現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
いよいよ、雄英高校入試の日。
もうすぐ三年経つが、約束通り本当にいるのかな。
なんて、きっと今は大人っぽくなっているのであろう、記憶の中では未だ幼い幼馴染の事を、不規則に揺れる電車の中で考えていた。
そもそも、ジジイには話せないでいた雄英入学の件。
オツトメが落ち着いているとはいえ、家を出ると言ったら何というか。
『結界師というのは、守るべき土地に縛られる』
とは、最近ハマっている手記の一文で見た言葉。
そんな土地に縛られた結界師の一族の縛られた鎖を引きちぎり、解き放ったはずなのに、22代目に関する話と、全ての始まりであるとされる開祖の話は、何故だかはわからないが全く残されていない。
普通そこを残すだろうと思うが、開祖に至っては軽く1,000年は超える程昔の話。
俺は400年も続いたらしい古いしきたりをぶち壊し、俺の先祖たちを縛り続けてきた烏森を封印した、名前しか知らない22代目が一体何をしたのか。
それがずっと気になっていた。
ただ、妖が再び発生してる
規律だったり、昔ながらのしきたりなんかを重要視する、生まれた時代が違うのではないかと言えるジジイはきっとそうじゃない。
母さんがあんなだからってのもあるとは思うけど、きっと俺への縛りはキツい気がする。
そもそも、ジジイはヒーローの免許を取得しているが、ヒーローの資格を持っていない俺をオツトメに出す時点で、結界師としての務めはこのヒーロー社会に当てはまらない。
なんて考えてそうで怖い。
法を犯すのは俺でも、監督として何かしらの罰を受けるのはジジイだと言うのに。
とはいえ、俺が受かると言う保証がないのでまだそれは想像でしかない。
ヒーロー科最高峰である雄英の倍率は300倍を超えるらしいし、筆記はまぁ問題ないだろうけど、実技の方は何をするのかすらわからない。
結界術自体はかなり応用が効くが、俺の個性は役に立つか立たないかはっきりわかれるから、こちらもまた油断はできない。
そもそも、同年代の人間など透くらいしか知らないので、俺は強いのかすらもわからない。
あれだけ鍛錬して弱いと言うことは無いと思いたいが、天才と呼ばれる者もいるだろうし、もしも並であったら泣ける、くらいの不安はわずかながらにもあった。
だから、今はまぁ受かってから言えばいいか、くらいの気持ちでいた。
そこでふと、隣に座る子は何を思っているのかと視線を向けると。
モクモクとパンを齧りながらぼんやりと窓の外を眺めている透は緊張していないのか、緊張を隠しているのか、至って普段通りであった。
「なになにー?どーしたのー?緊張してるの?」
どうやら視線に気づかれたよう。
それに、いつもと変わらない明るい声。
そこに緊張は見て取れず、どこか大物感のある彼女と比べて、なんだか自分がちっぽけに思えてくる。
「まぁ、そうなのかも。俺、受かると思うか?」
最後のパンの一欠片をゴクンと飲み込むと、勢いよく片手を突き上げた。
「緊張バッチこーーい!でしょ?それに、唯くんなら大丈夫大丈夫!」
緊張すらも楽しんでいるのだろうか。
自分も今から同じ試験受けるんだぞと思うも、パシパシと肩を叩いて笑っている。
うーん。
俺と仲良くするような女の子って、どうしてこうも魅力的なんだろう。
人間力というか何というか。
きっと、こういう人をヒーローと呼ぶんだろうな。
「バッチこい、ね。なるようになるか。死ぬわけでもないし」
そう思えば、まぁいいや。
約束は守れなかった事になるけど、それでもヒーローになる道なんかいくらでもあるだろ。
妖の事は、俺が解決する。
そんで、響香も、透も、誰も傷つかないように……
「うんうん!じゃあ、最後に筆記試験用におさらいでもしとく?私も呪力込め終わったから、これで実技はバッチこーーい!だよ!」
「筆記は俺は問題ないよ。透の苦手なとこしとくか」
気づいているのかいないのか、既に俺を不安から救ってくれた、目の前で笑顔を浮かべる小さな可愛いヒーローに、心から感謝していた。
が、小さく柔らかそうな、鮮やかで艶のあるいつもの唇は、パンからはみ出したであろうクリームで今は白くなっている。
その様子に、視線は自ずと唇へと向いていく。
そして、透はそんな俺の視線にすぐに気づいたみたいで、手をパタパタと振りはじめた。
「なになに!?何かついてる!?シルエットわかっちゃうからやだー!」
「ぷっ。 ちょっと、動くなって。取ってやるから」
別に、俺にはシルエットどころか、全部見えているんだけどと、思わず少し吹き出してしまったが、その口につけたクリームをそっと拭ってやった。
*
雄英が近づくにつれて、ずっとキョロキョロしてるなー。
雄英で会おうって約束したって言う、噂の幼なじみを探してるのかな?
唯くんの幼なじみか……どんな人なんだろ。
そういえば、男の子か女の子かも聞いてないや。
「幼なじみの子探してるんだよね?どんな人なのー?私も探したげるよ!」
無意識に避けてた幼なじみの子の話。
唯くん自身、自分のことあんまり話さないし、私以外とも必要最低限の会話しかしてないし、どんな人が唯くんと仲良くしていたのかなんて、全然わかんない。
だけど、もしも女の子だったら……
「いや、いいよ。雄英で会おうって言われたけど、それは受かったらって事だと思うし。
受かんなかったら、きっと会わない」
私の思考を打ち切るようにそう言って、テクテクと校門の方へと歩いていく。
話したくないわけじゃないんだろうけど。
"あの"唯くんをして自分よりも強いと言わしめるその子が気になる。
駅からずっとそうだけど、周りは受験生ばかりで埋め尽くされており、制服である学ランを着た唯くんも、ブレザーを着た私も、似たような格好の人たちに埋れているみたいだ。
そりゃーそっか。
今年の倍率も例に漏れず300倍以上って言ってたし、10,000人はここに来るんだ。
そんな簡単には、会わないか。
なぜだかホッとしてる気がするけど…うぅ〜〜わかんない!
悶々として立ち止まった私の横を、どんどんと人の波が通り過ぎて行き、置いてけぼりになってしまったんじゃないかと、パッと顔をあげたら。
「ん?一緒に行かないのか?」
私の目を見つめて、待ってくれていた。
小さい頃によく言われる、自分の気持ちを伝えるための会話の基本。
『人と話す時は目を見て話しましょう』
私はできるけど、みんな私にはできない。
だから、私のクラスの担任だけは、チラリと私の顔の何処かを見ながら、慌てたように一文を付け加える。
『おっと…ただ、必ずしもしなければいけないわけじゃないからな!』
だから、いつからか私は身振り手振りも含めて自分の気持ちが伝わるよう大袈裟に表現することが自然になっていた。
でも、今振り向いて私を待つこの人だけは、いつも私の目を見てくれてる。
今は、不思議そうな、すこしだけ心配が混ざったような目をしていた。
確かに、この方が気持ち伝わるね。
「うんん!一緒に行こー!」
これからも、一緒にいたいな。
今のとこ、世界で唯一本当の私を見つめることができる唯くんと。
再度気を引き締めよう。
唯くんならきっと、筆記でも実技でも、確実に合格ラインを超えてくる。
私も、頑張らないとだ。
*
案内通りに進んだところで、受験番号の書かれた席へと向かう。
連番だからか、隣にいるのはもはや安定の透。
「私E会場だって!唯くんは?」
距離が近い。
いつもの事だが、俺がそう思うんだから他の奴もそう思ってるだろうと思う。
すごく、視線を感じる。
彼女連れで来るな、など色々聞こえるし鬱陶しいな……
と、思っていたらなんか遠くで眼鏡が騒いでおり、縮毛の子がなんだと言ってる。
10,000人はいるこのバカっ広い講堂全てに、マイク無しでは流石に声は届かない。
けど、そうして注目を集めてくれたおかげでこの鬱陶しい視線からも解放されたので、グッド!縮毛!
心の中でペコペコしている緑頭に拍手を送りながらも、透の質問に返しておく。
「俺はK。連番だと協力とか共謀とかするかもだし、わざとズラしてるのかもな」
Kか、目の前で馬鹿でかい声で喋るプレゼントマイクの後ろのビジョンには、現在地から伸びる12個の会場。
約1,000人づつに分けられるってことかな。
やる事は、この資料に書かれている通り、ロボット退治。
ポイントにならない邪魔なキャラもいるらしい。
ばーーーっと説明を終えて、最後に、校訓だと言って、聞いたことのある言葉で締め括られた。
『Plus Ultra!! それでは皆、良い受難を!!』
その後、それぞれの会場にわかれるために移動を始め、透と別れる事となった。
「よーしっ!がんばろーね!」
「ん。じゃあまた後でな」
やったんぞ。試験バッチこい。
心の中で、そう思いながらもKと書かれた案内板に従い、会場へと向かった。
なんか、みんなスゲー服着てんな。
会場に入る前、更衣室へと案内されたのだが、ジャージに着替えて会場前へ行くと、どうやら一番乗りだったらしく待っていたのだが、続々と現れる奴らに少し驚く。
ド派手な奴らばっかりだ。
ドリルみたいな頭したやつは真っ赤な服着てるし、ケバい格好したドギツイギャルみたいなのまでいる。
一通り周りを観察していると、隣で立ち止まった大男が緊張しているのか、えらい深呼吸してた。
「………」
「……よし。 よし。 やるぞ。
俺はシュガーマン……雄英で、ヒーローに……」
自己暗示?
ぶつぶつと呟く、真っ黄色なジャージに身を包んだ唇の分厚い大柄な男。
シュガーマンってなに?
と思うが、よく考えたら自分で考えたヒーロー名か。
そー言えば、俺も小さい頃は開祖ぶって『俺が時守だー!』なんて響香に名乗ってたっけか。
そんなシュガーマンを横目に見ていると、どこからか声が聞こえた気がする。
自分の心の声じゃない。
誰かの心の声が脳内で、これでもかと言うほどに重く響き渡る。
こいつを越えなければ、キャラが被ってしまうと。
俺はこの世界の生存競争に勝たなければならない。
まさかこんなにもすぐ、受難がやって来るとはな。
上等だ……!
Plus Ultraだろ、超えてやらぁ!
悪いが、勝つのは俺だぞシュガーマン。
雄英高校ヒーロー科、新一年生のシュガーラブは、俺ひとりだけで充分だ!!
誰にも知られる事はないが、名も知らぬ隣の黄色い巨漢には絶対に負けないとやる気を燃やす。
やったんぞ!
と、身体を巡る呪力を意識したところで、アナウンスが響き渡った。
『ハイ、スタートー』
意地が悪い。
周りを気にしていたらしい他の奴らは全員が止まっている。
一番に待っていた俺はそんな観察などとっくに終えている。
どうやら、俺だけが行動に移っているようだ。
スタートは、俺の勝ちだぞ!シュガーマン!!
右手を振り上げて、足元に結界を生成し、空高く伸ばす。
「結!!」
上空から見下ろした方が速い。
まずは速攻で、一体狩る。
上空を結界伝いに飛びながら、またもデカイ声が響く。
『どうしたぁ!?実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ走れぇ!!』
その通り。
妖も突然襲って来るんだ。
実戦にゃカウントなんてない。
「みっけ」
発見から即殺。
初めて視界に入ったロボを即方囲し、そのまま定礎。
流れる様に右腕を振り上げ、生成から直ぐに滅却まで持っていく。
「結!! 滅!!」
何か仕掛けがあるかはわからない。
硬い妖は一度じゃ倒せない。
このロボはどうだと、ひとまずこの程度の結界で滅する事ができるのかを試したのだが。
「ガ…ガガ…ブッコロ…ブッ……」
あれ、これでいいんだ。
どうやら一発で良かったらしく、見た目と違って脆いみたいだ。
呪力を練り上げ、視界に入る全てのロボを捉える。
動きも遅いし、これじゃいい的だな。
だが、邪魔なギミックとやらがいつ邪魔をしに来るのかわからないし、さっさと終わらそう。
片っ端から……
「けーーーーつ!!」
威力が落ちるギリギリの数。
20体くらいを結界で囲う。
「滅!!」
スタート地点の側はすぐに狩り尽くし、その後も上空を適当に移動しながら、同じようにひたすらに滅して数分。
目に付くロボもいなくなったからか、受験生たちは動くのをやめている。
そして、なぜか空を見上げ始めているが、その視線は結界に立つ俺へと集まっていた。
なんで、動かないんだ?
ビルん中にも隠れてんじゃないのか?
もしかして、この試験には俺の知らない罠が……ッ!!
急に気配が群がるのを感じた時にはもう遅かった。
自身の側へととんでもない速度で近づいてくるモノがいる。
速すぎて、この目で捉えることができたのはその影のみ。
こんな速度で迫られたら、結界はもちろんの事、攻め手にもよるが個性も仕込んでいなかったためこのままでは間に合わない。
資料と全然違うし、ロボですらない。
シークレットお邪魔ギミックをぶっ倒すのが、本当の試験?
今思えば、何体いたのかは知らないが、試験時間を考えたらここまで飛ばす必要はなかったよなー。
だからみんな、あんなゆっくりと様子を伺ってたのか。
最初から全開で飛ばしてた俺が、ただ一人ひっかかったマヌケだったんだな。
── 完敗だよ。
お前が……真の、シュガーマンだ。
響香とのを約束したあの日。
透とまじないの構成を考えたり、勉強した日々。
走馬灯のように思い出す。
響香も、透も、たぶん引っかかってねーんだろーな。
つっても既に間に合わないんだし、まぁしょーがないか。
と、完全に開き直ったのだが、未だに攻撃が来ないのは、なんで?
不思議に思う俺の側には、盛り上がった地面の上に立つ二人の男女。
下には、大地に手を置く四角い灰色の、人?
なにこの状況?
「こんな奴もいるんだから、この入試はまったく合理性に欠く……ん?お前まさか、それは個性じゃない、のか……?」
「……あなた、一回きなさい」
ん?
来いって、なに?
アレ……これで終わり?
俺の雄英高校ヒーロー科実技試験は、開始からわずか数分で、強制的に終わりを迎えた。