現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
47話 職場体験を終えて
一週間の職場体験も終わり、雄英高校1年A組の面々もそれぞれ久しぶりに登校していた。
「お。間」
「ん?」
ズビズビとコーヒー牛乳を飲みながら、呼ばれた方向へと振り返ってみれば、懐かしい顔と、先日まで一緒だった顔。
「そんな大変な職場体験だったの?レイ子がさっきから間の話ばっかりでさぁ」
「一佳……その話は…」
「まーたなんかスゴイ事やらかしたの?」
笑顔の拳藤と、無表情でいる柳。
職場体験は大騒動となったのは初日だけ。
その後は島を隅々まで調査したりして、逃げ遅れた人がいないか、妖は残っていないかとまわるも、そのどちらともがいなかった。
俺自身は姉と違って探知結界の範囲も狭く、苦手であったためひたすらと緊張したまま歩き疲れた思い出が蘇る。
「いや、むしろ柳の方がすごかったよ。助かった」
本当に、調査となると自分の力は使えない。
そもそも呪力を可能な限り広げ、その全てを方位して感覚をって、そんな規模の方位も感覚なんていうのも訳わかんねーし。
響香の方がよっぽど頼りになった事だろう。
柳と影宮、その二人が中心となったからこそ、たかだか数日で島全体を周ることができたのだ。
いつものようにコーヒー牛乳をベコベコと圧縮しながらそんな事を言うと、予想だにしない反応が返ってきた。
「私が…?それは流石に、ウラメシすぎるよ。間」
「ん…?なに?うらめしすぎって?」
その表情は読めないものの、どこか顔も赤みを帯びているようで、怒っているような気がする。
そう思ったら、校門へと走り出してしまった。
またなんか間違えたのか?
対人コミュニケーションは治ってきたと思っていたというのに。
「間さ。たぶん、言葉足らずなんじゃない?私にはわかんないけど、レイ子のあんな感じ初めてだし」
そんなこと言われてもと思うも、理由のわからない俺には謝ることしかできないと伝えるも、拳藤がフォローを入れてくれるとのこと。
やっぱりB組の姉御は頼れる友達だと再認識した。
その後、まさかの職場体験でCMデビューしたと聞いたのには驚いたけど。
──
間……あんな簡単に呪力を使ってて、あんなに近くでも少ししか感じない程、自然な力の使い方。
私もと、道路に落ちてしまった花弁をフワリとその個性で持ち上げる。
普段から力を自然に使っていれば、私も間みたいに強くなれるかな。
あの時の、カッコよかった間みたいに。
それにしても……私も、助けになってたのかな。
「レイ子。さっきは急にどしたの? 間、めっちゃ謝ってたよ?」
さっきのは、私が一方的に悪いのに、謝ろうとしてくれてたんだ。
偉そうじゃないし、昔の怪談話同様、といっても数百年前まではほぼ全ての日本人はだけど、黒髪黒目だし。
実は──見た目がタイプだし。
妖の事でも話せる人は限られるし、卒業後もきっと刃鳥さん達と、一緒に働く事になるんだろうし、これからも長く一緒にいる事になるんだから、私の方から謝るべきだよね?
でも、確かA組の中に仲の良い女子がいるとかいないとか。
それも2人いて、どっちとも付き合ってると思うほど仲がいいって話も聞いた気がする。
確か名前は ── 耳郎と、葉隠………
「ウラメシい………」
「え? レイ子……?」
──
その後、拳藤から柳がめちゃくちゃ怒ってるっぽいと聞いて、直接謝りに行くも、無言のまま睨みつけられて、シンプルに怖かった…
──
久しぶりの教室についてみれば、各々が職場体験の話で盛り上がっている。
自身の席に鞄を置きに向かえば、一つ前の席のヤツはいつもならすでに登校しているのだが、まさかの今日は俺の方がはやかったらしい。
カバンを置いて顔を上げると、そこにいたのは。
「爆豪…おま!?え、髪型…イメチェンってやつか?絶対やめたがいいぞ? ぶふっ…」
ピッチリの8:2でわけられた、メンチ切ってるコケシ状態の爆豪に思わず声をかけてしまった。
「……殺す」
笑いを堪えられないでいると、頼もしい味方、切島と瀬呂も爆豪?を取り囲む。
「アッハッハッハッハ!!マジか!!マジか爆豪!!」
「助けてくれ2人とも、俺…コケシに呪い殺される…くっくっくくく」
「るっせぇぞ!!クソが!!クセついちまって洗っても直んねぇんだよ! おい笑うなぶっ殺すぞ!!」
「やってみろよ8:2坊や!アッハハハハハ」
と思ったら、俺の頭を鷲掴みにし、切島と瀬呂の襟首に掴みかかる。
BOMB!!!
「「「直ったーーー!!!あっはははははは!!!!」」」
なんて笑っていたら、クラスメイトは3人を中心に盛り上がっていた。
なんでも俺達が島で調査活動をしている時に、緑谷、飯田、轟の3人も随分と大変な目に遭っていたらしい。
「そうそう、ヒーロー殺し!!」
爆豪に襟首を押さえつけられたままで瀬呂はその時のヴィランの通称を叫ぶ。
なんでも有名なヴィランであるヒーロー殺し、ステインと接触し、エンデヴァーに助けられたらしい。
上鳴のまるでヒーロー殺しを肯定するような言葉にも、飯田はヒーローらしく返していたし、3人とも通常運転のようで安心した。
「そーいえば間はなんもなかったの?なんかニュースでだんとー島ってとこから大勢救助されたってニュースは見たけど、島行くって言ってなかったっけ?」
芦戸の言葉に、切島と八百万も同調していた。
けど、ヴィラン連合の『怪人 脳無』の生産工場だったかもしれない拠点を潰したとなれば、警察からも、刃鳥さんたちプロからも情報は秘匿厳守だとキツク言われていた。
なので、特に話せることもないため関係ないよと誤魔化すしかなく、代わりに透は結局どこでなにをしたのか聞いてみたが、
「知りたい?ねぇねぇ、気になる?」
「……いや、いい」
としつこいので、聞くことをやめた。
すると、つまらないとばかりに唇を尖らせる。
するとそのまま響香へと絡んでいた。
「ねぇねぇ、響香ちゃんは知りたい〜?」
「気になるけど、どーだったの?」
「んーナイショだけどね、またひとつ強くなったよ」
ニッコリと笑う透に、響香も不敵な笑みを浮かべ、俺の顔を見ている。
「じゃあ、ウチと一緒だね。"2人"には追いついたから」
「え…?え!何それ〜!?どーゆーこと!?」
「ナイショ。また、その時が来たら話そうかな?」
俺と響香の顔を見比べて、ワタワタとしてる透。
結局、姉ちゃんと響香は一緒じゃなかったし、2人が何をしていたのかはわからない。
ただ、2人とも自信満々な顔してるし、きっとなんか掴んできたんだろうな。
そんな話をしていると、始業のベルも鳴り、各々自席へと移動する。
頭をまだなんか掴まれてる感覚があるし、授業がはじまっても不意に前の席の奴を見れば思い出し笑いをしそうになる。
そのたびに爆豪から睨みつけられ、その日は全く授業に集中できなかった。
*
数日後のヒーロー基礎学は、複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯、運動場γで行われる。
「救助訓練レースだ!」
今日の授業はオールマイトの言う通り、遊び要素を含めた救助訓練レースだとのこと。
オールマイトが運動場γ内のどこかから救難信号を出し、5人4組に別れ、一斉にスタートし、誰が一番最初にオールマイトを助け出せるかというシンプルなもの。
レースという特性からも、純粋に順位を決めるもの。
ハッキリと勝ち負けが出る分、自力が試される。
その内容を把握すると、皆が目を交わしていた。
それぞれが、職場体験を終えて、プロから何を盗んで来たのかを発揮する最初の授業がはじまるのだと。
「もちろん建物の被害は最小限にな!」
「指差すなよ」
その言葉と同時に、オールマイトが指を伸ばした先にいたのは、当然のごとく爆豪。
低く言い放った爆豪の顔には、明らかにうんざりとした気配が浮かんでいた。
「じゃあ初めの組は位置について!」
掛けられたオールマイトの声に反応して、発表された組み分けの通り、一組目の面々はそれぞれスタート地点である前へと出る。
今回の最初の組は、芦戸、飯田、瀬呂、間、緑谷の5名。
他の面々は大きなモニターのある OZASHIKI に移動し、訓練の様子を見ることになった。
「飯田まだ完治してないんだろ。見学すりゃいいのに…」
「クラスでも機動力の良い奴が固まったな」
上鳴と切島がモニターを見ながら話し始めた。
「うーん、強いて言うなら緑谷さんが若干不利かしら…」
「確かにぶっちゃけ、あいつの評価ってまだ定まんないんだよね」
「何か成す度、大怪我してますからね…」
八百万と耳郎もまた、モニターを見上げて話している。
「トップ予想な、俺瀬呂が一位!」
「あー…うーん。やっぱ間がなんかやらかす気するけどなぁ」
「オイラは芦戸!あいつ運動神経すげぇぞ」
「デクが最下位」
「ケガのハンデはあっても飯田くんな気がするなあ」
まるで競馬のように、それぞれが一位予想を始める。
麗日の飯田予想に、蛙吹はケロっとうなづいた。
「唯守のやつ、あの音……纏わしてる?なんかする気だね」
「え?」
「あん?」
耳郎の言葉に、葉隠と爆豪が反応したところで、オールマイトから号令が入る。
「それでは行くぞ!START!」
*
ただでさえ入り組んだ、こんなごちゃついたとこは上を行くのが定石。
となると、もちろん滞空性能の高い瀬呂が有利な事は明白。
予想通り、開始と同時に抜けたのはその腕からテープを伸ばした男。
「ちょーっと今回は俺にうってつけ過ぎ……」
自身の前を行く瀬呂が一位なんだろう。
そう思ったら、もうひとつ、俺の前に背中が見えた。
「る…?」
──ダンっ!
自身のすぐ後ろの何かを蹴る音がしたと思えば、緑谷が横を通り過ぎていった。
「うってつけ過ぎる!授業に!」
個性使用のたびに骨折する力を押さえ込み、俺と同じように纏わせてでもいるのだろうか?
たかだか一週間で、この伸びようは純粋にすごい。
そんな前を行く緑谷のピョンピョンと跳ねる姿は爆破の加速で飛び回る爆豪のよう。
ただ、俺が見たのはもっと上の世界だ。
「確かに、そうだな!」
呪力で身体を覆い、結界を蹴る反動で跳ぶ。
梅雨ちゃんよりも洗練された、トップヒーローミルコの動きを思い出せ。
純粋な身体能力も、跳ねる事にも特化している2人には遠く及ばないが、呪力を纏わせればいつもよりも断然速い。
事件のあと刃鳥さんに学んだ、結界とは違う純粋な呪力の使い方。
刃鳥さんの人間離れした動きはその身体能力もさることながら、霊力を使用していることが大きいらしい。
そこで、俺は探知結界の応用、自身の周りだけを成形前の結界の呪力で満たし、跳ねる性質を持たせるべく更に呪力だけは注ぎ込み続ける。
本来はインパクトの瞬間だけとかが理想なんだろうけど、今の俺にはこれが精一杯。
ただ、きっとこれこそがUSJの妖が言っていた纏う結界とやらの第一歩だろうと自分の中で結論づけていた。
「間まで…!ッッソだろ!!」
瀬呂を抜かし、緑谷を追う。
だが、上をいくだけの俺とは違って、掴み、蹴り、飛び越え、時には潜り抜けていく緑谷には追いつけない。
「間ハヤって、緑谷一位!?跳んでんのー!?」
芦戸の声が後ろから聞こえるも、追う背中はあとひとつ。
もっと早く結界を。
もっと強く、反発し合う力を。
グングンと加速していく中で、後一歩で追いつくという寸前。
緑谷の背中が消えた。
「は!?消え…」
消えたと思った緑谷は途中で足を滑らせて落ちてしまった。
「…ったく。結局コレでケガしてちゃさえねーぞ」
「うぉぉぉぉおーーーっ!!」
結界を成形し緑谷を助けたところで、後ろから叫び声が聞こえた時には遅かったらしい。
「「あ」」
俺と緑谷の、間抜けな声が揃った。
*
『フィニッーーシュ!!ありがとう!そしておめでとう!!』
モニターの中で、オールマイトから"助けてくれてありがとう"と書かれた襷を貰い、一位でゴールしたのは瀬呂くんだった。
「ホラな!俺の予想通りだぜ!」
「緑谷もすごかったな!」
切島くんは予想を的中させたことに喜び、上鳴くんは響香ちゃんの方に振り向いた。
「うん。でも、唯守ダサいなー」
「間なー!緑谷助けて二位って、まぁらしいっちゃらしいけど」
そう。
唯くんらしい。
でも、あの呪力の使い方……
職場体験で身につけたんだ。
私も習ったから、多少は身体能力も向上したけど…
より強く霊力、呪力を感じ取れるようになった今ならわかる。
唯くんの力はケタ違いに多い。
せっかく追いついたと思ったのに、知れば知るほど、彼の底がわからなくなっていく。
でも、負けないって決めたんだ。
モニターではオールマイトから唯くんと緑谷くんは何か言われてるみたいだけど、良く聞こえない程の声量だった。
きっと苦言を言われているのだろう。
──その後も着々とレースが終わりついに私の番がきた。
早速、新しい力を見せれるね。
私も、成長してるんだから!