現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
『準決勝第二試合、葉隠 VS 爆豪!!』
緊張した様子の葉隠。
唯1人にしか見る事はできないが、いつも上がっている口角は硬く結ばれている。
だがそれでも、視線だけは対戦相手から離す事はなかった。
いつものように、歯を剥き出しに好戦的な笑みを浮かべる爆豪。
自分の力を疑わず、また負けることなんて微塵も考えていない。
だが、その有り余る戦闘センスの中ではあの手この手の絡め手を得意とする葉隠を舐めることもなく、あらゆる対抗策に思いを馳せている。
「葉隠…大丈夫かな?」
観客席で誰かがつぶやいた。
それは全員ではないが、このスタジアム内の大半は思ったこと。
爆豪は、麗日戦の際にも見てとれたが、たとえ誰が相手でも勝つ為には容赦なく、遠慮なく、ただ勝つという目的に向かって突き進む。
「そんなこと、試合じゃ言ってられんもんね。負けた私が言うのもアレですが…」
タハーと頭に手をやる麗日に、そんなことないとクラスメイトは声をかけて
「麗日も凄かったじゃねーか!まぁ、試合で手を抜かれるのもちげーしな!」
「ありがとう。でも、そうだよね。葉隠さんも、きっと本気で優勝狙っとる。心配するのは違うやんね」
切島の言葉に麗日は少し微笑んで、その視線をステージへと向けた。
それでもケガをして欲しくはないなと、心配からかイヤホンジャックがウロウロとさまよっている耳郎へと唯守は声をかける。
「大丈夫だろ。そもそも透も強いし、覚悟も決まってる」
唯守が他者のために無茶をする度に、誰かの為と自分を顧みず前へと出る度に、彼女は唯守を叱り、諭す役目を担っていた。
自分たちだって戦えると。
守られる為にいるのではないと。
「そうだね。どっちにしろ、勝った相手と唯守が決勝かー。ほんとはウチだったのに。ウチに勝ってんだからさ。──優勝してよね」
「あぁ。もちろんそのつもり」
ニヤリと微笑んだ唯守に微笑み返すと、耳郎はグッと姿勢を正しスタジアムの中央へと目を向ける。
まもなく試合開始。
その前に、葉隠の緊張した目がスタンド席にいる唯守へとチラリと向けられる。
そんな葉隠と"目が合う"と、唯守は右の拳を葉隠へと向けた。
緊張バッチこい!やったんぞ! だろ?
そんな気持ちが届いたのかはわからないが、唯守を見る葉隠はいつものようにグッと口角をあげる。
再度対戦相手を見据える瞳はさっきまでよりも輝いて見えた。
「なにいまの?」
「俺の緊張解いてくれた人のマネだよ」
その言葉に、耳郎はわずかに首を傾げた。
*
『START!!』
試合開始直後、爆豪は爆風で宙へと飛ぶ。
その位置取りは、中距離程度と中途半端な距離。
「嫌なとこつくなぁ──もう!」
葉隠は少し表情を崩しながらも"わざわざ"悪態を声に出し、その身を完全に透明にして、駆け出す。
──タッタッ
「そこか透明女ぁ!!」
──BOOOOOOM!!!!
爆破がその"音がした部分を吹き飛ばし、その威力はステージ剥がすほどのもの。
剥がされた瓦礫と共に、"ブーツ"が二足、散らばっていた。
「チッ…音はフェイクかよ!」
そもそも音を殺して動くことに長けた葉隠があそこまであからさまに音を出す事はない。
だが、それでも目印には違いなく、その辺りを吹き飛ばした爆豪であったが葉隠本体を巻き込むことはできなかったようだった。
嫌な距離だなと葉隠は内心で焦っていた。
中距離から、わずかでも痕跡を残せばそこら一帯を爆破される。
近距離戦主体の自分では、近づいたところで一発で仕留めない限り爆破のカウンターで敗れる事となる。
上空からあの麗日さんの流星群を吹き飛ばした規模の爆破をされたら終わりだと、気づいていた。
だからこそ、爆豪は距離を保つ。
自分がその距離を保つ以上は、葉隠に残された活路は一撃必殺での捨て身の肉薄しか選択肢が残されないのだから。
とはいえ、ステージ全部を巻き込む爆破だと自分も反動で場外ラインを越す可能性がある以上、下手は打てないので、まずは見極めることに徹している。
「相性最悪だね」
「てかよ、俺らみてぇな近接しかできない個性だと、中遠距離に対応できる奴はだいたい相性悪いよな」
切島の言う通り、肉弾戦主体のものはどうしてもまず距離を埋める必要がある。
その中でも、A組の近接格闘組の中ではステルス性能に特化し、攻撃力、防御力も低い葉隠はそもそも開けた場所での一対一という形式自体が弱点に等しい。
「まだ一芸あると思う?」
「どうだろうな。あの短期間であんだけ覚えてるからもうわっかんねー」
耳郎は葉隠の隠し球がまだあるのではないかと思っており、わからないと言うも唯守も何かあるだろうとは思っていた。
だが、そんな葉隠の脳内は──
(やばいやばい!どーしよ!?
アイブレイクする?
いやーでも私の身体を起点に光っちゃうから、そのまま爆殺されちゃうし…
サイクアウトは、使ったところで距離を変えてくれないなら難しい。
ここぞで使わないと、その効果は十分に発揮できない。
上鳴くんの時と同じようにスタートと同時がベストだったんだけど、ああも警戒されちゃあ流石に無理!!
唯くんならどーする…
結界の個性で足場つくれるし、結界ハンマーで爆豪くん叩き落とすもできる。
響香ちゃんなら振動波で牽制できるし……
麗日さんみたいに捨て身でっていっても、私に正面切っての一撃必殺できる超必はないしぃ……)
そんな目まぐるしくめぐる思考であったが、次にいつ来るかわからないチャンスが到来した。
──BOOOM!!!
空中でホバリングのように飛んでいた爆豪だが、ステージの場外ライン間近まで移動し、自身の真下周辺を全て爆破して着地した。
「全部爆破させりゃあ、問題ねぇわなぁ!」
四辺で構成されたステージの場外ラインのひとつを背にし、残る三方向を爆破する。
背にした場外ライン一帯は全て爆破済み。
そうすれば、どこにいようと攻撃には巻き込まれるに決まっている。
ボボボと音をさせながら、その両の手を左右に向かって突き出した爆豪の正面に、二人の葉隠が突如として現れる。
「どっちがホンモンだろうが、どっちもニセモンだろうがカンケーねェ!!!」
──ヒュッ!!
──BOOOM!!!!
その二人の葉隠は駆けているだけで、どちらも怪しい動きは何もしていなかった。
正面に立つどちらの葉隠も、その周囲をも巻き込む爆破の威力だった。
だと言うのに、爆破される直前に、突如として爆豪の左腕は何かに弾かれたようにその方向を変えた。
「瓦礫を…!さっきの爆風にまぎれやがったか!クソ──っ!?」
二人の葉隠は爆風で掻き消えたが、突如として爆豪の左右に、左の袖が焼け焦げたジャージが出現した。
爆豪の壊したステージの瓦礫を投げつけ、爆破の範囲を強制的に狭めたものの、その爆発の余波には巻き込まれていた葉隠。
不思議とニコリと音が聞こえた気がした爆豪だが、それで終わるような男ではない。
どっちの葉隠も焦げているのは左側。
とはいえ、それすらもブラフな可能性があるのがこの女。
「結局、俺のやる事は変わらねェ!!」
「──そうくると思ってた!コレで!!!」
──BOOOOM!!!
両サイドを爆破させ、これでステージ上は一掃した。
その爆破は二人の葉隠を巻き込んだが、そのどちらもが幻のように消える。
だが、その結果は爆豪にはわかっていた。
なぜなら、声は耳元で聞こえていたから。
第三の、ホンモノの葉隠は爆発の瞬間に爆豪の腰を後ろから両手で抱き抱えるように掴み、ジャーマン・スープレックスの体制。
「爆速ターボ・スープレックス!!」
しかも爆破の威力で加速した爆豪は自ら後ろへと投げ出されるようになっている。
このまま飛んでいけば、場外ラインを超えて爆豪の敗北となるだろう。
このままいけば。
「舐っめんな!!」
──GRAP
「イッタタッ!!イタイ!!」
投げっぱなしジャーマンを決められ、投げ飛ばされる前に上下逆の姿勢のまま葉隠の裾と見えない髪を掴む。
「オラァァァア!!」
そのまま姿勢を元に戻す反動で、逆に葉隠を場外へと投げ飛ばした爆豪。
爆豪は場外ラインのギリギリ内側に立ち、葉隠は場外ラインの外側へと横たわっている。
「もー!あのタイミングでもダメなのー!?イッタイし、髪の長さバレちゃうのもヤダーーー」
「テメェが小賢しいことしてくっからだ、透明女」
勝者を告げる試合終了のアナウンスが流れる中、見えていないだろうが確かに爆豪の方を向き、その唇を尖らせている葉隠と、そんな葉隠にどこか清々しい笑みを浮かべた爆豪。
「くやしーーーー!!」
座り込んだまま、ひとしきり思いを全部口にした葉隠は顔を上げ、爆豪の目を見る。
「あのね、爆豪くん。唯くんは強いよ?──決勝頑張ってね!」
「ハッ!それでも俺が勝つんだよ!!」
*
静かな選手控え室。
歓声が遠くから響いてくる中、間唯守は椅子に座って、黙ったまま、心を落ち着けるべく瞑想をしていた。
バアンッという何かを蹴破る音とともに、瞑想は解ける。
そうして音の方向へと視線を向けると、爆豪がポケットに手を突っ込んだまま立っていた。
「あ?」
彼はなぜ自分の控え室に決勝の相手がいるのか思案顔であったが、すぐに自分が間違えていたことに気づき、口癖になっているような暴言のクソがと締めくくる。
「…まぁ、どうせそろそろ開始だろ。決着は試合でな」
間違えたというシンプルな自らへの苛立ちの矛先を相手へと変え、思ったことをぶちまける。
「テメェ。この状況でも余裕なんだな」
爆豪が顔も向けずに言う。
「……余裕じゃねーよ。ただ、俺にも色々あってさ」
「チッ」
爆豪は苛立ちを隠すこともなく、爆破と共に机を叩く。
「テメェは、なにが目的でここまで来た?」
唯守は少しだけ考えるような素振りをして、言葉を選ぶように、間をあけて答えた
「俺も、“ヒーローになりたい”だけだっての」
彼は一瞬、唯守の眼を見る。
まっすぐで熱くて、だと言うのにどこか暗さを持った光。
相手の目指す場所が"それ"だけではないと、なんとなく爆豪は感じ取っていた。
第一種目では勝つと言う目的も忘れ自ら障害となるアホっぷりにも呆れたモノだが、それもだんだんと真剣さを増してきた。
その集大成が先ほどの轟撃破だが、それでも煽って左の力を使わせたように思えた。
全力の相手を上から捩じ伏せ、完膚なきまでの一位を目指してる自分とは、被っているようでどこかその理由も違って見えていた。
「ケッ。なんにしろ、テメェはブッ殺す」
「わーお。殺すな殺すな」
強い言葉を使う爆豪にも、おどけて見せた唯守にもツッコむ者もいない2人の空間を少しの静寂が控え室を満たすが、それはすぐに終わりを告げる。
「あーー、でもさ、決勝でオマエと戦えて良かった」
「へぇ?」
「本気でぶつかれるってわかってるからな。油断も妥協もしないオマエみたいな奴なら、ハナから全力だ」
笑みを浮かべている唯守に釣られるように、爆豪は小さく笑った。
「言ってくれるじゃねぇか……けどな、猫毛野郎」
薄い笑みはドンドンと獰猛なモノに変わった。
まるで、人から獣へと変わっていくように。
「俺はナンバーワンヒーローになる。そのために、勝つために来た。テメェがどんな個性だろうと、どれだけ紙結界並べても──オマエごと全部叩き潰して、俺がトップだ」
爆豪は立ち上がり、ドアに向かって歩くも、ふと振り返る。
「……俺も負けねぇけどな」
「ハッ!!言ってろクソが!」
その後は振り返る事もなく、爆豪は轟音と共に控え室のドアを蹴りで閉めた。
──
そして、ようやく待ちに待ったアナウンスが鳴り響く。
『さぁ、いよいよラスト!!雄英1年の頂点がここで決まる!!』
轟音と歓声の中、二人の影がスタジアムに現れる。
『決勝戦!! 間唯守 対 爆豪勝己!!』
お互いの眼は、もう言葉はいらないほどに互いに火花を散らしていた。
『今!!スタート!!』