現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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51話 壁

 

 

 

 ゲートを探すため、というよりも戦闘のキッカケでもあるお互いの居場所をどちらが先に見つけるか。

 こちらが先か、あちらが先か。

 この試験、はじめは攻撃有りのかくれんぼとも言える。

 唯守と響香のいるここは、薄暗く、視認性は良くない。

 更に周りは高低差のある足場のついた柱が所狭しと並んでいるのがこのステージだった。

 唯守の結界による高所からの強襲も塞がれるこの場所を、唯一教師陣を上回るであろう響香の音による探知のみで探索を始める。

 

──キン

 

 と軽い音をさせて、また一つの柱へと唯守は纏界を纏わせた2本の指を振るわせて傷をつけた。

 開始から既に5分は軽く経った頃。

 互いに派手に動くことはなく、目印をつけた柱もコレで10本目を軽く超える。

 その10本ともが、違う場所が傷つけられいた。

 結界でつけた上部、下部はもちろん、今回のように極至近距離と様々。

 張りきった緊張に、響香はじんわりと汗が滲む手のひらを拭ったところで、そのかくれんぼはアッサリと終わりを迎える。

 生徒の負けという形で。

 

──キン!

 

 と甲高い音。

 そして、風を切る小さな音。

 

「3時の方向!!」

 

 小さな声は、遠距離の場合。

 大きな声は超近距離か、超高速の場合。

 そして今回は、前者のよう。

 

「任せろ!」

 

 唯守は呪力を練り上げ、響香を押し除けて前へと出る。

 

──チュイン

 

 と軽く音がした。

 スナイプの放った弾丸は響香の左肩を狙って真っ直ぐに飛んでいたが、前へと飛び出した唯守の纏界を貫けず、滑るように弾丸は明後日の方向へと飛んでいく。

 

「わかるか?」

 

 唯守は響香を結界で囲いつつも、注意は怠らない。

 今までの経験上そうだが、格上相手で気を抜くなど自殺行為に等しい。

 異界でなんど殺されたことかと3時方向を見据えるも、相方である響香の言葉で更に集中を切らすわけにはいかないと理解する。

 

「たぶん、跳弾。一度ぶつかる音がしたから」

 

 響香もまた汗を拭い、イヤホンジャックを足場と、コスチュームである本来耳に被せる部分が内側と"外側"へも向いた集音機能付きのヘッドホンへと差し込み、わずかな音も聞き逃すまいと集中を続ける。

 

「いたぶる気か、俺らの焦りを狙ってんのか」

「どっちもじゃない?」

 

 そう言った、一切こちらを見ることなく話す幼馴染を頼もしく思いつつも、唯守はこの状況を変える動きに出るつもりでいた。

 

「跳弾を実際の威力の3分の1とみても、頭とかじゃなきゃ致命傷にはならないかな。見つかったんなら意味ないし、響香は引き続き索敵、そんでフォローよろしく」

 

 そう言って、目に見える場所、前後上下左右に結界を作り出す。

 

「ちょっと!流石にまだはや──」

「無茶じゃないさ。信じてっから。"もう一人"を、炙り出す」

 

 響香が言い切る前に、唯守は駆け出す。

 もう一人は、スナイプへと向かう自分を阻止するために現れるか、響香を襲うかのいずれか。

 だが強化に近づくにはどうしても結界が邪魔になるように成形した。

 

 結界ではなく、纏界で受けたことは自身にとって良いことだった。

 跳弾の音がひとつなら、反射の角度はある程度絞れる。

 身をもって受けたのだから、目指すべき方向はここしかない。

 迷いなく、一つの方向に向かって結界と足場を蹴り駆け出していく。

 

 そこで、突如ヌッと現れた赤い壁に唯守は即座に響香のそばの結界を解除して呪力を戻すと口角をあげた。

 

「みーっけ!」

 

 その壁に向けて飛ぶ。

 強めの呪力を込めて、ミルコさながらのドロップキックを入れた。

 

 パリンという音をさせてその壁は簡単に崩れた。

 だが、そうしたドロップキックの伸び切った体勢の唯守へと、割れた壁の死角から拳が振るわれる。

 

「素早く、良い判断だと褒めてやりたいが、釣りだとは思わなかったか?」

 

 ブラドキング。

 彼の持つ【操血】の個性は文字通り、血を操り攻撃にも防御にも使える近距離主体で攻防一体の強力な相手。

 位置がバレたのなら逆手に取ればよいと、わざと薄く目隠しをしていた血壁の死角から、容赦のない拳を振り降ろされる。

 だが、唯守は口角をあげたまま。

 その伸び切ったドロップキックの体勢の身体には、最初から念糸が絡みついていた。

 

「まさか。もう釣れたと思ってるなら、舐めすぎ注意っすね」

「──!」

 

 ブラドキングの拳は空を切る。

 念糸を急速に縮ませて元の結界へと戻ると、その結界へとボヨンと沈み込んだ目の前を、銃弾が通り過ぎる。

 

「響香サンキュー」

 

 響香が思った通り、結界に沈み込むのは計算外だったらしい。

 

「唯守!位置はわかった!スナイプ先生はウチがやるよ!」

 

 そう叫んで走り出す響香へブラドキングが注意を向けた瞬間、唯守は個性込みの結界でブラドキングを囲う。

 ブラドキングがとれだけ格上で、強力な個性でどんなものすごい"結果"をもたらそうとも、唯守の個性の前では、その"結果'は必ず遅れて訪れる。

 

「破れないだと!?」

「いーや。今の俺じゃあ受け切れんほど強力ですよ?結!滅!」

 

 ブラドキングの立つ足場をくり抜き、柱の下へと続く暗闇へと落とす。

 

 最初にものを落として深さを検証した。

 ここはおそらく高さ50m程の柱だらけの密室。

 その柱からタイルのように伸びる4m四方の足場床が東西南北へとランダムに伸びている自由度の高いステージ。

 せいぜい落ちても30m程度だろうが、わずかであれスナイプに1対2を押し付けるにはちょうど良いだろうと唯守は考えていた。

 

「ほんじゃ、また後で」

 

 結界を踏み込み、響香を追おうとしたところでその結界が弾け飛ぶ。

 

「うぉ!?」

 

 スナイプに結界を撃ち抜かれ落ちていく唯守の視界の端に、赤いロープのようなものが柱に食い込んでいるのが見えた。

 咄嗟に、纏界を作り出し出力を上げる。

 

「後というには、随分と早かったな!!」

 

 赤黒いナックルを装着したブラドキングの拳。

 咄嗟に左肘で受けるがその衝撃までは殺せない。

 殺せないならと自身の背後に結界を生成。

 

「みたいっすね!!」

 

 殴られ吹き飛ぶことを拒否するようにその場にとどまると、唯守は重力に従い落ちていくブラドキングの顎を蹴り上げた。

 しかし、プロというものはそう甘くはない。

 

「カッテェ!?」

「なかなかの威力だな!コレはどう捌く!?」

 

 顔の下半分を覆っていた赤い部分が剥げていく。

 近くの足場に着地したブラドキングのナックルはその血をも吸収して 、長さをドンドンと増していく。

 それは、手刀から刃渡り80cmはあろうかというブレード状の血で覆われていた。

 

「血剣!!」

「くっそ!」

 

 悪態を突きつつも唯守はそのブレードをギリギリで躱す。

 

「生徒に振っちゃあダメなやつでしょっ!?」

「ハンデのせいでかなり遅いからな。良いだろう!?」

 

 そう言った唯守はまたも頭へと向けて、振るわれたブレードを躱してボディーへと中段突きを放ったところで、ブラドキングは笑った。

 執拗に上半身へと向けられたブレードは下へ注意を向けさせないため。

 ハッとした唯守の足元には赤い液体が飛び散っていた。

 

「間。お前は確かに強い」

 

 その足元を這う赤い血は一気にその硬度を増すと、膝まで唯守を覆った。

 

「だが、初めに言っただろう。これは格上との勝負だ。一対一になった時点で、お前たちの負けだ」

 

 そんなブラドキングの言葉に、なぜだか唯守は笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「鼓膜破れちゃうって〜」

 

 打開策を見つけられないまま、先生の前で攻略法を見つけられないでいた。

 

『ど〜こで〜すか〜〜〜!!!???』

 

「くぅぅぅぅうー!」

 

 そしてまた、目の前で透明な彼女が悲鳴をあげる。

 

「私も式神使えたらなぁー。でも、そろそろ特攻仕掛けるには良い位置だね!」

 

 シキガミと言うのはわからないけど、きっと笑顔を浮かべて僕を元気づけてくれているのだろう。

 彼女の顔は見えないけど、きっとそうだ。

 

 良い位置だなんて、気休めだ。

 これ以上近づけば、鼓膜が持たないギリギリの場所まで辿り着けただけだ。

 二手に分かれる手もあったはずなのに。

 

「私がレーザー打てたらなんだけど、ごめんね。

 あっ!口田くん!木とかは操れない!?よねぇ、流石に」

 

 今は衣服も見える状態のため、彼女のグローブがわちゃわちゃと動く。

 レーザー…青山くんみたいなのを想像した。

 そして、木を操ることは、僕にはできないんだ。

 

「ん〜。そしたら、この距離が、限界だから…サイクアウトは…きっと無意味だし、ハイチーズなら、一瞬なら止められる…かも?」

 

 そうして今もなお考え込んでいる。

 僕も何かできないかと考えながらもゆっくりと場所を変えていく最中。

 手をついたのは木のはずなんだけど、モゾリと指に妙な感触を感じた。

 そして、それがナニかを認識した瞬間。

 

「キアアアアアア!!!」

 

 大の苦手な虫、芋虫が指にかかっていたのを見た瞬間、怖くて森の奥に逃げていた。

 

『そ〜こかぁ〜〜!!!』

 

 自分が逃げた直後、またもビリビリと辺りを揺るがす爆音と衝撃波。

 

(ごごご、ごめん。僕のせいで………)

 

 葉隠さんは先生の様子を見ていたため、真正面から受けてしまったみたいでかなり辛そうだ。

 きっと耐えながらもまた、僕の方へとゆっくりと歩いてくる。

 

「いったぁー……かったけど…うん、少し楽になってきた。どーしたの?急に?」

 

(僕、実は虫が苦手なんだ。)

 

「ん、虫?虫は……逃げてないんだ」

 

 なんでだろうと、その鼓膜の構造なのか、そもそも聴力を備えていないのか。

 虫から何か攻略できないかと考え始めたみたい。

 すごい。

 本当に立ち止まらない。

 クラスの中でもずっと明るい、みんなのムードメーカーでもある彼女の凄さに自分が情けなくなる。

 

(ごめん、葉隠さん。)

「僕、なにもできなくて……」

「そんな事ないよ」

 

 思わず言葉にした、その瞬間。

 ビッと、僕の目の前にVサインを作った葉隠さん。

 

「何もできない人なんていない。時間もあるしまだまだこっから!一緒にヤッタろーよ!」

 

 そのグローブには、わずかに血が滲んでいるようだった。

 僕の耳でさえ、ズキズキと痛むんだ。

 僕の前に出て、わずかでもその衝撃を減らしてくれていた葉隠さんは、僕よりもずっと──

 

『甲司〜!雄英合格!?すごいよー!!母ちゃん嬉しいよぉー!!!』

 

 雄英に合格した時の母ちゃんを思い出す。

 そうだ。僕だって、みんなと同じ雄英生なんだ。

 何もできないわけじゃない。

 雄英には前進しかないんだ!

 

「ぼぼぼ、僕が…この衝撃でも逃げていない虫に語りかけてみる……から、葉隠さんは、隙を作ってくれない、かな」

 

 ブイサインは、グッと握り込まれる。

 今更、囮になんて、それはそうかと一瞬考えがよぎったけど、それも一瞬で彼女に吹き飛ばされた。

 

「ん〜!!まっかせて!!口田くんが仲間を集めてる間、私が先生を翻弄する。お互いの得意分野だね。私たちの力、ブツけたろー!!」

 

 親指を立てて、僕に向かって再び拳を突き出し言う彼女は、なんて真っ直ぐなんだろう。

 

 葉隠さんは、ずっとそうだ。

 いつだって、未来を明るくみてる。

 僕だって雄英生なんだ…

 そうさ!

 僕だって、心はいつでもPlus Ultraさ!

 

「うん。ヤッてみるよ」

 

 今の僕も、想像の中の彼女と同じくらい、笑えていると良いな。

 

 

 

 

 

「素晴らしいぞ少年たち! 不本意ながら協力し私に立ち向かう……

 ただ! 二人とも!!」

 

 瓦礫の上で、平和の象徴は自身の教え子の一人を掴み、そしてもう一人を踏みつけていた。

 

 呻き声をあげて横たわる爆豪と、その腕を掴まれ宙で揺れる緑谷。

 

 

 

 開始直後からアレだけ仲の悪かった二人。

 オールマイトに良いようにヤラレ、爆豪は自身の力を見せつけるべく、だが緑谷は、【負けた方がマシ】と言った爆豪が許せなかった。

 

 絶対に勝つ。

 勝ちを諦めない、それが爆豪だろうと。

 そうして"今回の"試験に勝つべく、二人は、というよりも爆豪は、いがみ合うことをやめる事を選んだ。

 

「クソカス猫毛のせいで……いや、黙って聞け」

 

 間のセリフのせいで負けがよぎった訳でもない。

 自分を曲げてでも、勝つためには緑谷を使うしかない。

 それが爆豪は堪らなく悔しかった。

 だが、それが勝つためだとは理解している。

 

 勝ちにこだわる爆豪と、逃げに徹した緑谷。

 真逆の二人による折衷案。

 爆豪のコスチュームでもある、ノーリスクで爆撃を放てる籠手を装着した緑谷が爆破をオールマイトへとぶつけて脱出ゲートを目指した二人。

 

 その結果、追いつかれ二人まとめてやられた場面に戻る。

 

 

 

「それは、今試験のだからね」

 

 そんなはじめてともいえる共闘をした二人が、今完全にしてやられていた。

 互いに、圧倒的なスピードでやられ、いまの状況へとおちいっていた。

 

((何をされたのか……全くわからなかった))

 

 二人は攻めてきた後の事も視野には入れていた。

 追撃の手は、爆豪に残されたもう一つの籠手で迎撃しようとまで話していた。

 だが、一瞬で残るひとつの籠手も破壊され、二人まとめてヤラレている。

 

「って、話だぞ」

 

 平和の象徴という壁は、あまりにも大きく、二人の前へと立ち塞がった。

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