貴族の方々が都会に出るのを許してくれない   作:うろ底のトースター

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待たせたな。

いや、本当に申し訳ない。途中まで書いてた下書きごと忘れていた。すまない(土下座)

というわけで続きです。


My rival

ケイン少年の予想通り、ベイラ少女も何らかの変異を遂げていた。しかもそれは無数の虫に化け、分散するというもの。ただ身体能力が強化されるよりもよっぽど厄介な変異に、ケイン少年はそれはもう苦労した。とっても苦労した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体当たり気味に扉を押し開き、振り返る間もなく加速する。一向に羽音が遠ざからない、つまり速さは拮抗してるのか。

 

「チッ、ふざけろ!」

 

だとしたら、確実に負ける。

 

少しの隙間さえあればすり抜けられるのが虫。であれば、今のベイラは、おそらく壁だろうと床だろうと貫通できるだろう。

 

障害物が作れるという、逃げ側の優位性が完全に失われたわけだな。

 

走るルートも必然的に直線。いくら広いこの城でも、いつかは突き当たりぶつかる。

 

とんだ出来レースだなクソッタレ。

 

 

が、逃げる方法は、ある。

 

「早速コイツに頼ることになるとはな」

 

懐の円柱形のそれを手に取る。

 

「法外な金額請求してきたら恨むぞデューク」

 

あの胡散臭い少女の幻想を振り払い、突き当たりに向かってひた走る。

 

失敗したらゲームオーバーの大博打。勝負は、一瞬。

 

「ベイラ」

 

「何かしら?」

 

「お前、俺にポーカーで勝ったことあったか?」

 

「・・・ないわね、1度も」

 

「そりゃよかった」

 

口角が上がるのを感じる。

 

分の悪い賭けだが、負ける気はしねぇ。今日の俺は、番狂わせ(ジョーカー)だ。

 

「さぁ、Show downといこうぜ?」

 

突き当たりの壁に背中を付け、そのときを待つ。ベイラが人に戻る、そのときを────。

 

羽虫が、集まる。

 

「捕まえた」

 

キンッと、金属の擦れる音を鳴らして、

 

「残念」

 

人に戻り、俺の両肩に手を掛けたベイラの目の前で、フラッシュバンを炸裂させた。

 

 


 

 

「くぅっあぁ!!」

 

視界が真っ白に染まり、酷い耳鳴りが襲ってくる。

 

私は、何をされた?

 

「あと、少しだったのにぃ・・・!」

 

完全に勝ちの確定した勝負だった。なのに、ケインはその盤面をひっくり返して見せた。

 

本当に、よく頭の回ること。

 

でも、まだチャンスはいくらでもある。この城の最上階、礼拝塔に最初の鍵はあり、そこに行くエレベーターにもさらに3つの鍵を設けた。

 

「そして、エレベーターの鍵は私たちの部屋に隠されてる」

 

私は、その部屋で待ち伏せしていればいい。

 

今度は逃がさな

 

「へー、そいつはいいことを聞いたな」

 

「は?」

 

未だに鳴り続ける耳が、背後から放たれる声を捉えた。

 

「情報提供どーも」

 

()()()!?」

 

ありえない、どうして逃げてないの。

 

いや、そんなことよりも今は手を伸ばさないと。

 

「先に謝っとく、すまん。()()1()()()

 

「───あぁ、さっきの閃光は、それだったのね」

 

振り返った私の眼前に、円柱形のそれが舞っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────それで、エレベーターの鍵も奪われたと」

 

「部屋に戻ったらあったのに、もう1回見てみたらなかったの!」

 

「盗られてるじゃないですか」

 

城にあの人が侵入して差程経たぬ間に、もうベイラお姉様の鍵が奪われた。想定より数段早い。

 

「しかし、不明な点があります」

 

「不明な点?」

 

「ベイラお姉様、光に目を潰されてからどれくらいで復活しましたか?」

 

「30秒くらい、だったと思う」

 

30秒。ケインであれば、辿り着けない数字ではない。が、鍵を盗って逃げれるほどの時間もない。壁や天井をすり抜けられるベイラお姉様に逃げる前に見つかるはず。

 

しかし、ベイラお姉様はケインを見ていないと言う。逃げる手段があった?抜け道か?

 

「・・・ベイラお姉様、1度戻ったとき、部屋の隅々まで見ましたか?」

 

「焦ってたし、そこまで見てる余裕はなかった」

 

「なるほど」

 

分かった。確かに、ずる賢いケインならやりそうなことだ。

 

「いいですか。ベイラお姉様が戻ったそのとき、ケインは部屋にいたんです。鍵を敢えて手に入れず、さもまだ来ていないかのように見せかけて」

 

「そんな博打」

 

「しますよ」

 

「・・・するね」

 

さて、ともあれ私達がすべきことは鍵の防衛。現在図らずともベイラお姉様が手持ち無沙汰になったので、屋敷を回ってケインを探してもらうことにしよう。

 

「はぁ、思えば、ケインとの腐れ縁も長いわね」

 

道すがら思い出すのは、まだ幼かったあの日々のことだった。

 

 


 

 

正直に言って、私はあまり社交的ではなかった。

 

当時、ベイラお姉様は病弱だったし、妹のダニエラは夢見がち。私がしっかりしなければいけないと思っていた。そこで私が頼ったのは、知識。結果的に、私は本の虫となった。

 

外へ出ず、書斎へ行ってはページをめくる毎日。苦しかったが、ドミトレスク家の将来を思えば耐えられた。

 

そのまま、3年が流れた。

 

「ここが書斎か」

 

私だけの学び舎に侵入者が現れた。名は、ケイン。村で良くも悪くも有名となり、その素行の悪さからマナーを学びに使用人として雇われた、言ってしまえば馬鹿だ。

 

「なんの用?」

 

私はケインを睨みつけた。ここは、そんな馬鹿が立ち入っていい場所じゃない。

 

「勉強しに来た」

 

意外な言葉ではなかった。ここで働いているのが功を奏したのか、ケインの悪態は鳴りを潜めていた。それどころか、トレーニングに勤しんだり村の技師に教えを乞いたり、挙句村人達の手伝いさえ始めている。

 

ただの贖罪のように見えるが、何となく、別の思惑があって物を学んでいるような気がした。だから、いつかここに来るであろうことも予想していた。

 

「どうして?」

 

私は、その別の思惑が知りたかった。

 

「夢ができたから」

 

「夢?どんな?」

 

「恩返し」

 

彼は言う。今までに自分が掛けた迷惑と、受けた恩を返したいのだと。そのために知識が必要なのだと。

 

不純な理由ではないため、私は渋々認めた。

 

だが、腹立たしいのはその後だった。ケインは、天才の部類に入る人間だった。私の傍に積まれた本は、常にケインのそれより低かった。私が1冊読み切る間にケインは2冊理解した。

 

私は、醜くも嫉妬した。

 

「いつも思うんだけどさ」

 

その日は、私の人生の中で指折りに最悪な日だった。

 

「お前、つまんなそうに本読むよな」

 

「ふざけないで!」

 

思わず頬を叩いた。そして酷く罵倒した。

 

虫の居所が悪かったのもあるが、何より図星を突かれたことが、私を凶行に走らせた。

 

「なるほど、義務感で読んでりゃそりゃつまんねぇよな」

 

叫び疲れて止まった罵倒。その間に、彼は言う。

 

「『ドミトレスク家の者として立派に』。それって誰かから言われたことか?」

 

誰からも、言われたことはなかった。

 

「自分で見つけた夢か?」

 

夢など見つける暇はなかった。

 

「ならそれは、義務か?」

 

「ええそうよ、これは私の義務」

 

そうだ、私の義務だ。そのはずだ。

 

 

 

「誰からも言われてないのにか?」

 

 

 

私は、言葉に詰まった。

 

そうだ、誰からも求められていないのに義務とは、なんともおかしな話である。

 

「私は・・・」

 

私は、何でこんなことしてるんだろう。

 

「お前のそれってさ、勘違いなんじゃねぇか?」

 

「勘、違い?」

 

「ベイラは病弱、ダニエラはあんなん。大方、自分がしっかりしないとって思ったんだろ。お前、責任感は人一倍だしな」

 

図星だ。

 

「けど、その責任感が仇になってる。お前は、自分だけはしっかりしなければって、そう求められているって勘違いをした」

 

「そんなの」

 

「認めたくないよな。なんせ認めたら、子供の勘違いを今の今まで引きずってたってことになるんだから」

 

「・・・まるで、馬鹿みたい」

 

泣きたくなって、私は俯いた。

 

「いいやお前は馬鹿じゃない。だから一回馬鹿になってみろよ」

 

「え?」

 

けれど、その顔はすぐに上げられることになった。

 

「外に出て、遊んでみろ。そんで、頑張れる理由を見つけな」

 

「頑張れる、理由?」

 

「そうだ。今までみたいにただ()()()んじゃなくて、()()()()理由だ」

 

私は、ようやっと合点がいった。耐えることしかできない人間が、頑張れる人間に勝てる道理はない。私には、その頑張れる理由が、彼の夢のようなものが必要なんだ。

 

着いてこい、そう言う彼の背中を追い、私は外に出た。

 

「・・・行ってきます」

 

久しぶりの外は、寒かった。

 

 


 

 

あれから、また2年。彼はもう、書斎には来なくなったけど、私は頑張れる理由を見つけていた。我ながら馬鹿な理由だが、それはとても強い感情だった。

 

負けたくない、勝ちたい。ケインという男を超えたい。

 

この鬼ごっこでも、いつかの本の山の高さも。

 

「確かこういうの、ライバルって呼ぶのよね」

 

自室の扉を開ける。案の定、そこにはケインの姿があった。

 

「カサンドラ、か」

 

「ええ。ご機嫌よう、私のライバル」

 

さて、勝ちに行こう。




来年でドミトレスク城攻略終わったらいいなぁ・・・。

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