現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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42話 怪奇!島探検はじまる

 

 

 

 

 数日前。

 海辺の小さな喫茶店の店内は薄暗く、波音だけが時間を刻んでいた。

 アイスコーヒーをストローで吸いながら、前に座る緑色の髪をした、クールな顔立ちの女性をじっと見つめている。

 その女は、手に取っていた書類からようやく視線を上げた。

 

「ルミさんが引き受けたのに、なぜ私に?」

 

 目の前の女性、刃鳥は静かに問いかけた。

 

「電話でも言ったろ、お前の方が向いてる」

「またですか。こういうのはヒーローの仕事では?」

「ははは。お前もヒーローだろうが」

 

 残っていたコーヒーを飲み干して笑う。

 

「そりゃな。"普通"の捜索依頼だったら私が行くさ。けど現場に着いて一歩踏み込んだ瞬間、毛が逆立ったんだよ。"ここはおかしい"ってな」

 

 刃鳥はグラスの氷を回しながら、静かに息を吐く。

 

「……旧、断頭島」

「ああ。あそこにゃ"超常時代以前"の非合法な組織の施設があったとは聞いている。間違いないか?」

 

 刃鳥は事前にこの件に関して時織と話し、決して得意ではない先輩とのこの場の話し合いに応じたのだ。

 

「……はい。頭領からも、そう聞いています」

「なら話は早い。後輩に、今回は頼らせてもらうぜ」

 

 刃鳥はアイスコーヒーを少し口にした。

 

「……わかりました。ただし、連れて行く人員はコチラで決めさせてください。ルミさんは【兎】だけあって霊感は強いですけど、呪力の使い方が全然ですし」

「チッ。呪力なんていわれてもよくわかんねーんだよ。まぁ、条件はいいぜ。どうせ時織と同じ個性のヤツだろ? 私もお前に断られた時のために、雄英には指名入れてたしな」

「彼だけ、というわけではないですけど」

 

 地元の先輩であるラビットヒーロー・ミルコのその言葉に、刃鳥は自分の上の女性は軒並み勝手だと、深く息を漏らした。

 

 

 

 

 職場体験当日の朝。

 雄英高校1年A組のクラスメイトたちは駅に集合している。

 近辺の事務所に行く者もいるので全員ではないが、相澤からの失礼のないように。との話を受け、それぞれが別れのあいさつを交わしていた。

 

「オマエの職場体験、"島"らしいな!気をつけてな、間!」

「間さん、お気をつけて」

 

 切島と八百万が笑う。

 

「あぁ。二人もな」

 

 唯守は笑みを浮かべて静かに頷いた。

 

「ウチは時織さんのとこに行くんだけど、唯守もだよね?」

「ん。だけど、現地にいるのは刃鳥さんみたいなんだよな」

 

 耳郎は青い箱事務所からの指名を受けており、そこを選んだようだった。

 唯守もそうなのだが、指定された集合場所は異なる。

 

「ウチは事務所に集合なのに、なんで唯守は事務所じゃなくて現地集合なんだろうね」

「過疎化が進んでる、なんもない海の方だよね?……なーんかめちゃんこあやしーよねぇ。アヤカシじゃなくて、本当にお化けと戦うんじゃない?」

「ちょっと……ウチ苦手なんだからやめてよ」

 

 葉隠の言葉に対し、幼い頃から間家によって擦り込まれた心霊話が少し苦手な耳郎は心底嫌そうに自身の両肩を抱いている。

 

「名前からしたら妖が関係してそうだし、だからこそ俺を指名したんだろうとは思うけど、行ってみないとわかんねーよな」

 

 唯守自身、卒業後は妖退治に精を出すつもりなので、指名のきた事務所の中から、迷わず姉の事務所を選択していただろう。

 だが、今回は少し違うと言う事は相澤先生から聞いていた。

 

「響香ちゃんも、唯くんも、気をつけてね。帰ってきたらお土産話しよ!!」

「うん。透もね」

「おまえがいっちゃん危なっかしいけどなー。結局どこにしたんだよ?」

 

 葉隠はすっと唯守にしか見えないが指を立て横にふる。

 

「なーいしょ!」

「んなこと言って、どーせたいして隠す理由もないんだろーに」

 

 茶化す唯守をぺしぺしと叩く葉隠。

 3人は、笑って自身の目的地への電車乗り場へと向かった。

 

(さて、何が待っているのやら)

 

 唯守はこの先で起こる事に期待と不安を覚えた。

 

 

 ようやく指定された駅に到着した。

 改札を抜けてすぐに“違和感”を感じる。

 

──視線。

 

 その先を見てみれば、構内の柱に寄りかかっていたのは、黒のパーカーを着た見覚えのある人物。

 

「……影宮? お前も、職場体験か?」

 

「いや、俺は元々【夜行】に所属してるからな」

 

 職場体験じゃないって事?

 学校サボってんのかな。もしくは、式神とか…? 

 雄英は式神では乗り切れんだろうと思うが、普通科なら…ワンチャンなのか?

 

「ほら、こっちだ。行くぞ」

「あ、おい。待てって仕切んなよ!」

 

 トロトロしてるからだろなどと失礼な事を言いながら先に行く影宮の後を追った。

 

 

 

 

 港につくと、人の気配は全く感じられない、寂れた場所だった。

 曇天の下にはうすく潮の匂いが漂っている。

 そんな人気のない桟橋には、小さなボートが一隻だけ停泊していた。

 

「副長ー」

「来たか影宮。唯守くんも。体育祭、お疲れ様」

 

 影宮の声に振り返ったのは、刃鳥だった。

 黒い着流しに身を包み、潮風にたなびきわずかに露わとなるそのボディーライン。

 スタイル良っ。

 

「ありがとうございます」

 

 頭を下げた。

 その隣では影宮がフードを深くかぶったままで言う。

 

「ずいぶんとボロいですね」

「この地域の漁師が使ってる私用船をなんとか借りれたの。文句を言うなら泳いで行きなさい」

 

 刃鳥が一蹴する。

 俺も思ったのだが、声に出さなくて良かった。

 

 そのとき、ポンと軽い音とともに甲板へ飛び乗ってきたのは、獣のように身軽な白髪の女だった。

 

「ったく、集合時間ぴったりかよ。学生らしく5分前行動しな!」

「……わーおバニーガール」

 

 目を見開き、再び凝視してみるも、どっからどう見ても、バニーガール。

 白く長く美しい髪、褐色の肌に獰猛な目。

 そして、頭の上に伸びる2本の長い耳。

 殺人兎…?

 

「お前があの“時織”の弟か。で、そっちのは刃鳥の部下か?」

 

 目の前のバニーガールは腕を組み、ニヤリと牙を見せた。

 そこで思い出した、女性ナンバーワンヒーローのミルコだ。

 

「霊だのなんだのは私の専門外だからな。夜行の出番だぜ? 私は殴れる奴が出てきたら、ぶっ飛ばしてやるからよ!」

 

 グッと突き出した腕は、今まで見てきたどの女性よりも逞しい筋肉に覆われていた。

 

 

──

 

 

「副長、あと一人も来ましたよ」

 

 影宮がふと背後を振り返る。

 その視線を追ってみると──どこからともなく、桟橋の脇にひっそりと立っていた少女がこちらに歩み寄ってきていた。

 

 灰色の長い髪が左目を隠し、目の下には淡い隈。

 ミニ丈の和装にファーの襟。

 口元はマスクで覆われていて、顔の表情はわかりにくい。

 そしてその手は、癖なのか、前に突き出され、手首がぐにゃりと垂れている。

 え、なに?幽霊か……?

 

「雄英から来ました、柳です。ヒーロー名はエミリー」

 

 聞き覚えのない名前だった。

 B組の柳?

 

 なんとなく、食堂とかで拳藤と一緒にいたのを見たような記憶がある。

 

「ソイツも来るのか?一応、正式な依頼なんだがな」

「えぇ。ちなみに彼女は頭領ではなく、私が指名したんですよ。久しぶりだなレイ子。エミリーと呼んだ方がいいか?」

「はい。じゃあ、私も"漆黒の翼刃槍──」

「…やめろ」

 

 刃鳥さんとは何かの事件で会ったことがあるらしい。

 刃鳥さんのヒーロー名、途中で切られたがめっちゃ中2じゃなかったか?

 吹き出した影宮が強めにはたかれているのを見て、俺も笑わなくてよかったと思った。

 そんな俺に、彼女の方から口を開いた。

 

「間だよね。拳藤から話、聞いてた」

「ああ……えっと、B組の子……?」

 

 マスクの奥で、目が細められた気がした。

 

「うん。今日はよろしく。──この辺り、悪い気がするね。今日は、気をつけた方が良いよ」

 

 妙な妖気は感じていたが、。

 

「レイ子は、霊的な気配の察知に優れてる。調査には適任なの」

 

 刃鳥がそう言うと、ミルコが興味なさそうに視線を向けてきた。

 

「ふーん、コイツが?……まあいいさ。見えねぇ奴は手ェ出せねぇしな。視えてるヤツがいるってんなら助かるわ」

 

 

 

 

 ボートは海面を割るように進む。

 モーターの音が低く響き、どんどんと陸の気配が遠のいていく。

 

 唯守は風を感じながら、遠く水平線を見つめていた。

 周囲の空気が重く、圧迫感のような何かが、船を走らせてから纏わりついていた。

 

「おい。 お前さ、今回のこと、どこまで聞いてるんだ?」

 

 影宮が近くのベンチに腰かけながら言った。

 

「え?ミルコと刃鳥さんの合同の調査ってやつだろ?」

「……ほんとに、それだけだと思ってんのか?」

 

 影宮は呆れたような素振りで話を続ける。

 

「お前はバカか。行方不明者の数と、ミルコと夜行の合同なんて言う異質な状況。ましてやどんどんと近づいてくる邪気……普通なわけがない」

「うん。なんだか、悪い気がもっと強くなってる」

 

 バカとはなんだと思うが、本当に聞いてないのだから仕方ない。

 柳の言う通り、ドンドンと気持ち悪い感じが濃くなっているのは感じていたが。

 

「そんなんわかんねーよ。──ただ、たしかにこの妙な妖気は、イヤな感じがするけどな」

 

「はぁ。お前なー。…あの透明女の方がまだマシな」

 

 影宮の言葉に割って入るように、ミルコが甲板の手すりに腰をかけながら声を上げた。

 

「ま、なんでもいいじゃねぇか。行ってみりゃわかる」

 

 そう言ったミルコの目には絶対の自信が見てとれる。

 己の力を疑うことのない、かと言って過信もしていない、強者の目。

 

 その視線の先に、とうとう断頭島が姿を現した。

 

 山のように盛り上がった鬱蒼とした樹海と、どこから登るのだと言う絶壁に囲われた島。

 地図で見てみれば、髑髏を横向きにした様に見えなくなくもない、不気味な形の島。

 思わずツバを飲み込んだそのとき、船が軽く揺れた。

 

「これ、本当にただの職場体験?ヤバそうだけどみんなこんな事してんのか…?」

 

 その呟きを聞きつけたように、柳がすっとこちらに向き直った。

 

「どうだろうね。でも、こんなのは私もはじめて」

 

 彼女の目が、霧の中に浮かぶ断頭島をじっと見つめていた。

 その声は小さかったが、妙に耳に残る響きをしていた。

 

「私とミルコがいる。心配はしないで大丈夫よ」

 

 そう言った刃鳥さんだが、その瞬間、大きく船が揺れる。

 それは、まるで何かが“警告”しているかのように思えた。

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