現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
「葉隠ちゃん、すごかったわね」
「へへへーそーでしょそーでしょー!」
ヒーロー基礎学が終わり、更衣室に戻ればそれぞれの成長を見て話し合う。
そこに男子も女子も関係はなかった。
「アレさ!間が戦闘訓練で使ってたムチの結界と似てたよねー」
救助訓練レース。
その授業の中で、葉隠は新たに職場体験で得た光のムチ、光糸を使い、パイプを掴みながらターザンのように飛び回り尾白に続く第二位の好成績をおさめていた。
「あれってやっぱり間のマネ〜?コノコノ…ってありゃ?」
芦戸がタンクトップ一枚で、葉隠の肩であろう場所をヒジで押すが、その感触は予想とは違いポワンと柔らかいものだった。
着物型のコスチュームである葉隠は、その透明化の個性で衣類まで消せるようになったとはいえ、呪力を使うその行為のために、その"枚数"は限りなく減らしている。
そう。葉隠は普段から素肌にコスチュームを着ていたのだ。
そもそも普段から透明なため、唯守のいない場所では全裸になる事になんら抵抗のない葉隠にとって、女子更衣室という環境ではすぐさま脱ぎ捨てて全裸になるのが通例であった。
つまり、芦戸の肘が触れたのはその実はふくよかな葉隠の双丘である。
「三奈ちゃん…流石にそこはダメだよー」
「いや、葉隠って、意外とあるんだねー!うりゃ!」
いやらしい手つきとなった芦戸の両の手はその双丘を握り込む。
「ちょ…ちょっと……シルエットわかるからやーだーー」
「嫌がるのソコ!?」
耳郎は思わずツッコむと、自身が触られている訳でもないのにその控えめな双丘を両腕で隠していた。
すると、隣の壁から声が聞こえる。
『……ショーシャンク………そうさ……わかるだろう』
「え?なに?なに?」
葉隠と芦戸もじゃれあいの手を止めて、皆がその声に聞き入っていた。
ただ1人をのぞいて。
『オイ………トルミネタ…………………バンザイ……な……よ!』
「オイラのリトルミネタは、もう立派なバンザイ行為なんだよ…」
微かに聞こえるその声を同時通訳のように、読み上げる耳郎。
そのイヤホンジャックは壁に刺さっており、その目はまるで唯守のように温度を無くしていっている。
『うるせー いいこちゃんぶって邪魔すんじゃねぇ 』
女子達は通訳によって現状に気づくと、脱ぎかけのコスチュームで胸元を隠したり、急いで着替えたりと動く。
どこかに穴でも開いているのかその声はだんだんと聞き取れるほど大きくなってきた。
『八百万のヤオヨロッパイ
芦戸の腰つき
葉隠の浮かぶ下着
麗日のうららかボディに
蛙吹の意外オッパァァァァ
ああああ!!!!!!!!』
最後の断末魔だけが大きく聞こえ、ただ1人名前を挙げられる事のなかった耳郎の目は完全に温度を失っていた。
*
「えー…そろそろ夏休みも近いが、もちろん君らが30日間、一カ月も休んでいられる道理はない」
6月もまだ前半、ある日のHRにて担任である相澤がそんなことを言い出した。
とはいえ、夏休みのスタートは七月の下旬。
まだ一か月以上も先の事を近いと言われても、皆はピンときていなかった。
そして、まさかとすこしざわついた生徒たちへ向けて言い放った。
「夏休み、林間合宿やるぞ」
「知ってたよーー!!」
「やったーー!!」
生徒達はいつものように全力で喜びを叫び、飛び跳ねる。
「肝試そーーー!!」「風呂!!」
「花火」「風呂!!」
「カレーだな……!」「行水!!」
それぞれが想像を膨らます中、峰田だけはある一点だけを集中して連呼している。
「環境が変わると活動条件も変わってきますわね」
「湯浴み!!」
「いかなる環境でも正しき選択を、か……面白い」
今回ばかりはツッコむものもおらず、照らし合わせたかのように完全にスルーを決め込むクラスメイト達。
「寝食みんなと! ワクワクしてきたぁあ!!」
「──ただし」
全員の代弁をするように、葉隠が叫んだところで最高潮を迎えた空気は、相澤によって静寂を取り戻す。
「その前に、期末テストで合格点に満たなかった奴は…学校で補習地獄だ」
「みんな頑張ろーぜ!!!」
相澤先生の宣告を聞いた切島が、みんなに向けてと、主に自分を鼓舞するようにそう叫ぶ。
その後、クラスの面々は期末テストの話……
ではなく、来たる林間合宿に向けて話題をふくらませていく中、こう言った話が大好きな葉隠は、やはり話の中心になっている姿を唯守はただ眺めていた。
「……あ」
そこでふと思い出す。
それも、すでに残された時は少ない事に焦りを覚えていた。
*
うーむ。
去年やったし、自身もしてもらったからには今年もやらいでかと腕がなる。
しかし、設計図はかけていない。
どうしたものかと、下校しながらに考える。
今の俺の腕なら、きっとプロヒーローにも勝る。
しかし、プロのパティシエには、劣る。
とはいえ、確実に上達している今の俺の最高点を見せてやるかと気合いが入る。
そう。
あと数日で、葉隠透は誕生日を迎えるのだ。
もはや2年連続ともなれば恒例行事である。
ケーキは鉄板で、もちろん自信もある。
しかし、プレゼントとなると……
うーんと考えながら歩いていると、いつもは気にも留めない、花屋が目に入った。
ふと立ち止まり、マジマジと眺めてみる。
花の造形、色、香りは素直に綺麗だと思える感性はある。
むしろスイーツに近いものを感じるし、嫌いじゃないなんてもんじゃなく、純粋に好きだった。
ここでせめてインスピレーションをと思ったけど、花ってのも
「…シンプルで、あり…かな?アイツも女の子だしな」
白 ピンク 黄色 若草色
いずれも、透にはその髪色やイメージと同じで、明るく淡い色がよく似合うだろうなと眺めていた。
すると、隅の方で紫の細い花がふわふわとしているのが目に入った。
これは、どっちかというと響香に似合うだろーな。
「何してるの?めずらしー」
「うぉ!!?」
突然の声に変な声が出る。
驚いた店員さんに頭をさげつつも、その元凶へと視線をぶつける。
「あはは。そんなにビックリしてくれるの、なんか久々だね」
「アホ。心臓飛び出るかと思ったわ」
「えー?お店だし、普通に声かけただけだよ?」
ニコニコと笑いながら、スッと隣にしゃがみ込み同じく花を眺めている透。
しかし、今は一番一緒にいたくない場面なのだがと、帰路につこうと話しかけようとしたところで、俺がさっきまで眺めていた花に透は顔を近づけていた。
「わーー。ふわふわして、唯くんの頭みたい」
「そーかぁー?どっちかってゆーと、ツンツンしてて響香みたいじゃないか?」
ポフポフと人の頭に軽く触れると、一際キレイに笑った。
「そうだね。2人とも似てるから。でも、私は唯くんだと思ったよ?」
それに、響香ちゃんはツンツンしてないよと付け加える。
「そっか。じゃあ、こっちの白いのは透っぽいよな。よく似合うと思うし」
名前は知らないが、白を基調とした星形の花。
その茎の色は若草色で、"季節外れの"入荷だと大きくポップにも書かれていて、意外性といい、本当にまるで透のようだと思った。
「へぇーそう……なの、ありがと」
俺の指した花を手に取りそう言うと、なぜだか透はスッと立ち上がり、俺も立ち上がると自然と2人でお店を後にしていた。
「…それで、なんでお花見てたの?」
ゆっくりと2人で並んで帰りながらも、唐突に透は聞いてきた。
「それは……デコレーションのインスピレーションをだな…」
そこまで言ったところで、彼女の顔はハッとした。
そしてすぐさま、まるで花のようにパァーッと笑う。
「もしかして、覚えててくれた?」
こういった時、はぐらかすでも茶化すでもなく、素直に嬉しそうにするのが、たまらなくずるいと思う。
合ってるってのもこれまた。
まぁ、それが透のいいところでもあるわけなんだけど。
「あぁ。またケーキ作るから、楽しみにしとけよ?」
「へへへ。ありがと。 期末試験も近いから、今年は忘れられてると思っちゃった」
そう言うと、いつのまにか透の家と、俺の家の分かれ道にさしかかっていた。
隣を歩いていた彼女は一瞬速度を上げると、俺の前へ出て、そして振り返る。
「もちろん。うーんと楽しみにしてるね!」
若草色、黄色、ピンク、緑色。
そんな花よりも綺麗な髪が揺れている。
「これからも、祝ってくれるんでしょ?」
そんなイタズラっぽい言葉の癖に、ただただ満開な笑顔の彼女に、俺は目を奪われた。
1人で自宅へと向かう葉隠は、絶対に他意はないとわかっていても、ピンク色に染まる頬と上がる口角を止める事はできなかった。
この先ヒーローになれば危険なこともあるかもしれない。
妖関連でも、鬼退治みたいなことがまた起きるかもしれない。
それでも、私はこれからも、唯くんといたい。
彼が似合うと言ってくれた星形の白い花の名前は、アングレカム。
目立つポップに隠れていた、その花の名前とともに書いてあった花言葉は
──いつまでも、あなたと一緒
*
「ヒーロー殺し、ね。アレだけ言っておいて、まさか捕まるとはな」
「おいおい。そっちこそ、あの島を失っただろ?」
二つの影はお互いのミスを指摘しあう。
だが、そのどちらもが大したミスだとも思ってはいないし、罵る感情もない。
「アレは、もう要らないだろ? 記録係から経験と記憶は奪っておいた。あんな不便な場所はそっちこそ願い下げだろうに」
「まぁ、そうだね。こっちも概ね想定通りだよ。彼に共感を覚えた者も少なくはないだろう」
身体に医療用なのか、管がいくつも這っている男は椅子に座ったままで言葉を続ける。
「暴れたい奴をはじめ、様々なモノたちが衝動を解放する場としてヴィラン連合を求める。 死柄木弔はその中でも人間を統括しなければならない立場となる」
そう言った男、
そんな2人の間にフワリと浮かんだもうひとつの男、無道はAFOに対して笑顔を向けた。
「人間は、な。他がいるならコチラでもらうとするさ。アレが出てくるのももう直ぐだろう。そうすればお前たちとの関係も白紙になろう。『力の抽出』、俺も役には立ったのだからそれくらいいいだろう?」
「いいとも。もちろん感謝もしているからね。仮に君たちが障害になろうとも、彼には苦労が必要だ。次の僕となるために」
「ならばいいさ。ただの障害で終わるかどうかは、俺にはわかりかねるがね」
目だけは全く笑っていない無道に対して、先の大戦の傷の癒えきらない状態の、口から上を瘢痕に覆われたAFOは笑う。
「ハハ……そんな状態になってまでも、君が見たいのは未来だろう? 僕は、君の未来すらも阻みたい」
「俺はともかく……お前も相当なものだとは思うが、世界の理を壊したアレもまた、極上だぞ?」
まるでオモチャを自慢するかのような態度で無道はおどける。
その眼は、確かに未来を向いていた。
「僕は個性社会のはじまりに少なからず感謝はあれど、興味はないんだが」
ふぅと息を吐くと、AFOは今日初めて無道の顔を見た。
「すべては僕のためにある。君のいうソレも、かもね」
少し驚いた表情を浮かべた無道。
口だけで歪んだ笑顔を作るAFO。
その間で、空気は揺れる。
「くっくくく。お前は確かに"人"の中での化物だが、人は!もっと高みにいける!この時代にとって格別の異物が現れたとき、人はまた枠を壊すだろう!
それがお前なのか誰なのかはわからない!壁を越えるか潰されるかもな!
俺はただ、その先が見てみたい」
くるりと宙をまわった無道は天地逆さになると、トレードマークの帽子を押さえ、子供のような声でいった。
「俺を消すなら、その後にしてくれ」
「あぁ。いいとも」
そんなAFOに笑うと、無道はその姿を消した。
「今のうちに、せいぜい謳歌するといいさ、オールマイトも、死にそびれた連中も。せいぜい、この仮初の"