現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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40.5話 間話④

 

 

 

 

 

── 耳郎響香 ──

 

 

 

 唯守の家に来るのは、これで三回目だ。

 

 初めてのときは、わけわかんないけど大家さんちのドアに繋がる異界に飛ばされてわけわかんなくて。

 二度目は、体育祭の前の彼の姉との修行を始めた時。

 結局、その日はお茶だけ飲んですぐに出ていっただけ。

 

 ……で、今が三回目。

 なんでそうゆう流れになったか覚えてないけど、どちらともなく、会う約束をしていた。

 

 

「……なんか、落ち着かないねー。ココ」

 

 テーブルの上に置かれた湯呑みに口をつけながら、小さく笑う。

 相変わらず壁や天井に貼られてる◯、△、□のコピー用紙。

 唯守は自分で焼いてたらしいクッキーを齧って、同じく部屋を見回している。

 

「まぁ、そりゃそーだよな」

 

 唯守は改めて自室を見渡して、苦笑いを浮かべてウチを見た。

 昨日の体育祭は流石に疲れた。

 きっとクラスのみんな休んでると思う。

 だと言うのに、この男は自室でも結界の鍛錬は怠っていないんだろうな。

 

 体育祭のあの試合は、その日の夜に夢に見た。

 自信は、あった。

 でも、やっぱり結果は想像の通り、ウチの負けで終わった。

 

 表彰式のあとインタビューで唯守が、

 

『えー、苦戦すか……あ。でも耳郎の攻撃があと数瞬はやければ確実に俺が負けてたっす』

 

 って言ってたのを聞いて、少しだけ泣いた。

 うれしかった。

 けど、それ以上に悔しかった。

 その後で、胸がなんだかザワザワしたんだ。

 

「響香?」

 

 ふいに名前を呼ばれて、ハッとする。

 

「な、なに?」

「いや、さっきからめっちゃ睨んでるけど、クッキーまずかった?」

「ちがっ……ただ、ちょっと思い出してただけ。唯守に負けたこと」

「……あぁ」

 

 少しだけ、空気が静かになる。

 唯守はアレから慰めるでも、自慢してくるでもない。

 普段通りだ。

 私も、普段通りでいないとね。

 

「──優勝、おめでとう。遅くなったけど」

「ありがとな。お前、あんときなかなか控室から戻って来なかったから、ちょっと心配してた」

「……別に何かあったワケじゃないよ。ただ、悔しかっただけ」

 

 唯守はちょっと困ったような、それでいて少しだけ笑った顔をした。

 

「そういえばさ、インタビューで1番苦戦したのウチって言ってたじゃん。アレほんと?」

「ホントでしかないだろ」

 

 自分の癖を知っており、時織姉に鍛えられた相手だぞと真顔で言う唯守にふっと笑いがこぼれて、なんだか肩の力も抜けた。

 

「ありがと。……あーなんか無性に弾きたい。ギター持ってくれば良かったー」

「ホントだよ。久しぶりに聞かせてくれりゃ良かったのに」

 

 茶菓子の皿に手を伸ばしながら、唯守は最後に聞いたのいつだっけと思い出そうとしてる。

 

「ウチが引っ越す少し前じゃない?」

「んー、最初は覚えてんだけどな」

「最初…?あぁ、あの音楽室の?」

 

 確かにそうだ。

 最初は、音楽室だったな。

 

 

──

 

 

 小学生の頃、昼休みの音楽室。

 先生に許可を取り、だいたいお昼はココで練習してた。

 

 

「んー……このコード、ちょっと違うかな……」

 

 耳郎響香は机に肘をつき、ギターの弦をつま弾いていた。

 そこで、彼女のイヤホンジャックが別の音に反応する。

 不意に扉が開いたからだ。

 

「……アレ、響香?ここって使ってよかった?」

 

 そこに立っていたのは、隣の家に住む間唯守。

 なぜだか少し気まずそうに立っている。

 

「唯守って、楽器弾くの?」

 

 耳郎は毎日自宅の道場から泣き声を響せるアンタがやる時間あるのか?と軽く眉を上げて質問するも、返答はまったく違うものだった。

 

「いいや全く。結界練習したくて、静かな場所探してたんだけど」

「あはは!静かって、ココ音楽室だよ?」

 

 そう言いながら、耳郎はギターを抱えたまま、笑って見せた。

 

「それは確かに。せっかくだから聞かせてよ?」

 

 唯守は物珍しそうに、耳郎のギターを見つめながらも、静かに隣に腰掛けた。

 

 耳郎がスピーカーの音量を上げ、柔らかいギターリフとビートが室内に広がる。

 流石に小学生で、上手くもなんともないけど、1番上手く弾ける曲だった。

 

「…………」

「え!?なに?なんで震えてんの!?」

 

 弾き終わると、俯いた唯守はプルプルと震えていた。

 そして、勢いよく上がった顔は、子供らしく、満面の笑みだった。

 

「スゲェ!響香スゲェカッケー!!音楽ってすっごいな!!」

 

 そこまで褒めてくれるのかと、耳郎はニッと笑い、唯守はずっとスゲースゲーと騒いでいた。

 

 耳郎はふと思い浮かんだ疑問を聞いてみることにした。

 

「アンタの結界って、音にも反応するの?」

「どーだろ。空間のカクリ?みたいな話だから、たぶん…?」

「じゃあさ、私の音、試してみる?」

 

 ニヤリとした顔で、ギターを掲げる耳郎に、唯守は笑いながら手印を結ぶ。

 

「おぉ!やってみよ!」

 

 ギターの音は空気を震わせ、結界の中で反響して展開される。

 結界の部屋の中で響く音はすぐに反響し、まるで聞こえは良くない。

 

「うるっさ!!」

 

 結界内部は叫ぶ唯守の声すらも反響しており、咄嗟に耳郎は弦を押さえて音を止め、唯守は結界を解くと、2人して顔を見合わせる。

 

「「ぜんっぜんダメじゃん!」」

 

 二人の笑い声が、音楽室に心地よく響いた。

 

 

──

 

 懐かしい。

 唯守のケーキじゃないけど、全然上手くなかったウチのギター、すっごい褒めてくれたな。

 

「……じゃあ、また来てあげる。次はギター持ってくる」

「おぉ。じゃあ、俺も次はでっかい結界張って防音完璧にしとくから、練習でもライブでも、何でもやってくれ」

 

 そう言って笑う唯守に、なぜだかわからないけど、また胸がザワザワしている気がする。

 部屋の中は、こんなにも静かだというのに。

 

 

 

 

── 刃鳥美切 ──

 

 

「副長〜これなんですけど」

「副長、少し良いですか?」

 

 私の名前は刃鳥美切(はとりみき)

 青い箱(ブルーロック)事務所、通称【夜行】の創設者であり、副長の役職を担っている。

 

 私は妖混じり──今で言う、【異形の個性】をその身に宿すもの。

 この夜行の構成員たちはその中でも、その異形の力を制御できな"かった"人間たちの集まり。

 そんな、自分の個性で苦しんでいた私たちは彼女に、間時織に救われた。

 ここに居る人間は全てがそうなのだ。

 それでも、彼女は家族以外に興味がなく、行方知らずの自身の母親を探す手掛かりとして、妖や異界について調べるべく世界を飛び回っている。

 そんな彼女との繋がりを失いたくなくて、興味がないと言う彼女を半ば強引に代表に押し上げたんだ。

 だからこそ、彼女は実際の事務所の運営には絡む事もない。

 そして今もまた、彼女は姿を消していた。

 

 代表である、間時織。

 多くを語らないあの人には揺るぎない覚悟がある。

 自分の命を切り詰めてもなお、護りたいものを見据えている。

 そんな人が上に立つのなら、私は動く理由を問わない。

 命令されなくても、必要な事は私がやる。

 

 雄英の警備にも付くことになった今、いつにも増して部下達は私に報告、相談、確認にくる。

 まるで部屋の外で列でも作っているのかと錯覚するほど、それはもうひっきりなしに。

 

「……結局、全部、私がやることになるのよね」

 

 任務の配分、調査資料の分析、予算の管理から雄英のような外部との折衝。

 あの人が一言『動いて』と口にすれば、私たちは動く。 

 けど、その動かす枠組みを作っているのは、いつだって私だ。

 

 ……でも、それでいい。

 不満などあるはずがない。

 

 間時織という存在は、この事務所の"象徴”。

 理想とか、疑心とか、恐怖とか、信念とか。

 そういう、人の本能に訴えるもの全てを無視してでも、自分を押し通す力を持った人。

 家族にしか興味がないと言うのに、私たちを救ってくれた人。

 

『そーねぇ……役に立ちそうだったから、かしら』

 

 助けてくれた理由を聞けば、全員に同じ言葉を返す。

 そして決まって、時間を巻き戻すことができるかと問われる。

 できないと返せば、『そう』と、ほんのわずかに寂しそうな顔をして終わるのがお決まり。

 

 だからこそ、私は別の事で役に立ってやろうじゃないかとこの事務所を創ったんだ。

 

 私たちは、彼女がそこに立ち、『行け』と言えば、みんな疑うこともなく躊躇なく飛び込んでいくだろう。

 無条件で、無思考で。

 それがきっと【カリスマ】というやつなのだろう。

 

 嫉妬……? ばかばかしい。

 私は自分の器を理解してる。

 だからこそ、正しい人間を頭に据えたのよ。

 私自身が、彼女の部下である事に誇りを持っているのだから。

 

 ただ少しだけ、忙しいと感じるのは事実。

 ここ数ヶ月、あの人の弟の件でいくつか指示を出したきり、また姿を消したからだ。

 突然呼び出されて、遥か上空でお茶を飲みながら話をされた日には、さすがに頭おかしいと思ったりもしたけど……

 でも、弟の自慢だなんて、たまにそういう人間らしい部分を見せるから、また信じてしまう。

 

 あの人はいつだって"自分の世界"に目を向けている。

 私たちが他人の目を気にしている間に、そんなものお構いなしという態度で。

 それがどれだけ危うくても、無責任な事でも、私たちは彼女に従う。

 私たちを救ってくれたあの人を、今度は私たちが救いたいのだから。

 

 変? なぜ?

 それが、ヒーローっていうものなんでしょ?

 

 

 

 

 

── 爆豪勝己 ──

 

 

 

 ベッドの上で横になっても、目を閉じられなかった。

 

 クソ……

 

 瞼を閉じると、あの瞬間がまた思い出される。

 あの最後の、確かな勝ちを確信している目。

 

 あいつ、自分の勝ちを疑ってもなかった……!

 

 汗ばんだシャツが肌に張りついて不快だった。

 眠気を感じる事もできず、腕を伸ばしスマホを手に取る。

 スワイプしていると、ニュース記事が目に入った。

 

『ヒーロー科1年決勝戦は波乱!【圧倒的破壊力!!爆豪 勝己】を【絶対防御の間 唯守】が破り優勝』

 

 スクロールした指が止まり、画面を閉じる。

 

 ……次は、絶対、ぶっ潰す……

 

 布団を頭までかぶった。

 けれど、眠気は一度も来なかった。

 

 

 

 

 いつの間にか眠っていたのか。

 平日とは違い、照りつける太陽の温度からも今が朝ではないことがわかる。

 スマホを開き見れば、時刻はもう正午を過ぎていた。

 けれど、全く寝た気はしていない。

 髪をぐしゃぐしゃと掻きむしり洗面所へ行き、無言で歯ブラシを口に突っ込む。

 

──まだ、負けた顔だ。

 

 アイツは、俺を“読んで”動いてた。

 

 ただの分析じゃねぇ。

 戦いの最中に、俺の攻撃のパターンまで組み込んで、封じてきやがった。

 俺の攻撃が通ったのなんか、数度しかねぇ……

 だからこそ、ぶっ壊す価値がある。

 

「なーに珍しく長い事黙って磨いてんのよ、負けたぐらいで。さっさと立て直しな」

「うるっせぇクソババア!!!」

 

 磨き終え、口をゆすぐ。

 立て直す?

 心はもう、今日の訓練に向かっている。

 そして、その先の“リベンジ”へ。

 

 次は、結界なんざ張るヒマもねぇくらいの速さで……一撃で終わらせてやる。

 

 顔を洗い、上げた自分の顔は──あぁ、俺は、こうだよな。

 もう、負けた顔じゃねぇ。

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