはわからないだろうし、確かにこの人も妖気を放っている。

 

「警護役って事だけど、どっちかと言えば夜行と雄英のツナギ役なんで、何かあったら俺に言ってくれれば」

「と言うわけだから、私は専属なわけじゃないから何かあれば翡葉に伝えて。私にも、頭領にも伝わるから。それじゃあ私たちは警備に戻るわ」

 

 一方的に話すだけ話して刃鳥さんと翡葉さんは去っていく。

 と、その場に残されたのが俺たち二人。

 まぁ用はこれで終わりだろうし、俺も戻ろうと思ったんだけど。

 

「お前は行かねーの?」

「遊びながらでも雄英の中で勝てるんだからすげーよな」

「……何が言いたいんだ?」

 

 猫かぶってたんか知らんが、なんか態度変わったな。

 

「いや、あの頭領を差し置いて正当継承者だっていうから」

「んなこと知るか。そもそも姉ちゃんみたいなバケモンと俺を比べるな。あのレベルなわけねーだろ」

 

 姉ちゃんの関係者、もしかしてだけど俺が姉ちゃんクラスの力を持ってるとでも思ってんのか?

 だとしたら、とんだお門違いだ。

 目指す場所ではあるが、頂は遥かに遠い。

 そんなことは、俺が一番わかってるってのに。

 

「バケモノねぇ……」

「ん?」

「そう呼ばれる事、俺もあるな。最初は親からだったかな」

「………」

「俺が戦闘タイプじゃなくて探知タイプだってのは本当だけど、翡葉さんは一応俺の監視役も兼ねてる。俺が邪気に当てられて本当のバケモノにならないように。俺にできることなんて別に無いってのにこんな最前線になりそうなところに送り込まれて正直何したらいいかわかってねーんだよ」

 

 妖混じりの完全変化ってのがなんなのか知らんけど、妖化するって事なんかな。

 というか、その世をひねたような顔してるのがなんというか、いろいろと物語ってるな。

 

「そっか」

 

 影宮に何があったのかとか知らない。

 妖混じりに関してもよく知らん。

 だから、俺が影宮に簡単に言える事なんかない。

 ただ、一個だけ言えるのは

 

「すぐに、とはいかないけど……妖はいずれ俺が全部滅してやる。そうすれば、邪気に当てられることもなくなる。それまでは……すまん」

「……」

 

 そう言って下げていた頭を上げた時にはもう影宮はいなかった。

 アイツがどう生きてきたのかも知らないけど、邪気に当てられなければいいんだろうか。

 少なからず、誰かが傷ついている事をあらためて実感した。

 妖の殲滅は俺がする。

 必ず……!


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