現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

8 / 57
8話 間時織

 

 

 うーーーん。

 きまずーーーい。

 そもそも、何でこんな事に……

 

「………」

 

 茂守さんは目の前で黙ったまま腕を組んでる。

 流石の私も今回ばっかりは、ちょっと話し出せないなー。

 茂守さん以外のご家族の話は聞いたことない。

 そもそも、いつきても茂守さんしかお家にいないし……

 何か事情はあるんだろうとは思ってたから、私も特に聞くこともなかったのだけど。

 

 鬼を倒して、さっさと家の中へと入っていった時織さんと、怒鳴りながら後を追いかけた茂守さん。

 そして、私は唯くんに手を引かれて、今は和室の座布団に座っている。

 そんな謎な状況の中横をみると、唯一気心の知れている彼はなぜか立ち上がろうとしている。

 

 ちょっと!?どこ行くの!?

 

「俺、お茶入れてくるよ」

 

 そう言って、席を立った唯くんだけど……

 今私をひとりにしないでよ〜!!

 絶対違うでしょ〜!!

 私も連れてってと思ったが、ビックリしすぎて、完全にタイミングを逃した。

 私の縋るような視線も、心の叫びも全然伝わっていないようで、スッと出て行ってしまった……

 仕方がないので、私は個性を活かして完全に置き物に徹することにした。

 目の前にいるこの綺麗な人が、お姉さんだそう。

 腰まで真っ直ぐに伸びる、艶のある長い黒髪が頭の後ろでひとつ結びにされている。

 切れ長の眼に、薄い唇。

 その整いすぎている程の顔立ちと、消え入りそうな程に白い肌は少し冷たい印象もあるけど10人が10人皆美人だと答えるだろうくらい美人さん。

 薄く浮かべた笑みと、その身に纏うなんとも言えない空気がミステリアスな雰囲気を醸し出している。

 白い袈裟のような着物には間家の印である八芒星が、両胸と襟の後ろに描かれていた。

 唯くんがたまに着てるのの白いものだし、使っていたのは唯くんの緑色とは違って、茂守さんと同じ薄い青色をした結界の個性。

 雰囲気は全く似てない。

 顔つきも似てないはずなのに、どこか姉弟と言われてしっくりきてる気がするのは、なんでだろう。

 

「……何をしに戻ってきた?」

 

 茂守さんを誕生日席に、左側に時織さんで、何やら不穏な感じ。

 そして右手側に、誰も座っていない座布団と、一応個性を発動させて衣服すらも透明にしている私。

 呪力というのは、発動型の個性のような物という認識だ。

 異形系の私にその感覚はわからないので苦労したけど、この両腕のブレスレットの呪具に個性を込めれば、私が衣服だと認識している物であれば透明にできる。

 目指すはその先なんだけど、これは全然上手くいかない。

 と、完全透明状態で字面通りの対岸の火事をこの目で見ている。

 

「久々に帰ってきたのに、孫に冷たくない?」

「ぐぬぬ……ならば連絡くらい寄越してもいいだろうに……だが、お前が理由もなく帰ってきたわけじゃないだろう?」

「それはまぁ、だいたいわかったからかなぁ」

 

 久しぶりなんだし、もっと仲良く話したりしないのかな。

 茂守さんはめっちゃ怒ってるし。

 唯くんはいないし。

 この状況を作り出した人は、なんとも思ってないみたいだし。

 

 というか、『だいたいわかった』って、何?

 全然会話になってない気がする。

 ここの家族、みんな自由すぎなんだよ〜!!

 

「それより、響香ちゃんじゃないわよねぇ。貴女は誰なの?」

「は、葉隠透です!!唯守くんとは同じクラスで、その、色々教えてもらってて!」

 

 突然振られるからびっくりした。

 やっぱり、私の透明の個性、間家には通じないようで……落ち込む。

 でも、私を見るその眼……不思議な眼をしてるなぁ。

 

「そう。私は唯守の姉の時織」

「はい!あ、あのぉ…お姉さんは私のこと見えてますか?」

「そうねぇ。きれいな色をしてるわよ」

 

 色…?

 

「えぇ。"顔"はわからないわよ。存在は認識できているけどね」

 

 "私を"見る唯くんとは違って、”全て”を覗かれているような、見透かされているような。

 響香ちゃんって、耳郎さんと間違えてたって事は少なくとも3年以上は帰ってなかったんだ。

 

「それで、葉隠ちゃんは唯守の、友達?」

「あ、はい……友達、です」

 

 友達……うん。

 私たちは、友達だ。

 それ以上でも、以下でもない……

 そして、その後は微笑むだけで何も言わない。

 やめてー。

 全てを、心までも見透かされているようで、すごく精神を削られている気がするー。

 

「──姉ちゃん。何で帰ってきたんだ?」

 

 きた!唯くんきた!

 ようやく戻ってきてくれた!!

 これは嬉しい!

 これ程までに唯くんに助けを求めたことが過去にあっただろうか?

 いや、ない!!

 

「唯守、雄英行きたいんでしょ?受かったの?」

 

 安定の質問はスルーーー!!

 お姉さん、一際自由だなー。

 

「8年も前に飛び出したきり、一度も帰ってきとらん癖になにを……それに唯守は雄英になど行かせんわ!!」

「別にいいでしょ。この地に守るべきものはもう何もないわ。周りの妖力、呪力を取り込むことで大きくなるあの妖も、この地で特に変化はおきなかった。オジイちゃんも、それはわかったでしょう?」

 

 妖って、大昔の話じゃなかったの?

 唯くんも茂守さんも歯が立たなかった鬼を一方的に倒してたし、自分ちの庭に放り込んでくるし。

 時織さんってもしかしなくても、間家の中でも更に規格外なの?

 

「姉ちゃんが知ってるって事は、俺の式神届いてたの?」

「届いてないわよ。小さな呪力の残光を感じて、切れた式神の痕跡から判断しただけ。あんな雑なの使ってたらあんたの居場所なんてすぐに特定されちゃうわよ?しかも式神への命令の結果すらわかってなかったなんて……はぁ」

 

 笑顔だった唯くんだけど、溜息をつかれてちょっとムッとしてる。

 わかりやすく、へたっぴって言われたようなもんだもんねぇ。

 

「受かったし。俺だってなかなかやるだろ?まぁ、透も受かってるけど」

 

 まるで張り合うように自慢げなのは家族の、お姉さんの前だからかなー。

 でも、そんな唯くんを見るお姉さんの表情は全く変わらない。

 

「そう。でも予想以上に成長してない。私もしばらく日本にいるから、あんたを少し鍛えてあげる。明日は早くから出るから、支度しときなさい」

「ん?鍛える…?」

「勝手な事を……おい!待たんか!まだ話はおわっとりゃせんぞ!!」

 

 フワリと立ち上がった時織さんは、フフフと笑って茂守さんを見つめると、その視線を私へと移す。

 

「今はお客様がいるから。

 唯守。葉隠ちゃんを送ってあげなさいよ」

 

 気づけば、合格報告会から茂守さん籠絡作戦会へと移行して、鬼退治から最後にはなぜか間家の緊急家族会議に参加していた。

 

「凄い、お姉さんだねー」

「ごめんな。姉ちゃんは昔からぶっ飛んでてさ。なんたって中学で家出して、そのまま今日まで帰ってこなかったような人だし」

 

 今は家まで送ってくれる道中、何度も謝ってくる唯くんと別れてベッドに身を投げ出したところ。

 今日は怒涛だったー。

 時織さんは不思議な人だ。

 中学生になってすぐに家出して、8年も帰ってこなくて、今は21歳だそう。

 13歳の家出少女が海外に行ってたって、何をどーしたらそんなことになるのか。

 はぁ、すごく疲れた。

 

 そういえば、お母さんも連れきてって言ってたの、伝えるの忘れてた。

 それに、茂守さん籠絡作戦は始まってもないし、また計画も練らないとね。

 明日は出かけるみたいだし、明後日にでも言ってみよー。

 とにかく、今日は疲れたし、もう……寝てしまおう。

 

 ただ、私のそんな思いも虚しく、卒業式の前日まで唯くんが家に帰ってくる事はなかった。

 

 

 

 

 姉ちゃんが鬼を庭に落としてきた翌日。

 早朝に叩き起こされて、電車に乗ってお隣の千葉県へ。

 そこまではまだ良かったのだが、今は歩いて山の中を散策中。

 山籠りでもする気なのか?

 

「これってさ、どこに向かってんの?」

 

 着物着てる癖に、よくこの山道をすいすい登れるな。

 着てこいと言うから、俺の方は伝統の結界師の戦装束の上に恥ずかしいから上着を羽織っているのに対し、姉ちゃんは普通の藍色の着物を着てる。

 服装からも想像つかなかったし、いきなり山登りだなんて聞いてないんだけど。

 

「外では、時織と呼びなさい」

「ん?なんで?」

 

 急に、なに?

 正直、俺も会うのはほぼ5年ぶりだし…いや、それは関係ないな。

 昔から、姉とはいえよくわからない人だ。

 

 母さんのように才能に溢れており、今の俺くらいの強さなんて、小学生の時には既に超えられていると思う。

 それでいて、友達と遊ぶなんてことはなく、蔵か道場に籠ってたっけ。

 昔から、結界術も、念糸も、個性も、全部がすごい。

 ただ、家事だけは俺の方が得意だったな。

 

「私の身内って思われたら……ねぇ?」

「……いったい何したんだよ?」

 

 世界を見てくると、突然家を出て行った姉。

 当時の俺はまだ7歳で、母さんに続いて姉ちゃんも出て行ったから、寂しくて一人で泣いてたっけか。

 それを響香に慰められていた恥ずかしい記憶まで蘇り、サッと頭から消しておく。

 俺は知らなかったけど、中学から高校までジジイの式神が通っていたらしく、卒業していると聞いた時は驚いた。

 身内ってバレると危険が及ぶってことは、海外に行ってたって言うし、ヤバいことやらかしたのか、密入国とかで揉めたのか。

 はたまた妖がらみなのか、やってる事がおかしすぎてよくわからん。

 

「恨みを買ったつもりはないんだけどねぇ。まぁいろいろあるのよ」

 

 いつものように、フフフと笑う姉ちゃん。

 結局、何も教えてはくれないが、その仕草が、母さんと似ていると思った。

 

 

 

「ついたわよぉ」

 

 1時間弱歩いて着いたのは、ただの歪な洞窟の前。

 と言っても途中結界で登ったりするような急勾配もあったから、個性にもよるが普通の人ならまず辿り着けそうもない場所。

 

「……で、こんなとこで瞑想でもしろっての?」

「あんたは結界術の事をなにもわかってないからねぇ。昨日話した事、覚えてる?」

 

 昨日の事。

 それは透に謝り倒して家まで送り、帰った後の事。

 ジジイはなぜか大人しくなっていて……

 

 

 

 

『お前は自分の成長を考えろ。ワシと違って、お前にはまだ成長の余地は十二分にある。

 それに、久しぶりに姉弟でいるのも良いじゃろう……』

 

 って、こっちじゃないか。

 姉ちゃんは手に持った湯呑みごと結界で囲う。

 その時、生成の前に中のお茶だけを指定しておく。

 そんで手を離すと、標的として指定していたお茶だけが結界内に残り、空の湯呑みは畳を転がっていた。

 

「これが『方囲』の正しい使い方。まぁ、基礎中の基礎だけど、あんたはその基礎すらもなってない。あんな妖程度滅せないなら、ヒーローなんてなれないわよ?」

 

 そんな事、考えたこともなかった。

 と思ったが、よく考えたらたまにやってた。

 妖ごと自分を結界で囲って俺だけ出る。

 それと、やってる事はほとんど変わらないが、精度が違う。

 鬼(厳密には鬼ではないらしく、ただの妖らしい)を滅したのも、家を丸ごと囲っていた結界で標的指定をしていたかららしい。

 方囲で指定した標的を基準に定礎で位置を決めて生成するだけの話だと思ってた。

 そう考えると、俺は普段方囲で指定した"つもり"になっていただけ。

 昔からなんだかいい加減だとは思ってたけど、俺がわかっていないだけだった。

 

 話によると、あの鬼の強さはそこそこのヴィランと対して変わらないと言い放った姉ちゃん。

 だけど、流石に嘘か、姉ちゃんの基準であってほしい。

 免許もってるジジイでも全く勝てるようには見えなかったし。

 とはいえ、ジジイももう68歳だしなぁと少し不安になった。

 

 でも、たしかに俺は結界術の事を全然わかってない。

 俺の『滅却』は自分でぶん殴るくらいの威力しかない。

 弾き、耐える事には向いてるのに。

 そういえば、なんで"あの時"は簡単に人を滅却できたんだろう?

 

 今の間家に結界術の本質については教えられていないと言われた時は驚いた。

 今でさえ万能なこの術には、まだ上があると知れたのは良かったと思うが、まだ早いと詳しくは教えてくれない。

 そして、姉ちゃんが言う本質をきっとジジイは知らない。

 姉ちゃんが言うには、22代目が自分たちで結界師稼業は終わりと言う事で、危険な術は記録に残さなかったのではないかと言っていた。

 だから、22代目である墨村良守と雪村時音、始まりである開祖・間時守の記述はなにも残ってなかったのか。

 結界術も、個性に恵まれた間家の先祖たちにより廃れる一方だったようだし。

 俺が散々読み耽っていた書物じゃそんな事わかりもしなかったのに、なぜ姉ちゃんはそれがわかるのか聞いてみたのだが、

 

『フフフ。内緒よ。

── とにかく、オジイちゃんはなんとかしてあげるから、あんたはあんたのやりたいようにやりなさい』

 

 そう言われたのが、昨晩の話。

 

『そういえば、部屋に写真飾ってるしまだ響香ちゃんのこと好きなんじゃないの?葉隠ちゃんも狙ってるわけ?

 思春期な弟の恋路にとやかく言う気はなかったけど、二兎追うものはって、知ってる?』

『う、うっせーーー!てか勝手に部屋入んなよ!』

 

 と言う、久しぶりすぎる姉の人間らしい発言は、記憶から消しておこう。

 

 

 

 

「覚えてるけど……それがこの場所と関係あんの?」

「私は教える事には向いてないから、まずはコレと、まともに相手できるようになりなさい。

── 死ぬ直前くらいには、助けてあげるから」

 

 は?

 何それ?

 

「あんた、色々と考えすぎなのよ」

 

 そんな言葉が小さく聞こえた時には結界で突き飛ばされていた。

 その勢いのままに入り込んだのは、洞窟のはずだが、洞窟なんかじゃない。

 ぬるりと何かが纏わりつく感覚。

 気持ちが悪い。

 世界が、変わってしまったみたいな……

 

 地面を感じ、顔を上げると……そこは真っ暗なゴツゴツとした岩が立ち並ぶ閑散とした世界。

 さっきまで、休みの日ならまだ寝てるような、朝と言える時間だったはずだし、居たのは山だったはず。

 

【また……人間か……!!】

 

 人語を解する妖。

 狼のような見た目で、敵意剥き出しでこちらを睨みつけている。

 その見た目からしても、確実に速い。

 

「結!!」

 

 咄嗟に生成した、自身を守る結界は豆腐でも切るかのように簡単に切断され、結界内でしゃがみ込むことでなんとかその爪を躱したものの、俺の髪が数本視界の前にパラパラと落ちてきているのがわかる。

 

【その術は……貴様…死ね】

 

 あぁ。

 やっぱ姉ちゃんは母さんに似てるな。

 昔から、母さんよりもジジイの修行の方がマシだった。

 だって、ジジイに言われて気まぐれにしてくれていた母さんの修行はいつも……

 

「うおわっぶねぇ!死ねる!」

 

 こんな風に、死と隣り合わせの地獄の修行だったのだから。

 

 

 

 

 13歳で家を飛び出して、日本を巡り、世界を巡り力をつけた。

 4年かけて、結界術に関しても、弟と私の何が違うのかも、ようやくわかった。

 そうして、更に2年もかけてようやく見つけたのに。

 

 お母さん……

 

 

『唯守と違って、時織は私に似ちゃったのねぇ。

 お父さん、きっと怒ってるわよ。

 

 えぇ、当たってるわよぉ。

 今更『方印』が出たって言うことは、そういうこと。

 

 ただ、それよりもずっと前の話がね。

 あら。そっちには、まだ辿り着いてなかったの?

 

 教えないわよ。

 私も調べたらわかったこと。

 時織なら、自分でできるでしょ?

 

 ん、私の手伝い?

 そうねぇ…じゃあ、コレはできるかしらぁ?

 

 ………。

 

 フフフ。まだ早いみたいね。

 だから、もう行きなさい。

 

 時織。

 私はこんなだから。

 唯守のこと、お願いね』

 

 

 お母さん……

 私、お母さんとは全然似てないよ。

 お母さんみたいにはなれそうにもないし、お母さんみたいに強くもない。

 

 だって、こんなにも……苦しいんだから。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。