現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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34話 幼馴染と姉と弟

 

 

 

 【洗脳】の個性によって、派手さのない戦いが起こったのが1試合目。

 圧倒的な氷の力で、文字通り瞬殺で決着がついた2試合目。

 そして、ハイレベルな技の応酬と、なんとも言えない幕切れとなったのが、たった今終わった第3試合。

 

「耳郎、めっちゃ強くないか!?」

「そうなんだよ!騎馬戦の時も頼りになってよーー」

「あははははは!ほんとね!間は最後イケてな〜」

 

 緑谷は、そんなクラスメイト達の会話を聞き流しながら、興奮冷めやらぬように、いつものノートを半ば急いで広げていた。

 まだヒーローではない、各クラスメイトすらもその特徴や技、考察を書き込んでいる、ヒーローノート。

 その開かれたページは、自身の幼馴染である爆豪の次に多く、ページ数を使用している者の部分。

 【間唯守】と、書かれたそのページには個性把握テストに始まり、USJでの分身や変身? 目に見えない透明なヴィランが見える?など、各所に?が多く書かれており、そこに自身の考察を書き込んでいる。

 その中でも考察の行き届いていない、点へと目を向けた。

 

「間くんの最後のって、あの時と同じ…USJの、あの時と…」

 

 自身も、クラスメイトの峰田も、そして自分と峰田よりももっと死が近くまで迫っていた蛙吹も。

 そんな自分たちを助けるために、血まみれで現れた間唯守。

 先程の試合の幕切れはあの時の光景が焼き増しされたように思えた。

 攻撃をものともせず、だがその数秒後に地面にめり込んだあの時のように。

 

「もしかして、結界とは時間を遅らせることもできる…のか?」

 

 もしくは、結界と時間を遅らせる、二つの個性を持っているのかという考えすらも頭をよぎる。

 そんなまさかと、緑谷は自身の考えを否定するように首を振り、まとまらない思考のために他のページ、【耳郎響香】への書き込みを始めようとしたところで、2人から声をかけられた。

 

「緑谷ちゃん。いま、なんて言ったのかしら?」

 

 それは、あの時と同じ2人。

 今まさに思い描いていた現場にいた、2人。

 

「オイラも気になった。時間を遅らせるっていっても、あの時は結界つかってなかったよなぁー?」

 

 そう言った蛙吹と峰田もまた、間唯守に起こる不思議な現象が気になっているようだった。

 

「いや、今のはただの僕の考察で、あの…USJの時はいっぱいいっぱいだったからちゃんと見れてはないんだけど、今回と同じく、遅れてダメージを受けているように見えたからそうじゃないかってだけで。結界が実はあって、さっきの耳郎さんの時も振動が遅れてきただけかもしれない。でも、遅らせることができると仮定した場合は間くんの個性の汎用性は更に上がる…でも、そんな便利なものをなぜ普段から使わないのか…もしかして、使うことに制限があるとか、間くん自身が上手く使えないのか?そんな制限のある個性って…でも、どう足掻いても遅れてダメージがくるなら──」

「緑谷こえーって!」

「ケロッ。そもそも結界の形状を変えることもできるんじゃないかしら?」

 

 ハッとし、それはそうかもしれないと緑谷は思う。

 いつも四角い箱状のものではあるが、なにもそれしかできないわけじゃないかもしれないと。

 纏った状態にしているのか、答えの出ない事に頭を悩ませていると、隣からシンプルな答えを掲示された。

 

「それはね、本人に聞いてみたらいーんだよ!」

 

 キョトンとする3人の前に、体操服だけが浮かんでいた。

 

 

 

 最後に笑える事してくれたせいか、今の気持ちは少しだけ、ほんの少しだけど、晴れやかですらある。

 とはいえ、やはり悔しさはずっと滲み出ている

 

 控え室まで戻ってきたところで、込み上げてくるものがあった。

 特に怪我もしてないのでリカバリーガールのお世話になることもなく、椅子に座り、机に突っ伏して、乱れた呼吸と高鳴ったままの心臓が落ち着くまで、先ほどの試合を振り返る。

 確かに、自分で言った通り試合終了時の状況を見るに、場外のルールがなければ自身の勝利であっただろう。

 ただし、相手が真剣ではなく、試合ルールで戦っていたから。

 という場外ルール以前の、更に前にある前提条件があって初めての話だ。

 とはいえ、結界術は無敵では無い。とはあの時織姉にも、幼い頃の幼馴染にもよく言われていた。

 ただ、そうは言われても、大人になっても、結界術は無敵では無いが、万能すぎるものであるという結論には、自分の中で至っている。

 

 試合ルールだったからこそ、色々と行える結界術の中でも、"滅"を使われることはなかった。

 基本的には空高くに位置され、自分の身体を消滅とはいかずとも、打撃系のダメージのある滅却をされたら、対空手段は中距離までしかない自分はそれまでであったはずなのだ。

 その土俵の中での、学校の行事内だからと勝手に敷いたであろう唯守のルールの中での試合結果が、コレだ。

 それに、既に知ってる私は対策を講じてはいるけど、初見殺しのアレもある。

 改めて、自分はあの結界師、間唯守を相手に通用した方だと思う。

 ただそれは、結界術を知っていたからでしかない?

 対結界師の経験が多くあるからでしかない?

 結局、ガチンコの一対一の勝負はやり慣れた唯守としかできなかった。

 あの体力測定から他の人に比べて自分がどのくらい上にのぼれたのかわからない。

 ウチの今の位置は、一体どこにあるのだろうか。

 でもきっと、まだ遠い。

 

「っぱ悔しいな…」

「あー…途中までしか見れてはいないが、先程の耳郎くんと間くんの闘いは素晴らしかったぞ!」

 

 突っ伏したままだった頭を勢いよくあげると、そこにはクラスメイトである飯田がいる。

 油断していたのもあるが、ガチャガチャと鳴る金属音には気づいていたが、それがまさか想像もしていない相手の出す音だったとは。

 落ち着いたはずの体温がガンガンと上がっていっている気がする。

 

「ちょ…え!?いつから!?」

「いや、ちょうど今入ってきたところだ。おや、耳郎くん!顔が赤いぞ!?リカバリーガールには見てもらわなければ!」

 

 いつものようにビシッと振るった腕と、先ほどまでと同様にガチャリと鳴る金属音。

 

「いや、ウチは、大丈夫…。それよりそのフル装備なに?」

 

 背中の羽のようなアイテムや、靴、ベルトと大量のメカをとりつけている飯田にそう言われると、恥ずかしい気持ちよりも疑問が勝る。

 サポートアイテムはサポート科の自作の物しか認められていない。厳密には事前申請されたものはOKのはずだが、それは青山みたいにそのアイテムがないと支障をきたす場合のみ。

 だが、飯田が言うには対戦者である発目というサポート科の子から、対等に闘いために〜〜〜との事で装着をしたのだそう。

 そんなことよりと、うちのクラス委員長はウチと唯守の試合を随分と褒めてくれる。

 

「──だから、俺からすれば君も追うべき背中だ。堂々としてくれ!」

 

 そう言った飯田はまたもガチャガチャと音をたてながら、今度は親指をサムズアップしてくれていた。

 なんとも助かる、流石はウチらの委員長だ。

 

「うん。 ──ありがと、委員長」

 

 そう言ってくれた飯田のおかげで、少し、考え方が変わった。

 追う背中は、上を見ればキリがない。

 だったらウチは、ずっと挑戦者(チャレンジャー)でいい。

 

 昔と同じ、あの時と同じ。

 ウチは、ずっと上に上がるだけだ!

 

 

 

 時は少し遡り、第3試合の最中──

 

 

 

 頭領は一体何を考えているのかわからない。

 というのが、青い箱(ブルーロック)事務所、通称"夜行"の一員の総意である。

 副長であり、一番付き合いの長い刃鳥ですらもこの結界師を未だに理解ができずにいる。

 

「それで、これからどうされるのですか?」

 

 帽子とマフラーをつけた妖である、不死身と呼ばれた男が消えた後に刃鳥は目の前にいる自身の上司にそう尋ねた。

 

「……少し、様子見かしら」

 

 そう言った時織は、自身の母である守実子のように、いつものように語尾を少し伸ばすような口調では無い。

 それに、なにものにも興味を示していないようないつもの口調ではなかった。

 そして、付き合いの長い刃鳥はその微かな変化にももちろん気づいていた。

 

「そうですか。なにか、私が気にすることはありますか?」

 

 こういった時、時織には珍しく感情が乗っていると刃鳥は気づいている。

 それでいて、自分に出来ることはあるかと、頭領であり恩人である彼女に対し手伝えることがあるか尋ねたのだ。

 そう言った自身の副長に対して、頭領と呼ばれた間時織は聞いていないのかと錯覚するほどに、しばらく答えることはなく、降り立った観客席の最後尾から自身の弟の試合を眺めていた。

 この沈黙にも刃鳥は慣れたもので、何も言わずに同じく試合へと目線を向けると、見慣れた結界だが、違う色である緑色の結界が群れをなし、それがどんどんと生まれては消えていく様子を眺めている。

 

 あんなに、簡単に壊せるものなのか?

 

 刃鳥は幾度と見てきた規格外な青い結界が脳裏によぎり、時織をチラリと横目に見るも、術者の力量によるものかとすぐに考えを改めた。

 

「……ダメね」

 

 そう、時織が呟いた。

 刃鳥は背筋が凍るかのような、かつて自身の中にある異形の力が制御不能になった時のような得体の知れない恐怖を感じる。

 時織の目を見て、そう感じたのだが、その視線の先の舞台を急ぎ見る。

 その場面は、まさに絶叫が響き渡る試合決着の時だった。

 

 

 

 

 痛ェ

 ズキズキと痛む左腕。

 痛ェ

 ぐわんぐわんと響く頭。

 

 まったく、なんてことしやがるんだ。

 

「チユ〜〜〜〜」

 

 そんな声と共に、リカバリーガールの個性、【癒し】を受けた俺の左腕の痛みは薄れていき、消えていった。

 

「まだ痛むかい?」

 

 ぐっぱぐっぱと、その左の掌を握ったら開いたりしてみるも、どうやら完全に治ったようだ。

 

「いや、頭が変な感じがする以外は、大丈夫っス」

 

 修復術とはまた違った、流石は【個性】としての、治癒の力だと実感するも、姉の個性である【時折】は完全にチートだと再認識する。

 リカバリーガールの【癒し】の個性は、対象者の治癒力を活性化させ、重傷もたちどころに治癒できるそうだが、それには傷に応じた対象者自身の体力が必要。

 俺の場合は響香の超振動掌底を受けた左腕全体の筋繊維の痺れと、軽い脳震盪を治してくれた。

 姉の場合は時間制限は限りなく短いが、ノーリスクで元通りなのだからまったくもって卑怯なこって。

 

「まだ次の試合もあるからね。そのくらいは、治るのを我慢しなさいよ」

 

 俺の体力を考慮してくれたのかと、リカバリーガールに御礼を言って、部屋を後にしたのだが。

 

「あんたは、ずっと弱いわね」

「!?」

 

 突然話しかけられ、バッと振り向くとそこには、無表情が顔に張り付いた、あのまま消えたと思っていた姉がいた。

 そして、その言葉に腹が立つ。

 響香は強い。

 手の内を知られていることもあるが、俺からすれば近中距離戦での厄介さだとあの爆豪に匹敵すると思っている。

 そんな響香相手に瞬殺でもしろと言うのか。

 ましてや、アンタが鍛えた相手だろうがと思い、文句のひとつも言おうとしたのだが。

 

「個性は使うなと、言わなかった?」

 

 ジジイにも言われたな。

 個性抜きで雄英でも首席になれと。

 そしてこの姉ちゃんには、命の危険を感じた時以外に個性は使うなと、そう言われた。

 

「うっ…でも、あの状況なら…」

 

 大きくため息をつかれるかとも思ったが、変わらず無表情のままの姉は、ゆっくりと話し始める。

 

「あんたが負けようが勝とうが、私は使うなと言ったの。そもそも力量で言えば響香ちゃんには勝って当然。"体育祭"という枠組みならそれなりな勝負になるとは思っていたけど、予想以上に、それ以下の内容だったわ」

「負けるとわかってて手ェ抜けってのかよ」

 

 流石にそれは、舐めすぎじゃあないか。

 みんな、本気でやってる。

 負けて悔しがる梅雨ちゃんや、辞退したのに拳震わせてた拳藤。

 そして、心操という普通科のやつだって、本気で優勝を狙っていた。

 ふざけた理由でやる気を出して、緩い気持ちで挑んでいたのは俺だけだった。

 でも、今は本気で優勝したいと思っている。

 

「アンタの個性はただ結果を先延ばしにするだけ。結界に使うならまだしも、自身の身体への結果を【先送】にした後の事、ついこの間のことなのに覚えていないの?例えそれで勝利をしても、後に死ぬ事なんて私は許さない」

 

 思ったことを読まれているのか、姉は至極もっともな事を言う。

 USJでも結界が間に合わず、耐え切れると歯を食いしばった結果が身体が動かせないほどの衝撃。

 無理やり再度個性を使い、痛みを【先送】して梅雨ちゃん達の救出は間に合ったが、その後は死にかけ…というかほぼ死んでいた。

 結界に使えた状況なのに、間に合わないと判断したのは俺の力量不足。

 そもそもダメージの部位を細かく見極め、小さな結界生成であれば間に合って当然のタイミング。

 間に合わないと勝手に見切りをつけ、その身を晒すなんて甘い以前に惰弱的な思考。

 騎馬戦の最後もそうだが、今回だってそもそもそんな切羽詰まった状況でもなかった。

 なんて珍しくクドクドと説教を行い、最後に俺の心を大きくエグッてくる。

 

「アンタが無茶したのは、全部他人が絡んでたから今までは多めに見てた。でも、今回は誰かを守るためでもなんでもない。自分の甘さが招いた結果だと、そう言ってるの。そんな個性に頼りきりじゃいつまで経っても成長はない」

「……」

 

 俺はなにも言い返せない。

 それは全てが本当のことだから。

 俺の個性は意味のない個性だと思っていた。

 姉の言う通り、結界をたかが3秒だが絶対に変わらない壁を作れるのは確実な強みだ。

 だけど、姉が言っているのはそう言うことじゃない。

 俺が全部思っていたことすら言い当てられた気がした。

 自分で完結する事象には、正直なところあまり興味がないのはわかっている。

 いや、わかっている気でいた。

 小さな頃、上級生を泣かせた時にも、アイツを泣かせた時にも。

 響香に言われたが、俺には周りが見えなくなるクセがあるらしい。

 そんなところが、父さんに似ていると幼い頃の姉が話してくれたんだ。

 

「私は、また家族とともにいたいだけなの。もう、誰かがいなくなるのは嫌なの。なんで、それがわからないの?」

「俺は…」

 

 姉ちゃんの無表情の奥。

 その奥にある感情を、思いを、なんとなくだけど…間違いかもしれないのだけど、見えた気がして、俺はちゃんと弟して答えなきゃと思ったんだ。

 

「……ごめんなさい!俺…俺は、強くなるから!俺だってそうだよ。誰かがいなくなるのは嫌なんだ。姉ちゃんと一緒だ。だから、俺はもっと強くなる。──大事なもんも、いろんなもの、全てを守れるほどに」

 

 そういった俺に、姉は無表情のままだった。

 ただ、俺の気のせいかもしれないけど、本当に気のせいかもしれないけど、静かに微笑んだ気がしたんだ。

 

 

 

 姉ちゃんが何を考えているのか。

 あの時わずかに震えていた理由も、姉のことも家族のことも、俺は本当に何もわかっていなかったと知ったのは、もっと先の話。

 

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