現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
41話 名前をつけてみようの会
「超声かけられたよ!来る途中!!」
体育祭も終わり、今日からまた通常授業へと戻る。
教室ではガヤガヤとクラスメイト達が騒いでいる。
テレビ中継されていたために、その視聴者である人々にそれぞれが声をかけられたり、ただ見られたり、ドンマイコールをされたりと様々。
例に漏れず、俺も──ということは無く、雨だし遅刻ギリギリだしでずっと走っていたのでカッパ着てるし、正直そんなことはなかった。
──キーンコーンカーンコーン
チャイムの終わりと共に、いつものように相澤先生がガラガラとドアを開けて教室に入ってきた。
「おはよう」
今日の授業は特別だという先生だった。
内容は、【ヒーロー名の考案】との事。
クラスは爆発的に盛り上がり、大多数が「きたーーー!!!」と騒いでいる。
その後は雄英体育祭を踏まえて、プロからのドラフト指名にも関わるとの事でみんなテンションは最高潮のようだけど…
俺は……姉ちゃんのところに入るか、フリーとかになるのかな。
そんな中、発表されたのはプロ事務所からの、指名一覧。
指名がある事務所は実際に自分で選び、職場体験に行くことになる。
今後その事務所に入れるという話ではなく、1年なのでまだ興味の段階であり、もちろん興味がなくなればその道はなくなる。
当然と言えば当然だが、峰田は大人は勝手で汚いと恨み辛みのように吐き捨てている。
そんな峰田に引きつつも、集計結果を見てみると。
俺が一番多く、その次が轟で、透が轟より500少ない。
その透から50件くらい少ないのが爆豪。
他は一気に数が減り、常闇、飯田、切島の緑谷を除いたベスト8組が続く。
一回戦敗退とはいえ、良個性の上鳴と確かな実力を見せた響香がその僅かに下。
残りは八百万、麗日、瀬呂の順で、他は指名が無かったらしい。
「例年はもう少しバラけるんだが、今回はベスト4に集中したな」
体育祭の結果が上の者はそれだけ個性と自身を見せつける事ができたのだから、そりゃあそうかと思ったのだが。
「だーーーー白黒ついた!」
「見る目ないよね、プロ」
上鳴のうなだれと、青山の文句も飛ぶ。
それよりも、目につくのは二つ。
「結果は2位でも4位になってるやついるし」
「そりゃあメダル無理やり渡されて、ふてくされてポケットぶち込む奴なんて扱いズレーことこの上ないだろ」
「扱えや!プロだろーが!」
切島の言う通り、爆豪が準優勝なのに件数は4位にいるのと、
「無いな!こわかったんだ、やっぱ」
「自損ありきだったもんなぁ、リスクありありで生徒預かるってなるとまぁ……」
峰田の言う通り、第3種目までいった人間で、唯一0件な緑谷。
俺も後ろの席だし、声をかけたが、緑谷は微妙な顔で黒板を見つめていた。
「これを踏まえ…指名有無関係なく、職場体験ってのに行ってもらう」
相澤先生は話を続けて、プロの活動を実際に体験してより実りのある訓練にとの事。
「そのためのヒーロー名か」
「俄然楽しみになってきたァ!」
俺の呟きに、麗日も笑顔で声を張る。
「まぁ、仮ではあるが適当なもんは…」
「つけたら地獄を見ちゃうよ!!!」
数日前に聞き慣れたばかりの、女性の声。
「この時の名が!」
ツカツカと入ってくると、艶のある長い黒髪が揺れる。
「世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!」
もちろん、髪じゃない部分も、大きく揺れている。
教壇の前に立つのは、18禁ヒーロー、ミッドナイト。
先生はその辺のセンス的なものは見た目通りできないらしく、ミッドナイトが代わりに査定をするらしい。
名をつける事でイメージが固まり、近づく。
【名は体を表す】か。
言う通り、オールマイトなんてまさにだもんな。
考える時間をもらい、 クラスがザワザワとし始める。
俺は…うーーーーむ。
“唯守”
ただ まもるというこの名前は、生まれたときからずっと持ってるもの。
けど、“ヒーロー”として名乗る名前は、これから俺が背負うものになる。
名乗ることで、きっと何かが変わるのか。
小さな頃考えたものいくつもあるにはあるが、実際にそう名乗るとしたら…恥ずかしいもんもあるしなぁ。
【守】の文字は、ジジイもそうだがご先祖様の時代から受け継がれてきたものらしい。
姉ちゃんについてるのは【時】で、開祖の【時守】にちなんで、【時】と【守】のどちらかの文字を入れるのが慣わしだからだそうだし。
開祖の名前を名乗るのも、なぁ。
結界師としてのお役目を終わらせた先代ってのもまた重い。
迷ってた、そのときだった。
「ヒーロー名ってのは、あなたの看板となる。だからこそ──
責任と、センスが問われるのよッ!そこのとこしっかりね!」
悩んでいるみんなに、ミッドナイトが艶っぽく指を立ててそう言った。
責任…センス…名は体を表す…か。
決めかねている俺を待つワケもなく、まさかの発表形式で進んでいく。
青山の短文、芦戸のエイリアンクイーン。
大喜利スタイル…え、じゃあ俺は……
「小学生の時から決めてたの。フロッピー」
梅雨ちゃんの出したボードには、
【梅雨入りヒーロー FROPPY】と書いてある。
危ねぇ。
梅雨ちゃんが流れを戻してくれたが、一瞬変な事に考えが飛躍しちまってた。
みんなの名前が、ひとつ、またひとつと発表されていく。
「イヤホン=ジャック」
次に出たのは、響香。
小学生の時に、言ってたヤツだ。
「そのままじゃん」と誰かが言ったけど、逆にその“そのまま”がいいんだよな。
「インビジブルガール!」
透も、そのまんま。
中学の時に聞いた事があるヤツだし、俺も…
「爆殺王」
……は?
耳を疑った。
もちろん、即却下されている。
ノリノリだったミッドナイトのテンションが一瞬で冷えたのに、ついつい吹き出してしまい、爆殺王に睨まれてしまう。
そして、次が切島。
「んじゃ俺!!
由来を聞くと、漢気ヒーロー
オールマイトより前の時代のかなり古いヒーローで、自身が目指すヒーロー像の原点だそうだ。
「フフ…憧れの名を背負うってのは、相応な重圧がかかるわよ」
「覚悟の上っス!!」
憧れの名を、背負う重圧か。
間髪いれずに答える切島は、やっぱ男らしくて気持ちいいな。
俺の憧れ、なんてわけじゃあないけど、この間流結界術が、この世に再度現れ始めた妖を滅する事に必要なんだよな。
そして、やっぱりご先祖さま達のお役目を終わらせて、解き放ったのは──
「残るは再考の爆豪くんと、飯田くん、間くん、緑谷くんね」
うん──
俺も決めた。
「結界師、
俺も、今この時を守りたいから。
「"時"と
「ん。切島の一言で、俺も背負ってみようと思いましてね」
結界師として、俺も目の前の世界ぐらい変えてやりたいと、顔も知らない先代達にちなんでるんだけど、それは俺だけが思っていればいい。
雪村時音と墨村良守。
良の字は変えちゃったけど、きっと許してくれるよな。
なんだが背筋が伸びた。
これでやっと、スタートラインに立てた気がした。
気持ちとか、覚悟とか、そういうものが、滲むんだなって思った。
*
昼休みのランチラッシュは今日も大賑わい。
昼休みのざわめきのなか、空いているテーブルを偶然にもA組の4組が囲んでいた。
「お?なんか初なメンツだな」
峰田と席を探していた上鳴は、緑谷と麗日の二人組と、唯守と葉隠の二人組、耳郎と八百万の二人組。
「確かに確かに!」
そう反応した葉隠だったが、仲の良いA組はすぐにわいわいと談笑に入る。
「てかさー!」
透明な腕がぶん、と振られる。
葉隠が勢いよく口を開いた。
「唯くんのヒーロー名ってなんか思ってたのと違った!」
「ヒーロー名っていうより、なんか仙人か講師かって感じだよなー!山奥に住んでそうなオーラ出てるし」
上鳴の言葉に耳郎は「仙人がケーキ作んの」とブフっと声を出して笑っている。
「んー。俺なりにはちゃんと考えたんだけどなー。切島の一言で、俺も背負いたくなっちゃったんよ」
「背負うって、憧れの存在が、
緑谷出久は気になったように顔を上げ、唯守へと訪ねた。
「お姉さんっぽかった人も同じ個性だよね? だから……“結界師”ってのが、何かの伝承者的な……でも、家系で同じ個性で伝承される結界師のヒーローは僕も聞いた事ないし…」
「いやおまえさ、そういう深読みしてくっからみんなが逃げるんだって」
上鳴がご飯を口に詰め込みながら笑う。
「デクくん、真面目やから」
麗日が頷く。
そこに、突如割り込んでくるのは峰田。
「でもなぁ……オイラはわかってるんですよ」
「なにが?」
悟りを開いたような顔をしている峰田に、パスタをフォークに巻き付けながら、間家の話を知っており、小さな頃から開祖の時守と言っていた唯守を思い出していた耳郎は聞く。
「
「峰田は全部ソレで説明しようとする癖やめろよ」
唯守が峰田にツッコミをいれており、耳郎のパスタはフォークからずり落ちていった。
「でも珍しいですよね。轟さんや飯田さんのように、自身のお名前ならまだわかるのですが」
すでに食事を終えている八百万はそう言ってお茶をすすっている。
「そうそう!コスチュームもそうだし、『結界師
「顔も和風ってなんだよ…」
上鳴がフォローなのか茶化してるのか分からない調子で言う。
「いや、しっくりきてるってことっしょ。例えばさ。俺が“
「ちょっとカッコイイと思った自分が悔しい」
唯守がぼそっと呟くと、笑いが起きる。
「でも、やっぱりヒーロー名って、その人の芯が出るよね」
緑谷がふと真顔になる。
「間くんの名前にも、きっと“守りたい”って気持ちが詰まってるんだと思う。僕はそういうの、すごく大事だと思うな」
「……おお、ありがと」
珍しく照れたような唯守の声に、耳郎が小さく笑って「何照れてんの」と茶化す。
「でもよ。間がまた守ってくれるってんなら、俺はやばい時には女子のフリしてでも守られに行くからたのむぜ」
峰田のその一言で、一斉に「やめろ」のツッコミが飛んだ。
*
「……ったく、またこの手のかよ」
筋肉質な褐色の腕で書類の束を放り出し、現役のプロヒーローは、あきれ顔で口を尖らせた。
行方不明者というものは個性社会になり、少なくない数が毎年報告されているが……
"この場所"周辺の数は確かに異常。
周辺の海域では乗船者の消えた、無人の船が見つかったって話もある。
近くの本土海沿いでも、数は少ないが、"おかしなものを見た”と言う報告も数件あがっていた。
一度、確認のために現地に立ち寄った時を思い出す。
あの場所は、なーんか気持ち悪ぃんだよな。
妙な話だが、こんな事件に得意な"後輩"には覚えがあった。
「私だ私。久しぶりに、会って話せねーか?」
「……今、少し立て込んでるんですよね」
「あ?いーから話ぐらい聞けって」
電話を切ると、歯をむき出しにして笑った。