現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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4話 唯守の野望

 

 

 間唯守14歳、中学3年生。

 

 妖の現れる頻度は数ヶ月に一度程だったのだが、それも急激に増えたのが中学3年に上がった時だった。

 その頃は、学校に通うこともほぼなく、ひたすらに狩りに精を出す毎日を過ごしていた。

 妖が出る間、ジジイから夜は一緒に見廻りに出ろとの事で何百年ぶりに結界師としての仕事をしていた。

 あぁ見えて、個性使用の許されたヒーロー免許を持っていたと言うのだから驚きだ。

 それであっても、たかだか中学生である俺を一緒に連れ出すと言うのはどうかと思うが、ジジイの中では、幼少期から扱かれてきた事を考えても、ヒーローよりも結界師としての使命の方が大事と言う事だろう。

 いつ現れるともわからない妖のため、と言われていたのでやる気も完全に薄れていたのだが、今は俺もやる気十分。

 22代目によって一つとなった墨村家と雪村家の方印が重ねられた、正方形二つを合わせた八芒星が描かれた戦装束に身を包み、夜の街を飛び回り、練磨した術を試せる事にテンションが上がっていた。

 俺よりも、完全にジジイの方が浮かれ、張り切っていたような気はしたが。

 学生でありながら、こうして実戦経験が積めるのはお得だったし、幸いにも人に寄生するタイプはあの一回きりだったようで、そうでない限りは、滅却する事になんの躊躇もない格好の相手。

 あの時の手のひらくらいの蟲から、人くらいの妖怪のようなものまで。

 姿形は様々で、どこかで見たことあるような化物から、どこでも見たことないような化物までいたが、いずれも知能は低いようで、今のところあの日のような苦戦を強いられた事もない。

 

 何度かオツトメ、と言えとジジイがうるさいのだが、妖を狩っていくうちにわかってきたことがある。

 あれらは全て霊体であり、元は生きていたなにかだという事。

 悪霊とも言えるのか、禍々しい呪力や妖気といえるようなものに取り憑かれ、変化したのが今の妖。

 はなから妖として生まれたものもどこかにはいるのかもしれないが、今のところは、それが居たとは思えない。

 過去の時代では、強い力を持った妖として生まれた何かが、土地神や主と呼ばれていたのだろうか?

 それとも、土地神や主から派生した何かが、妖として暴れていたのだろうか?

 昔の書物はさも当然に存在しているように書いてあるので、当時当たり前だったであろう、なぜいるのかという説明は全く書かれていない。

 だが、呪刻の書物を探しているときに、良い物を見つけた。

 それは、正統継承者ではなかった、方印の出なかった者の手記。

 手記といっても、ほとんど日記みたいなもので、方印が浮かんだ正当継承者とは違い、あまり力を持っていなかった、妖もぼんやりとしか見ることのできない自分を卑下するような内容も見て取れるが、実際今の俺にはその視点すらも上なのでちょうどよく、その丁寧な手記を細部まで読み解くのが最近の日課になっている。

 色々と、手記の内容と今の状況を照らし合わせ、それぞれ合っている点と合っていない点を考察していくも、残念ながら今のところ昔は普通にいたらしい、通常の人間霊すら見たことは無く、悪意のあるものにしか出会ったことはなかった。

 土地が力を失い、土地神や、それに近いクラスの位の高い妖は消え、異能が身体を調べればわかると言うほどにポピュラーになったことにより、呪力や妖気が失われた結果なのか、と考えていたがあっているかはわからないし、調べる術もない。

 昔と今で、何がいったい違うのか、妖が復活した理由はなんなのか。

 そんな事を考えながら、滅した妖に向けて天穴を開いた。

 

 

 

 

 朝は鍛錬に、昼は学校かこれまた鍛錬に。

 夕方から夜にかけては寝るという生活をしばらく続けていたのだが、何故かパタリと妖の出現は無くなった。

 もう3ヶ月は見ておらず、そろそろ梅雨も終わる頃。

 ほんの2か月間と少しの間であったが、俺の結界師としての仕事は早くも終わりを迎えたようで少し寂しい。

 理由はわからないが、自然に消えたとは思えない。

 ジジイも俺と同じ見解のようで、その訳を探りに行くと頻繁に家を開けるようになった。

 ジジイが自分の代わりにと家に置いていったのは高度で厄介な式神、ではなく通常の式神。

 たかだか単純操作用の呪力しか込められていない式神を出し抜くことなど、いとも容易いこと。

 これでまた快適な修行ライフが始まると思っていた。

 だと思っていたのだが、真に厄介なのは、都度都度家に派遣される事になった監視役。

 そいつのせいで、俺は学校に通わされるようになっていた。

 それは、俺があの日家に呼んで、まじないを教えた女の子。

 その時は、「我が一族に伝わる秘術を……ポンポンと他人に教えるでないわ!!たわけーー!!」と馬鹿みたいに怒鳴られ続けたが、彼女の持ち前のフレンドリーさと素直さで、時間はかかったもののジジイを籠絡した時、俺にだけサムズアップする彼女に魔性を見たのは秘密だ。

 

 

 

 

 気怠げに通学路を歩き、落ちてくる目蓋をこすりながら教室に入ると、まだあどけなさを残してはいるが、大人の階段を登り始めているような、初めて出会った時からさらに磨きのかかった美少女がこちらを見て、勢いよく立ち上がった。

 その様は子供らしく、その表情もまた、真面目な時とは打って変わって幼く見える。

 俺は2ヶ月に一回の登校ペースから、最低でも週一は登校するようになっていた。

 というのも、ジジイから任命された監視役を請け負った、このクラスメイトのせい。

 

「おっ!今日はちゃんとホンモノだー!」

 

 そう言ってパンパンと肩を叩いてくる。

 コイツがジジイに俺が式神を使って学校に行っていないことをバラシたせいで、学校には行けと言われるようになってしまったのだ。

 

「ちゃんと週一は来るようにしてるだろ?ジジイには毎日って言ってんだから、絶対言うなよ」

「わかってるってー」

「……今ですら、俺の快適な修行ライフを返して欲しいくらいだ」

「でもでも!私のおかげで雄英も見えるくらいの学力になったでしょ?」

 

 中2の時はうっかりテストだろうがなんだろうが、全て式神に行かせていたため俺の成績はズタボロだった。

 そのことを言っているのだろうが、あいにくこの本体の頭は意外かもしれないが出来は良い。

 

「それは式神にテストも受けさせてたからだし、もともと中3からは流石にテストぐらいは行くつもりだったよ」

「ほんとかなー。唯くんが頭いいイメージとか特にないし、そのままだと実技で受かっても学力で落ちちゃうと思ってね!」

 

 さっと顔の横で人刺し指を立て、さも自分の功績のように語る。

 失礼な奴だな。

 記憶力も理解力もいい方だと自負しているというのに。

 

「あっ!今日はウチにおいでよー!またケーキつくってっておかーさんも言ってたよ?」

「本当か?わかった。行こう」

 

 なんていいお母さんなんだ。

 ジジイのせいで、せんべいやらおかきばかりを出され続けて甘いものを抑制された生活を送っていた俺は、スイーツと言うものが大好きなのだ。

 初めてロックを聞いた時と、初めてチョコレートを食べた時。

 この二つが、14年とちょっと生きてきた俺の感動の二台巨頭である。

 彼女が頻繁にうちに来るようになってから、ある日逆に招待をされたのだが、その際手土産にと俺の作ったケーキを持っていたのだが、美味しそうに食べてくれた2人を思い出す。

 ジジイに隠れて作る時とは違っておおっぴらに調理ができるので、俺も俺で、その日以降はたまに葉隠家にお邪魔するようになっていた。

 

「じゃあ今日はウチで料理教室だー!」

「ん。材料買って行こう。今日こそ、デコレーションに挑戦だ」

 

 焼き菓子などの簡単なものからコツコツと始め、今はチーズケーキまで会得した。

 次こそは、ケーキをケーキたらしめる、デコレーションを施したホールケーキを、作り出してみせる。

 あぁ、想像しただけで幸せな気持ちになる。

 いつか、お菓子の家ならぬ、お菓子の城を作ってやろうという、とんでもなく幼い野望を抱いているのであった。

 

「うわー。ひどい顔してるよ」

 

 気づいたら拳を握り込み、頬を緩めて虚空を見つめていた事に気づく。

 全く、本当に失礼な奴だ。

 とはいえ少し浮かれていたのも事実であり、俺は放課後が楽しみになっていた。

 

 

 

 

「いつもありがとうね。唯守くん」

「いや、お礼を言うのはこっちですよ。こんだけ大っぴらに作れるなんて、家では考えられないですから」

 

 既に3年生ということもあり、多くの生徒が勉学に励んでいる。

 もちろん俺たちもそうなのだが、たまには息抜きも必要であると言い聞かせているし、実はこうしてたまに誘ってくれるのは正直ありがたい事だった。

 言った通り、ジジイは俺に何を期待しているのか、遊ぶことよりも修行だ鍛錬だのとうるさく、好きな事は家ではできない。

 そんな事を思いながらも、ウキウキと作業を進めていく。

 

 出来はいいはず。

 流石に初めてだったし、形は少し崩れたが、言った通り我が家ではコソコソとしかできないし、経験不足ながらにここまでできたのは上々、なはず。

 ただ、人様に出すには、形は絶対に重要だよなと、出来上がったばかりのケーキを見つめて少し肩を落としていたのだが、真横から声が聞こえた。

 

「お、おぉぉぉぉぉ!!すごーーい!」

 

 わきわきと両手を動かしながらこの微妙な失敗作を褒めてもらえるのは、素直に嬉しい。

 それに、ここまでリアクションしてくるともっと良いものを、と思ってしまうのは当然のことだと思う。

 

「いや、形が崩れちまった。次こそは、もっと上手くなる……!!」

 

 心からの言葉だったのだが、彼女はポンポンと肩を叩く。

 

「なんかさー唯くんって何にでも真面目だよねー。プルスウルトラだーって感じ!」

「プルス、ウルトラ…?」

 

 聴き慣れない言葉にハテナが浮かぶも、そんな俺の様子にコイツ正気か、という視線を向けてくる。

 

「雄英の資料見てないのー!?せっかく渡したのにぃ〜〜!!」

「え?あぁ、ごめん。普通に見てない」

「えぇーーー。そーいうとこだよ。ダメなとこ!」

 

 次はバシバシと肩を叩かれていると、リビングから明るい声が聞こえた。

 

「透ちゃん、唯守くん、どうかしたの?」

「なんでもないですよ。できはしたんですけど、ちょっと形が悪くなっちゃって……」

「そんなことないよ。綺麗じゃない」

 

 そう言って、笑顔でパンッと手を叩く、中学3年生の娘がいるとは思えない可愛らしい顔と仕草に、似た者親子だなと思った。

 

 小さなホールケーキだったので、4等分して一つはお父さん用とのこと。

 その切り分けたケーキも食べ終えて、今は葉隠家のリビングで、お母さんの出してもらった紅茶の残りを飲んでいた。

 

「でもさ、こんな美味しいのに、もったいないよねー。うちでしか作れないなんて。唯くんの手作りケーキ食べたことあるのも、私とおかーさんだけ?あ、茂守さんは流石に一口くらいは食べてるか」

「いや、ジジイは食べなかった。と言うか作ったことにキレてきたけど、食べてくれたのは、母さんと、姉ちゃんと、もう一人いるよ」

「ありゃ?家族以外でも私が初めてじゃなかったんだ」

 

 なぜか少しガッカリとした様子。

 そんな娘を見てニコニコと笑っているお母さん。

 

「うまいって言ってくれたのは、"透"がはじめてだけどな。家族より先に、初めて食べてくれたやつはマズイって笑ってたから」

 

 そう言えばそうだったな。

 小三の時だったっけ。

 響香の家で、コッソリ作った生クリームの小さなケーキ。

 一口めで即マズイと言われた時は少しだけムッとしたが、あの笑ってる顔が頭から離れなくて、そんで、確かにマズかったから仕方ない。

 もうすぐ、三年経つな。

 俺さ、なかなかに腕をあげたぞ。

 無理やりさせられた約束だけど、案外響香の方が忘れてたりして。

 

 

 

 

「ついに…ついにやった……やったったッ!! 唯くん唯くん!!」

 

 間家に通い始めて早1年。

 遂にこの日がやってきた!

 まじないだの、妖だの、呪力だの。

 初めは訳のわからない話をされたかと思ったけど、式神なんてゆーものを見せられたからには信じずにはいられない。

 それに、私の顔が、というか身体が見えてるというのは、今後を考えると、普通に恥ずかしすぎる。

 だから、遂にこのまじないが完成したことは本当に嬉しい。

 

「……どした?」

 

 私の感動とは打って変わって、なんという真顔。

 

「ちょっとちょっと!私の感動!!見てわかんないかなー?」

 

 目の前で、出来立てほやほやのまじない、呪刻に成功した服を着て私はくるくると回ってみせるのだが、この男、ほんとスイーツの前でしか笑顔を見せないなー。

 

「ん……おぉ。完成したんだな」

「………はぁ」

 

 唯くんにその手の期待を待つのはやめておこう。

 気の利いた言葉を言えるタイプじゃないのはもーわかってるし。

 

「呪力も安定してるようだし、数時間は持ちそうな感じか?」

「ふふふ。そのとーり!どうかな!?見て見てーー!」

 

 私は透明人間で誰にも見えないはずなのに、見て見てなんて、変な感じ。

 結局、茂守さんにも私は見えているそうだけど、ぼやけていて表情すらわからないとは言っていた。

 なんとか存在を認識することができる程度で、見た目からは性別すらもわからないと。

 それでも、茂守さんからも見えるって聞いた時は、やっぱりショックだった。

 けど、唯くんは最初から、もっと鮮明に見えていると言うにも関わらず……

 うーーーん、困った。

 私、変だ。

 今までずっと思ってきた、誰にも見られたくない、恥ずかしいという気持ち。

 そんな気持ちが、何故か唯くんにだけは思わなくなっていた。

 

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