貴族の方々が都会に出るのを許してくれない   作:うろ底のトースター

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お久しぶりです。



The First Stage : Castle

さて、無事に地下祭壇を抜けたケイン少年は、近場にある城へ行くことにした。逃げ込む、と言ってもいい。何せ背後からあの恐ろしい人狼(ライカン)達が迫ろうとしていたからな。

 

この城は村の貴族が1人、ドミトレスク家の領地。ここに村から出るためのキーアイテムが隠されている。が、もちろん彼女らもタダで渡すわけにはいかない。

 

逃げ込んだ先も、少年にとっては敵地なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下祭壇を抜け、地上に出るのにおよそ30秒を費やした。見込み通り近くにはドミトレスク城があり、どうにか残り30秒で城内に入れそうだ。

 

静かに侵入し、扉を閉じる。

 

──ガァァァァァァァ・・・!!

 

丁度1分。獣の遠吠えが響いて、ギリギリ間に合ったのだと改めて知覚した。

 

しかし、どうしようか。

 

ドミトレスク城には、城主ドミトレスクとその3人娘、そして、彼女らに仕えるメイド隊が住んでいる。

 

このメイド隊が非常に厄介だ。

 

ここで働いていた頃、世間話をしながら激務を汗ひとつ流さずに熟すメイド隊に恐怖したのはいい思い出だ。

 

特に、いつの間にか背後に立ってるメイド長は俺のトラウマになっている。多分時間止めてるよあの人。さっさと紅魔館に帰ってくれ。

 

「はぁー・・・」

 

思わず溜め息が漏れた。

 

「おや、お困りのようですねぇ」

 

「ッ!?」

 

身構える。聞いた事のない声だ。

 

「そう構えないでください。私は、貴方の味方にございます」

 

声の発生源は、馬車の荷台。扉が開いて、中から少女が現れた。

 

「私は、デューク。以後、お見知り置きを」

 

荷台に収まるように膝を折って座っている、金髪で小柄な少女。貴族達に劣らないほどのその美貌は、ともすれば何処かの令嬢を思わせる華やかさを持っていた。

 

が、胡散臭い話し方のせいで台無しだ。

 

「じゃあデューク、味方って言ってたけど、匿ってくれたりするのか?」

 

「いえいえ、それはルール違反に当たります」

 

「・・・アンタも1枚噛んでるのか」

 

軽く警戒を含んだ俺の問に、デュークはにんまりと笑顔で答えた。

 

「残念ながら私にできるのは、アイテムの提供だけです」

 

「アイテム?」

 

「ええ、例えばこちら」

 

そう言うと、手のひらから少しはみ出るくらいの、棒状の物を取り出した。

 

「閃光グレネード、フラッシュバンです」

 

「なんで持ってんだよ」

 

別な意味でこいつの危険度が増した瞬間である。

 

「村に降りればライカンに追われ、そうでなくとも貴族様方に追われる。きっと囲まれることもあるでしょう。そんなときにこれを使えば、逃げる足がけとなってくれるはずですよ?」

 

「そいつはありがたい、けど、金がなぁ」

 

「であれば、出世払いでどうでしょうか?」

 

「それなら、まぁ」

 

「決まりですね」

 

フラッシュバンを手渡される。

 

「では、今後ともご贔屓に」

 

馬車の扉は、閉じた。

 

さて、行くか。

 

 

───────────────────────

 

 

「ええ、当初の予定通り、彼はこの城に侵入したようです」

 

城の一室。

 

「もう既に娘達が彼を探し始めておりますわ。見つかるのは時間の問題かと」

 

妖艶な笑みを浮かベたドミトレスクが、ミランダに連絡を取っていた。

 

「勿論、加減など致しません。彼には、娘達の婿になってもらうつもりなので」

 

無意識に頬が赤く染まる。

 

「ええ、それでは」

 

時代錯誤な電話の受話器を、置いた。

 

「──ご主人様、準備が整いました」

 

暗い部屋の影からスゥッと現れたメイド長が、声を掛けた。

 

「確実に、彼を捕らえなさい」

 

「仰せのままに」

 

そしてまた、消えた。

 

「待ってなさい、坊や。今に捕まえてあげるわ」

 

物騒な物言いとは裏腹に、彼女の笑みは実に穏やかで優しげだった。

 

 

───────────────────────

 

 

追ってくるのは、やはり元の職場の先輩方だった。顔見知りから逃げるってのは少々心痛いが、仕方ないと割り切ろう。

 

「あ、ケイン君見っけ〜、って速っ!」

 

そういえば、城の中で走ることなんてなかったから、俺の足の速さなんて知らないもんなぁ。

 

さて、俺は城内の位置取りをだいたい知ってる。だいたい、というのは、行ったことのない場所があるからだ。地下とか。

 

で、鍵の在処は恐らく城の最上階奥、礼拝塔。俺なら、そこに置く。

 

ところでさ、

 

「なんかエンカウント率高くないっすかねぇ!?」

 

「え、何のこと?」

 

「こっちの話!」

 

曲がり角で誰かと鉢合わせること、現在5連続。何となく人為的なモノを感じるが、今は逃げるしかない。

 

廊下の突き当たりにある扉を、八つ当たり気味に蹴り開けた。

 

「・・・メインホールかよ」

 

またの名を、四天使の間。この城の各所の名は、こういった神話的な物言いが多いと記憶している。信仰心が強いのか、それとも何かしらの意味を込めているのか。ともかく、正気でないことは確かだろう。

 

さて、これでどこからか()()()()()()ことは分かった。どう逃げようか。

 

 

 

「──あらケイン、また働きたくなったのかしら?」

 

背筋が凍るほど、淫靡で美しい声を聞いた。

 

「執事服着てないのを見て察しろよ。それとも、私服勤務が許されるようになったのかここは?なぁ、ベイラ?」

 

振り返りながら、現れたそいつに、ベイラに目をやる。

 

「イケズな人、もう少しお喋りに付き合ってくれてもいいじゃない」

 

「生憎、俺の将来が関わってるんでね。遊びに来たなら興じてたかもな」

 

「でも遊戯(ゲーム)中でしょう?」

 

「こんな不公平なゲームがあってたまるかよ、追い込み漁の間違いだろ」

 

軽口を叩きながら後ずさりする。

 

まずい、非常にまずい。こいつが現れたのは別にいい。想定内だ。だが何よりまずいのは、どうやって現れたのか分からないことだ。

 

こいつは、急に背後に現れた。

 

扉が開けられたような音も、気配もなかった。唯一聞こえたのは、何かの羽音・・・。

 

羽音?

 

「追い込み漁、ねぇ。否定はできないわ。でも肯定もしない。だって、貴方は私が捕らえると決めているもの」

 

もし、こいつが、いや、こいつらが、村の人達同様に何かしらの変貌を遂げているのだとしたら、俺の勝ち目は薄くなる。

 

「あの子達には、その(あつら)え向きの場を用意してもらっただけ」

 

誂え向きの場、ということは、他の扉は鍵が掛かってる可能性が高い。

 

「一対一なら公平対等ってか?」

 

となると、逃げ道はたった1つ。

 

「私、か弱い女の子だから、加減してくれると助かるわ」

 

「余裕があったらしてやるよ」

 

1歩引いた右脚に力を込める。

 

「・・・準備、できたみたいね」

 

「わざわざ待ってくれてどうも」

 

「それじゃあ─────────始めましょうか」

 

ベイラの身体が霧散すると同時に、俺は全速力で走り出した。




「ほらベイラお姉様!もうすぐケインが到着しますよ!」

「ええ!?ちょ、ちょっと待ってね!大丈夫、大丈夫よね!?変なところないわよね!?」

「ないですって!今日15回目ですよその質問するの!」

「だってぇ!」

「い、い、か、ら!行ってください!!」

「い〜や〜だ〜!!」

「あ、ケインが来ました!」

「え!?どこ!?」

「えい」(押)

「あ、」(断末魔)




minotaurosさん
誤字報告ありがとうございました。

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