現代に生きる結界師は頼られがち 作:固形炭酸
やれる事は、やった。
ポイントもそれなりに稼いだし、他の人の動きを見てた限りはいけてるはず。
うん、筆記もきっと大丈夫。
結局、一度もそれらしい人は見かけなかったけど、唯守、来てたのかな。
ウチの記憶の中では12歳で止まっているので、どんな風に成長しているのかはわからないけど、きっとその本質は変わってないと思う。
振る舞いだけはしっかりしてる癖に、本当はどこか抜けてる幼なじみの姿を無意識に探してる自分がいた。
もしかして、約束忘れてたりして……
またヒーローに飽きてるかもしれないし、妖退治に、間家の、結界師の事で忙しいのかもしれない。
そーだったらそーだったで、仕方ない、よね。
なんて、合格したら会うって決めてたんだ。
もう帰ろ。
そう思い、立ち上がった時には、既に誰も居なくなっていた更衣室。
考えすぎていたと少し恥ずかしい気持ちになりながらも、外へと出た。
やたらと広い校内の遊歩道を歩いていると、なんか放心してる人とか、泣いてる人多いけど…自己採点でダメだったのかな。
すると、不思議な光景が目の前で繰り広げられていた。
「あのーK会場の人?猫っ毛で目がぱっちりしてて、ケツケツ叫ぶ男子見なかったー?」
なにあれ……
制服が、喋ってる……?
透明の個性かな。
ウチの前で、放心している黄色いジャージの男子に話しかけてるみたいだけど、その質問の内容が、必要以上にこの耳に入ってくる。
それに、ケツケツ叫ぶって、知り合いにもいたな。
はたから聞いたら、ただの変質者なのがウケる。
「……緑色した半透明な箱作る個性のやつだろ…」
「うんうん!ずっと待ってるんだけど、全然出てこなくて。まだ中にいたー?」
「そいつだったら、ミッドナイトと、雄英の先生に連れてかれたよ。K会場は、アイツ一人が合格だよ、きっと……」
……緑色した箱、結界の事だよね。
さっき話してた特徴といい、まんま唯守じゃん。
それに、この透明の子が着てるのは見たことのある制服。
ウチが引っ越す前に住んでいたところからも近い、街でも見慣れていた毛糸中の制服だし、完全にそうだよね。
そっか……来てたんだ……
って、それにしても唯守一人が合格って、一体何をしでかしたんだろ。
気になる事ばっかりで、帰路についていたはずの足は自ずと止まっていた。
「えーーー!?一体、何したの!?」
うんうん。
ウチもそれは知りたい。
聞き逃すまいと、自身の耳たぶから伸びるイヤホンジャックをコッソリと二人の方へと近づけておく。
「アイツがいる間、誰も、1Pもとれなかった。それが理由だよ。アイツがいなくなって初めて、ようやくみんなポイントを取り始めたんだけど、あんなの見せつけられた後じゃあな… 俺だって落ち込んでるんだから、もういいか……?」
透明の子も驚いてるようで、またも「えーーー!?」と両手をあげているみたい。
そりゃーそうだよね。
アイツ、一体どんだけ強くなってんだろ。
しかもそんなメチャクチャな事するなんて、同じ会場じゃなくて良かったと内心で思いながらも、とぼとぼと歩き始めたプロレスラーみたいな見た目してる割に優しそうな男子に、少しだけ同情する。
でも、入学試験でみんな合格!
ってわけにもいくわけないし、競争なんだから、仕方ないよね。
「あっ!そうだよねー、ごめんね。それと、教えてくれてありがとー!」
表情も手も見えないけど、パタパタと動く制服の動きと声で感情が伝わる。
きっと、素直で優しい良い子なんだろうな。
顔もわからない透明なこの子は、唯守と仲良いのかな?
*
「それじゃあ、しばらくここで待っていてちょうだい。試験はまだ終わっていないからもう少しかかるけど、また別の者が来るわ」
目の前には、顔色ひとつ変えていない受験生。
まさか市街地Kに配置されていた仮想敵であるロボットを一人で殲滅してしまう中学生がいるとは思いもしなかった。
まるで、推薦入試でその力を見事に見せつけた、あの夜嵐イナサのような広域殲滅力の高さ。
見ていた限り、広範囲且つピンポイント攻撃が可能で、更に自身の足場を作り出すこともできていた。
と言う事は、箱という形状からしても、防御にも回せるのであろう、使い勝手の良い攻防一体の個性。
それでいて、市街地へのダメージもゼロというのだから、彼自身の技量の高さも伺える。
あのままじゃあ、本当に他の子の試験にならないから連れ出したけど、イレイザーが"消せなかった"のが気になる。
しかも、時折報告の上がる正体不明の"青い箱"の個性の特徴とも一致しているようにも見えた。
消せない個性なのか、それともアレは個性じゃないのか。
「わかりました。座ってていいですか?」
「えぇ、くつろいでいてかまわないわよ。それじゃあね」
脳内に浮かぶ疑問の答えが気になりつつも、ミッドナイトは部屋を後にした。
*
「それで、俺はなんで呼ばれたんですか?」
「それはね!君がいると、他の子の試験にならないからなのさ!」
「…はぁ、そうだったんですか」
なんだか甲高い声で喋る、小柄で片方の目に傷の入ったネズミ男。
妖に、こんなのいたような気がするなと、失礼な事が頭に浮かぶもそれを振り払う。
というか、あの時は嵌められたと思っていたけど、この口ぶりからすると、違うのか?
「申し訳ないんだけどね。君の"個性"があれ程とは思っていなかったのさ!あ、もちろん君のポイントにはちゃんと加算しておくけど、君のやる気を途中で中断させてしまった事、どうか許して欲しい」
俺の様な一受験生如きに深々と頭を下げているのは好意的に映った。
急に部屋に連れて行かれ、試験が終わるまで待っていなさいと言われ、しばらくして現れたのが、このネズミ。
きっとこの入試の合否を決めるような立場の教師なんだろう。
別に中断させられたことには特に怒りもないし、あの時すでに開き直って諦めていたので、それが聞けて逆に良かったと思っていた。
が、なんだか含みを感じるのは気のせいか?
「全然、大丈夫です」
この状況からするに実技はきっと合格点。
全くの予想外だった。
完全に落ちたと思っていたけど、これはなんとかなりそう。
後は、筆記の点数次第だけど、手応えあったしこれは受かったか。
とはいえ、もう考えるのはやめとこう。
終わった事だし、後はなるようになるしかないし。
なんて思っていると、まだ話は続くらしい。
「ところで、君の使っていた"個性"はすごいね」
「……どうも」
うーん。
変な含み感じるなぁ。
個性じゃないけど、結界術の事は他人に言うとジジイにキレられるし、俺も未だ響香にしか話した事はない。
『この時代、本当に怖いモノは妖ではなく、悪意ある人間…… 例え耳郎の娘に悪気がなくとも、誰からどう広まるかわからん。結界術が個性でない事は、今後は誰にも言うな。わかったな』
そう言ったジジイの言葉を思い出す。
小さい頃に、響香に自分の個性と結界術の事を話した後。
これでもかと言うほどに、怒鳴り怒られた後、最後にそう言った時のジジイの顔は、未だに覚えてる。
透にバレたのは迂闊だったが、今思えば初対面のアイツをなんで助けてやろうと思ったんだろうか。
まぁ、めちゃくちゃ可愛いしタイプではある。
それに、一緒にいて楽しいし、そういえば最近は透の家でお菓子作りしてないな……
いかん、考えが飛躍しすぎた。
で、それから俺は自分の個性のことは話さないことにしていた。
いちいち嘘つくのも嫌だし、後は周りが勝手に判断してくれる。
透も式神だったり呪刻だったりも、呪刻の際に用いたような特殊な古い道具ありきだと思っているし、もちろん俺の結界も個性だと思ってる。
ずっとそうして過ごしてきたのだ。
さっきの良い意味でヤバイ格好した女性と一緒にいた、長髪の男性が呟いたセリフと関係あるのか?
あの男の個性が、記憶を読むとかなんかな。
だとしたら、もっとツッコんでくるか。
「ひとまず、話はこれで終わりなのさ。校長である僕が謝罪をするべきだと思ってね。時間を取らせた事も重ねて謝罪をするよ」
そう言ってまたも頭を下げる。
ん?
てか、これが校長…?
「大丈夫ですよ」
「それじゃあ、後はこちらから郵送する通知書を待っていて欲しいのさ」
「わかりました。じゃあ、俺はもう大丈夫ですか?」
「あぁ。大丈夫なのさ。それじゃあ試験、お疲れ様」
「お疲れ様でした。失礼します」
なんだかんだで割と待たされたし、透は終わってるよな。
そういえば、どこで待ってんだろ。
待ち合わせ場所を話していなかったことを思い出し、どーしたものかと廊下を歩いていると、茶髪のボブカットに、丸顔で赤いほっぺをした優しそうな顔した子がキョロキョロしながら歩いてる。
なんだろうと思っていたら、声をかけられた。
「あのぉ……職員室の場所教えてもらえません?」
「ん?この先の突き当たりを左に行ったらあったよ」
確かに、俺のいた部屋の隣にその看板があったのは見た。
やたらとでかいドアだったから、よく覚えてる。
「広くてよーわからんやったけど、方向わりとあってたんや……ありがとうございます先輩!あ、まだ先輩ちゃうかった…すみません…」
そういって頭を下げて言うお礼の前の呟きには激しく同意し、その後の少し照れた様な笑顔を浮かべての発言は、激しく間違いだ。
「先輩じゃなくて、俺も受験生。お互い受かったら、また会うかもね」
「あ、そーやったんだ。うん!お互い受かるいいねー!」
ずいぶんと笑顔の似合う子だな。
素でいることがさも当然のようなその様子は、非常に好意的で心地いい。
もし受かったら、クラスメイトになるのかな。
と思うが、お互い別の方向に用があるので、逆方向に向かおうとするも、そのまま別れる前に、一応聞いてみる事にした。
「あ、俺も聞いてみるんだけど、透明な子見なかった?」
「透明…あぁ!実技試験の会場出たとこで見たよー」
結界使って空から行ければ楽なんだけど、それやると注意されて落とされそうだしな。
とりあえず、会場の前まで戻るか。
「ありがと。そんじゃーね」
「うん!それじゃ!」
気持ちよく答えてくれた丸顔の子へと軽く手を振り別れて、再度歩きはじめた。
*
そう言えば待ち合わせ場所を決めていなかったのは痛かった。
どこで待ってよう。
筆記の時は、そのまま教室の外で待ってたから、それでいくならここだけど、鉄板は校門だよね。
それにしても、まさか実技試験で先生に目をつけられるなんて思いもしなかった。
結果として仲良くなるきっかけとなった日に、紙になっちゃった事を初め、流石は予想外の事をしでかす系男子。
と、昔を思い出して、裸を見られていた事も思い出す。
今思い出しても、それだけは本当に恥ずかしい。
そんな恥ずかしい気持ちを押し込めて、とぼとぼと歩いていく黄色いジャージを着た人を見送り、校門の方へ向かおうかなと視線を動かせば、耳たぶが凄く長い子がいる。
その、音に関する個性であろう耳たぶの先を、私の方へと向けて。
「えーっと、どーかした?」
「──っ!?」
わー。
すごい驚いてる。
でも、なんかカッコイイ人だな。
「ど、どーもしないっ!」
と思っていたのが、今は照れてるようで顔赤いし、少し震えてるし、耳たぶの先端までもユラユラと揺れてる姿はカワイイ。
話、聞いてたのかな。
なんで……あ。
もしかして……
「唯くんの、幼なじみさん?」
ピーーーンときた。
私の直感が、絶対にそうだと告げている。
目敏く動く私の瞳は、この子の荷物の少なさから地元の子だろうとも認識してる。
だって、唯くんの幼なじみはここに引っ越したんだもんね。
「唯くん……それって唯守の事、だよね?」
やっぱりそうだ!
うーーーーん。
なんとなく、女の子だろーなとは思っていたけど、予想外にかっこいい系の女の子だった。
「うん!私、唯くんと同じ中学の葉隠透!宜しくね!」
「ウチ、耳郎響香。 そっか……やっぱアイツも、来てたんだ…」
嬉しそうに呟いた彼女が、すごく輝いて見える。
幼なじみかー。
私にはいないから、わかんないけど、なんかいいな。
って、そういえば!
唯くんの幼なじみで唯くんよりも強いってことは〜。
「ねぇねぇ!耳郎さんは、私のこと見えてないよね!?」
「ハッ!?ちょ…!何急に!見えてないから!」
あ、めっちゃ肩揺らしてた。
目も合わないし、見えてないだろうなとは思ったけどやっぱり気になっていた。
「ごめんごめん!唯くんが見えるからさー。もしかして、耳郎さんにも見られてるんじゃないかと思って」
それは本当に、ずっと思ってたこと。
私が唯くんの幼なじみに会いたくなかったのも、もしかして、二人目の私が見える人なんじゃないかと不安になったから。
でも、よかった〜。
「ハッ? それ個性、だよね? 個性無視して見えるとか、アイツどんだけ強くなってんの……」
「ねー。なんでか見られちゃうの。
そもそも結界の"個性"ってすごい便利で強いし、耳郎さんに負けないってめちゃくちゃ頑張ってたからね!きっと、耳郎さんの記憶の中の唯くんよりも相当強いよー!」
あれ?
少し俯いてるけど、私何か変なこと言ったかな?
「結界の…"個性"ね。 そっか、ウチに負けないって言ってたんだ」
思案するような顔から一点、少し嬉しそうに頬を緩めてる。
よかったー。
変なことは言ってなかったみたい。
三年ぶり、なんだもんね。
「うんうん!私たち一緒に帰る約束してるから、唯くんも終わったら来ると思うけど、一緒に待とーよー?」
「ううん、ウチは帰るよ。会うなら、合格した後だし。もし落ちたら、もう会わない」
この時の耳郎さんの言葉で、二人が幼い頃から培ってきたのだろう、繋がりみたいなものを感じた。
堂々とした足取りで校門に向かっていく耳郎さんと別れ、実技会場のそばのベンチに腰かけている私。
待ち合わせ場所決めてなかったし、もしかして校門でバッタリ会ってたりして。
そんな事を考え始めて10分後。
ようやく"校門側"の遊歩道から現れた唯くんに、話そうと思っていた耳郎さんの話は、なぜかできなかった。