現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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37話 轟 VS 間

 

 

 

 そろそろか。

 

 控え室の椅子からゆっくりと立ち上がり、練り上げた呪力を身体全体に循環させる。

 

 あのたまに感じる変な力の使い方は完全変化と似たようなものだと思ったが、身体の内に眠る力を外に、というのは正直わからん。

 それに似た感覚は何度かあったと思うんだが、条件も自分ではよくわかってない。

 透が呪力の扱いが上手いと言うのは、俺にもわかる。

 次々と進化のように成長していくアイツに、追い抜かれるわけにはいかない。

 響香にも、誰にも敗けたくない。

 俺は強くならなくちゃならない。

 なによりも、俺自身の望みのために。

 

 とはいえ、焦りは禁物だ。心をシンと静かに保て。

 今は唯、俺にやれる事を。

 

 

 

 

 

 左の、炎の力を使わずに勝つ。

 母からもらった右の氷の力だけで勝つ。

 

 それが、子供じみた駄々と言われても捨てられるわけがねぇ。

 そんな簡単に、覆るわけがねぇ。

 

 今はまだ緑谷と闘って、アイツに言われたことも消化できていないまま。

 だけど、一瞬呪縛のように俺の脳裏にこびり付く、否定してやると誓ったアイツを忘れた。

 

 試合には勝った。

 だが、これが本当に良いことなのか悪いことなのか。

 アイツと話したことで、余計にわからなくなっている。

 少し考えると言ったが、未だ答えは出ないまま。

 

 だが、相手はあの間。

 初めてのヒーロー基礎学では、俺は敗けた。

 

 オールマイトと近いものを感じる緑谷には、勝ちたいと思った。

 だが、間は敗けたくないと思う、唯一の相手かも知れない。

 それは俺が右の力だけで勝ち上がり、アイツを完全否定するための障害だからじゃない。

 

 この気持ちは、正しいものなのだろうか。

 呼び出しも来た事で、答えが出ないまま、準決勝への舞台へと上がるしかない。

 

 

 

 

 

『サクサクいくぜ〜準決勝!!轟 VS 間!』

 

 集中しろ。

 落ち着け。

 

 

『START!!!』

 

 

 開始と同時に、瀬呂の時を考えればかなり規模の小さい氷の波が、轟の足元から一直線にこちらへと伸びている。

 開始直後の牽制にしても、中途半端でしかない。

 

「結」

 

 結界を足元から生やすように成形し、上方へ回避。

 対空攻撃の炎を警戒するも次は来ない。

 舐めてるのか?

 コッチはもう、次の手は打っているというのに。

 

「っぐっ」

 

 後頭部から伸びる結界が轟の後頭部を打ち付け、前のめりになったところで、地面へと降り立ち、顎に向けて掌底を放つ。

 

「グッ!」

 

 打ち込んだ時には反撃の兆しが見える。

 打ち込んだ体勢のまま、俺と轟の間に結界を生成し、同時に大きく膨らませていく事で、轟も俺も押し出されお互いに距離を取る形となった。

 その距離の間には轟から氷の波が伸びてきており、もう少し遅ければ俺も飲まれていたかも知れない。

 

「…ちっ!」

 

 轟は右手を振りかぶり、その右側には霜が降りているように肌も白くなっている。

 それとは対照的に、燃えるような、睨むような両の眼は俺を捉えていた。

 瀬呂戦とまではいかないが、大規模氷結攻撃。

 俺には緑谷ほどのパワーはない。

 守るなら、今はまだ頼るしかない。

 

「結!!」

 

 自分を結界で覆い、個性を結界に発動。

 これで、凍りつき砕け散る事実は【先送り】にされた。

 

『大!氷!結!!!勝者はとどろ』

『いや、まだだ』

 

 失礼なアナウンスが聞こえるが、後に氷からの脱出を図るべく、自分でももはや壊すことのできない、3秒間だけ無敵な結界が【先送り】された結果の到来で壊れると同時に結界を生成。

 今の結界では、この氷の山を破壊するまでにはいたらない。

 でも、コレなら。

 

「滅!」

 

──ガラガラガラ…

 

『三重の、結界…』

『あの氷の山をくり抜いて間生還〜!!試合はまだおわらねぇ!』

 

「…ちっ」

「まだ終わってねーぞ?」

 

 わずかに動きも鈍くなった気がする轟から小さな舌打ちが聞こえるが、言った通り、まだ終わりではない。

 

「出し惜しみか?俺は敗けるくらいなら全部出すぞ?結!!」

「!?」

 

 轟を囲むように生成された結界。

 あの三重結界とは違い、結界単体で滅したとしても消える事はないだろう。

 生身の人間相手では、俺の威力では精々全身打撲が限度だし。

 なぜか緑谷戦と違い、本気を出してこない轟相手ならここまで戦えはするか。

 俺が強くなれるなら、炎も使う本気の轟とやりたかったんだけど、な。

 

「想像していた展開とは違うけど、──め」

「…ふっ!!!」

「!?」

 

 轟の右側が、異常なほどに膨れ上がるように見えた。

 ビリビリと右手には衝撃が走っている。

 尖った氷の先により、結界は破壊されその先端は俺を貫かんと真っ直ぐに伸びてきている。

 

「くっ!ほっ!」

 

 大きな結界は間にあわない。

 自身の足元に小さく、弾力の強い結界を生成し、勢いよく踏み込み宙に飛ぶ。

 そのまま別の結界を生成し、蹴り込むことで一気に轟と距離を取った。

 

「あぶねー。やっぱり結界で拘束ってほど、すんなりはいかないか」

「緑谷といい、お前といい…」

「ん?緑谷?」

 

 なんでここで緑谷なんだと不思議に思いながらも警戒は怠ってはいない。

 だが、霜の降りた轟は凍えるように、その身体をわずかに震わせている。

 

「緑谷がなんだって?」

「お前が強いのはわかってた。だけど、それでも、俺は半分の力で、アイツの力を使わずに勝つって決めたんだ…」

 

 ……?

 俺に話してるのか、自分に言い聞かせてるのかはわからない。

 

「わからんけど、半分の力で勝つつもりだってんなら見積もりが甘かったな。体育祭始まった時の俺と一緒だ。みんな本気だったんだ。だから俺も、本気で()ってる!」

「本気で…」

 

 身体を震わせ、氷も出せない轟なら場外に押し出すだけで、終わりだ。

 結界を轟の眼前から、場外へ向かって生成して──

 

「お前にも…俺の、全力…!」

 

 突如燃え上がる左。

 結界は成形しきる前に燃える左腕に溶かされ消える。

 なんて熱量。

 これ、緑谷よく受けたな…!

 

「テメェまで、何笑ってんだよ…」

 

 そう言った轟自身も微笑むように、その左腕を突き出すために、後ろへと引いた。

 気づかないうちに、俺も笑っていたらしい。

 

「なんでって…すげえヤツの本気に勝ったらさ、嬉しいのは嬉しいだろ?」

 

 轟の左腕が突き出されると同時に、俺も右手を空へと振り上げる。

 

「結!!」

 

 轟の足元から結界を生成し、上空へと一気に伸ばす。

 迸る熱線は散々冷やされた空気の膨張と共に膨れ上がり、緑谷戦よりも小規模ながら、爆発的な力が"空"へと向かい伸びていく。

 斜めに成形した結界という不安定な足場と爆風の反動によって投げ出された轟は、奇しくも緑谷と同じように、その身は場外の壁にぶつかりズルズルと地面へと落ちていった。

 

「轟くん…場外…!間くん、決勝進出!」

 

 ミッドナイトのアナウンスで、ようやく準決勝も終わった。

 

 

 

 

 

 敗けた。

 たしかに、全力だった。

 

 否定したアイツの力も届かなかった。

 顔は見えないが、アイツはいったいどんな顔をしているんだろうか。

 

 緑谷と闘うまで"考える"なんて考えもしなかった。

 

「何があったのか知らないし聞かねーけど。炎もお前の力なら、使わないと後悔するぞ?」

 

 そう言って、俺に手を伸ばす間。

 その手を取ることを躊躇していると、なにやら怯えたような、なんとも言えない情けない顔をしている。

 

「俺もさ、実は姉ちゃ…まぁ師匠みたいな人に使うなって言われてた技を使っちゃったんだけどさ」

 

 なんの話だと思うが、ずっと宙をさまよう間の右手を取り、立ち上がったところで、続きを話してくる。

 

「もしもあのまま使わなくて轟に敗けてたら、俺はきっと後悔してた。だからさ、お前も全力出して、良かったって思ってたらいいんだけど」

 

 そう言って、情けない顔を情けない笑顔に変えて言った間。

 俺には、まだわからない。

 考えたいが、時間もなかった。

 だけど、間と闘って、"迷う"事を一瞬でも捨てることができた。

 あの時、あの瞬間に、吹っ切れちまったんだ。

 

 それがどう言うことかは、また考えなくちゃならないけど、試合に敗れたのがコイツで、良かったのかも知れないな。

 

『青春ね!!!』

 

 ミッドナイトの声が、後ろの方でやけに大きく聞こえた気がした。

 

 

 

 

 決勝の相手が決まったか。

 あの猫毛野郎…なんの力を元にあのウゼェ邪魔箱を使ってやがる?

 俺の【爆破】も、掌の汗腺からでるニトロのような汗を爆発させてる。

 持久戦には俺も強いが、威力の上限もあるし、大規模爆破を繰り返しゃ汗腺も痛んじまう。

 最終的に傷んだ汗腺からわずかでも血が出ちまえば、混ざりもんになるし、威力もクソもなくなっちまう。

 半分野郎は、身体に霜が降りてから動きが鈍くなって行く様を見るに、ゲームで言うMPみたいなもんだ。

 しょう油顔の時が最大規模の攻撃だろうが、それもクソデクの時みたいに炎も使えばMP回復可能ってか。

 

 ここまで耳以外から全く攻撃受けてねぇあの野郎は、結局ココまででまだ疲れた様子を見せてねぇ。

 それがわかんねぇうちは、持久戦は俺が不利かもしんねぇ… 

 しかも次の相手、葉隠のヤツは猫毛とつるんでやがる上に、この試合のたびに透明以外の事を仕掛けてきやがる。

 透明、閃光はワケねぇが、分身と瞬間移動は、厄介か。

 技の多さで的を絞らせねぇ上に、常にカウンターも警戒しなくちゃなんねェ…クソ。

 大規模爆破で終わらせるのが一番効率が良いが、更に違うナニカをしてくる可能性もあるか。

 

 だが、何してこようが俺が勝つ…葉隠を倒し、猫毛も倒して、俺がトップだ。

 

 

 

 

 

「おい間!お前やっぱスゲェな!あの三重の結界のヤツなんだよ!?」

 

 上鳴がそう言って、興奮気味にバシバシと唯守の肩を叩く。

 

「……未完成の必殺技だとでも思ってくれ」

 

 なんだか空を仰ぐように、何か納得いってないような顔をしながら、唯守はウチの隣へと腰掛けた。

 

「おつかれ。勝てて良かったね」

「ありがと。そうだな、最初から炎も使ってこられてたらまだあんまわかってねーし、結果はわかんなかったかもな」

 

 そうかもしれないけど、だとしても唯守はきっと勝ってたんだろうな。

 でも、ここで少し疑問が生まれる。

 

「ねぇ、多重結界って必殺技じゃないの?」

 

 ウチも見る限りでしかないが、精度と速度と威力が桁違いなだけで、時織姉の使用する結界も唯守とほぼ見栄え的には変わりはない。

 文字通り、アレが必殺技なんじゃないのかと思っていたけど。

 

「いや、だってさ。──地味じゃない?」

 

 尻すぼみになっていく声量。

 そしてなんとも言えない顔。

 やっぱり、唯守は変わってないな。

 

「またそれ?それ言ったらウチもじゃん。唯守昔っから地味だって気にするよね」

「それ言ったら響香だって昔は──」

「何話す気か知んないけど、ヤメテ」

 

 嫌な顔した唯守の肩を持ち、続きはしゃべらせない。

 ウチが知っているのと同じように、唯守もウチの小さな頃を知ってる。

 小学生時代の変な黒歴史なんて、誰だってバラされたくないでしょ。

 ウチは泣き虫だってバラしちゃったけど、それとこれとは別。

 

「葉隠の次は耳郎かよ。オイラの前でイチャこいてんじゃねーですよこのタラシヤローが」

「ブッ!」

「ちょ!そんなんじゃないってば!」

 

 峰田の一言に唯守は飲んでいたお茶を吹き出し、空のペットボトルを持ったままゴホゴホと咳き込んでいる。

 

「ば…みねた…ゴホゴホッ!気管に入ったじゃねーかゴホッ!」

「うるせーんですよ」

 

 はぁ。

 こんなにクラスメイトと話してる唯守見ることなんてなかったから嬉しいやら、内容からして複雑やら。

 

「ウギャーーー!!!!」

 

 峰田をイヤホンジャックで黙らすも、唯守はまだコホコホと軽く咳き込んでいた。

 

「ほら、水飲む?」

「ありがと」

 

 ゴクゴクとウチの"飲みかけ"のペットボトルの水を飲んでいる唯守。

 

「耳郎さん…」

 

 ヤオモモは目を輝かせて両手で口元を隠すようにしてる。

 ハッとして周りを見ようとすると、ヤオモモのすぐ隣にいる芦戸は音が聞こえるかと錯覚するくらいにニヤニヤとしていた。

 

「あっ…!これっ、ちがっ…!」

 

 狼狽えるウチを他のみんなも温かい目やら、キラキラとした目で見ているけど、違うから!

 そんなんじゃ…ない。

 

「2人は幼馴染だったよね。僕とかっちゃんと違って、仲が良いのは少し羨ましいな。間くん、大丈夫?」

 

 緑谷はそう言いながら唯守の背をさすっている。それを見た瀬呂は腕を組んで緑谷へとはなしかけた。

 

「緑谷…羨ましいってのは、今はちょっと違う意味にでしか取れないぞ」

 

 その一言で、周りは笑うやら複雑な顔やらとなっていた。

 でもそのおかげで、さっきまでの話は吹き飛んだから助かった。

  

 唯守は顔を少し赤くして、まだ始まっていないステージへと視線を向けている。

 なに顔を赤くしてるんだと思ったが、ウチも蛙吹から顔が赤いとツッコまれてしまった。

 

 そんなんじゃない…ワケじゃないかもしれない。

 

 浮かんだ考えを振り払い、次の試合の勝者と唯守のどっちかが、ウチら一年のトップになるんだと気持ちを無理矢理切り替えることにした。

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