現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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40話 休め振替休日

 

 

 

『それではこれより、表彰式に移ります!』

 

 3位決定戦は行わないので、2名。

 それが透と轟の二人。

 2位は、太々しい態度で俺を睨む爆豪。

 そんで、一番高い位置にいる、1位が、俺。

 

 響香のせい、というのもアレだけど、小学校は嫉妬の目に晒されたので目立たぬように振る舞い、学校なんて面倒だと過ごしてきた小中学校時代。

 中学に至っては最初の一年間はほぼ学校にすら行っていないという俺。

 そんな俺が、こんな大勢の観客のなかで、表彰…!?

 今更ながら、この非現実的な状況に対応ができずにいる。

 

「なにアレ…ダサー」

「打ち上げられた鯉みてぇ」

「せっかくモテチャンスだってのにさぁ。犯罪者の処刑待ちの面持ちじゃね?」

 

 

 

 耳郎と上鳴、峰田が言うように、今の唯守は誰がどう見てもわかるほどに緊張していた。

 肩はガッチガチ。

 指先は無駄にピンと伸び、目線はぐるぐると一定の位置に留まらず泳ぎ続け、鼻呼吸では酸素の供給が追いつかないのか、口がパクパクと動いていた。

 

「締まんねー1位だなぁ…」

 

 なにやら言われている気がするが、どうすればとピンと伸ばしていた指をグッと握り込んでみる。

 その力加減もわからない。

 プルプルと震えているのは拳なのか、身体なのか…

 あかん、もう式神に任せて帰りたい。

 

「アハハハハ!唯くん緊張しすぎ!ちょっと力抜きなよ」

 

 隣にいる透は見えない手で俺の腰を叩いている。

 そう、そうか、俺は緊張しているのか。

 少し力を抜いて、自分の手を見てみれば真っ白になっていた。

 

「うんうん。せっかく今日はカッコ良かったんだからさ、普通でいたらいーんだよー!」

 

 その一言で、なんとか普通とは言えないまでもマシにはなったと思う。

 また助けられちゃったなぁ。

 

 

 そのまま、雄英お得意の"早速"メダル授与との事で、オールマイトが現れて、評価とともにメダルを渡していく。

 

「葉隠少女!3位入賞、おめでとう。姿は見えずとも、その努力と工夫は、誰の目にも明らかだった!!たとえ見えなくても、君の仲間達はちゃんと気づいてるよ」

「ありがとうございますっ!」

 

 確かに、透は一対一以外でこそ真価を発揮するもんな。

 誰と組んでも成立する。

 まぁ、最も真価を発揮できるのはあのニコニコとした顔も見ることのできる俺だと思うけど。

 

 そんな事を思っていたが、オールマイトはメダルを持ったまま、その巨体をオロオロと揺らしている。

 

「えーっと、頭の位置がわからなくてね…」

 

 透明な透にうまくメダルをかけることができず、観客席からは笑いが起きていた。

 そんな透は笑顔でその両手でメダルを受け取り、自分で首にかけ、またも満面の笑みを浮かべていた。

 

「轟少年!おめでとう」

 

 今度はスッとメダルをかけることに成功したオールマイト。

 俺も、轟みたいな感じで頭を下げればいいのか…!

 

「左側をうまく使うことができていたら、結果はわからなかったかもね」

 

 そういったオールマイトに、轟はキッカケは緑谷だと言う。

 そして、

 

「間との試合で、迷っている自分を一度忘れました。俺だけが吹っ切れて、それで終わりじゃダメだと思った。精算しなきゃならないモノがまだある」

 

 そんな轟をオールマイトはグッと抱きしめて、激励していた。

 そして、次が2位か。

 

 爆豪の目は伏せられ、腕を組み、顔は険しい。

 噛み殺したような顔をして、何も言わずに突っ立っている。

 その腕を握り込む手は俺と同じように、だが全く違う意味で小さく震えていた。

 オールマイトはそんな爆豪の前に立ち、笑顔を浮かべたまま銀メダルを掲げ、爆豪の首にかけようとしていた。

 

「爆豪少年。おめでとう」

「いらねぇ」

 

 爆豪が低く、短く、吐き捨てる。

 

「……テメェの前で2位の証なんざぶら下げたくねェんだよ」

 

 その目は悔しさに燃えており、またも、俺を睨みつける。

 オールマイトはそんな爆豪に少し驚き、そしていつもの笑みを浮かべている。

 

「……そうか。なら」

 

 その大きな手で、メダルの紐を折りたたんで、爆豪の手に渡そうと前へと差し出した。

 

「ポケットにでも突っ込んでおけ。悔しさの重みってやつを、忘れないようにな」

 

 爆豪はしばしオールマイトを睨みつけた後、無言でソレを見つめている。

 

「……君にとっては、このメダルが“敗北の証”に見えるかもしれないが、でも私は、君が誰よりも折れなかった事を称えたい」

 

 オールマイトは、静かに、しかし力強く語る。

 

「誰よりも全力で、誰よりも吠えて、誰よりも最後まで勝ちに貪欲だった」

 

 爆豪の肩がピクリと震える。

 

「だからこれは、"傷"として、"闘志の証明"として、受け取っとけよ!」

 

 爆豪は無理矢理に握り込まされたメダルを、ポケットに無造作にねじ込むと視線を上げた。

 その視線は俺へと向かっており、さっきまでよりも強く、キツく睨んでいた。

 

 たぶん、今のオールマイトの言葉はきっとアイツの火種になる。

 次やる時があったら、マジでわかんないかもな。

 

「ハハハ!…若いって、いいな!」

 

 オールマイトは俺と爆豪を交互に見ながら、そう笑って俺の前に立つ。

 

「そして、間少年!優勝、おめでとう」

 

 バッと頭を下げたのだが、中々首に掛けてくれない。

 

「間少年…90°に曲げられると、かけれないぞ」

 

 さいっあくだぁぁぁぁあ!!

 お辞儀くらいに曲げてしまい、困るオールマイトに今度こそメダルを掛けてもらう。

 見られないのを良いことに、ニヤニヤと笑い続けている透は、コッソリと結界ではたいておく。

 イターイという声にオールマイトは不思議そうに振り返るし、透は今度は抗議の目を向けているが俺は知らんぷり。

 はっはっは。

 人の失敗を笑う奴にはバチが当たるモノだよ。

 

「さて、改めておめでとう。素晴らしい戦いぶりだったぞ。この勝利は偶然じゃあない。君が積み重ねてきた日々が、ここに実を結んだんだ」

 

 それならば、死にかけた修行も良かったモノだと感慨深い。

 優勝したんだと実感も沸いてきた。

 少し感動していると、オールマイトはくるりと振り返る。

 

「さぁ!今回は彼らだった!!しかし皆さん!!

 この場の誰にも"ここ"に立つ可能性はあった!!

 競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!

 

 次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!」

 

 一体何人の人が、この放送を観ているのだろう。

 この言葉を聞いているのだろう。

 あの浮遊霊もどきすらも見ていたんだ。

 正義も悪もひっくるめて、"次代の俺たち"をどう思ったのだろう。

 良くも悪くも、おそらく結界師が初めてここまでの表舞台に出たんだ。

 なら、俺も、更なる高みへ上がる必要がある。

 

 そんな事を思っていると、オールマイトもご唱和ください!と締めくくりに入っていた。

 俺も、ようやくわかってきたかも。

 透に教えてもらった、この高校の校訓を。

 

「プルス─『おつかれさまでした!!!!!!!!』

 

 

 まさかの裏切りにブーイングと非難を受けるこのナンバーワンヒーローに、俺は届くのだろうかと思っていたのに、届かなくていい気がしてきた。

 

 

 

 

 

 よーやくだ!

 よーやく、自慢できる!!

 

 内緒でいくつも必殺技を編み出したんだ。

 ビックリさせたくて黙ってたけど、よーやくしっかりと自慢ができる!

 

 ルンルン気分で唯くんの家をめざす。

 と言うのも、自慢話をしたい!

 が8割だけど、後の2割は相澤先生の話から。

 

 

(おつかれっつうことで、明後日は休校だ。プロからの指名等もこっちでまとめて、休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んどけ)

 

 

 との事だった。

 1位の唯くんはもちろん、さーすがに3位の成績の私にも、指名、来るよね?

 いったいどんな事務所を選ぶのかの話がしたいのだ。

 

「ちょっと、透ちゃん、早く歩きすぎよ」

「あぁ。そもそも私たちがいること、本当に彼には伝えてるのかい?」

「……あ」

 

 そう。

 忘れていた。

 

 お父さんとお母さんが、体育祭を見てわざわざ家に来てくれたんだ。

 それは引越しの日以来のことだか、1ヶ月と少し前の事。

 珍しくお父さんから連絡があったんだった。

 そして、昨日の唯くんとの会話が──

 

 

 

『ねーねー唯くん、明日はどーするの?』

『どーするもなにも、姉ちゃんからようやく開放されたんだから寝るかな!』

『じゃあ明後日はどーするの?』

『明後日?んー…思いついたことしたいし、家で瞑想と練習かなー』

『じゃあ家いっていいーー?』

『ん、別にいいけど…なんもねーぞ?てか、なんだその良いのか悪いのかわからん笑顔は…?』

 

 

 

 うん。

 私、言ってない!

 なぜならお父さんが振替休日の日に来ると言い出したのはその後の事だし、なぜか唯くんにも会いたいと言われたのもその時だ。

 

「「透?」ちゃん?」」

 

 父と母の言葉がユニゾンして聞こえる。

 

「えっと、ごめんなさいっ!言ってないけど、唯くんなら大丈夫大丈夫!」

 

 不安そうな雰囲気のお父さんとお母さんだけど、唯くんなら大丈夫だよ。

 初めて会った時だって、そうだったしね!

 

 

──

 

 

 唯くんが初めて家に遊びに来た。

 彼は不思議な能力で透明である私も、私の家族も"見ることのできる"唯一の人。

 

 

 茂守さんの式神だけが残ると言う日の夜に招いたのが、お父さんと唯くんが出会った始めての日。

 ふわりと漂う夕ご飯の匂い。

 キッチンの奥で、炒め物をしているお母さんをなんでかマジマジと見てる唯くん。

 後で聞いたら、唯くんのお母さんは家事が全然出来なかったらしいけど、改めてお母さんのことも見えてるようで、なんだか私は嬉しかったのを思い出す。

 

「ご飯できるまで、ちょっとテレビでも見ててね」

 

 お母さんの明るい声が飛ぶ。

 その声に空返事をしながらも、クッションを抱えながらソファにぴょんと腰を下ろす。

 今までなら、“声だけの存在”な私がそんな事をしたら驚かれるだけなのだけど──彼は違った。

 

「おいおい、あぶねーって」

「えへへ、なんか変な感じだよね? 私も、家族のことも見えてる人が家にいるなんてさ」

 

 唯くんは少し考える顔してて、

 

「変じゃないだろ?なんというか、別に見えてなかろうが"そこにいる"って、ちゃんとわかるし」

 

 私はなぜか少し照れちゃって、何も内容を覚えてないけどテレビを見てた。

 そんな唯くんに、お父さんが声をかけたんだ。

 

「あぁー唯守くん。透は学校でもこんな感じなのかい? イタズラばかりしてないか?」

「んー……ちょっとだけ? すかね。でも、ちゃんと優しいですし、学校でも人気者ですよ」

 

 なんと失礼な。

 イタズラばかりしてるつもりは…んー、ばかりなつもりはない!

 

「ちょっとだけってなにー!?失礼だな~もうっ」

 

 そんな話をして、夕食の時間。

 

「おかわりあるわよ~」

「いただきます!ありがとうございます!」

 

 お母さんにお礼を言いながら、きっと目を見てお礼言っている唯くんに、びっくしているお母さん。

 そんな唯くんに、お父さんは興味を持ったように話してたんだ。

 

「私たちが見える…か」

「えぇ。……えっと、すみません」

「あぁ、怒っているわけでも謝罪を求めてるわけでもないさ。ただ…だからこそ、透とは、ずっと仲良くしていて欲しいと思ってね」

 

 そう言ったお父さんの顔は私には見えないけど、唯くんは違う。

 だからこそ、すごく真面目な顔してうなづいていたんだと思う。

 

 

──

 

 

 ピンポーーーン

 

 響くチャイムに、スタスタと歩いて行く。

 そういえば、透が来るとか言っていたような。

 割と良い感じで、さっきも初めて出来たってのに、中断されるのもなーと、嫌味を込めてドアを開ける。

 

「はいはいー。ほんとに何もねーけど。ほんと何の用があって押しかけてきたん………ですか?」

 

 固まってしまった。

 

 目の前には苦笑いを浮かべて手を振っている透と、ニコニコとしてる透のお母さんに、いつもの無表情を決め込んだお父さん。

 なんで、ウチに…?

 

 と思ったが、いざ話してみれば大半は透の自慢話。

 いいかげんしつこく、ご両親に諭されている。

 どんだけ俺に自慢話をしたいのか。

 今じゃないだろ今じゃ。

 と、思ったところで、お二人が来た意味が、ようやくわかった。

 それは、透のお母さんお昼作ってあげるとウチの小さなキッチンに向かってからのことだった。

 

「間くん、娘はこんな感じだからね。私から、一ついいかな」

 

 そう言って切り出したお父さんは、何事かと騒ぐ透を落ち着かせてゆっくりと話し始めた。

 

 透の、ご両親もだけど、その個性の本質はお母さんとお父さんでは僅かに違う。

 お母さんの個性は【透明可】自身の身体に当たる可視光を打ち消し、自身の姿を見えなくするモノ。

 お父さんの個性もまた同じく【透明可】であるが、その原理が違う。

 自身に当たる可視光を、周囲と同じ性質に変えると言う力。

 だからこそ、お父さんは才能と訓練をすれば変化させている可視光を変え、透明可の解除もできない事ではないのだそう。

 透の祖父は透明であっても自身の姿を見せる事もできたそうだし、お父さん自身も、実際に激しい光の点滅なんかの突発的な強い光に晒されれば、その身は写りの悪いテレビのようにビリビリと写ってしまう事もあるらしい。

 

「娘どうやら私の個性を受け継いでいるようでね。私たちのような個性は、悪い意味で人目に晒されやすい。言っている事は、わかるかな?」

 

 雄英体育祭での、発光のことか。

 お父さんの言うように、それが良いことばかりではないと言う事は、結界を個性と言えというジジイの話を聞いていた俺にも、なんとなくわかる。

 

「え、私って人に見られちゃうかも知らないの!?」

「お前がそう望むならね。父さんはいろんな、小さな悪意に耐えられなかった。異形な個性はそう言った目に晒されやすい。そんな声はね、毒のように身体に残り、ジワジワと蝕んでいく。私は、娘をそんな目に合わせたくはないんだよ」

 

 わかるかい?と締め括ったお父さんだが、俺にわかるはずもない。

 痛みを知らないものが、知ったかぶりなんてできるわけもない。

 

「すみません……」

「あなた!!」

 

 台所から、珍しく透のお母さんの強い言葉が聞こえると、目の前のお父さんは無表情を崩して、あの夜と同じ、申し訳がなさそうな顔をしていた。

 

「いいや、すまない…。君を怒りたいわけでもなんでもないんだ。我々を見ることのできる君だからこそ……娘を…奇異な目で見る人達から守ってやって欲しいんだ」

 

 その事を伝えに来たんだろう。

 発光した透の力。

 アレは確かに、お父さんと同じ力なのだろう。

 でも──

 

「もちろんです。けど、透ってホントに可愛いですよ?だから、ヒーローになっても絶対人気者になりますよ」

「……え?…えーー!?何言ってんの!!」

 

 目を見開くお父さんと、キャーといつもの透のようなリアクションをしているお母さん。

 そして、ブンブンと手を振り俺をバシバシと叩く透。

 自分で言った後で恥ずかしくなるが、この時は答えるべきだと思ったんだ。

 

「守られる事を透は望まないかもしれないですけど、初めてお会いした時の約束通り、俺はずっと仲良しでいますから」

 

 そう話してからだったな。

 無表情だった透のお父さんが様々な表情を俺に見せてくれるようになったのは。

 父さんって……確かにこんなんだったな…

 

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