現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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7話 落ちてきた!

 

 

 雄英の入試から一週間。

 俺宛の封筒をポストで見つけ、回収してコソコソと自室へと向かう。

 ようやく届いたそれの差出人は、雄英高校。

 ジジイの気配はないのでゆっくりと扉を閉めて、その封筒を開けると、中に入ってんのはメダルのような金属製の何か。

 なんだこりゃ、と思ったが、メダルはヴヴヴと音を立てて、映像が浮かび上がってきた。

 そうして空中に映し出されたのは、あの時見たネズミ男であった。

 

『やぁ!一週間ぶりだね!間くん!』

 

 どうも、と律儀に会釈をしながら思うが、ここにお金をかける必要があるのか?

 別に合否の連絡なんて書面だけで良いのにと思っている。

 

『君のことだから、合否くらい文体だけで良いのに、と思っているだろうことはわかるよ!』

 

 やるじゃないか、このネズミ男。

 たったあれだけの会話で俺のことをわずかながらにも理解しているようだ。

 入試に関してや、ヒーローについてあーじゃーこーじゃーと話をされて、ようやく結果を話してくれるらしい。

 

『じゃあ、結果の発表だね!実技試験の結果は、さっき説明したレスキューポイントこそないが、そこは合格ラインなのさ! 途中中断させてしまったから、これは認めざるを得ないね。けど、』

 

 やっぱり、やりすぎで止められたんだもんな。

 それで不合格だと言われたら流石に不合理だろと思う。

 他の受験生の個性、多数相手の処理に向いてねーんかな。

 あと、けどってなんだ。

 

『筆記の方はギリギリだったよ。ケアレスミスが目立っていたね』

 

 え……

 まさかの自信あった方。

 確かに、長時間机に座る事に慣れてないから、最後の方は集中力切れてたもんなぁ。

 ただ、ギリギリってことは……

 

『とはいえ、君は合格なのさ!』

 

 おぉー受かった!

 なんだか変に溜めるから焦ったじゃないか。

 とはいえ、これで高校も決まった。

 後は……うーん。

 どうしよ。

 俺で受かったんだし、きっと受かっているはず。

 お助けキャラを呼ぶとしよう。

 連絡用の式神を窓から飛ばし、戻ってくる事を待つことにした。

 

 

 

 

「おかーーーさーーーんっ!!」

 

 ドタドタと、我が娘ながらに騒がしい。

 2階の自室から駆け降りてきた娘は、笑顔はおそらく浮かべているのだろうと言う事はわかる。

 それはパタパタと手を振りながらだという事と、たった今、手を前に突き出した事で見て取れるから。

 

「私受かった!!雄英受かったよ!!」

 

 突き出した両の手は、きっとVサインを描いているに違いない。

 この子には才能があるし、夢のためにどれだけ頑張っていたかは、私が一番知っている。

 寂しくなるけど、まずは親の勤めを果たさなくちゃね。

 

「よかったわねー!おめでとーーー!」

 

 寂しくなる。

 そう思いながらも、娘を抱きしめて、大きくなったとあらためて実感する。

 私とあの人との間に生まれた最愛の娘の顔は、一度も見た事はない。

 でも、それは私達夫婦の両親と同じであり、私達もまた、両親が私たちを愛してくれたのと同様に、娘の事を愛している。

 私と同じように、幼稚園くらいの時は嫌がらせを受けたりして落ち込んでいるのを見た時は、親として胸が張り裂けそうになった。

 私も、あの人も味わったあの悲しい気持ち。

 でも、強いこの子はその個性をプラスに捉えて、楽しそうに学校生活を送れていたし、ヒーローになりたいと言う夢も、小さな頃から私たちに聞かせてくれていた。

 見た目など関係はないが、可愛く育っているというのには証人が一人いて、その子と出会ってからこの子は更に明るくなり、楽しそうに学校生活を謳歌している様子は見ていてこちらも嬉しくなるほどだった。

 だから、娘の友達にして唯一、私たちを見ることのできる彼の事が、少し気になっていた。

 

「唯守くんには、伝えたの?」

「まだだよー。唯くん携帯持ってないし、連絡手段がないから」

「あら、そうなのね。 でも…唯守くんは、どーだったのかしらね」

「受かってるよー!私より頭いいし、個性も凄いし!」

 

 まったく。

 自分よりも優秀だと話す時まで嬉しそう。

 でも、彼も受かっているのなら、娘は東京を離れて一人暮らしを始めても、寂しくはなさそうね。

 

「じゃあ、また唯守くんも連れてきなさい。お祝いにご馳走を振る舞うからね!」

 

 私の最愛の娘と、これからも仲良くしてあげてね。

 

 

 

 

「悪いな来てもらって。あ、透も合格したよな?」

「うん!"も"ってことはぁ…… 唯くんもだよね!?」

「ん。俺も合格。おめでと」

「ありがとー!おめでとー!やったー!」

 

 "鳥"から言われた通り、指定された近くのカフェに行くと唯くんが待っていた。

 突然、間家の印である八芒星が胸に描かれた黒い鳥がうちに現れたのには驚いたけど、その後に、その鳥が喋ったことにはもっと驚いた。

『主人からの伝言を伝えます。───』

 と、急に喋るものだから、思わず悲鳴をあげてしまった。

 そうして言われるままに、指定された場所であるここへ来て、今はゆっくりとココアを啜ってる。

 私がバラしちゃったからだけど、式神を独学で作っていた唯くんに、茂守さんがきちんとした作り方を教えたのだそう。

 とはいえ、連絡なんてもっと簡単な方法があるのに。

 

「携帯買わないのー?これを機に持ったら?茂守さんとも離れて暮らす事になるんだし、その方がずっと楽だと思うよ?」

「ん…使い方わかんないし、それより……」

 

 珍しくどもってるなー。

 ゴニョゴニョしてるというか…すごく、らしくない。

 

「その、ジジイの事なんだけどさ………」

 

・・・・・

 

「つまり、どうやって家を出る事を説得するのかって事?許してくれるよー唯くんの夢なんだし!」

 

 何を言い出すかと思えば。

 自分の孫なんだし、許してくれると思うけどなー。

 

「いや、一回言ったんだよ。そしたら、

 

『ワシらの務めを忘れたのか!このたわけ!!遥か昔よりこの地を守ってきたのだぞ!前までならともかく、今のこの事態の最中、何代も現れなかった正当継承者であるお前が家を出るなど言語道断!!ヒーローの免許などそこいらで取るのと大差ないわい!!』

 

 だって」

 

 あぁー。

 方印、だったっけ?

 不思議なアザが鎖骨にあるのは聞いたから知ってるけど、それは唯くんとは関係ないんじゃないのかな。

 間家のお家のことは、私にはわかんないけど。

 でも、せっかく一緒に高校行けるのに……協力しないと!

 

「じゃあ作戦を考えよう!」

 

 あーでもないこーでもないとアイデアを出していく。

 

①雄英の方がもっと強くなる事ができると説明する。

②おじいさんを信頼しているからこそと煽てる。

③孫の一生のお願いだと泣き落とす。

 

「私の場合は②に近かったかなー。

──あっ!心からだったよ!あの時は本当に、呪具ってすごいと思ったもん!」

 

 茂守さんに散々怒鳴られてる唯くんを横目にした後、数日かけて茂守さんと仲良くなったのはそんな感じで褒めちぎり、渋々貸してくれ、使い方も教えてくれるようになったのだった。

 だから、『あの時も自分の祖父を煽てるという感覚だったのか?嘘だろ?』という目を私に向けないでほしい。

 

「いけるかなぁ。まぁやるしかないか。最悪、無理やりにでも家を出てやろう」

「無理やりとか、黙ってはよくないよ。ちゃんと、納得してもらおうよー?」

「そーしたいけど、それがむずいんだよ。頭かったいから」

 

 その後も台本のように台詞を決めて、ようやく決心したのか、家に向かうこととなり、気になるし、もちろん私もついていくことにした。

 

 

 

 

「さて、どうしたものか」

「ここまできて何言ってるのー!?」

「そーはゆーけどな。ジジイの説教は長いし、面倒なんだぞ?」

 

 何度となく怒られてきた俺だからわかる。

 ほんっとーにめんどくさい。

 元来やる気が出たら倒れるまでやる派だが、出ない時はめっぽうサボる。

 わかりやすく言えばやる時にだけは、やる男。

 ただ、それが今じゃないんだよなー。

 

「さっきかららしくないよ!ドーンッと行こうよ!」

 

「はぁ。じゃあいくかドーンとな、ドーんッ!?」

 

ヒュルルルル………

 

「どーんと何か落ちて来て──」

 

 透も気づいたみたいだけど、もう、逃げるには遅い。

 けど、直撃コースではないか。

 

「結!!」

 

ドシャアァァァ……!!!

 

 なんだ、こりゃあ……

 巻き上がる砂塵も結界により防いではいるが、この奥に見える影の大きさと、形は明らかに…

 

「なんじゃあーーーーー!!?」

「は、はわわわわ……これって……」

 

 ジジイも大慌てで窓から飛び出し、大口開けてコイツを見ており、俺の横に立つ透も、わなわなと震えているみたい。

 

「「鬼ーーー!?」」

 

 二人して叫んでるし、俺より透の方がジジイとは合うよなー。

 落ちてきたのは、うちの無駄に広い庭に横たわる、赤黒く巨大な鬼。

 高位な妖は人語を解するとの記述はあった。

 人間なんかより、ずっと知恵もあると。

 鬼ってことは、たぶん話せるよな。

 あれ?

 そんなことより、一個おかしな事を見落としているような……あ!!

 

「透、お前見えてんのか?」

「うん。そりゃあもう。すんごいので視界を埋め尽くされてるよー」

 

 まるで普段通りのような口調で人差し指を立てて、『当たり前でしょ』みたいな顔してる。

 驚きすぎて逆に冷静になってるじゃねーか!

 というか、透も妖が見えると言うことに俺の方が驚いているが、今はこれをどうにかしないと。

 

「ジジイ。これ、どーすんだよ?」

「どーするって……鬼なんぞ、ワシも初めて見るわい!!」

 

 と、ほっといたままであった、倒れている鬼はその巨体をゆっくりと起こす。

 

【……その術は……貴様もあの女の……許さんぞ…!!】

 

「「──あの女?」」

「喋ったーーー!!?」

 

 俺とジジイはその一言に気づき、なんとなく状況を察して呆けており、透は人語を解した事に驚いているよう。

 鬼は俺と透を囲んでいる結界を見て、その怒りをあらわにしており、同時に振りあげられているのは、俺くらいある拳。

 結界で受け……無理。

 個性を……!!

 

ズンッ!!!

 

 あぁ、やっぱ俺の結界強度じゃやっぱ無理だわ。

 再度ブチ殴られてるけど、大丈夫。

 壊れることはない。

 3秒だけ、俺の結界は無敵だ。

 

「透、2秒後に左に飛べ!」

「へ!?いち、にっ!!!」

 

 ちょうど2秒後。

 俺の結界はバラバラに砕け散った。

 左の足元に結界を生成し、透が倒れ込んだ瞬間に縮めて距離を取らせる。

 

「わわっ!!」

「結!そんで、滅!!」

「唯守!!もっと力を込めんか!!」

「やってるって!」

 

 ジジイも結界を使ってはいるけど、傷はついているものの効いた様子はない。

 俺の結界なんか、ダメージ入ってんのか?

 かすり傷ひとつついてないんですけど。

 少し相手が動くだけで俺の結界は崩されるし、相手をするのも、足止めも無理。

 じゃあ。

 

「めーーーつ!!」

 

 庭の地面を大きく抉り、片足を落とした。

 とはいえ、稼げて数秒。

 個性は回復するけど、コイツ相手の使い道は3秒持たせるくらいしかないか。

 というか……犯人に目星はついてる。

 結界を見て反応し、『あの女』というワード。

 そんで、こんなバケモノをわざわざ我が家に落としてくる人間の心当たりは二人いるが、どっちも身内で、女性。

 すぐに来ないって事は、今はどっかで眺めてるんだろう。

 

「透、先に謝っとくわ」

「え?えーーー!?なにを!?」

「これ落としてきたの、たぶん俺の身内だ……」

 

 二人って言っても、可能性として考えられるのは……姉ちゃん。

 

時織(しおり)!!お前の仕業じゃろう!!なんとかせんかーーー!!」

 

【鬱陶しい人間どもが……我を……】

 

 呆れた俺と、怒鳴るジジイと、理解の追いついてない透。

 そして、目に見える程に妖力を高めてブチギレてる鬼。

 そんな全員を嘲笑うかのように、いつもの薄い笑みを浮かべたまま、記憶の中より大人になっている人が空から降りてくる。

 

「大きくなったわりには、まだまだねぇ。響香ちゃんは、個性が変わった?」

 

 俺らの方を見たまま、結界で鬼の頭、両腕、両足を固定して、さらに防音代わりであろう、うちの敷地ごと巨大な結界で囲っている。

 いつ生成したのかもわからない、ありえない生成のスピードと大きさ。

 俺とジジイの結界が全く効かなかったのに、動きを完全に封じられている鬼。

 鬼との力の差は、一瞬で見て取れた。

 我が姉ながらに思うが、相変わらずの怪物だなぁ。

 

「何を考えとるんじゃお前はーーー!?」

「これだけここに居ても力を増すことはない。これでわかったでしょ、オジイちゃん。この土地には、もう力なんてないのよ」

 

【人間風情が……】

 

「フフ。ごめんね連れ出してきて。もう、消えていいわよ」

 

 ボンッという軽い音と共に鬼のパーツだけでなく、身体全てが滅却され塵となる。

 なんで、囲ってないところまで?

 ただ、こいつはデカイし先にやるべきことをやろうか。

 

「「天穴!」」

 

 ジジイは槍の先端の手前が丸い円になっている呪具、『天穴』を使い、俺は両手で作り出した四角形の中へと塵を吸い込んでいき、鬼は完全に、塵すらも消え去った。

 

 

 

 

「よっし!!」

 

 小さく、自室でガッツポーズを決める。

 良かった!受かってた!

 ウチの会場がレベルが低いだけだったらどうしようという不安もあった。

 あの時盗み聞いた話の唯守のように、先生に止められるくらいの怪物が他の会場にウヨウヨいたら、という想像はあった。

 でも、ウチは受かった。

 だから、唯守も受かってるよね。

 三年前の約束通りだ。

 これで言い出しっぺのウチだけ落ちてたらハズすぎる事態。

 それだけは回避した。

 そして、会えるとわかった今は、一体どんな風に成長しているのかと、頭は勝手に働き出す。

 だが、なぜか思い浮かんでくるのはあの透明な子、葉隠透。

 唯くん唯くんと呼ぶくらい仲良いみたいだし。

 そりゃあウチだって中学で仲良くなった人くらいいるけど、ウチの事を響香って呼ぶ男子なんかいない。

 

 なんか、腹立ってきたな。

 頭の中の幼なじみは、チャラけた格好で女をはべらしているような姿で浮かび上がってくる。

 

「──ふん」

 

 取り敢えず、会ったら一度目は無視してやろ。

 

 そこで、まだ両親にも伝えていなかった事を思い出す。

 ひとまず、二人にも合格したって伝えとこ。

 両親のいるリビングへ向かおうと、てんてんと階段を降りる足取りは自分で思っている以上に軽い。

 

────早く、会いたいな。

 

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