現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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33話 間 vs 耳郎

 

 

 

 いよいよはじまった、体育祭の最後の種目であるガチンコトーナメント。

 控室で今までの戦闘を思い出す。

 

 一回戦第一試合は緑谷と、あの操作するような個性をもつ、心操。

 返事をするなとあれほど言ったのに、と斜め前に座る尾白は悔しそうに言葉をこぼしていたのを思い出す。

 返事が、きっかけで操られるようで、試合開始早々に緑谷は突然棒立となった。

 だが、あの超パワーで自分の指を破壊して操られている状態を脱したらしく、あとはそのまま投げ技で勝利。

 あの威力はかなりヤバいけど、使うたびに指壊れるのなら両手両足使われても20回も受け切れば、後はただのデクの棒になるはず。

 問題は腕とか全部の一撃が単純5倍とかの威力だと死ぬし、そもそも20回も凌ぎ切れるかどうかか。

 

 第二試合は轟と瀬呂。

 轟の、スタジアムの外周を超えるほどの大規模な氷の攻撃により、瀬呂は一瞬で氷漬けとなりリタイアした。

 周りからはドンマイと言われており、アレは……まさにドンマイとしか言いようがない。

 俺も後で皆に習ってドンマイと声をかけることにしよう。

 

 轟と、当たるとしたら準決勝。

 防げんかったら、俺もドンマイと言われるのは……キツイな。

 対策は、そんとき考えよう。

 

 そう。今考えるべきは自分の試合。

 勝手知ったる響香が相手。

 久々の再会から、さすが雄英ってくらい怒涛の日々を過ごしているからか、先日まで何度も一緒に殺されかけたせいか、会えなかった時期と再会の時期の長さの差の割には、もう打ち解ける事ができている気はする。

 だけど、組み合わせ発表から今までの観戦の席でも響香は相槌以外に言葉を発することも、こちらを見ることもなかった。

 そんな無意識でだしていた俺たち2人の空気に、一瞬で終わってしまった2試合目直後からあわてて移動を開始するまで、いつも騒がしいA組連中も、あの透すらも俺たちに話しかけてくることはなかった。

 なんてことを考えていたらちょうど轟の氷の撤去が終わったとのアナウンス。

 ゆっくりと立ち上がり、呪力を練る。

 うん。準備は、もうできてる。

 

 さて。勝ってくるか。

 

 

 

 心臓がうるさい。

 緊張しているのが自分でもわかる。

 レクリエーションで少しは気がまぎれるかとも思ったけど、気づけば目が追っていたアイツはどこにもいなかった。

 これまでの2試合、自分のことで精一杯で、正直まったく頭に入ってこなかった。

 なんたってアイツは、ウチが音楽の道じゃなく、この道を選ぶことを決めることとなった身近なヒーロー。

 そんな唯守とは、時織姉との特訓の際に何度か模擬戦をとやらされたが、一度も勝てたことはない。

 

 そう、そんな男と今から本気で闘う。今のウチの実力を見せてやると顔を上げたところで、アナウンスが響いた。

 

『続いては、こいつらだー!!!

 ここまで3位、1位と好成績だがやってることがいまだによくわからない男!!ヒーロー科、間唯守!!』

 

 舞台への階段を登り始めたところで、マイク先生のアナウンスに対して腕を組み、わずかに抗議の目をむけている唯守がいた。

 

『第一種目も熱かったっ!!俺は好きだゼ!!パンクロックガール!〜〜ヒーロー科、耳郎響香!!」

 

 集中しろ。

 何してくるかの予測は立てた。

 それに対する対策もある。

 といっても、最初はきっと──速攻でくるよね。

 

「──響香、これで終わりは、ないだろ?」

『試合、スタァーーーーートゥッ!!』

 

 予想通り、唯守のいつもの掛け声と共に成形される結界。

 そのスピードは驚異的に速く、小さく、多い。

 でも、伊達に何度も死線をくぐって……うん、死線を何度も行ったり来たりしてない。

 今のウチには、結界が生まれる音が、ではなく空気の振動を感じることができる!!

 

「当たり前っ!!」

 

 目の前の視線を塞ぐ結界。視界を確保するために、ウチが引くことを予測しているだろう。

 でも、嫌らしいことに後頭部にもあるその結界にもウチは気づいてる。

 ここは先ずしゃがみ、そのまま地面へとイヤホンジャックを突き立てた。

 

「これで終わりでも、ないでしょ!?」

 

 唯守へと駆け抜ける音波は地面から盛り上がり、その身を襲わんとしたところで、あの夜から何度も何度も感じる微弱な振動とともに、現れた結界にその音波は遮られる。

 

「そりゃそーだよっと」

 

 遮ったとはいえ音波に耐えられず破れた結界の向こうで、ニヤリと笑う唯守はいつもの、二本指を立てた右手を構えて、他の結界を次々と生み出している。

 地面に刺された左のイヤホンジャックも、ウチのしゃがんだままの両足も、右肩も結界に囲まれ拘束された。

 だけど、まだこっちの攻撃も終わってない。

 肩は犠牲となったが、なんとか躱した無事な右のイヤホンジャックを自分の口へと突き立てる。そして、大きく息を吸い込んだ。

 

「アァァァァァアッ!!!!」

 

 自分の身体を使っての、音の増幅。

 今はコスチュームによる補助機能も無いから威力は劣るけど、マイク先生と同じ爆音による破壊。

 首を回しながら、まずは自身を拘束する結界を破壊して、目の前の結界群すらも破壊して、その破壊の咆哮を唯守へと向けた。

 

「っぶねぇー。けど、それは見たことあるし知ってるよ!」

 

 結界を踏み台に跳躍し、まだ立ち上がれていないウチの上を取りながらも片腕を翳して念糸を伸ばす唯守。

 ウチの呼吸が切れるのすら計算に入れてるようで、腹が立つ。

 全く、精一杯だというのに、そういうところが余裕があるように見えて、ウチはまだ…

 

 

『響香ちゃんは、もったいないわねぇ』

 

 

 そうだ。

 時織姉に言われたんだ。

 ケンカというケンカもしたことがない。

 誰かを倒すために個性を使ったことなんてほとんどない。

 そんな初めてを何度も経験させてもらったんだ。

 いつも横にいた、あの時も同じくズタボロにされた唯守を見て、昔を思い出した。

 流石に昔みたく泣いてはなかったけど、唯守もまた考えて試行錯誤して、失敗しながらもギリギリで、強くなろうとしてる。

 時織姉からの特訓で本当に逃げようかと考えが何度もよぎったウチ。

 だけど、そんなウチと唯守の違うところは────本当に危ない時に、唯守は絶対に逃げない。

 これは試合だ。

 殺し合いじゃないし、ヴィランが相手なわけでもない。

 だから、今はウチも逃げない……!

 博打は好きじゃないけど、もう声は出ないけど。

 引っかかってくれたらという気持ちで開いたままの口を唯守へと向けた。

 

「クッ!」

 

 念糸を伸ばすよりも、結界の成形に重点を切り替えたのがわかる。

 もう、肺の中は吐き出し切って空っぽで、声なんて出ないってのに。

 

「フッ──!?」

 

 大きく息を吸いながらも、突如として盛り上がる地面。

 ではなく、結界が私を持ち上げようとしている。

 思わずあがっていた口角だが、キュッと口を閉じて地面に刺していたイヤホンジャックから爆音を放つ。

 その反動を利用し、体勢を崩されたまま浮かび上がる結界から素早く転がり落ちながら位置を変え立ち上がると、大きく息を吸い込み直し、呼吸を整える。

 

「ふ……騙されてやんの」

 

 皮肉を交えて、なるべく余裕を見せて。

 今は呼吸を戻すのが先決。

 

「ちぇ。あん時は、そんなに持たないはずだとは思ってただけどなー」

 

 唯守は追撃に伸ばしていた念糸を引っ込めながらも地面へと降りてきて、自然体のまま、そんな軽口を返してきた。

 たった一回の攻防だけど、ウチは戦えてる。

 あの唯守と。

 

「そう簡単に、勝てると思わないでよね?」

 

 高揚した気分がわかる。

 ようやく、吐き出し切った息も戻ってきた。

 唯守の一挙手一投足と、その音に集中して、また次の攻防へ向けて意識を集中させていく中で、自分の中の感情のひとつが高まっていたのがわかる。

 たぶんだけど、むこうも同じ気持ちなんだろうと、その顔を見て思った。

 

 

 

『開始直後のハイレベルな攻防戦!!!ごめん!俺はやっぱりあの反則結界が勝つと思ってたァーーー!!!』

『結界とはいっても、間のそれは強度自体はそこまで大したものじゃ無い。耳郎とのお互い得意レンジでの中距離戦はどちらも小手調べといったところだろう。さっきの衝撃波を見るに、近距離戦となれば耳郎に分がありそうだがな』

 

 目まぐるしい攻防の後、そんなアナウンスが流れると。

 

「耳郎スッゲー!!あんなことできるようになってんのかよ!!」

「バクオングみたいだな」

「今回、耳郎さんの成長がすごいですわね。いったい何があったのでしょうか…」

 

 興奮した切島くんと、呟く上鳴くん。

 それとさっきの響香ちゃんの大声により乱れた髪を整えながらヤオモモがそう話すと、他の面々も響香ちゃんの目覚ましい成長に驚いている。

 それはもちろん私もだ。

 あの唯くんと、同等の戦いを繰り広げてる響香ちゃんは、単純にすごいと思う。

 自分ならどう戦うか、まだ決まってもいないのに。

 2人とも笑顔を浮かべたまま、睨み合っている様子を見て思う。

 

 羨ましい。と。

 

 守られる気はない。一緒に並び立ちたい。

 騎馬戦での途中のやり取りでも、私は見ていただけだ。

 呪いの幅は広がっても、唯くんの横には、まだ並べない。

 

『またも入れ替わり立ち替わりの攻防戦が目まぐるしィーーーッ!!!先に主導権を取った方が勝者となるかぁーー!?』

 

 まるで円を描くように、距離を変えることなく、お互い繰り出す技の応酬が続いている2人。

 

 だからこそ、私の目の前で、間唯守と対等の戦いを繰り広げている響香ちゃんが──ひどく遠くに感じた。

 

 

 くっそーー!私も頑張らなきゃだ!

 

 

 

「まだまだいくぞっ!結!!!」

 

 さっきから、まるで結界師と戦ってるみたいだ。

 

「甘いよっ!」

 

 次々と生み出してはいるが、同じように次々と壊されていく結界。

 お互いの距離は変わらず、上か下か、右か左か。

 お互いに場所を変えながらも俺の出す手に被せて、響香はその手全てに対応してくる。

 今もまた、ソニックブームによる衝撃波をイヤホンジャックから繰り出し結界を場に貯めることを良しとしない。

 しかも相手は音速。

 戦闘スピード自体も速いので多重結界を作る隙も未だこない。

 そろそろ、違う展開が欲しいところなので、少し前に思いついた絡め手をひとつ試してみることとした。

 

「これなら、どーよ?結っ!」

 

 響香が一歩踏み出したその足が地面に着く直前に、その足の裏へと結界を成形した。

 

「まだま──ッ!?」

 

 それは小さく薄い結界。

 ただし、その粘度はかつて梅雨ちゃんが跳ね回ったあの時よりも、ずっと柔らかい。

 ぶにょんとゆがむ結界を踏み、しまったという顔をした響香がその体制を崩した。

 それを見て思わず上がる口角を隠すことなく、そのまま俺は多重結界を響香の前に成形する。

 

「俺の、勝ち!」

 

 一撃では壊されない硬度のそれを響香に向けて伸ばして、場外へと押し出す。

 これで勝った。

 やっぱ強くなってるし、自分の手の内を知られている一番厄介な相手だった。

 体制を崩したまま、前屈みに倒れ掛かる響香に結界が触れる直前に、その両のイヤホンジャックは地面に向かって伸びていくのが見えた。

 

「げっ」

 ZOOON!!!

 

 俺の間抜けな呟きと同時に、地面が爆ぜた。

 その音と衝撃の勢いで空中へと踊り出した響香。

 大きく一回転をしながら俺の多重結界の上を跳ぶ。

 

「ようやく!近づけたっ!!」

 

 歯を剥き出しに、交戦的な笑みを浮かべた響香だったが、まだ、甘い!

 

「結結結結!!!」

 

 響香は、大口径で衝撃放つには初めにやられたがその口を使う。

 今のスピード感の中、それは間に合わない。

 とはいえ、二つしかないイヤホンジャックでこの四つの小結界全てを消す事もまた難しい。

 距離を取ろうとしたが、目の前では大きく腕を振りかぶる響香。

 直殴り?

 なんでいま?

 流石に硬化の個性の切島でもないし、エンジンで加速した飯田でもない、ただのパンチに壊されるほどは柔くない。

 いったいなにをと思ったところで、響香の口が開く。

 

「これさ、わざと見せなかったんだよね」

 

 そう言い、振りかぶった右腕の肘に刺さるイヤホンジャック。

 嫌な予感がする。甘かったのは、俺の方?

 

「インパクト!!」

 

 わずかに、だが高速で震えているように見える掌を大きく振るい、触れるそばから俺の小結界を破壊していくその掌が、俺に触れた。

 

「この衝撃には耐えられないでしょ!?もらっ──え?」

 

 驚き、ハッとした顔の響香の腕を、俺は冷静に掴むとすぐさま大きく投げ飛ばす。

 そして、

 

「結。これで今度こそ、勝ち──」

 

 宙を舞う響香を結界で押し出した。

 尚も追撃が来ないかと、もうひとつ。

 俺は二つの意味で構えるも、響香はドスンという音とともに、地面に尻餅をついた。

 

『耳郎ォォ場外ィーーー!!!この勝負、間のしょう」

「グゥゥゥアアアッ!!!」

 

 勝利のアナウンスに被せて俺の絶叫が響く。

 その衝撃に耐えきれず、俺は思わず膝をつきうずくまった。

 

『りって、あれ?どした?』

 

 【先送(ディレイ)】の痛みに耐えきれず思わずあげた絶叫で、勝利したというのになんとも間抜けな終わりな幕切れとなってしまった。

 

 

 

 

 負けた。

 出し切ったのに。

 ウチはまだ、届かなかった。

 思わず泣きそうになったところで、もはや聞き慣れた叫び声。

 

「グゥゥゥアアアッ!!!」

 

 ウチを破ったアイツは時織姉に四肢をちぎられた時のような絶叫をあげて、その場にうずくまっている。

 でも、ウチだって切り札を使ったんだ。

 ビリビリと痺れて、まだズキズキと痛むこの右腕を犠牲にしたのだ。

 それくらい、喰らってくれないと困る。

 

 音とは振動。その振動数をひたすらにあげ、その腕自体を超振動させて、殴る。

 それが、ウチの接近戦の切り札である【インパクト】だ。

 【時折】の個性を持つ時織姉にすぐに戻してもらえるからこそ、何度も痛みに耐えながらも練習して編み出した必殺技だった。のに──

 アイツの個性、すっかり意識から外れてた…ウチも、まだまだだ。

 

 ゆっくりたちあがり、声こそもうあげてないが、未だうずくまったままの唯守の隣へと立つ。

 

「負けたよ。けど、場外負けってルールがなかったら、勝ってたのウチだから」

 

 悔しい気持ちを噛み殺し、スッと唯守へと手を伸ばすも、一向に掴んでは来ない。

 おかしいと思い、しゃがみ込んでその顔を見てみると。

 

「待って、まだ動けないし、あたまぐわんぐわんなってる。そして、立ち上がれん。めっちゃ恥ずかしい」

 

 そう言って、立ち上がりたくないと駄々をこねる男。

 思わず、プッと笑い声が漏れる。

 

『勝者と敗者、まるで状況は逆だが、第3試合の勝者は、A組!!間ァ!!おーーーーい、タンカがいるかぁ!?!?』

 

「タンカ、ウチが持とうか?」

「嫌だ。けど、もうちょい、側にいてくんない?ひとりにしないでくれんかな?」

 

 そう言った間抜けな顔と体勢の唯守。

 自身の切り札の威力が少し誇らしいが、勝負には負けたんだ。

 まだ、届かなかったんだ。

 

「こっちがヤダよー。ウチだって悔しいんだから!」

 

 だから、最後に勝者の癖に起き上がる事もできないアイツを置き去りして、放置することにしたんだ。

 明日には、録画しているこの部分を動画で切り抜いて、笑ってやる。

 それくらいは、八つ当たりしてもいいでしょ。

 

 次は絶対に、負けてやんないんだから。

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